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第67話 ハイスクール子守歌

「皆さん、はじめまして。行方不明の間宮先生に変わって、今日からこのクラスの担任になる真白(ましろ)ハルナです」


 海辺高校3年海星(ヒトデ)組の教室。

 卒業まで半年を残して、担任の間宮教諭は姿を消した。

 無責任だと非難する人もいるだろう。だが、考えてみてほしい、失踪する条件に本人の無責任さは必須条件ではない。

 まあ、彼のことはどうでもいいのだ。


 真白ハルナ。

 おそらく偽名だ。闇宵(やみよい)シズカはピピン!ときた。

 だって見事な白髪、白い肌。あんなに白い人の名前が真白なんて、出来すぎている。


「これは、当たりだったかな」


 戯れで高校生活を始めてみたけど、その2日目にこんな怪しげな人物に出くわすとは。闇宵シズカは己の強運に慄いていた。

 シズカサーチ。

 シズカの血中に含まれるナノマシンを、感覚器官に集中して振り分けることで、常人よりはるかに高感度で対象の物を観察することができる。分析は脳波コントロールのコンピューターが行ってくれる。


「……ケンタウリ人?」


 地球人ではないとは分かっていたが、まさか自分と同じ星の出だとは思っても見なかった。

 この時代、西暦2026年時点ではさすがのケンタウリ人もソルの太陽系にたどり着いてはいない。つまり時間遡行者だ。

 そして時間遡行技術は、銀河文明の長たるケンタウリとソルにしか公開されていない。そしてその技術もシズカたちのような特権階級にしか使用は認められていないはずなのだ。

 

 それをこんな小娘が。


「しかしこの人、めちゃくちゃ可愛いな」


 背丈はシズカよりかなり低い。ケンタウリ人の平均身長には届いていないだろう。

 真っ白な毛並み、生徒に舐められないためか必死にガン飛ばして威嚇している姿。まるで子白猫だ。シャーってしていて可愛い。

 将来はさぞ美人な猫になるだろう。シズカはウンウン頷く。

 

 いやでも、どうして私をにらみつけてるんだろう。

 シズカはもう一度真白先生を見る。

 やっぱりシャーされてる。


 ナズェミテルンディス!ハルナチャァン!



  私は確か、高校生を教えると聞いていたのだけど。

 

 真白ハルナは混乱していた。

 数日前、拉致同然に連れてこられたこの時代の地球、それが気に食わない、というか意味不明なことに変わりはないが、ハルナが混乱しているのはそこではない。

 高校生といえば16歳とか、目の前の彼らなら18歳とか、地球人ならば幼生体の最終齢の頃だ。

 彼女の弟が同じ年の頃はもう少し幼く見えたはずだ。確かに教室を見渡すと、それくらいの齢の幼生体もちらほら見受けられる。

 

 しかし、明らかに違う者が2名。

 1人は小柄な体格に見合わない大きさの授乳器官を持っていて、銀河笑夢(えむ)と名乗っている。

 最近性転換したらしい、珍しい事例だ。

 級友たちからは「デカ子」と呼ばれているらしい。

 ハルナの時代であったなら、即アウトの事例だが、21世紀というのはそのレベルなのだろう。まあデカいんだけど。思うだけならセーフなのでハルナは思っておく。

 だが、もう1人は明らかに異質だった。

  

「あれがシズカ……」


 ハルナを34世紀の銀河系の裏側から21世紀の地球まで連れてきたのはミツルちゃんだ。

 見せたいものがある。きっと気に入る。

 そう言われてハルナは拉致されたのだ。社長なのに、船長なのに。

 最愛の弟とだって大好きな妹とだって、お別れを言えていない。

 そんな先で見せつけられた、ミツルちゃんのお気に入り。ソレがコレだ。

 

 金色に輝く瞳は確かにケンタウリ人の特徴だ。おそらく自分でも誇りに思っているに違いない、最上級に美しい黒猫。


 しかし、ハルナはシズカを睨みつける。シャーってする。

 何故なら、あちこち立派に成長しすぎてもう幼生体とは言えない。それも全体のバランスが良すぎて、まるで宇宙軍所属のモデルさんのようだ。

 そのモデルさんが、サイズの小さなセーラー服を無理やり着ているものだからピチピチだったりスレスレだったり。

 青春なんて遥か彼方。もうそれ、エッチすぎる!

 それに何だその偽名は!「闇宵シズカ」?馬鹿じゃないのか?

 ……イタイ!イタすぎる。

 クールビューティーなケンタウリ人のイメージが、崩れてしまう。ハルナはそれが許せない。

 

「ナズェミテルンディス!ハルナチャァン!」


 エロ女子が突然わけの分からない奇声を上げた。

 頭まで悪いと見える。

 もういい加減限界だったハルナはシズカを指差して叫んだ。

  

「そこのエロ女子、うるさいぞ!」


 ハルナ先生、そいつこのクラスで一番頭いいんです……。


 朝のホームルームが終わってしばしのフリータイム。

 エロ女子シズカの席に山田が遊びに行くので、取り巻きも集まった。

 山田ゆうきは全てにおいて適正値で可愛い。

 シズカの元お世話役で、シズカさん大好き少女だ。

  

「シズカ、さっそく真白先生に怒られてたね」

「え?エロ女子って私のこと?」

「指さされてたよ」


 シズカのエロさにはさすがの山田も若干引いている。

 

「シズカさん、いったい誰のことと……」


 山田の友人いろはの問いにシズカは少し離れた席のアイツを見る。


「ああ、銀河くん……」


 夏休みが終わって、イメチェンもなく、クラスの皆には相変わらずの暑苦しい奴と思われていた銀河刑事。本名銀河笑夢(ぎんがえむ)

 それが今週学校に来てみれば、女の子になっているではないか。

 同じ日に転校してきたシズカはデカ子と呼んでいるが、それはあまりにもデリカシーが無いだろう。


「奴は身長と胸部を等価交換したつもりだろうが、まだ得たもののほうが多いな。世界の歪みはたまっていく一方だ。責任は私たちにも少しはあるから、制服くらいは何とかしてあげるけど。サイズが余りにも合ってないしね」


 どの口が、言うのだろうか。


「シズカ……銀河くんより、シズカのほうがエッチぃと思う」

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