第70話 宿題という制度について
興味があって高校生活を始めてみたけど、意外と山田とイチャイチャできる時間は少ない。
そもそも山田達は真面目だから、授業中に手紙を投げても相手をしてくれない。少ない休み時間はそれに対するお説教であっという間に終わってしまう。
晩ごはんを作りながら、シズカは思案していた。
「放課後も仕事あるからなあ〜。毎日遊んでるわけにもいかないし……。おーいエム〜ご飯できたよ〜」
今日の晩御飯はハンバーグ。
シズカさんはひやむぎを茹でる以外の料理もできるのだ。
「あ!ハンバーグ!……オレ、ハンバーグ好きなんだ」
「そりゃ良かった。期待してろよ〜料亭仕込みだぞ」
シズカハウスの地下には銀河刑事の秘密基地が接続されている。
すっかりシズカさんに懐いてしまった銀河刑事(元ではない現役だ)はこうやって頻繁に夕食を頂きに来るのだ。
「あれ?スコップは?」
「スコップさん?そういや今日は見てないな」
「何よ、今日はハンバーグだって言ってあったのに。まあ良いわ、スコップの分は明日焼いてあげるとして……」
「オレ、ハンバーグなら毎日でもいい!」
「……アンタねぇ。ほら、準備して。お皿とか出しなさい。あ〜あ、スコップめ、また何かに巻き込まれてるな。明日学校の帰りにでも見に行ってやるか」
「シズカさん!早く、食べよう!」
「はいはい」
シズカが欠食JKのお世話をしていたその頃、スコップは自宅である洞窟にいた。
何故か真白ハルナと夕食を共にしながら。
「美味しいです、ハルナさん」
「そう?それは良かった」
昼間、自身は講義で買い物に行けないハルナに頼まれて、スコップは何やら色々買ってきた。
同居しているはずのミツルちゃんは基本謎行動で、いてほしい時には捕まらない。
「ヒツジのお肉とか、腸とか。どんな呪いに使うかと思ったら、料理だったんだね」
羊肉の腸詰めと、ビネガーの効いたサラダに、カタツムリのニンニク炒め。焼き立てバゲットと赤ワイン。
シズカのハンバーグのお誘いは魅力的だったが、このハルナの手料理もまた格別だ。欧風の家庭料理とでも言うのだろうか、肉の使い方がとにかく上手い。
「呪い?私は使えないわよ」
「……意外。否定しないんだね」
「私の暮らす辺境の惑星では、科学で解明できないことも否定はしないの。だって実際に体験してる人も大勢いるんだし、ほとんどのオカルトにはそれなりの理屈があるってわかったから。闇宵シズカは否定するの?」
そう言えばシズカさんは、バグソス星人達を「第3理論」と言って蔑んでいたな。
「……否定はしないけどね。格下だとは思ってるみたい」
「馬鹿な娘。でも、本星の人達ってみんな普通にそうなのかもしれないわ」
「ハルナさんは、シズカさんが嫌いなの?」
「ん?そんなことないわ。若さで暴走気味のあの子を見ていられないだけ。……確かに、直視したくない事例もあるけど」
「ふ~ん」
「私も子供の頃から良いものを食べてさえいればあんな……」
「逆恨みじゃん」
ハルナさんは小さくて可愛いじゃないか。
スコップはカタツムリをほじりながら、立派なケンタウリ人が三人並ぶのを想像した。
やっぱり見ているだけで疲れそう。
「ところで、料理できるんだね。小さいお嬢さんなんだと思ってた」
「あ゙?なんて?」
「えっと、いいところのお嬢さんだと思ってたから」
このキレ具合と殺気は、嫌でもシズカを思い出す。
「良いとこのお嬢さんよ?でも、船じゃ食事は当番制だからね、みんなそこそこできるわ。上手というか、慣れだけど」
「船乗りなの?」
「そうよ、宇宙を翔ける貨物船の船長さんなのよ、私」
「へぇ」
人は見かけによらない。
単なる可愛い白猫ではなくて、荒くれ船長さん。
「おい、ヤロー共!取舵いっぱいだニャー」なんて。
想像で萌えるスコップ。
ミツルちゃんとは逆のベクトルでギャップ萌え。
「もしかして、君達って……」
いや、それはない。
姉妹なの?スコップは喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。だって違いすぎる、このハルナとあの姉妹。人間の出来が違いすぎる。
「それよりゴメンね、いつもお風呂借りてて」
「いや、この間も言ったけど、ここのお風呂は共用施設だから」
そして、シズカハウスは食後のひととき。
食器が下げられたテーブルで、エムが唸っている。
宿題をしているのだ。
「シズカさん、宿題終わったのか?」
エムの向かいで呑気にお茶を飲んで放心しているシズカさん。時折何もないところを凝視するのが恐ろしい。
「ん?問題ないわ。全て理解してるから」
「理解?」
「ええ、言っては悪いけど、いくら違う星の学問でも初等も初等。これで何が測れるのかって」
エムはイラッとしたが、教えてあげることにした。
だってシズカがやらかしたらきっとほぼ同居の自分も怒られると分かっているから。そして多分、山田さんがめっちゃ睨んでくるだろうから。
深呼吸だよ。銀河刑事はいつだって平常心。
「シズカさん?プリントもらっただろ?あれも解いたの?」
「エムちゃん、当たり前よ。脳波コンピューターを使うまでもなかったわ。あ、もしかしたら分からないところあるのかな?教えてほしいって?」
「エムちゃん言うな。シズカさん、プリントに書かなきゃならないんだよ。答えと答えに行き着いた過程を」
「え?何それ?イミフ〜」
「無理して若者言葉使わなくていい」
「私は若いの!」
それは無理がある。
「そんなの、意味ないじゃない?どうせコンピューター使うんだし!」
「コンピューターもダメ。自力で解くんだよ」
「コンピューターだって私の一部だよ!」
脳派送受信機は体内に埋め込まれているが、コンピューター本体は体外の異次元に隠されている。
身体の一部ではないね。それに計算機の使用は原則禁止だ。
「クソっ、未開の後進国め!こんなことにどんな意味が!」
「そんな問題発言して。山田さんに言いつけるよ」
「ニャ〜〜〜〜!!」
当然ながら、34世紀で使われている新理論では、
問題をちゃんと解いたとは見なされなかった。
「ニャ〜〜〜〜!!」




