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 それからカウンターに奥方が立つようになると、それまでコーヒーと軽食だけだったメニューにマキアート的なお洒落な飲み物が追加された。また元々『飲食店営業許可』を取得していたのもあって、それまで酒類と言えばビールしかなかったところにワインやカクテルなども加わった。


 そんなこともあって、『喫茶』では納まりがつかず、ついには『カフェ』と名を変えたわけだった。もちろん看板も作り直され、そこだけが妙に真新しく浮いていた。


 さらに開店当初から天井にあったというアンティークなシーリングファンライトやカウンター席にぶら下がっていたステンドグラスが施された傘型電灯が、奥方の目指すところの――カフェ――のイメージと合わないらしく、店中すべての照明が一新された。


 代わりに、思わず人類滅亡を危惧してしまいたくなる巨大宇宙船に似た楕円形のLEDライトが店全体を征服したと言わんばかりに明るく照らすようになった。


 またカウンターにはその巨大宇宙船の手先であるかのようなキノコなのか? クラゲなのか? よく判らない淡い紫色の光を発する電灯が浮くようになった。


 そして花屋としては、とても残念なのが、何十年という長き年月をこの店で過ごしたであろうゴムの木やベンジャミンなどの大型観葉植物が撤去されてしまったことだ。


 ここまで来ると、マスターの父親が築いた古き良き純喫茶の雰囲気は全く無くなり、さすがのマスターも「ここはNASAか?」と一言申したそうだが、「まあ、あなたってば、おもしろい」と返されてしまったそうである。しかもマスターは、その話をする時、なぜか嬉しそうに照れていた。


 マスターの幸せそうな顔を見たオレは――結婚とはかくも恐ろしきものか――と慄いたものである。先代も草葉の陰で泣いていることだろう。もちろん先代とは話したことも、会ったこともないのだけれど……。


 その後も奥方の蛮行は留まることを知らず、独身の頃に旅先で買ったという思い出の品を店のあちこちに置くようになった。


 金閣寺の模型、招き猫、素焼きのシーサー、エジプトのバステト女神の化身だという黒猫、バリのガルーダとバリネコ、グアムのボジョボー、土台にハワイと銘打ってある怖い顔の人形やフラガールなどなどの、例えようのない雑然とした違和感が散らばった。


 ここへ来る度にオレはその変化に驚き、「何だ、コレ?」「あれはどこいったの?」といちいち反応してしまうので、――得たりやおう――とばかりに、おしゃべりなマスターを喜ばせてしまっているが、モンチは以前と何も変わらぬといった様子で、いつも自分が座っているボックス席に収まっていくのだった。


 ならば、オレが教えてやれば良さそうなものだが、今さら、何をどこから説明すれば良いか判らなかった。一応、『カフェ・やぶさかでない』と店名だけはワザとらしく何度か言ってみたが、それに気づいているのか、いないのか、よく判らない。


 何度も繰り返されてきたマスターのアピールも、ここまであからさまな店の変化にも、まったく気づかないのだから、それは気づくつもりがないのだと、オレは思っている。


 そもそもモンチは決して鈍感なわけではない。興味があることには、敏感過ぎるぐらいに感度が良い。


 つまりモンチにとって喫茶店の名前や内装、或いはマスターのアピールになど、気づく必要がない、どうでもよいことなのである。つまるところ、関心がないのだ。


 それでもこの喫茶店は、モンチが仕事から解放されたい時には必ず立ち寄る大切な場所だった。

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