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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第64話 気付いてしまったこと

 イリアの首筋に左手の剣を振り下ろした望海が「なに!?」と呻いた。


 完全に捉えたと思ったのに、剣先の手応えが違う。

 切り裂くといった感覚が無く、拒否されたといった触感。


 望海は、慌てて右手の剣をすくい上げて、イリアの脇腹を狙う。

「これでどう!?」


 だが、それも当った手応えはあるが随分と鈍い。

 思っていたのと異なる手応えに望海は戸惑い、手元を見て絶句した。


「なっ……」


 それもそのはず、望海の双剣は右も左もグニャリと大きく曲がっていたからだ。

 これでは切れるはずもない。


 まるで作りかけのガラス細工が高熱で垂れ落ちそうになる時のように剣先が曲がっている。


 それはイリアが詩織から受け継いだ能力。

 すなわち触れた物質を変形させる力だった。

 それが望海の双剣を曲げてしまったのだ。


 予想外の出来事に望海は次の手順を出すことが出来ない。


「ああああっ!」と、イリアが望海を睨む。


 イリアの赤い目を見てしまった望海が「ぐっ!」と、金縛りに遭ってしまう。


 遅かった! せめて痣をタップして瞬間移動を発動させていれば回避できていたかもしれない。


 だが、最悪なポジションで望海は動きを封じられてしまった。

 これは絶望的な距離だ。


 イリアは歯を食いしばってハルバードを振り上げる。

 そして、先端の斧を叩きつける!


