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道中にて

 歩いている間、俺は彼女の横顔を盗み見ることができた。完璧に整った鼻筋、長いまつ毛に縁取られた美しい瞳、そして何より印象的だったのは、歩くたびに揺れる豊満な胸部だった。制服のブラウスは彼女の胸の動きに合わせて微妙に形を変え、その度に胸の谷間の深さがより一層強調された。


 中本ラーメンの店が見えてきたところで、俺は責任感から重要な警告をすることにした。



「あっ、でも、ここのラーメンはものによってはかなり辛いですよ。辛いの大丈夫ですか?」



 俺は心配そうな表情で彼女を見上げた。彼女の美しい顔が苦痛に歪むところなど、絶対に見たくなかった。


 しかし、セリュフィアの反応は俺の予想を完全に裏切るものだった。



「私はここの人たちの1.5倍は味覚センサーが発達しているの。どんな味も大丈夫よ!!」



 彼女の自信に満ちた宣言に、俺は唖然とした。味覚センサー?なんだか機械のような表現だったが、おそらく味覚が敏感だということを言いたいのだろう。しかし、それなら逆に問題なのではないだろうか。



「いや、味覚が鋭いほうが問題な気がしますけど」



 俺は困惑しながら指摘した。辛いものが苦手な人ほど、その辛さを敏感に感じ取ってしまうはずだ。味覚が発達しているなら、中本ラーメンの激辛さはより一層強烈に感じられるのではないだろうか。



「?」



 セリュフィアは小首をかしげた。その仕草がまた美しく、銀髪が肩の上で揺れる様子と、首をかしげることで微妙に角度が変わった胸元の見え方に、俺は完全に目を奪われた。



「つまり、味覚が鋭いってことは、辛さもより強く感じるってことですから」



 俺は慌てて説明した。



「あ、なるほど!」



 セリュフィアは手を叩いて納得した。その動作で胸が上下に大きく弾み、制服のボタンがギリギリの状態になった。俺は思わず「大丈夫か、そのボタン」と心の中で呟いた。



「でも大丈夫よ。私の身体は地球の食べ物程度では問題ないから」



 彼女は再び自信満々に答えた。しかし、その言葉の「地球の食べ物程度では」という部分が気になった。まるで地球以外の場所から来たような口ぶりだった。


 そんな彼女の不思議な発言を聞き流しながら、俺たちは中本ラーメン大宮店の建物に到着した。平日の昼間とは違い、日曜日の午後二時頃という微妙な時間帯のおかげで、いつもの長蛇の列は見当たらなかった。



「おお、今日はラッキーだ」



 俺は安堵の息を漏らした。普段なら30分は待たされる覚悟が必要だったが、今日は運が良い。セリュフィアを長時間待たせなくて済む。


 店の外観は相変わらず威圧感があった。真っ赤な看板に白い文字で「蒙古タンメン中本」と書かれており、まるで激辛ラーメンの聖地を宣言しているかのようだった。建物の二階部分に店舗があり、狭い階段を上がる必要がある。



「二階ですね」



 俺はセリュフィアに振り返った。彼女は建物を見上げており、その美しい横顔が初夏の日差しに照らされて神々しく輝いていた。見上げる角度によって、制服のブラウスがより一層胸の膨らみを強調し、その圧倒的なボリュームが俺の視界に入ってくる。彼女の胸は重力に逆らうように高い位置を保っており、歩くたびに微妙に揺れる様子が妙にエロティックだった。



「狭い階段ですが、大丈夫ですか?」



 俺は階段を指差しながら尋ねた。中本の階段は確かに狭く、しかもセリュフィアのような長身で豊満な体型の女性には少し窮屈かもしれない。



「全然平気よ」



 セリュフィアは微笑みながら答えた。彼女の笑顔は相変わらず天使のように美しく、俺の心臓の鼓動を再び加速させた。


 俺たちは階段を上がり始めた。セリュフィアは俺の後ろを歩いており、時折彼女の足音が聞こえてくる。階段の途中で振り返ると、彼女の胸元が俺の視線の高さにちょうど来てしまい、慌てて前を向き直した。制服のブラウスは歩く振動によってより一層張りつめており、ボタンの間隔が微妙に広がっているのが見えた。


 二階の店内に入ると、中本特有の激辛の香りが俺たちを迎えた。唐辛子と味噌、そしてニンニクが混じり合った、まさに激辛ラーメンの聖地にふさわしい香りだった。店内は赤を基調とした内装で、壁には激辛メニューの写真やポスターが所狭しと貼られている。



