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第50話 May be Dream

 数日前のことだ。

 いつものように僕の洞窟の入り口で、ミツルさんと僕は朝食をとっていた。

 何だかミツルさんの様子がおかしかったので、何かあったのかと聞いてみた。

 心配事はシズカさんのことだった。


「シズカちゃんは強い。……美人だし、とても賢いし……。おとぼけなのも可愛いし、実はね、お化けが怖いの。そんな所も可愛いでしょう?」

「ミツルさん、ズレはじめてる」

「あ、ごめん。でね、シズカちゃんは強いけど、心は普通の女の子なの。こんな、戦いの日々を一人で過ごすなんて、無理なのよ」

「イヤ、結構鋼のメンタルですよ」

「自分に緊張を強いているの、戦い続ける事で」

「ああ、だから……」 

「でも緊張が切れてしまったら、もう戻ることはきっとできない」


 ミツルさんがそう言うから、一人で戦えなくなる時が来るのなら、仲間を増やせばいいと思ったのだ。

 丁度ダーツが割とまともなのに当たったので紹介を兼ねて付いていったのだけど、逆に自分の無力さを思い知った。

 自分はシズカと肩を並べて戦えるようなレベルではなかったのだ。

 それでちょっと拗ねてたら、ミツルさんがお別れに来るし、一体どうなっているのだろうか。

 

 そして今日、お隣の洞窟をのぞき込んだらもぬけの殻だった。つまり普通の奥行きのない単なる穴に戻っていた。

 何か変な予感がしてシズカの家に飛び込むと、意味不明なことを叫んでいる全裸のシズカに出会ったのだ。


「ある意味、限界が来ているのは確かなようだね」


 私は彼女の感情を見る。驚きと羞恥と未練、そして私?どういうことだ。


「シズカさん、何言ってんのか分かんない。日本語で話してよ」

『にゃ?』

「あ、それは分かる」


 やっぱりシズカはニャーニャー言ってるほうがいいよ。

  

「ホントだ、ケンタウリ標準語だった。なんで?暗示が解けるなんて……」

「悩む前に、まずはパンツはこうか」


 外から丸見えだし。


 シズカの後を付いて廊下を走るスコップ。

 次々に新エリアが解放されていくのだが、何でかこの家、見た目より広い気がする。


 たどり着いた部屋の真ん中には人が一人寝てはいることができるカプセルが置いてあったが、誰も使っていないようだった。


「お姉ちゃん、溶けちゃった……?」

「今まで、そういう事故は?」

「……ない」


 そんなのホラー過ぎる。

 カバーは開いていて、シズカが言うには治療中は中は液体で満たされるのだという。


「ミツルさんが来てたのには間違いない?」

「うん。声も聞いたから間違いない」

「治療が終わって帰った、ということだろうね。普通に考えたら」

「でもあんな傷、一晩で治らないよ……。あ、そう!血だ。お姉ちゃん血まみれで、なんか失敗したって……」

「廊下には血なんて残ってなかったよ」

「超回復も使ったのかな?それなら可能性がある」

「とりあえず生きてるのかどうかが気になる。あの洞窟、引っ越しだけじゃなくって、住人が死んでも元に戻るんだ……」


 シズカが息を飲むのが聞こえる。

 そして深呼吸を一つ。


「ご飯にしようか」


 いつもと変わらない様子で、いつの間にか手に持っていたエプロンを締めた。


「シズカ、こんな時に」

「お姉ちゃんの事は心配だけど、今はどうしようもない。何か事件に巻き込まれているんだとは思うけど、だったら尚更私は必要なときに戦えるようにしておかなくてはならないの。スコップも食べてくでしょ?ひやむぎ」

「君が構わないなら」

 

 シズカが麺を茹でている間、スコップはカプセルを調べさせて貰うことにした。


「だいぶ無理してるな、シズカさん」


 さっきは時空監察官らしい啖呵を切ったシズカだったが、握りしめた拳が震えていたのをスコップは見逃さなかった。心の中を見るまでもなく、焦るシズカの気持ちに気付いてしまう。


