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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第8話 疑義、そして分裂

 南風荘1階の『松の間』では、少女達が学級裁判のような構図で向かい合っていた。


 サボリ組のわがまま3人組は、お嬢様の玲実れいみ、双子の望海のぞみこずえが並ぶ。


 それに対峙するように委員長の利恵りえ、ツインテール桐子きりこ、ぽっちゃり和佳子わかこ、姉御の愛衣めいの登山組。


 その後ろに風呂上りで浴衣姿のモエ、詩織しおり、へそ出し乙葉おとは、グラマー野乃花ののかが並んでいる。


 イリアと智世ともよは、窓際に座って外を眺めている。


 委員長の利恵が背筋を伸ばしながらサボリ組の3人に文句を言う。

「いくらなんでも勝手すぎるよ!」


 ツインテール桐子も同調する。

「そうだよ君たち! こういう時こそ協力し合わないと」


 それに対抗して双子の梢が口をとがらせる。

「いいじゃん別に」


 その隣で姉の望海はふてくされている。


 お嬢様な玲実は髪をいじりながら知らん顔だ。


 そこにヘレンが遅れて『松の間』に入ってきた。

「ソーリー、遅くなった」


 ヘレンは首にかけたタオルで汗を拭いながら室内を横切る。


 彼女が手にしているライフルを見てモエが目をく。


 同じくライフルに気付いた乙葉と野乃花が身を乗り出して何か言おうとする。

 が、モエはそれを制して首を振る。

 そして、腕の包帯を隠した。


 詩織は困ったような表情でモエの横顔を見つめる。


 ヘレンはモエ達の反応には気付かず、皆の前を横切り、部屋の隅に腰を下ろす。

 そしてライフルを脇に置いた。


 愛衣がヘレンに尋ねる。

「遅かったわね」


 ヘレンが「ちょっと……ね」と、意味深いみしんな笑みを浮かべる。


 それを見つめるモエの目つきは厳しい。


 そこでサボリ組がヘレンをとがめる。

「ちょっとぉ! なんで銃なんか持ち込むの?」と、玲実がヘレンを睨む。


「そうよ! 物騒ぶっそうじゃない!」と、望海も玲実に続く。


 しかし、ヘレンはまし顔で答える。

自衛じえいのためよ」


「な!?」と、玲実が驚く。


 へそ出し乙葉とグラマー野乃花は顔を見合わせる。

 詩織も驚きながらモエの反応を伺う。


 事情を知っている利恵と和佳子は苦い顔だ。


 双子の梢がチラリとモエの方を見ながら嫌味っぽく言う。

「なに考えてんだか。誰かさんが変な武器持って帰ってきたと思ったら、今度はライフル銃?」


 梢の台詞にヘレンが「変な武器?」と、反応する。


 愛衣が髪をき上げながら答える。

「モエさんが自分の武器を持ってきたのよ」


 そこで玲実、梢、望海が一斉にモエを見る。


 モエが周りを気にしながら反論する。

「仕方ないやん。変な生き物がおったから……」


 モエの側には戦斧せんぷが置かれている。

 その刃先が蛍光灯の明かりで鈍く輝く。


 しらっとした沈黙の中、グラマー野乃花が急に立ち上がる。

「だって、すっごい、でっかいコブラが居たんだヨ!」


 野乃花の浴衣からは大きな胸がはみ出しそうだ。

 すそも随分と短い。

 もしかしたら子供用の浴衣を借りてしまったのかもしれない。


 野乃花は両手を目いっぱい広げて説明を続ける。

「もうネ。頭がこれぐらいあるの!」


 それを見て、ぽっちゃり和佳子がる。

「えっ! 何それ、怖い」


 野乃花は大きな胸をぷるんと震わせて身振り手振りで熱弁をふるう。

「もうね。大蛇だいじゃだヨ、大蛇! モンスターみたいにデッカいの!」


 そんな野乃花の説明に耳を傾けながらツインテール桐子は、巨大なヘビを想像して目を輝かせる。

「そいつは凄ぇな。ボクも見たかったよ」


 異世界を信じる桐子は巨大モンスターの存在にも肯定的だ。


 野乃花は、モエが蛇の頭に戦斧を叩き込んだ場面を再現する。


「こうやってブスッて刺してぇ、クルクルって回って、それからズバーン! て感じでやっつけたんだヨ! モエちゃんが居なかったら大変なことになってたんだから!」


 話を冷静に聞いていたヘレンが言う。

「そう。そっちにも得体えたいの知れない生き物がいたんだ」


 ヘレンの反応が薄いのを見て野乃花がガッカリする。


 野乃花の擬音ぎおんが多くて子供っぽい再現では緊迫感が伝わらなかったのかもしれない。


 利恵が眼鏡を触りながら、やれやれといった風に首を振る。

「やっぱり、ここは普通じゃないみたいね……」


 すかさず、桐子が身を乗り出す。

「ボクの言ったとおりだろ! 異界の生き物だよ。やっぱ異世界なんだって!」


 利恵は頬に手を当てて墓標ぼひょう十字架じゅうじかを思い出す。


「そうね。異世界かどうかはともかくとして、不思議なことだらけよね。この中の誰かの名前が入ったお墓……それと妙な武器」


 皆の話を総合すると、発見された墓標には乙葉、和佳子、ヘレン、梢、モエの名前がそれぞれ刻まれていて、順にショットガン、トライデント、ライフル、電撃棍棒でんげきこんぼう、戦斧が墓標とセットになっていたことになる。


