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死神様は生贄の娘を離さない  作者: 武村


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三話 友との別れ

 刀が、

 土蜘蛛の胸を

 つらぬいた……

 

 糸は、透子に届く前に消滅した。


 土蜘蛛はよろよろと数歩後ずさると、

膝から崩れ落ちた。


「ははっ……

 同じ場所を刺すとは。

 まったく、主は容赦がない……」


 ゴポリと口から血を吐きだす。

死神は、

刺したままだった刃を咄嗟に抜こうとした。


「おいおい。駄目だろう……

 やっぱり主は、甘いなぁ……」


「土蜘蛛……」


「なんだその顔は。あんたの方が辛そうだ……

 はぁ……

 あんな小娘に、してやられるとはな。

 主の女は変なやつだ……」


 土蜘蛛の体は崩れ始め、

徐々に灰になっていく。


 死神は、

地獄で届かなかったその手を伸ばし、

土蜘蛛の肩に触れた。


「お前は友だ……

 俺は、お前を許す……

 言葉が足らず、すまなかった……」


 村を覆っていた繭も今はもうない。

 土蜘蛛は空を見上げた。

 太陽は、天高く昇っていた。


「もう、終いか……

 ああ。

 最悪な幕引きだ……」


 そう悪態をつきつつも、土蜘蛛は笑っていた。

 一筋の涙を流して。

 

 やがて、土蜘蛛は灰になって消えていった。


 刀が地面へと静かに落ちた。

 

 風が吹く。


 灰が空へと舞っていく。

 朝日に溶けるように……


 死神は、その場から動けなかった。


 最後にあいつは泣いていた……


 手には、あいつの感触が残っていた。


 全てが、胸の奥に沈んでいく。


「主……」


 遠くから、ハクの声が聞こえた。

 

 死神はゆっくりと瞳を閉じた。


 もうあいつの妖気は感じない。


 風が、頬を撫でた。


「黄泉守様……」


 透子が静かに死神を呼んだ。


 死神はゆっくりと目を開く。

 落ちた刀を静かに拾うと、

透子のもとへと歩き始めた。 

 

 

 死神が透子の前まで来たその瞬間。


 透子はたまらず、男に抱きついた。


「……よかった。

 本当に……」


 震えていた。

 透子の肩も、抱きしめられた男の体も。


 死神は、しばらく動かなかった。


「……透子。」


 その名を呼んだ瞬間、

 張り詰めていたものが、ぷつりと切れた。


 刀が再び、地面へ落ちた。


 男は、透子の背に腕を回し、

 肩に顔を埋めた。


「……すまない。

 怖い思いをさせた……」


「いいんです。

 あなたは助けに来てくれた……」


「……すまない。」


 誰に向けた謝罪なのか、もう分からなかった。


「あの人は、最後にあなたに分かってもらえて

嬉しかったと思います……

 だからもう、良いのです……」


 男はそれ以上何も言えず、

ただ透子を強く抱きしめた。 

 

 

 

 村を出る頃には、太陽はすっかり昇っていた。


 村だった場所には、

 崩れた家々の残骸だけが残っていた。


 土蜘蛛の気配はもう、どこにもない。


 死神はふと、振り返った。


「黄泉守様?」


 透子が不安そうに男を呼んだ。


「いや、何でもない。

 ……行こう。」


 その声は、以前より少し柔らかかった。


「主ー!」


 ハクが二人のもとへ駆けてくる。


「無事か?」


 ハクは死神と透子を交互に見て、

ふっと息を吐いた。


「終わったんだね……」


「……ああ。」


「ったく。主。

 心配かけさせるなよ。」


 死神は僅かに目を細めた。

 そして……


「すまなかった……」


 謝った。

 ハクは目を見開く。


「あんた……本当に主か?」


「おい、どういう意味だ。」


「うそうそ。

 冗談だよ!」


 透子は思わずクスクスと笑った。


 その笑い声で、張り詰めていた空気が、

ほんの少し和らいだ。


「まっ、とりあえず。

 応急処置だな。」


 どこから出したのか、

ハクは男の腕にぐるぐると包帯を巻き始めた。

 

「つっ!

 少しは加減しろ。」


「嫌だね。

 主って放っとくと、すぐ無茶するから。」


「……確かに。」


 透子がハクに同意するように頷く。


「透子まで……」


 死神は小さくため息をついた。


「痛みますか?」


「いや、大丈夫だ……」


 嘘だった。

 今だに傷は痛んでいた。

 血を捧げるために切った傷も。

 地獄で焼かれた傷も。


 だが、二人の優しさで

 その痛みも、和らいだ気がした。

 

 三話 友との別れ [完]


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