「とはいえ、超進化文明が関わるトラブルに、僕なんかが役に立てるものかな?」


 とはいえ、気持ちが焦るのはスコップも同じだ。何か手掛かりになるような物は見つけたい。

 カプセルの中を覗き込むと、隅に小型のスマートフォンのような物が引っかかって残っているのを見つけた。


「あ、これって」


 この間シズカが一瞬で着替えたときの道具に似ているとスコップは気付いた。

 落としていったんだろうか?いや、これは置いていったんだと直感する。


「シズカさん!カプセルの中に……」


 麺を茹でるにしては必要以上に真剣な顔のシズカに、スマートフォンみたいな物を見せる。


「これは、ミャウドライバー……」

「この間君も使ってた?」

「そう、これを使って戦士に変身するのよ。そういえばお姉ちゃん、変身スーツみたいなの着てたな、私の知らないタイプ。監査官のスーツなんだろうか?お姉ちゃん、落としていっちゃったのね」


 鍋の火を消して、大きなザルに麺をとると、準備していた氷水で一気に締める。


「ホントお姉ちゃんって……ドジっ娘可愛いなぁ」

「いや、それは落としたんじゃないよ置いていったんだよ!」

「どうして分かるのよ?」


 天空ザル落としで水気をよく切り、器に盛りつけていく。


「そのミャウドライバーから、ミツルさんの香りがしたんだ。液体に浸かって消えていない、新鮮なミツルさんの香りがね!」


 ドン引きシズカ。思わず手を止める。

 スコップはかつて無い屈辱を感じる。


「スコップ、あんた……」

「し、仕方ないだろ!……ミツルさんいい匂いするし」

「それは否定せん」

「ともかく、ミツルさんからのメッセージ的な何かだよ、きっと」

「メッセージ……そっか、メモが残ってるかもしれないね。でもせっかくなんで食べてからにしよう」

「なんか多くない?」

「つい癖で。あの子達の分も作っちゃった」

「……そうだね。学校始まったら、ずいぶん寂しくなったね。ま、僕はたまに来てあげるけど」

「やめてよ、また泣きそうになるじゃない」


 ズルズルと冷や麦をすする音が、しんみりとした居間に響いた。

 

 シズカはミャウドライバーを操作して、新規のメッセージを発見した。


「今日の、朝10時?そんなに前じゃない」


 すでに昼過ぎ。シズカはいい夢を見てだらしなく眠っていたのだ。たぶんあられもない姿をミツルさんに見られてる。


「私へのメッセージみたいね。読むよ。


『シズカちゃん、最初に言っておくけどお姉ちゃんはあなたを捕まえに来たのではありません。実は、「組織」の存在が確定してね。あなたより先に壊滅させるように指示がでたの。お姉ちゃんとしてはシズカちゃんが傷つくところは見たくないし、優しいあなたにこれ以上戦ってほしくもなかったから、志願したの。終わったら姿を見せようと思ってたのだけど。結局は失敗しちゃった。怪我してるところ見せちゃってゴメンね?怖かったでしょう?私は「組織」を追います。このミャウドライバーは後で壊しておいて下さい。シズカちゃんと連絡を取るのは禁止されているから、戦いで壊れたとでも報告しておきます。あ、装備はほかにも色々あるから心配しないで!グレートニャンバスターも持ってきてるから!じゃあ、すべて終わらせて、向こうで会える日を楽しみにしています。愛する妹へ、ミツルより』」

「さすが、ミツルさんのマネ上手いね」


 ミツルの謎行動の理由は分かった。

 そしてシズカの目的も実在した。

 どちらも無視しておくことはできない。


「スコップ、私……」

「追いかけたいんだろ?」

「うん、今行かなきゃ、お姉ちゃん帰ってこない気がする。それに、ニャンバスターは独りでは戦えない。二人で心を合わせて炎になるからこそ最強なの」

「でもグレートだよ?」

「そうなのよね~イマイチその辺り詳しくないのよ」

「馬鹿話はこれくらい……行ってきな。そして早く帰ってきてよ。おっと……」


 シズカがスコップを抱き締める。たぶんすぐには帰ってこれない。もしかしたら二度と会えなくなるかも知れないのだ。


「うん……そういや、スコップをギュッてするの初めてかも」

 夢ではお楽しみだったようですけどね!


 シズカの準備は驚くほど簡単だった。

 普段のお出かけ着に着替え、腰のベルトにミャウドライバーを二本差す。小さめのランドセルを背負うと完成だ。

 家の鍵をスコップに託す。また帰ってくる、おまじないだ。


「行ってくる」

「うん、気をつけて」

「山田には……」

「ちゃんと説明するよ。できれば夜にでも連絡してあげてほしい」

「そうだね……」

「ねえスコップ?最期にチュー、しとく?」

「バカ猫!さっさと行け!」


 しんみりしたお別れが嫌だった、シズカの冗談なのだろう。シズカは軽く手を振ると、振り返らず街を出て行った。

第一部完です。

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