第60話 ちょっとした悪戯だよ
場所は変わって第24号窟。
海辺高校の裏庭にある高い崖には無数の浅い洞窟が穿たれている。
それぞれの洞窟の奥は異空間になっていて、住人の好みによって広さは自由に変えることが出来るのだ。
住人とは、いろんな星人や地球産の怪異達。巨大カブトムシは怪異でしょう?
24番目の洞窟はスコップの住居兼店舗である。
スコップは怪しい魔法屋さんなのだ!
無策の交渉人がぶっ倒れたので、とりあえず昔のようにここに集まって話の続きをすることにした。
「2人は、何か飲む?」
「「結構です!」」
スコップが冷蔵庫から出そうとしていた飲み物は、やはりウネウネしていたので、山田とスイレンはかぶせ気味に断った。新味らしい。
「シズカさん起きないな~。前は20分で回復していた神経毒なんだけどな。……やっぱあちこち限界なんだろうな」
「それってどういう……」
客用の煎餅布団にシズカは寝かされていた。
薬で気を失っているというよりも、疲れが溜まっていたのだろう。うにゃうにゃにゃふんと謎の寝言を発しながら気持ちよさそうに寝ている。
どう見たって絶好調だろ。
「僕もミツルさんに聞いて気が付いたんだけどさ、シズカさんって銀河系最強の戦士なんだろうけど、器は単なる普通の女の子……子?かは微妙だけど……器はそれほど強くないって事。失踪前の日は相当メンタルやばかったよ。今だってこんなおかしな魔剣を使って戦ってる。戦意高揚と身体サポートの術付きだよコレ。どこで手に入れたんだか」
スコップ特製の「お札」で能力を抑えられた魔剣は、応えない。
持ち主の補助をする能力としては優秀であったが、血に飢えた、言うことを聞かない失敗作の魔剣。従わせる力を持ったシズカにとっては良い相棒だったのかも知れない。
心も身体も弱り切っているシズカ。
何とか力になれないかと見つめるスコップの目の前で、シズカは掛けられていた布団を豪快に蹴っ飛ばした。
こうはならないだろうという位吹っ飛んだ掛け布団。
そこに現れた太ももと露わになってカキカキされているお腹は、確かにプルンプルンで柔らかそうだ。
野生を無くした家猫のような寝顔は殺し合いを生業とした戦士のようには見えない。
銀河系最強は彼女の中で出口を探して渦巻いている。
「にゃふん」
何度目か、シズカの寝言。
眠りが浅くなってきているのかもしれない。
(((かわいい……)))
シズカが蹴飛ばした布団をかけ直してやり、三人は終戦のための話し合いを続けることにした。
「まあ洞窟の皆は、それなりに野望を持ってここに来ているからね。管理人もシズカさんもいなくなったら、遅かれ早かれ暴走し出すとは思っていたよ」
それぞれが地球人を害しようと考えていた連中だ。
それが約100種類いて、単独でやってくるものは少ないから、合計の頭数は相当なものとなる。
それもあって、シズカはちびちび潰していくつもりだったのだが。
「洞窟側が一斉に襲いかかったら、地球人なんて相手にもならないんだよ?だから僕は取りまとめとして少しずつ出撃させていたんだ」
別に感謝されたい訳じゃないけどね!
