①「TS転生」
初投稿になります。
王道にはなりますが、これが気に入ったら次の話も期待してくれると嬉しい限りです。
目覚めたら、異世界だった。
瞼を開けると、広がったのは見慣れた自室の天井でなく……羊雲が点々と浮かんでいる澄んだ青空。
感触的に、きっと今は草原に寝転がっているのだろう。
しばらく空とにらめっこしたのち、起き上がろうと上半身を持ち上げる。
その時だった。
頭と肩に妙な重みを感じる。
つい下を見る、と。
太ももが見えない。
……随分と豊かな双丘なこと。
頭に手をやるとふわっ、と柔らかい毛並み付きの感覚が。
同時に、敏感なのか自分で触っておいてすごく……くすぐったかった。
「あ、あぁ、わっ」
自分の声に驚く。
かわいい。でも、ハスキーっぽくて妙な色気を感じる。
もとの僕の声じゃないのは確かだ。
僕の声はもっと普通の、男子らしい低さがあった。ハスキー感だってなかったはず。
ほどよく筋肉のついた、綺麗ですらっとしつつも焦げ茶色に焼けた美脚を使って、すっと立ち上がる。
倦怠感がない。いや、倦怠感というより自分の重さという方が正しいかもしれない。
驚くほどスッと立ち上がれる。自分が軽い。
すると、遠くからなにやら怒号が。
「おぉい、そこ姉ちゃあん! 俺たちと冒険者しよぉぜー!」
全く整えられていない身なりのおっさんが、刃こぼれした剣を肩に担いで近寄ってくる。
後ろにはもう三人ほど、魔法使いや盗賊らしき職業の男たちが。
「胸でっか、めちゃ上物じゃんかよありゃ……!」
盗賊っぽい男が魔法使いっぽい男に耳打ちする。
頭に生えたケモ耳はどうも鋭いようで、距離があるのに聞き取れた。
これが地獄耳というやつだろうか。
きょとんとしていたら、オンボロ剣を担いだ男が近づいてきていた。
「ボケっとしてねーで、行こうぜぇ?」
ニヤついている。気色が悪い。
と、そこへ近づいてくる気配が一つ。斜め後ろから駆けてきているようだ。
「だ、だめー! お姉さん、そのおじさんについてっちゃダメだよー!」
とてとて、という表現が合いそうなぐらい小柄な少年が一人。こちらに向かって走りながら、必死に叫んでいる。
控えめに言って可愛い。
「なんだあのクソガキは……おい、あいつをヤれ」
後ろの魔法使いらしき男に指図。
杖を構え、先端に小さな火球が。
ドッジボールぐらいのサイズだが、火の塊というだけで十分脅威。
その矛先は――少年。
「ひっ!?」
怯えている。庇護欲大爆発。
火球が放たれた——と、思われた次の瞬間。
僕は火球を蹴り飛ばして、魔法使いらしき男の顔面にぶつけていた。
「ぶぁっ!? あ、あっつぅ!」
ふと我に返る。
自分でも驚いた。
体が勝手に、という次元ではない。
気付けばこうなっていた。
ただ、確かに体には感覚がある。
凄まじい速度。瞬間移動と言っても差し支えないほどの。
褐色肌の、スラッとした綺麗な手を見つめる。
逞しいとは言えないはずだが、今の一瞬に違和感を感じないほどの頼もしい力を感じる。
「……なんか、楽しいかも」
顔を上げると、男はまだ絶叫しながら悶えている。
腐っても魔法使い、耐性があるのか。
コメディチックにタップダンスしている。
教育に悪いので、一応少年の目を手で覆って隠した。
「え、えっえ? おねぇ、ちゃん……?」
ふと、男の方を振り返ってみる。
「な、なん、なんだぁ、今のぉ……」
男の顔は完全に青ざめ、腰を抜かし、ぶるぶる震えている。
「弱い者いじめは、だめだよ」
自前のハスキーボイスで、ボーイッシュを若干意識して言い放ってみる。
思ったことは言っているものの、声が違い過ぎて、僕の中での現実感はまだ帯びる気配がない。
オンボロ剣のおっさんは「ひぃ……」と情けない声を出しながら、捕食者に睨まれる小動物の如く怯え切っている。
「お、おま……まさ、か……」
そこで、盗賊っぽいおっさんが口を開いた。
「魔獣人、なのか……!?」
「き、きめら……なんだって?」
つい聞き返してしまった。
キメラ、は聞き取れた。
獣人なのでイメージは合致するが……。
「あ、えっとね……? 魔獣人っていうのは、この世界で一番こわくてつよい獣人さんのことなんだ。魔獣と人の混合の獣人、それが魔獣人。おねえちゃんは確かに魔獣人なんだけど……詳しい話は、また後でね。じいさまが呼んでるから、ついてきてくれる……?」
上目遣い。狙ってやってるなら、この子は将来大物になるだろう。
これに逆らえるやつがいるなら、是非とも蹴り飛ばしてやりたいぐらいだ。
「もちろん」
「ほんと!? やった! じいさまはね、こっちのお屋敷にいるんだよ!」
子犬のようなショタっ子を微笑ましく見つめながら、愉快なおっさん共の溜まり場を後にしたのだった。
―—心なしか、村の男たちが妙な目で見つめてくる気がした。




