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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第9話 小瓶のメッセージ

 突然の独立宣言をしたモエは松の間を出る。


 そして、険しい顔つきで南風荘の玄関げんかんに向かっていく。


 そこに、へそ出し乙葉おとはがモエを追って来る。

「待って! モエちゃん!」


 モエはそれを無視して出口へ向かう。


 続いてグラマー野乃花ののか詩織しおりも追いかけてくる。

「ネ! モエちゃん」

「ど、どこに行くつもり?」


 モエが立ち止まる。

 そして「別な民宿に行くんや」と、振り返って皆に告げる。


 乙葉が「じゃあ、私も一緒に行く」と、目をうるませる。


 野乃花が「乙葉ちゃんが行くならアタシも連れてってヨ」と、訴える。


「わ、わたしも」と、詩織も一緒に行きたいと意思表示した。


 モエは乙葉、野乃花、詩織の顔を順番に見る。


 そして一瞬考えてから頷く。

「分かった。アンタ達は信用できる」


 乙葉と野乃花が安堵あんどの表情で顔を見合わせる。

 詩織もほっと胸をなでおろす。


 モエは腰に手をあてて言う。

「取りあえず今晩は他の民宿に避難する。明日は早く出るつもりや」


 心配性の詩織が尋ねる。

「あ、明日? で、出るって、どこに?」


「探索の続きや。もっと先に行ってみる」


 それを聞いて野乃花がる。

「エエ~! 危ないよゥ」


 ビビリの詩織は「そ、そ、そうよ。り、リスクが高すぎるよ」と、身震いする。


 しかし、モエは、それには応えずに真剣な表情で乙葉に向かって「スマホ」と、手を突き出した。


 乙葉は戸惑とまどいながらスマホを出してモエに渡す。


 モエは、スマホの画面を見せながら言う。

「さっき見せんでもええって言うた理由はな、この地図にバツ印がついとるからや」


 詩織と乙葉が首を傾げながら画面を覗き込む。

「ち、小さくて見えにくいけど……」

「だネ。拡大してみたら分かるカナ?」


 そこで乙葉が、はっとする。

「あ! もしかして!?」


 乙葉の反応を見ながらモエが黙って頷く。

 

 乙葉は画面を操作しながらモエに尋ねる。

「このバツがついてる場所、十字架があった場所だよね?」


「そういうことや。コレを見つけた場所と一致する」

 そう言ってモエは、手にした戦斧せんぷを眺めた。


 乙葉のスマホに収められた地図は決して精巧せいこうなものではない。

 見張り台の矢倉やぐらの壁に描かれたラフな図だ。


 詩織が口をはさむ。

「で、で、でも。この地図が、この場所のものとは限らないんじゃ……」


 グラマー野乃花も疑問を口にする。

「そもそも、ここって島なの?」


 モエは頷く。

「大体の位置は一致しとる。港、砂浜、神社、山、森、そんで矢倉のあった湿地帯」


 乙葉も同じ意見だ。

「他の子の情報と一致するわ。ここは島なんだと思う」


 島の輪郭りんかくはハゲタカの頭に似ている。

 ちょうどクチバシを開けたハゲタカを横から見た形だ。


 それでいうとクチバシの付け根にあたる部分が、この港町近辺と思われる。


 そして、今日モエ達が探索した湿地帯が下顎したあごの部分と考えられるのだ。


 ハゲタカの下顎から首に向かう途中で森のような書き込み描写があり、その中央にバツ印が記されている。

 おそらくそれがモエの戦斧のことを指しているのだろう。

 

 詩織が乙葉のスマホを覗き込みながら困惑する。

「て、て、てことは皆のお墓が、地図にのってるってこと?」


 乙葉は『神社』の地図記号にバツ印が書き込まれているのを見てうなる。


「うぅ……確かに。私のお墓は神社のところだった」


「せや。ということは、そこに武器があるってことや」


 モエの発見に詩織と野乃花が息を飲む。


 乙葉は能面のうめんのような顔つきで尋ねる。

「だから見せるなって言ったのね?」


「そういうことや。敵に武器を持たせるわけにはいかんやろ?」


 そう言ってモエは冷たい笑みを浮かべて戦斧を握りしめた。


    *    *    *


 モエ達が出て行ってしまった松の間では、残された面々が困惑していた。


 モエに投げ飛ばされたヘレンは、ふてくされている。

 その横で委員長の利恵りえが困った顔をしている。


 和佳子わかこは「なんなの? あの子達」と、ふくよかなホッペをふくらませる。


 ヘレンは苦笑いを浮かべながら「さあ?」と、お手上げのポーズをとる。


 愛衣めいが諦めたような口調で言う。

「好きにさせとけば? 疑心暗鬼ぎしんあんきになるのも無理ないわ。こういう状況だし」

 