デレがツンデレの真似をするとは片腹痛い。山田達は優しく微笑んだ。
「やっぱり先輩が悪の総司令官だったんだ」
「違うって言ってるだろう」
「悪の僕っ娘……ああ、あのパターンか」
山田ライブラリーに何か合致するものがあったらしい。
「だから、僕だって君たちの世界を壊したくないくらいには気に入っているんだよ?それに、友達に留守を任されちゃったからね」
たぶん違う。
シズカは自分の家の留守をお願いしたのだ。
そしてそんなことはどこにも書かれていない。
「ただね」
そう、それだけでは以前から居た者達が変化した理由の説明が付かない。
「アツシを改造して、虫達をそそのかした、黒幕がいる。と僕は思っている」
「先輩じゃなかったんですか?」
「今までの聞いてた?違うって。……でも使ったのは僕の薬なんだけどさ」
「やっぱり先輩が悪の首領じゃないですか」
「じゃなくて誰かが!」
スコップはニャウニャウ言いながら眠るシズカを見る。
「僕がどんな薬を持っているかなんて、知っている人はいないはずなんだよ。だいたい家の中に入れたのだって君達ぐらいだよ?それに、僕に察知されずに持ち出して使うなんて、その辺りのザコ星人には不可能だ」
「それって……」
「シズカさんが?」
「うにゃ」
「知らない天井だ」
「いや、知ってるって顔だ。気が付いたかい?」
目を覚ますなりパワーワードをつぶやくシズカ。
天井ではなく岩肌だが。
スコップがのぞき込んで熱を看る。
ややもして記憶がつながったシズカは思い出した。
「……スコップ。痛かった」
拗ねてみせるシズカさんは可愛い。
「ゴメンよ。でも、あの魔剣の洗脳を解くには、あれくらいの衝撃が必要だったんだ」
「そうなんだ。ありがと、スコップ」
もちろん、方便。
いつだってスコップは対シズカ毒を試してみたいだけだ。
「何か飲むかい?」
「ありがとう。貰うよ」
スコップの冷蔵庫からウネウネ動くドリンクを持って来ると、シズカの上半身を支えて起こしてやる。
プスリ。
専用のストローを刺すとビクッと震えてウネウネが止まる。
ジュルジュル……
「「うえっ……」」
いくら美人でも、いや、美人が飲むからだろうか。
絵面が凄いことになっている。
「……アツシや虫達を改造したのは、シズカなの?」
続きだ。
スコップの部屋にはいることが出来、気付かれないような、規格外の存在。
目の前の猫姉さんしか知らない。
慎重に問い正す山田。
一方でスイレンはやや感情的だった。
「いや、彼氏は死ぬわ受験の年だわで、結構迷惑なんですけど」
「スイレン。今から私の言うことをよく聞いて」
「言い訳なんて聞きたく……」
「……いいから聞け」
「はい!」
「……シズカさん、それ女の子にも構わずやるんだ」
シズカが放つ圧にビビるスイレン。涙目爆発音。
本来は聞き分けのないおっさん相手にやる技なので、スイレンは少し可愛そうか。
「いい?私がやるなら、一日かけず殲滅するよ。山田以外は残さない」
「あっそういう人でしたね。スンマセン、了解です」
「それに私、スコップの研究室に入ったこと無いし」
「そうなんだよね~。となると誰が……」
スイレンはミスリードのスコップを睨んだ。
スコップはごめんごめんと誤る。
しかしもう、可能性のある人物がいないのだ。
そんな中で、シズカが何かを思いついたような表情をしたことに気付いたのはスコップだけだった。
「僕はもう終戦で良い。賠償をっていうのならそれなりに出すことは可能だ。そちらは?」
「別に私達が勝った訳じゃないし」
「こちらの戦闘員はもう0だから、君達の勝ちだろう。僕の首を差し出せっていうなら抵抗するけどね?」
被害を軽微にするために奮闘してくれたスコップを戦犯にしたくはない。ということで凄腕のプロデューサーでもあるシズカが一肌脱ぐことになった。
「本物のスコップは、海岸で倒れているところを私に発見された。全裸で倒れてた」
「え?何で?」
「偽のスコップと山田達が戦っているという、全裸のスコップの話を聞いて私が洞窟に急ぐと……あ、ここでアツシが爆散する」
「アレはグロかったね~」
「アレが治るんだもんな~」
「アツシ無事に再生したんだね。良かった~」
シズカの魔法も謎ではある。
異世界に召喚されたとか言ってたらしいが。
「僕、見てないんだけど、そんなに酷かった?」
「元人体と思わなけりゃ、あれに似てましたよ……そう、ネギト……」
「言うな!」
山田は容赦なくスイレンをハリセンで叩いた。
何とも締まらないが、これにて二年に及ぶ海辺町の世紀末風事変は幕を下ろした。住人達は久しぶりに太陽の光をその身に浴び涙を流した。
これは、夢だ。
「シズカちゃん、帰って来ちゃったんだね」
そりゃ、お仕事だし。山田に逢いたかったし。
「あれ?お姉ちゃんを探す旅じゃなかったの?」
そうなんだけど、途中で気が付いちゃって。
「何かな」
またお遊びなんだろうなって。
「だって、あの子のお薬ってなんか楽しそうだったんだもの」
だから私を遠ざけた?
「でないと止めるでしょ?」
どこまで本気なんだか分からないよ。
「いつも助けてくれてありがとう」
こんなに酷くなる前に呼んでよ。
「大好きだよ、シズカちゃん」
私も大好き。
お姉ちゃん。




