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第46話 カブトムシ

「こちら、第一〇二号窟の住人で総司(ソウジ)さんです」

「おお……」


 シズカさんの目の前には一匹の美しい雄のカブトムシがいた、ちょっと大きい。全長2メートルくらい。


「はじめまして、私はシズカです……言葉通じてるんだよね?」

「言葉は通じていないね」


 総司さんはキチキチと音を立てるのみ。


「じゃあスコップには総司さんの言ってること分かるの?」

「んー、厳密に言うと違うんだけど、僕は総司さんが何を言っているかは分かる」

「翻訳機みたいな?」

「ふふふ。先ずはお土産でも渡してみたら?」

「何だよぅ教えてくれたって良いじゃんかよぅ。……総司さん、これお土産だよ。分かるかなぁ?これから仲良くしましょうよって、贈り物」


 総司さんはキチキチと音を立てるのみ。


「ね、分かっただろ?」

「何が?」

「音が違っただろ?挨拶の時とお土産の時」

「え?」


 シズカは脳波コントロールのコンピューターを呼び出し、過去一時間以内の記録データを再生、分析。この間ほんの数秒。


「確かに二つの音には明確な違いがあったよ」


 音のピークの形、間隔、音程……


「シズカさん……君はやっぱり人間じゃないだろう?焚きつけてはみたけど、そんな分析は機械でしかできないよ?しかも簡単なことでもない」

「……任務のために多少の機械化(インプラント)はね。業界ではみんなやってる範疇」

「あ、ごめん冗談のつもりだった」


 別にサイボーグということではない。

 脳にマイクロチップ、体液にはナノマシン。手の甲には普段は見えないがインターフェース用デバイスが形成されており、対応機器の操作に使用できる……。

 その程度の付け足しだ。

 恐ろしいのはシズカさんの持つ身体と頭脳の優秀さはほとんど自前というところだ。ナチュラル人外。


「なる程ね。言語のように複雑ではないものの、コミュニケーションは可能ということね」

「そういうこと。でも、総司さんだけだよ、ここまでできるカブトムシは」


 でしょうね。


「今のは感情音で、一番簡単な組合せ。歓迎と感謝だね」

「あ、どうも」


 総司さんはお土産の包装を器用に開封して、和三盆を一つシズカに渡す。


「食べちゃってもいいの?」


 キチキチ。


「これが肯定ね、ん!甘い……」


 キチキチ。


「ほんとに。え?また持ってきますから、置いておかないで食べちゃって下さいよ」


 キチキチ。


「贅沢に慣れると怖いのは分かりますけど~」


 キチキチ。


「ちょっと!どうして会話が成立してるのさ?」

「解析した」

「そんなバカな……僕らでも手探りでやってきて何とか会話ができるまで十年だよ!」

「そっちの方がすごいんだけど」

「……シリウスの理力が、猫達の物質科学に負けるというの?」


 スコップはその場に崩れ落ちる。生膝に土が付いた。余程悔しかったのか、大粒の涙が地面に落ちる。


「ほら、泣かない。私たち元々計算特化だし、千年後の科学力の力業だし、ね」


 キチキチ。


「慰めはいらないよ!」


 スコップは走り去ってしまった。


「何よ、あんなに怒らなくてもいいのに」


 プリプリ怒るシズカに総司さんは話した。

 スコップと出会った日のことを。お互いを理解しようと勤めた日々。相手のことが分からずに噛みついたあの日。意気投合。つまらないことで喧嘩もした。卵を産んで欲しいとお願いしたらしばらく避けられた事。そしてかけがえのない親友へ。


「全体的に良いお話なんだろうけど、何でかな?引っかかるところがあるの」


 キチキチ


「え?スコップが私のことをそんな風に……」


 キチキチ


「分かったよ総司さん。ちょっとスコップと話してくる。……ことによったら、処す!」


 キチキチ


 走り去るシズカ。感慨深く頷く仕草の巨大カブトムシ。

 価値観が異なる異種族同士。友情は確かに成立している。

 だけど分かり合えているかは、……かなり微妙だ。

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