 ツインテール桐子きりこが同意する。

「ボクもそう思う。その方が安全かもしれないしね」

 そう言って桐子は今朝の殺人事件を示唆しさするように天井を見上げた。


 そこで眼鏡の位置を整えながら利恵が慌てる。

「ちょっと待って! こういう場合は皆で一緒に居た方が……」

 

 ぽっちゃり和佳子はスナックを食べながら考え事をしている。


 イリアと智世ともよは相変わらず窓の外をぼんやり眺めている。


 そこで、お嬢様の玲実れみが「ホラね」と、口角を上げる。

 そして髪をき上げて宣言する。

「そういうことなら私達も好きにさせて貰うわ。泊まる場所も昼間、見つけたし。ね?」


 玲実は振り返って望海のぞみこずえに同意を求める。


 すると2人は異論なしといった風にあっさりと頷く。

 しかもそのタイミングは双子らしくシンクロしている。


 玲実は満足そうな顔つきで窓際の智世にも声を掛けた。

「もちろん、あなたもよね?」

 そう言って玲実は腕組みしながら智世を見る。


 玲実の視線に気付いた智世は泣きそうな顔で首を振る。


「ちょっと! なに逆らってんの?」と、玲実が威圧いあつするように窓際に近付こうとする。


 そこにイリアが割って入る。


「な、何よ……」と、玲実が少しひるむ。


 イリアは無言で玲実を睨む。


 玲実もそれに対抗しようとするが、イリアの冷たい目に怖気おじけづいたのか先に視線をらした。


「フン! 嫌ならいいわよ。せっかく仲間に入れてあげようと思ってたのに」

 玲実はそう言いながら智世に視線を送る。

 

 だが、智世は愛用のスケッチブックで顔を半分隠した。


 イリアが「仲間?」と、呆れたような笑みを浮かべた。

 そして玲実に尋ねる。

「こき使える人間が必要なだけでしょ?」


 それが図星ずぼしだったのか、玲実が顔色を変える。


 望海と梢の双子も玲実の後ろでバツが悪そうに顔をしかめる。


 玲実は何か言い返そうとしたが結局、プイと顔を背けて「行こ」と、双子に声を掛けた。


 そして「最悪!」という捨て台詞を残して部屋を出て行った。


 その結果、松の間に残されたのは委員長の利恵、ツインテール桐子、ぽっちゃり和佳子、姉御肌の愛衣、ヘレン、イリア、智世の7人となってしまった。


 急に静かになってしまったのもあるが、雰囲気は最悪といっていい。


 誰もがこの異常な状況に戸惑っていた。

 焦りや絶望、怒りもあるだろう。


 委員長タイプの利恵はモエや玲実達を止められなかったことに責任を感じて落ち込んでいる。


 桐子はしきりにツインテールの髪を触りながらアレコレと空想をふくらませているようだ。

 

 和佳子はストレスを解消するように、お菓子を黙々と口にする。


 ヘレンはイライラしながら時折、拳を畳に打ちつける。

 

 イリアはクールな表情で外の景色を眺めている。


 無口な智世はスケッチブックに描き込むことで不安をまぎらわせようとしているようだ。


 結局、その後の会話もなく、少女達は2日目の夜にして早くも3つのグループに分散してしまった。



    *   *   *


<3日目>

 

