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 後日、モンチから聞いた話によると、老映写技師――佐々木昇の戸籍は、隊長――つまり映画館運営会社の元会長の尽力もあって、随分前に回復していたとのことである。


 ならば、モンチのおばあさんやお母さんの元へさっさと帰れば良さそうなものだが、老映写技師は頑なに拒んだのだそうだ。


 ―今更、どんな顔して――


 あの老映写技師なら言いそうなことである。そこまで人間性を知っているわけでもないので、まあ、何となくだ。


 葬儀の方は映画館が取り仕切ってくれたが、おばあさんが願い出て喪主を務めたそうである。遺骨もモンチの家で引き取ったとのことだ。


 今は、その翌年に亡くなったおばあさんと同じ墓に入っているらしい。そしておばあさんたっての希望もあって、おばあさんの名は佐々木の姓にして、墓石に刻まれたとのことだった。


 思うことはいろいろあったが、オレは敢えて何も言わなかった。言葉にしてしまうと、添え物のような安っぽいものになってしまいそうだったからである。






 そして十二月に入り、季節はすっかり冬になっていた。もうすぐクリスマスということもあって花屋は忙しく、一連の事などスッカリ忘れて仕事に勤しんでいた頃に電話が鳴った。


 モンチからである。


 「どうだ? すこしは元気になったか?」


 「うん。私は元気だけど……」


 モンチは困ったように語尾を濁しつつも続けた。


 「あのね、元婚約者の佐伯さんね。――話したいことがあるから会えないか?――って言ってきてるの」


 「ふ~ん。今更、何の話があるんだろうね。まあ、会うだけ、会ってやればいいじゃないの。悪い人ってわけでもないし」


 「ん~。それがね~、タケちゃんも一緒に来て欲しいんだって……」


 「はぁ? なんでオレが? 関係ないだろ」


 なぜ佐伯がオレを巻き込みたがるのか判らないが、この慌ただしい年末にこれ以上は付き合いきれなかった。


 「だけどさぁ~」


 モンチらしくなく歯切れが悪い。以前オレを騙して佐伯に会わせたことで、頼み辛くなっているのだろう。


 「モンチだけで会えばいいじゃない。オレは断る。佐伯さんにはそう伝えといてよ! じゃーな」


 オレはそのまま電話を切った。


 すると、その数分後に、今度は佐伯から直接電話が掛ってきた。


 「突然のお電話、大変失礼します。どうしてもお話しておきたいことがあるんです。一度だけ、会っていただけませんか?」


 佐伯は神妙だった。


 「お話なら、今、電話で話して頂ければと……」


 モンチとの結婚が破談がなった今、オレと佐伯には何の関係もない。また結婚式も取りやめになったのだから、客ですらないのだ。


 「サヤさんのことも含めて、タケさんにもきちんと謝りたいのです」


 まあ、あれだけ散々式場視察に付き合わせておいて、結婚式をしなかったのだから、謝罪は然るべきなのだろうが、今更改めてそれを言われたところで、何になるのだろう。


 「別に、オレに謝ることなんて……」


 「あるんです!」


 物腰の柔らかい佐伯にしては強い口調だった。


 佐伯の自殺を知らされた時、当然、哀悼の気持ちはあったが、それ以上に後ろめたくもあった。


 もちろん天地神明に誓ってモンチとは疚しい関係ではなかったが、オレとモンチは、男とか女はなく、やはり特別な繋がりがあった。


 長年の癖もあって、自然と距離も近くなってしまう。そういうことが、知らず知らずのうちに佐伯を傷つけてしまっていたのではないかと……。


 だからオレは、モンチの結婚が決まったのを機に、その関係を絶つつもりでいた。


 ただ、そうさせなかったのは佐伯だった。会いたいと言ったのも、その後オレとの交友を望んだのも佐伯だった。


 春先に知り合ってからは、モンチよりも佐伯といる時間の方が長かった。もちろん車や音楽の話をするのは楽くなかったわけではないが、モンチの元カレとその婚約者という関係が関係なだけに、違和感は拭えなかった。


 佐伯は何を考えていたのか? 疑ってないと言いつつ、オレを監視してたのか? ――他に好きな人が出来た――という話も、何だか嘘っぽい気がしていた。結局、最後の最後までその魂胆は判らなかった。


 「いつ? どこに行けば、宜しいですか?」


 ならば最後に会って、この悶々とした気持ちをはっきりさせてしまうのも良いのかもしれない。


 「ご都合が合えば、いつでも」


 「今日の午後でも構いませんか?」


 「はい、お願いします」


 そしてその日の夕方、モンチと待ち合わせて、佐伯と会うことになった。

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