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第75話 私が怪人キムチ納豆になるまで!!〜乳酸発酵菌を酸っぱいとバカにした奴らを論破する!それ、発酵しすぎてるだけですけど!?〜

 よく晴れた、海辺町。

 カレンダーではもう冬だけど、この町は暖かい。

 異星(よそ)から来て町に住み付いて、冬の定義を間違えて覚えちゃったシズカ。 

 お休みの今日は早起きして、縁側に通じる窓を開け、庭の草をむしる。

 都会育ちのシズカは、こういう暮らしを楽しく思っている。


 ひと汗かく頃、地下室から居候の女の子、銀河笑夢(エム)がのそのそと上がってくる。

 男の子だった時のクセで、寝間着は少々心配になるくらいのこともあるが、シズカしか見ていないのなら別に構わないだろう。


「シズカさんオハヨ〜お腹空いた〜」


 タンクトップの下からポリポリとお腹を掻きながら、まるでMANGAの登場人物だ。


「もう昼だよ」

「ん~」


 お休みの日の朝と昼の間は時間(とき)がゆったり流れる特別な時間だ。

 エムはキッチンでコップ一杯のお水を飲むと、縁側のシズカの隣に座る。

 

「ご飯どうする?お昼前に少し入れとく?」

「なんかさっぱりしたのが食べたいな〜」

「いつ食べるのかって聞いてるの」

「お昼に大盛り食べる」

「さっぱりが台無しじゃないの」

「そうかな〜?」

「お昼はお蕎麦でも取りますか」

「俺、ざる2枚!」

「もうちょっとしてからって言ってんでしょ。じゃあ、天ぷらくらいは揚げますか……」


 シズカがヨイショと立ち上がると、エムも立ち上がる。


「着替えて、走ってくる」

「は〜い。気を付けなよ。それと、この間みたいな薄着で走るなよ」

「分かってるよ……」


 何だかんだで、エムとの生活も気に入っているシズカさん。懐いている妹という感じだろうか。


 エムを送り出してすぐ。

 天ぷらにするお野菜を切っていると、

 

「シズカさ〜ん」


 と、玄関から声がした。


「ん?スコップ?」


 いつもみたいに勝手に上がってくればいいのに。

 


「ひ、久しぶり〜?」

「なによ、気持ち悪いな〜。何よマスクなんかして」

「ちょっと……花粉、花粉だよ」

「ふ~ん」


 どうやら、不在のスコップが嵐を呼ぶのは、今回ではないようだ。シズカはホッとする。


「ご飯食べてくでしょ?」

「あ、そうか。もうそんな時間……食べよっかな」

「なんか変よ、スコップ」

「ただいま〜あ、スコップさん、いらっしゃい」

「……デカ子か」

「あ、シズカさん!スコップさんの分の出前頼んでないよ!」


 シズカとエムはパニックだ。


「いいよ、別に……」


 


 三丁目の蕎麦屋。

 たった今茹で上がった蕎麦が、冷水でキリッと締められる。


「オイ、出前だ。シズカさんの所……行けるか」


 オヤジはすのこ(・・・)に美しく蕎麦を盛り付けながら、「影」に問いかける。


 影は頷くと、オヤジの問いに力強く答える。


「仕事の時間だ……」



 町はお昼時。

 冬の暖かい風が海へ向かって吹く頃、


「ねえ、何か変な臭いしない?」

「……海の匂い?」

「いや、この時間は町の方から吹くのよ」

「うえ……なんか腐ったみたいな」


 来た……。

 スコップはさり気なくマスクを着用した。


「蕎麦の出前だ……」


 出前は玄関から来る。

 小さいが、決して聞き逃さない、存在の塊のような声。待ちに待ったお蕎麦の到来だ!……逃げられないニオイと共に……


「は〜い……ってコラァ!」


 駆け出したシズカは、廊下途中で加速した。

 そしてその流れで「ドロップキック」!足先には汚れ防止の力場を張ることを忘れない。

 被害者は……出前の人だ!


 出前の人は、物凄い速度でキリモミ回転し、地面に落ちた。


「いきなり何をする!」


 そして恐ろしく頑丈。

 シズカより頭2つは大きい偉丈夫だ。

 伸びっぱなしの黒髪だが、甘いマスクが不潔さを3割ほど減らしている。

 特筆すべきは!彼の服装だ!

 お侍っぽいのはもう仕方ない、こんな町だし。

 インナー(?)は珍しいキムチ柄。柄だと思いたい!

 アウター(?)は珍しい(わら)柄。なんか大粒の豆が糸引いてるんですけど?

 ああ、もう!二本差しとは、さぞかし名のある御方に違いない!


