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 「無理だよ。それに結婚はもう決まったことなんだろ。今更、相手を試すような真似をして、何の意味があるんだ?」


 「それでも、お願いしたいのよ」


 「もちろん出来る事なら何でも協力するよ。でも、そういう事は、オレじゃなくて、女友達に頼んだ方が良いと思うよ」


 女性に囲まれて品定めされる男を想像すると、少し笑える。オレがその立場だったなら、意識を飛ばしてしまいそうだ。


 「……」


 モンチは下を向いて黙ってしまった。


 これが普通の女性なら、オレは駆け引きだと思っただろう。都合が悪くなった時、また怒りを表現する時、沈黙で攻撃するのは女性の常套手段である。


 けれどモンチは、そんなことをするヤツではない。ど真ん中に直球しか投げない女だった。おそらく考えているのだ。眉間に皺を寄せ、オレを説得する為に言うべき必殺の台詞を必死に探しているのだろう。一つのことに集中すると、他を忘れてしまう。


 「もしもーし」


 「……」


 モンチは黙り続ける。


 まさか、まさかではあるが、もしかすると、知らないうちにモンチを傷つけてしまった可能性を模索した。


 が、すぐにその考えを打ち消した。


 以前、オレの恋人がモンチに暴言を吐いた時のことである。オレは後日「悪かったな」と頭を下げたが、モンチは「はっ? なにが?」と首を傾げるだけで、その事を殆ど何も憶えていなかった。彼女はどうでもよい相手から、何を言われても、まるで蚊に刺された程度のことのようにあしらい、いちいち傷ついたりはしない。


 「聞こえていますかぁ~?」


 「……」


 モンチの無言は続く。


 いや、待てよと、オレは己を省みた。


 果たしてモンチにとって、オレは――どうでも良い相手――なのだろうか。そしてモンチに――婚約者のその人となりを見て欲しい――などと頼める友達がオレ以外にいただろうか。


 思い返すと、元恋人としての形に執着したのはオレだった。未完成だと言ってはモンチを連れ回し、非難されれば、ああだこうだ言って、会ったり、会わなくなったり、また会ってみたり。昨今の希釈な付き合いにしても、オレが提案したことである。


 彼女はただそれに協力してくれていただけなのだ。


 そして、いつもオレは――自由奔放な彼女に振り回されている――かのような顔をしていた。そもそもの原因はオレの妙なこだわりにあった。


 実際、彼女は素直だった。オレが言うことにいちいち反論することなく、「ああ、そうなんだ」と付き合ってくれた。


 誤解がないようにしておきたいのが、モンチは、サバサバしているからといって、他者に言いたいことをズケズケ言ったりはしない。むしろ他者の気持ちにきめ細やかで、決してガサツなわけでもない。


 オレが言うサバサバとは、世に跳梁跋扈する自サバ女たちのようなものではなく、もっと本質的なものであって、物事にこだわらないとか、言い方を変えると執着しないとか、そう言うことである。


 それは恋人だけでなく友達に対しても同じだった。執着しないのだ。だから、用が無ければ連絡も取らなくなり、次第に疎遠になっていく。そして、いざ、こんな時に頼れる友達がいない。


 そう、オレ以外は――


 「わかったよ。どうすればいいの?」


 モンチにとって、心を開くことが出来る唯一の友達はオレだけだった。それなのに無碍に断ろうとしたことを、オレは深く反省した。


 今更、誰かを傷つけたぐらい臆することなかったのだ。それより婚約者がどんな男なのか、モンチの幸せの為にも、きちんと見定めてやることが友達の務めではないか。そう然るべき判断をオレはした……つもりだった。


 ……その時は。


 「ホント? 助かるわ~。結局、面倒くさかっただけでしょ?」


 ようやくモンチは顔を上げた。落ち込んでいる風でも、不貞腐れた感じでもなかった。ついに導き出したクイズの正解を得意げに答えている。そんな顔だった。


 「じゃあ、また連絡するね」


 その途端に立ち上がったモンチは伝票を引っ掴んでレジへと向った。


 無論、オレは、後から酷く後悔した。

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