第64話 時期が悪い!
「あなた、良いの?正体って隠すものじゃないの?」
堂々と名乗った男に、ふと思いついた疑問を問う。
まあ正直どうでもいいのだが、ちょっと良くないタイミングだよなとは思っている。
シズカかはカップに残った少し冷めたコーヒーを飲み干す。地球人の平均感覚では常温とも言う。
「ついてきなさい。場所を変えるわ」
銀河刑事と名乗る男の答えも聞かず、シズカは店の出口へ向かった。
「おい!勝手に……」
男の苦情は、首に当たる冷たい感触によって遮られた。
いつの間にかスコップに後ろをとられていたことに気付く。
スコップの鋭い爪が、男の首筋にめり込んでいる。
「すいませんマスター。騒がしくしちゃった。あ、ミップル。今夜うち来る?ひやむぎだけど」
「いや、いいです……」
「そっかぁ。じゃあまた」
「シズカさん……顔……」
表情筋が絶賛筋肉痛で、表情を出すことが出来なかったはずのシズカ。しかし今は笑っていた。
「やっぱり私、こういうの好きみたい」
なんだそれ~!
ニャーニャーしててカワイイ猫姉さん。その本質は狂戦士。ストーリーよりも単発の方が性にあっているのだ。
出だしにマウントをとったはずの男が、シズカの後に続き、呆れ顔のスコップが殿だ。
「あ、先輩。お会計」
「え?僕!?」
男が連れてこられたのは、近くを流れる川に架かる橋の下。
先にたむろしていた不良達はシズカを見るなり我先にと逃げ出した。
制圧済みってことかな?
「さて、ここで良いか」
「ちょっとシズカさん!割り勘のはずだろ!」
可愛いワンコポーチを手に追いついてきたスコップ。
カードにスタンプもきちんと押してもらっていたので少し遅れたのだ。
支払いについてシズカは忘れていたわけではない。混乱に乗じて有耶無耶にしようとしていたわけでもない。
ワンコ可愛い……。
「分かってるわよ。流れってものがあるでしょ、物事には」
シズカは割とお金持ちてある。
いつもスコップの分も払っても良いと思っていたくらいだ……経費で。
「ねぇキミ。私達、まだあの店でお話しするつもりだったんだけど、キミのせいで店を出る羽目になったんだ」
「宇宙人共が……」
「『火線』」
シズカの指先から放たれた火線は銀河刑事の頬を掠めて、その先の地面を深くえぐる。
「そういうの聞いてないのよ。分かる?店代あなたが出してよって。察してよ。次は当てるよ」
なんというか……言い掛かりからのカツアゲだよね。サツガイ予告まで……。ヒロインには絶対して欲しくなかった行動だよ。
「俺は貴……」
「当てると言った」
音よりも速い炎の奔流が、銀河刑事の眉間を狙い違わず貫く。
しかし火線は彼に命中する前に小さな白い手によって防がれた。
「アチチ……」
「スコップ」
もちろんシズカとて殺すつもりはない。
ガツンと一発ぶちのめして、さらなるマウントを狙うことが目的だ、多分。
だからって、アチチで済むような威力ではないのだけど。
荒事に関してはシズカに劣るスコップであるが、それでも地球人類よりははるかに強靱なのだ。
「駄目だよシズカさん。暴力は駄目だ」
「え?スコップ、あなたどの口が言うのよ……スコップだよね?偽者?」
シズカさん、スコップ嬢は強いけどあなたみたいに狂戦士じゃないですよ。
「コイツはね、どのみち排除する予定なの」
「排除?」
そしてシズカさんの言葉遣いに捻りはない。
排除は排除だ。
「コイツが創った組織、名前は恥ずかしくてとても言えないけど、将来テロ組織に変貌して何度も同盟の交渉を邪魔するの。地球人とケンタウリ人と他も併せて百万人くらい死ぬのよ」
逃げようとする銀河刑事の右足を火線で貫く。
「何回シミュレートしても、必ずコイツにたどり着く。コイツのいる世界線ではテロ組織による犠牲が数万単位で発生するし、いない世界線ではほとんど被害はないの」
次は左足。
だが銀河刑事の目に宿った憎悪の炎は消えるどころか更に強くなる。
「歴史の転換点を見つけて処理するのが時空監察官のお仕事。いつも縁側でニャーニャー言ってるだけでは、無いのよ?」
銀河刑事の眉間を狙った火線が、再び放たれる。今度はスコップも間に合わない。
男は眉間を貫かれ……
倒れ伏す銀河刑事。
ただその身体に傷はない。
「何やってるの?シズカさん。銀河刑事も白目剥いてビクビクしてるし」
「今、彼の精神はズタズタに引き裂かれたわ。私の渾身の必殺技、六猫輪廻を受けてね!!」
六猫輪廻とは!
シズカの放つ宇宙エネルギーによって、6つの猫可哀想シーンを相手に見せ、精神を破壊するLIMIT技だ。
しかし、宇宙刑事は立ち上がる!
「な……舐めるな!」
「あ、一発目スコップが邪魔したから……」
「そんなの知らないよ」
それでも相当効いたのか、口の端から血を垂らしながら叫ぶ。
「俺の家族は、お前達宇宙人に殺されたんだ!だから俺は、お前達を許さない!」
「それは可哀想。でも私のせいじゃないわ、だってこの時代の地球人を殺すのは、あなたが初めてなんだもの」
「僕はそもそも、人殺しはしない!それに……」
「「地球人も宇宙人だよ?」」
これがトドメになったのか、銀河刑事は今度こそ血を吐いて倒れた。
「あ〜あ。どうすんのさ」
「何か、殺すのも忍びなくなってきたよ」
シズカさんは人情に厚い女傑なのだ。
「ん〜、それでもこのまま生かしておくとテロリストになるんだよな」
「ふふふ……だったらコレの出番だね」
スコップはワンコポーチから取り出した謎の注射を、流れるような所作で、銀河刑事にブスリとやった。
隣りではシズカが震えている。
そして、太陽が海に傾きかけた頃。
橋の下で、2人の女がワンカップ(のアイス)片手に並んで座っていた。食べ比べとかしながら。
目の前には倒れてピクリとも動かない女。
「ん……」
「あ、起きそう」
「俺は……」
「お目覚めかね」
「俺は何故まだ生きて……」
シズカが近寄り、そっとマントをかけてやる。
「あなたを生かしておくわけにはいかなかった」
「だけど、あなたが宇宙人を憎む気持ちも痛いほどわかる」
銀河刑事はそれどころじゃない。
自らの身体に起きた異変を確認するのに忙しくて、凶悪宇宙人たちの小芝居なんか付き合ってられない。
「銀河刑事はたった今死んだ」
「彼の志を継ぎ、我らと共に悪の宇宙人を駆逐し」
「この青い地球を共に守ろうではないか」
「あなたは今日から銀河刑事子ちゃんだ!」
何ということだろうか!
宇宙人刑事は、可愛い女の子になってしまった!
「な……なんじゃこりゃあ……!」
ジーパン刑事か!
それを温かく見守るシズカとスコップ。
「デカ子ちゃん……確かにデカいな」
「そだね~」
毎日更新は本日で終わりです。ストックがなくなったというか、追い付きましたので。
明日からは不定期更新ですが、何卒よろしく