「アンタ何者!怪しい奴!……いや、臭え!」


※暴力描写が見苦しいので、可愛いにゃんこの映像を思い浮かべておいてくださいね

   

「ちょ、待て!私は乳酸発酵能力者の中で最きょ……最も気高……ノーブル・オブ・ラクティ……」


 生身の状態とはいえ、シズカの連撃にも耐えうる肉体。仲間を募る段階のファンタジーならばよい盾役になったであろう!……その身から発せられるキムチ臭と納豆臭がなければの話だが!

 

「やかましい!お前が……お蕎麦を……持って……くるな!」


「シズカさん、駄目だよ」

「止めるなエム!」


 止めるだろう!

 

「今は、怪人側の事情も視聴者は興味を持つ時代。派手に血肉を飛び散らせてウケる時代は終わったんだ」


 怪人を爆散させる銀河刑事(おまえたち)も相当だがな。


  

「私はとある名士の家に生まれた」


 いきなりはじまったぞ!


「父と母はいとこ同士で、お互いに乳酸発酵食品一族のエリートだった。ヒーロー年鑑にも何度も特集で取り上げられてさ、「今話題の健康食品キムチ!を纏ったヒーロー」「完全食納豆」なんてね。家に当時の切り抜きを保存してあるよ、今度見に来るといい。そんな二人はとあるフェスで出会った。そして順当に恋に落ち、将来を誓い合うまでになった。二人とも歴史の長い名門の血筋だからね、その結婚には多くの親戚が反対したらしい。そんな甘酸っぱい話を、子供の頃から何度も聞かされたよ。そして俺が生まれた。中学までは幸せに過ごしたよ。なんせ一族のエリートだからね、周りがチヤホヤしてくれているだけだったと分かったのはずいぶん後だったけどね。そして高校に入ると、世界は一変した。ニオイ控えめブームがやってきたんだ。それからはご想像のとおりさ、臭うからと仕事はなくなっていき、ヒーロー年鑑の掲載枠も十六分の一になって……」


「え?スコップ。なに泣いてんの?」

「だって!不憫じゃァないか!」

「明らかに狙ってきているとしか思えないけど……抽出箇所を吟味すれば、不憫だ」

「だろう!?君なら、何とかしてあげられないかな?」


 スコップといえば、そう嬉々として怪人を葬るタイプではない。どちらかというとシズカを止めようと思っている派だ。

 とはいえここまで怪人に肩入れするのも珍しいといえる。

 

「『マヨネーズ理論』というものを知っているかしら」


 仕方なく、シズカはキムチ納豆マンを諭すように語り始めた。

 

「マヨネーズ理論?」

「とあるアマチュア作家が提唱した理論なんだけど。卵、お酢、塩、油……どれもが単体では完璧食品なんだけど、混ぜると台無しになっちゃうの」

「マヨネーズは完璧だぞ?異世界転生系で主人公が作りたがる調味料の常に上位にいるくらい」


 今日の台詞回しは、エムのようだ。

 

「黙りな!そういうことを言ってるんじゃないの。この怪人キムチ納豆は自分が何故大成できない……いえ、嫌われてしまっているのか分かっていない。つまりマヨネーズ理論が分かっていないの」

「私は怪人ではない!」

「分かったぞ!つまりシズカさんはこう言いたいんだね。マヨネーズも見る人によっては完璧と最悪の両極端に振れちゃうんだから、最高の発酵食品であるキムチと納豆のハイブリッドである怪人キムチ納豆も好き嫌いの両極端に触れる可能性がある!」

「長文解説ありがとう、エム」

「……怪人ではない!」

「ジャッジメントタイム!」


 今、審判が下される!


「キムチ納豆、食品としてなら「アリ」よ。私はオオアリだと思っている。だけど人型になって活動し、あまつさえ香り大事な蕎麦の出前するのは「ナシ」よオオナシだよ!」

「そんな、私はどうすれば……」

「怪人キムチ納豆……」


「あなたには選択肢が2つあるわ」

 

 このまま私に消されるか

 怪人豆白菜になるか

 無も知らない星の紛争に放り込むか

 豆と白菜を脱ぎ捨てて怪人乳酸菌になるか

 知り合いの科学者の実験台として提供されるか

 土をつくるか


「面倒だしやっぱり消そうか」


 選択肢は実質ゼロ!


「俺は……」


 しかし、シズカの説得はキムチ納豆マンの心に響いたようだ。

 

「俺は、何者にでもなれるのか……まだ」

「良かったな、キムチ納豆マン」


 スコップはキムチ納豆マンの肩を叩こうとして……やめた。


 だけどこのお話は、感動では終わらない。


「シズカ〜おじゃま……臭ッ!」

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