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 佐伯が待ち合わせ場所に指定したのは、オレにとっても、モンチにとっても懐かしい場所であり、映写係のバイトをしていた駅前キネマ館の道向かいにある、あの公園だった。


 どうして佐伯がこの場所を指定してきたのか判らなかったが、少しだけ不気味に思えた。


 途中、車でモンチを拾ってから、待ち合わせの時間より少し前に公園に到着した。


 その変貌ぶりにオレは繁々と辺りを見回した。


 この界隈を訪れたのはそれこそ十年振りだった。すぐ側にある国道は毎週のように通っていたが、一本脇にあるこの近辺に立ち寄る用事がなかったというのもある。


 昼間でも薄暗く感じる程陰気臭かった街は、いつの間にか整然とした住宅街に変わっていた。


 薄汚れた雑居ビルは真新しいマンションに姿を変え、また駅前キネマ館も既に無くなっていた。その場所には小さなビルが建ち、その一階には小洒落たイタリア料理店が入っている。


 表に『PROIEZIONISTA』 プロイエツイオネスタ?? という看板があり、手持ち無沙汰にスマホで調べてみると、イタリア語で『映写技師』という意味らしい。


 昔この場所に映画館があったことを偲んで名づけられたものか、或いは駅前キネマ館と経営者が同じなのかもしれない。


 公園もまた綺麗に整備されて、あれだけあった段ボールハウスやブルーシートの小屋は跡形もなく消え、昔はなかったカラフルな遊具がたち並んでいた。モンチのことを気に入っていた公園の住人たちの姿は勿論なく、代わりにその遊具で遊ぶ子供たちで賑わっている。


 そして間もなくして、佐伯が乗るローバーミニが公園に横付けされた。


 車から降りた佐伯は、先にオレたちがいることに恐縮するでもなく、辺りを見渡しながら、ゆっくりとこちらへ向かって歩いて来た。


 「懐かしいですか?」


 佐伯は挨拶もなく言った。


 だからオレも「はい」とだけ応えた。


 また佐伯も懐かしそうに辺りを眺め、先程オレが感じたことと同じような感想をボツボツと述べていたが、モンチがそれを遮った。


 「それで、お話とは何でしょうか? その前に少し寒いですし、どこかお店にでも入りましょう」


 モンチは、無表情であり、これまで聞いたこともない凍えるような冷たい声色だった。


 「出来れば、ここで、このままお話したいんですが、宜しいですか?」


 佐伯はモンチではなく、オレに同意を求めたので、チラリとモンチの方へ目線を送ってから頷いた。


 佐伯が側にあったベンチに座ったので、オレはその横にある別のベンチに腰掛けた。予想以上の冷たさに身震いしていると、モンチがオレに寄り添うようにすぐ隣に座った。以前なら気まずかったかもしれないが、もうここに至っては、今更である。


 「まず、お二人には謝らなければなりません。本当に卑劣なことをしたと思っています。申し訳ありませんでした」


 オレもモンチも黙って佐伯を見ていた。意味が掴めなかったからである。


 「実は、サヤさんと会うずっと前から、ボクはタケさんのことを知っていました」


 「えっ? 何ですか? それ?」


 反応したのはモンチだった。


 オレは黙って佐伯を見ていた。ただ自分のことを『ボク』と言ったのが妙に気になった。これまでは『私』と言っていたはずである。


 「タケさんは、ボクのことを憶えていないのですよね?」


 オレは思い出す努力もせずに、ただ頷いた。


 「では、最初からお話しますね」


 佐伯は覚悟を決めたかのように表情を固めた。


 何となく怖かった。横に座っているモンチも同じらしく、怯えたようにオレのコートの裾をギュッと掴んだ。


 「サヤさんと初めて会ったのは、ついこの頃のことではありません。会ったというには、少し語弊があるかもしれませんが、実は、ずっと以前に、この辺りをタケさんと一緒に歩いているのをよく見かけていました」


 「私が予備校に通っていた頃のことですか?」


 「そうです。だから十年近くが経って、サヤさんとお会いした時は本当に驚きました。あれはサヤさんの会社が主催するブライダルフェアの会場設営の時でしたね」


 モンチは頷く。


 「最初に声を掛けた時はたんに懐かしい気持ちだけでした。それからボクが誘って食事に行くようになり、仲が深まっていくにつれて、ボクはサヤさんのことを本当に好きになっていました。だから結婚を前提としたお付き合いを申し込んだのです」


 この時、モンチがどんな顔をしていたかは判らない。ただオレの肘を握る手が少し弛んだような気がした。


評価、ブクマして頂ければ、有り難く思います。

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