 3日目の朝、早起きしたイリアと智世は、黙々《もくもく》と海岸線に沿った一本道を歩いた。


 左手に海をのぞみながらイリアは早足はやあしで歩く。


 その数歩後をベレー帽の智世がチョコチョコとついていく。

 そして時々、距離を縮めようと小走りになる。


 特に会話するでもなく、どちらかというとイリアの散歩に智世が勝手に同行どうこうしているような具合だ。


 イリアは、防波堤ぼうはていの先端まで足を伸ばした。


 そして潮の香りを浴びながら柔らかな日差しに目を細める。

 

 2人は防波堤の先端に立って無言で海を眺めた。


 水平線まで見渡しても、そこには海と空しか無かった。

 陸地や他の島の存在は無い。

 船の気配すら、まるで感じられなかった。


 相変わらずスケッチブックを大事そうに抱えた智世は、イリアに話し掛けるタイミングをうかがっている。


 赤黒チェックのミニスカートをはためかせるイリアは、どこか他人を寄せ付けないような雰囲気を漂わせている。


 そのせいで智世は何度も口ごもる。

 そして何度目かのチャレンジでようやく「……ありがとう」と、言うことができた。

 

 それを聞いてイリアが首を傾げる。

「なにが?」


 素っ気ないイリアの反応に智世は一瞬、戸惑った。が、思い切って礼を口にする。

「昨日は……ありがとう」


「ああ」と、イリアが表情を変えずに智世の顔を見る。


 イリアに見つめられた智世は緊張しながら続ける。

「あの人たちと一緒に居たら、また私、使い走りにされちゃうから……」


 イリアはチラリと海を見て軽く息を吐き出し、智世に向き直る。

「言いたいことは言ったほうがいいよ」


「ん……そうだね」と、智世は頷く。


 前髪ぱっつんで童顔どうがんな智世は、見るからに大人しい。

 おまけに無口でオドオドしているものだから、そこを玲実達に付け込まれてしまうのだろう。


 会話が続かない中で、ふとイリアが足元に目をめると、防波堤のテトラポットに何かが引っ掛かっていた。


 何となくそれが気になったのか、イリアはテトラポットの出っ張りを器用に伝い、海面スレスレまで下りると小瓶こびんのような物をすくい上げた。


 そのリズミカルな動きを心配そうな顔で見守っていた智世が首を傾げる。

「なんだろ? それ……」


 イリアが拾い上げた物はラベルの付いていないガラスの瓶だった。

 牛乳瓶よりは二回りほど小さい。


 イリアはそれを手に段差を軽快けいかいに駆け上がり、元の位置に戻る。


 イリアが拾ってきた小瓶に智世が目をらす

「中に何か入ってるね……紙?」


「そうみたいね」と、イリアがふたを開ける。

 

 中には折りたたまれた紙が入っていた。


 四つ折りにされた紙を広げてイリアが驚く。

「何? これは……」


 智世が「何か書いてあるみたいだね」と、イリアの手元を覗き込む。


 紙質を見る限り、それはB5ノートを千切ちぎり取ったとものと思われる。


 そして、そこには丸っこい手書き文字が並んでいる。


<はじめてのキャンプ。女の子だけで不安だったけど

 やればできるじゃん!海辺のバーベキューは、おに

 くがこげちゃったけど、食べれないわけじゃないし

 たまには外で食べるのも悪くない。食後はわたしの

 すきなカステラをデザートにしたかったけど残念!

 けっきょくパイナップルになっちゃったんだ。みぎ

 てにはケータイをずっと持ってたんだけどやっぱり

 ここには電波がきてないんだよね。マジありえない。

 ろく人の子が彼氏を地元においてきてたからホント

 さみしそうだよね。つらいよね。せめて声だけでも。

 れんらくできないならけいたいの意味ないじゃんか。

 るすでんだらけになってても困るよね。帰ってから。>


 イリアが「変な文章……」と、首をひねる。


 智世も読み終わって不思議がる。

「日記みたいだね……でも誰が書いたんだろ?」


「さあ? でも何でこんなもの……」

 

 こんなメモをわざわざ小瓶に入れて海に流す目的が理解できない。


 それに文字列を無理やり長方形に整えたせいか、おかしな場所で改行している箇所がある。

 それに、ひらがなが不自然に多い。


 そこで智世がはっと何かに気付く。そして無言で手紙の文字を指でなぞる。


 それを見たイリアが目を見開みひらく。

「こ、これは!?」


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