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第55話 愛おしい黒猫

「あんたに言われたとおり、シズカさんは追い払ったわよ?」

「え?なんて?」

 帰ってきた山田は母親であるさち子さんから、思ってもいないことを聞かされた。

「だから、シズカさんが帰ってきて、あんたに会いに来たから、追い払ったよって言った」

「シズカ、帰ってきたんだ……」

「それにしても二年前も綺麗だったのに、まさか更に美人になるとは……ちょっと格好はおかしくなってたけど」

 二年前は可愛いお洋服を着るまでになっていたのに、和装に戻っている。しかもかなり酷い方に。

「和服で刀を差して……?さらし巻き……?」

 山田はシズカの豊かなお胸の谷間を思い出して、ゴクリと唾を飲んだ。

「さっき来たばっかりだから、まだその辺にいるんじゃない?」

 別にさち子はシズカが憎いわけでもなかった。

 娘のお願いは極力聞いてやりたかったし、本人も憎まれキャラが楽しくなっていたから乗っかったのだ。

「ちょっと、出てくる!」

「いってらっしゃ~い」

 さち子は恋する娘を爽やかに送り出した。


 シズカはすぐに見つかった。

 後ろ姿だが、貧乏侍のような出で立ちで呑気に町を歩く。今の海辺町でそんなことができるのは、たった一人しかいないだろう。

 名前を呼んで呼び止めたらきっと甘ったるい声になるのだろうか。山田は自分がシズカに慕情を抱いていることを自覚している。

「シズカ」

 しかし自分でも驚くほど冷たい声が出た。

 シズカを思う気持ちが反転して、強い憎しみに変わっていた。そしてそれが本当の気持ちなのだ。

「山田!」

 返ってくるのは二年前と同じ声だ。

 山田に声を掛けられるだけで、幸せになれる。

 山田の声で、ご飯三杯イケるし、色々捗る。

 そう言ってくれていたのに、シズカは突然消えてしまった。

 自分が待っていることも知っているくせに、説明も連絡もこの二年寄越さなかった。自分が想っているほど、シズカに想われていなかった。

「動かないで……」

 その無念は、殺気の奔流となりシズカを襲った。

「答えて。どうしていなくなったの」

「行方不明の姉を捜すためだ」

 ラブリーミツルちゃんも、そういえばいつの間にかいなくなっていた。

「どうして連絡の一つもくれなかったの」

「君を危険にさらしたくなかった」

 あの夏祭りの夜みたいな敵とシズカは独りで戦っていたのだろうか。

「……そう。スコップの言っていたことは本当だったのね」

 これだけ殺気をぶつけてみても、シズカからは愛のこもった言葉しか返ってこなかった。

 大好きな姉の失踪と孤独な戦いと。どう決着をつけたのかは山田には想像も付かない。だか、シズカは山田に会うために戻ってきてくれたのだ。そのためにどれほど無理をしたのか。

 殺気が霧散する。

 ここにいると、シズカの心は疲れていく。すり減っていくシズカを山田は見たくなかった。

「シズカ、もう貴女の時代に帰りなさい。そして、私のことも忘れて……」



 シズカに別れを言って、山田は心を静めるために海に向かった。

 二年前は何の変哲もない、ただの美しい海だったそこは今では赤く染まった毒の水が打ち寄せる地獄に変わっていた。

 スコップ達がどうしてこんなことをしたのかは分からない。話をするべきだったのに、もう取り返しの付かないところまで来てしまったのだ。

「だからせめて、私の手で……」

 その時、ポケットのミャウドライバーが鳴動した。

 仲間からの緊急通信だ。

「山田よ」

『ゆうき、聞こえるか』

「旬君?」

 レジスタンスの若きリーダーとなった「ヤオハチ」。幼なじみの女の子と仲良くなったので、今やフリーは山田だけだ。

『「門番」が倒された。これから攻勢を掛ける。公民館まで来てくれ』

「アツシが?」

 かつて人間側の戦士であったアツシ。異界の者に連れ去られ、改造された後は彼等の「塔」を守る門番となってしまった。人間側が攻めあぐねている理由の一つだ。

『観察者の話しでは……頭爆発したらしい』

「え?どういうこと」

『侍のような女に頭を吹っ飛ばされて……死んだ』

「そんな……シズカなの?」

 侍のような女。さっき見かけたばかりだ。

 それに、「観察者」が彼女を忘れるはずもない。

 山田のためにあえて伏せているだけだろう。

 

 いつだって理解不能なことは彼女から始まるのだ。

 山田の愛おしい黒猫から。

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