第77話 さらば銀河刑事
いい朝だ。
シズカはふすまの隙間から入ってくる陽の光に起こされた。
つまり今日は、ぽかぽか暖かい絶好のお昼寝日和だということだ。
シズカハウスで朝の食卓を囲む3人と1人。
シズカ、エム、ハルナと山田だ。山田は自宅で朝ご飯を食べた後、シズカの家でお漬物をかじるのが日課になってしまっていた。
この後、シズカとエムとハルナと連れ立って学校に行くのだ。
「山田さん、俺、しばらく学校休むよ」
「あ、私も」
「私も」
山田はかじっていたごぼうのお漬物を変なふうに飲み込んでしまって、盛大にむせた。ごぼうは固いからな。
「ちょっとみんな、どういうこと?まあ、銀河くんは分かるけど。また旅に出るんでしょ?」
銀河笑夢は太陽系を管轄とする銀河刑事だ。
太陽系に宇宙犯罪者が現れると、駆けつけなければならないのだ。
「1週間はかからないと思う。今回は沖縄らしいから」
「沖縄?良いな〜」
「遊びに行くんじゃないんだぞ!」
「分かってるよ〜。あ、この前水着の雑誌見てたのって……」
「違っ!……カンケーねぇよ!情報が入ったのは昨日の夜だ!」
クラスメイトには秘密であるが、シズカハウスに集まる。怪異……もとい事情持ち達の事は山田はほとんど全て知らされているのだ。
そして銀河笑夢は確実に女子化中。
「まあ、お土産は期待しとけ」
「ありがとう。それで?シズカさんたちは?」
「私は、何というか、飽きた?」
「え?」
山田はまるで捨てられた子猫のような寂しそうな顔になった。
シズカはまた自分を置いていくのだろうか。山田はそう思ってしまったのだろうか。シズカは慌てて弁明する。
「ああ、ほら!学校行っても山田とずっと一緒に過ごせるわけじゃなかったし、すでに知ってる低水準の科学を効率悪く解いたり?もう使わない旧式の英語を今さら復習したり?さすがに時間がもったいない。だからもういいかな」
「私も。闇宵シズカが学校に行かないんなら、私も用はないの。ミツ……元の時間に帰る方法を探すわ」
「そうなんだよね〜時間遡行なら、ここでも出来るけど、ハルナちゃん無許可みたいだし。それにトレジエムまではね、何年掛かるか分からないわ」
大宇宙の星々も永遠に今の場所で輝いているわけではない。時速何万キロメートルという猛スピードで、宇宙空間を飛び回っているのだ。千年も経てば、星座の形も変わるのだ。
時間遡行とは、時間、位置、そして速度差。全てを完璧に計算し切る超科学の技術なのだ。
和解したシズカとハルナはお互いの情報は最低限の範囲で共用していた。
「未来の地球なら、位置がわかっているからそこまで大変じゃないの。でもハルナちゃんの住んでいた星は」
「シズカ、それ以上は」
「あ……」
これ以上は未開の異星人に公開すべきではない。
ハルナは時空監察官よりも、倫理に厳しかった。
「じゃあ皆、そろそろ学校行こうか。エム、こっちは窓とか閉めていくから。自分の家から行ってね」
「ああ」
「何かあったら……私たちを頼るのよ?」
「そんなことにはならねえよ。……あの、シズカさん」
「ん?なあに」
「ちょっと出発前に、その」
「エムは可愛いなあ。ほら」
ぎゅ……
シズカは恥ずかしそうにお願いしてきたエムを、優しく抱きしめた。
「終わったら、ここに帰ってきても良い?」
「当たり前だよ。また、話を聞かせて」
「うん」
20カウントして、エムは山田に引っ剥がされた。