 そしてそれらの武器は墓標の名前の人物にしか扱えないらしい……。


 食欲旺盛しょくよくおうせいな、ぽっちゃり和佳子がスナック菓子の袋に手を入れながら「意味不明よねぇ」と、呟く。


 そこで詩織が「そ、それだけじゃないよ」と、オドオドしながら口を開く。


 利恵が司会進行役のように「それってどういうこと?」と、続きを促す。


 詩織は年号が古いカレンダーと新聞を思い出す。

「き、消えた住人……まるで26年前から時が止まってるみたいじゃない?」


 民宿街の店舗で見られた古い雑誌、黒電話、テレビの型など、時代を感じさせる室内の様子が思い出される。

 そういえば、といった風に何人かが頷いた。


 へそ出し乙葉が少し悩みながら浴衣のたもとからスマホを取り出して、皆に披露ひろうする。

「昼間、見つけたんだけど、これって地図だよね?」


 乙葉のスマホには昼間に湿地帯の見張り台で見つけた落書きが映っている。

 それはどこかの島の地図を示したものと思われる。


 桐子、和佳子、利恵がそれを覗き込む。


 窓際の智世もチラリと画面を見る。

 その目に地図のような落書きの画像が映る。


「どれどれ?」と、玲実、望海、梢も便乗しようと乙葉のスマホに手を伸ばす。


 だが、寸前でモエが乙葉のスマホを取り上げる。

「見せる必要ないで」


 モエの行動に、お嬢様の玲実が顔をしかめる。

「は? なに言ってんの?」


「なんもせえへん奴らに情報やる必要はないで」


 モエに痛いところをつかれて望海が逆切れする。

「ちょ、ムカつく!」


 モエと望海が睨み合う。


 険悪な雰囲気になったところでモエはプイと顔をそむけて吐き捨てる。

「それにな。こん中には信頼できへん人間が混じっとるから」


 そう言ってモエは自分の右腕に巻かれた包帯を見つめた。


 さらにその脳裏には惨殺された敏美の死体の映像がよぎった。


 モエは、すっと立ち上がって宣言する。

「悪いけど、これ以上、団体行動はできひん。ウチらは別な場所に移動するで」


 モエの爆弾発言に詩織、乙葉、野乃花が戸惑とまどう。


 黙り込む利恵。オロオロする詩織。


 やれやれといった風に首を振る愛衣と桐子。


 玲実と双子はムスっとした顔で呆れている。


 ヘレンが突き放すように言う。

「好きにすれば? それで気が済むのなら」


 その言葉にモエが、キッとヘレンを睨みつける。


 一触即発いっしょくそくはつの睨み合いをよそに窓際に居たイリアがぽつりと呟く。

「問題は食料ね……」


 その指摘に利恵が驚く。

 和佳子は菓子の袋をぎゅっと握りしめる。 


 イリアは皆の方に向き直って昼間に見てきたことを報告する。


「食料を中心に探してみたけど他の民宿には何もなかったわ。調味料とか紅茶は残ってたけど。まるで誰かに荒らされたみたいだった」


 イリアは回想する。


 荒らされたキッチン。冷蔵庫は、ほぼ空っぽ。

 散乱している空き缶やスナックの空き袋。

 誰かが食事をした跡、洗われないまま放置された鍋やフライパン……。


 詩織が、はたと思い出す。

「そ、そういえば! き、昨日今日は売店にあるもので過ごせたけど……」

 そう言いながら詩織は皆でカップ麺やお菓子を食べた場面を思い浮かべる。


 イリアは小さく頷く。

「ええ。いずれは尽きる」


 南風荘の1階フロントの隣は雑貨店を兼ねている。


 小さな売店には棚が3つしかなく、菓子パンやカップ麺、スナックが並んでいた。


 ぽっちゃり和佳子が「それは困る!」と、慌てる。と同時に、お腹が鳴る。


 イリアは、ゆっくりと皆の顔を見回して言う。

「別行動を取るっていうなら配分をどうするか。それを決めておかないと」


 委員長の役割を自認する利恵が、不穏ふおんなムードを払拭ふっしょくしようと口を挟む。

「だったら、なおさら皆で一緒に行動を……」


 利恵の優等生的な提案にモエが即座に首を振る。

 そして皆に向かって言い放つ。

「そういうことなら、ウチらの分は貰っていくで」


 それを聞いて胡坐あぐらをかいていたヘレンが立ち上がる。

「NO! それは許されないわよ!」


「うるさいわ。ウチらの分は明日、平等に分けようや」


 そう言い残してモエは松の間を出ていこうとした。


 その左手首をヘレンが「ウェイト!」と、つかむ。


「フン……」と、モエが冷たい目でヘレンを見る。


「ユー、どうしても行くって言うなら……」


 そんなヘレンの顔をチラ見してモエは小さく息を吸い込んだ。


 そして空いている右手でヘレンの手首を取り、捻じりながら自らの身体を半回転させた。

 その勢いでヘレンの腕を引き込み、同時に左足を掛けて投げ飛ばす。


「Oh!」と、ヘレンは、つんのめるように膝を着き、頭を畳にぶつける。


 あっという間の出来事に皆が息を飲む。


 前のめりに転がされたヘレンが「ワッツ!? 何するのよ!?」と、上半身を起こしながらモエを睨みつける。


 モエは冷たい表情でヘレンを見下ろす。

「……これでお返しや」


 ヘレンがその言葉に唖然とする。

「What!?」


 モエは室内の面々を一瞥いちべつして戦斧を拾い上げると、何事も無かったかのように早足で部屋を出て行った。


 誰もそれを止めることが出来ない。


 疑心暗鬼ぎしんあんき


 ついに仲間割れが始まってしまった……。


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