「うわぁ...」



 セリュフィアは店内を見回しながら感嘆の声を上げた。彼女の瞳がキラキラと輝いており、まるで博物館で貴重な展示品を発見した研究者のような表情だった。


「すごい空間ね。これが日本の食文化なのね」



 彼女の言葉は研究者らしく、まるで文化人類学者が現地調査をしているかのような口調だった。


 券売機の前に立つと、俺は慣れた様子でメニューを眺めた。一方、セリュフィアは券売機を不思議そうに見つめている。



「これは自動販売機の一種?」



「そうです。食券を買って、それを店員さんに渡すシステムですね」



 俺は説明しながら、自分の選択を決めた。



「俺は五目蒙古タンメンにしよ」



 俺は慣れた手つきで券売機のボタンを押した。五目蒙古タンメンは中本の看板メニューの一つで、辛さレベル7の本格的な激辛ラーメンだ。野菜と肉がたっぷり入っており、栄養バランスも良い。


 ボタンを押した瞬間、セリュフィアが突然手をポケットに入れ始めた。そして、困惑した表情を浮かべた。



「あ...」



 彼女の美しい顔に焦りの色が浮かんだ。その表情でさえも美しく、困ったような眉をひそめる仕草が可愛らしかった。しかし、胸元は相変わらず圧迫されており、焦りで呼吸が少し速くなったことで、ブラウスの生地がより一層引っ張られている。



「降りてから色々準備しようと思っていたの」



 セリュフィアは申し訳なさそうに呟いた。おそらく外貨の換金を忘れたか、現金が足りないということだろう。



「今回は俺が奢りますよ」



 俺は迷わず申し出た。こんな美人と一緒に食事ができる機会なんて、人生で二度とないかもしれない。それに、困っている人を助けるのは当然だ。



「えっ!」



「せっかくの日本楽しんでもらいたいので」



 俺は照れながら続けた。外国人らしい彼女に、日本の食文化を楽しんでもらいたいという気持ちは本当だった。それに、こんな美人に良いところを見せたいという下心もあったことは否定できない。



「ありがとう。絶対にお礼をお返しするわ」


 セリュフィアは深く頭を下げた。


「なに頼みます?」



「せっかくなら、同じのにしたいわ」



 セリュフィアは興味深そうに答えた。研究者らしく、現地の人と同じ体験をしたいという学術的好奇心が感じられた。



「五目蒙古タンメンですか!これ辛さレベルが九段階中七でかなり辛いですよ。俺は激辛好きなのでこれにしますけど、初めてなら辛さレベルが三の味噌タンメンがいいと思いますよ」



 俺は責任を感じて警告した。中本の五目蒙古タンメンは本当に辛い。激辛に慣れていない人が食べると、汗だくになって苦痛に悶えることになる。セリュフィアのような美人がそんな状態になるのは見ていられない。



「ふふん、辛さなんて私に効かないわ。私は食文化の研究に来たの。現地民と同じものを食べることが重要なのよ」



「現地民って...」



 俺は苦笑いを浮かべながら呟いた。セリュフィアの言葉遣いはどこか学術的で、まるで文化人類学者が未開の地を調査しているかのような響きがある。



「じゃあ、五目蒙古タンメン二つで」



 俺は券売機にお金を投入し、ボタンを押した。カチャンという機械音とともに食券が二枚出てくる。その瞬間、セリュフィアが俺の腕に軽く触れた。



「ありがとう、勇斗」



「質問かもしれませんけど」



 俺は食券を握りながら、勇気を振り絞って尋ねた。



「セリュフィアさんって、どちらのご出身なんですか?」



「出身?」



 セリュフィアは小首をかしげた。



「第七銀河管区の...いえ、北欧よ」



「北欧?」俺は驚いた。確かに彼女の銀髪と青い瞳、そして高い身長は北欧系の特徴に合致している。しかし、さっき「第七銀河管区」って言いかけなかったか?それに銀髪って北欧でも珍しい気がするけどどうなんだろ?



「そう、北欧。でも小さい頃から色々な場所を転々としていたの。だから日本語も話せるのよ」



 セリュフィアは微笑みながら答えた。しかし、その微笑みの奥に何かを隠しているような雰囲気を感じた。


 俺たちは空いているテーブル席に案内された。中本の店内は相変わらず活気に満ちており、他のお客さんたちが激辛ラーメンと格闘している音が聞こえてくる。時折聞こえる「うわっ、辛い!」という悲鳴や、汗をかきながらも必死にすすり続ける音が、この店の特殊な雰囲気を作り出していた。


「この空間の温度は摂氏約26度、湿度は55パーセント。唐辛子由来のカプサイシン濃度は...」



 セリュフィアは店内を見回しながら、まるで測定器のように正確な数値を口にした。



「え?」俺は困惑した。「そんなの分かるんですか?」



「あ...」セリュフィアは慌てたような表情を浮かべた。「料理研究をしているから、環境の数値を測る習慣があるの。職業病ね」



 その時、店員さんが俺たちのテーブルにやって来た。

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