 その瞬間、イリアは目を閉じてしまった。


 無我夢中で振り下したそれは『バキャッ!』という嫌な音を発して、致命的なダメージを与えたことを告げた。


 飛沫が顔面に降りかかってきた。

 その液体は生暖かくて粘り気がある。


 それが何であるのかは目を閉じていても分かる。


『ドサッ』と、望海が倒れた。


 恐る恐る目を開けてイリアは脱力する。

「何で……どうして?」


 目の前では望海が髪を拡げて息絶えていた。


 うつ伏せになった彼女の頭からは大量の血が流れ出ている。


 鮮血は蟻の群れのようにジワジワと岩板を浸食していく。


 それはイリアのつま先を浸し、行き場を失くしたものは割れ目から顔を覗かせるオレンジ色のマグマによって『ジュッ!』と灰にされてしまう。


 激しい戦いが終わり、冷静になったイリアは自問する。

「……何でこんなことに?」


 瞳から零れた涙が頬を伝い、赤と混じり合った。


 頬だけではない。

 肩口、へそ周りにも大量の返り血が付着している。


 イリアは智世の言葉を思い出した。

『逃げ道を選ぶのは悪い事じゃない。でもそれに抗うことを止めてしまったら行きつく先はドン底しかない』


 ぎゅっと目を閉じてその意味を噛みしめる。

 右腕が熱を帯びてきた。


「熱っ!」


 イリアの白い肌に紋章のような痣が浮かび上がる。

 それは青白い炎のような輝きを発し、やがてイリアの全身を青白い光で包んだ。


 すると身に着けた鎧の表面が一斉に沸騰したようにボコボコと変形し始めた。

「イヤァァァァ!!」


 そして、目の前が真っ暗になった。


 薄れゆく意識の中でこの島で起こった惨劇がフラッシュバックする。


 ―― 悪夢だ。


 そうとしか考えられない。それは、この島に来た時から始まっていた。


 高熱に身を蝕まれながらイリアはふっと力を抜いた。

 もう、何も考えたくなかったのだ。


    *   *   *


 黒手帳を手に呆然としていたモエがクシャミで我に返った。


「アカン。寒い……」


 裸のままだったことをすっかり忘れていた。


 モエは荷物から着られそうな服を探した。


 水だけで手洗いした下着は乾き方が足りないせいか手触りが悪く、履くのが躊躇われた。


 だが、そうも言っていられない。

 モエはしかめ面で、いつものように左足からパンツに足を通した。


 手早く服を着て、もう一度手帳に目を通す。

「何やこれは……」


 やはり、どう見ても手帳の持ち主は男性、それも仕事をしている人間のものだ。

 スケジュール帳ではない。

 カレンダーに相当する箇所は無く、ひたすらノートのページが続く。


 地名や人名、日付、時間の手書きが占めている。

 分からないのはアラビア文字か象形文字かといった見慣れない文字が大量に書き込まれていることだ。


 モエは手帳の持ち主を想像した。


 これが愛衣のバッグの近くにあったからといって彼女の所有物とは考えにくい。

 となると他の誰かの持ち物を愛衣が拾ったか手にしたのだと思われる。


「もしかして……引風ひきかぜのおっちゃん?」


 そこでスカウトの引風のことを思い出した。


 日本全国を回って自分達をスカウトした中年男性が『ヒキカゼ』だということを以前、詩織と話していた。


 その時は読者モデルになったきっかけを作ってくれたのが共通の人物だったことに親近感を覚えた。

「引風のおっちゃんの手帳……だったら分かる。せやけど……」


 そこで自分達の名前につけられた×印のことが思い出された。


 名前を×印で消されているのは、詩織、智世、和佳子、玲実、野乃花だ。


「待てや! やっぱ変やわ」


 なぜか敏美の名前にはバツがついていない!

 

 最初に殺されたはずの敏美。

 時系列的にいって彼女の名前に×がついていないのはおかしい。


「もしかして……」

 モエはハタと思い出した。


 ―― 武器でなければ死ぬことはない。


「せや! あの時点で武器を持っとった奴はおったか?」


 敏美が南風荘の2階で殺されたのはこの島に着いた翌日の早朝だった。


「いや。おらへん。ちゅうことは……生きとるんか!」


 その事実に辿り着いてモエは険しい顔で唇を噛んだ。


 と、その時「やっと気付いたの?」と、誰かが言った。


 その声にモエがビクッとする。


 そして声のした方向に目を遣って腰を抜かしそうになった。


 なぜなら、いつの間にかダイニンングテーブルの椅子に女の子が座っていたからだ。


 気配も無く彼女は出現した。

 それが幽霊だと言われれば即座に信じてしまうだろう。


 動揺しながらモエは声を絞り出した。

「い、い、いつの間に?」


 逃げ出したくなるのを堪えながらモエは相手を観察する。

 見覚えがあるような無いような彼女……そして思い出した。


 この子は『敏美』だ!


 敏美はこの島に着いた時と同様に学校の制服を着ている。

 そして三つ編みの黒髪を撫でながらモエの反応を眺めている。


 モエは冷静を装いながら試すように言う。

「アンタ、この手帳の『宮川れおな』やろ。何で偽名なんや?」


 それは手帳の情報から類推しただけだ。

 核心を突いたという手応えは無い。


 しかし、敏美は驚く風でも無く普通に答える。


「偽名? ああ『敏美』ね。しょうがないのよ。『と』で始まる名前の子が必要だったのに見つからなかったから」


 彼女があっさり認めたことでモエが拍子抜けする。

「な……アンタ、何者なんや? なんでウチらの仲間のフリしとったん?」


「きっかけを作るためよ。貴方達が殺し合いを始めるための」

「はん。それで死んだフリかいな。すっかり騙されたわ」


「その後も結構、大変だったのよ? 戦うように仕向けるのは」

「なんやて? 仕向けるって、どういうことや」


「最初の殺人事件。あれ、望海って子のせいにしようと思って、彼女の武器で自分の首を切って血をつけておいたんだけど、うまくいかなかったのよね。本人が凶器をみつけちゃったから」


 あっけらかんと、そう言う敏美にモエは啞然とする。


 敏美はモエを煽るように続ける。

「貴方達、なかなか仲間割れしないんだもの。苦労したわ。狙撃したり闇討ちしたり」


 敏美の言葉を聞いてモエが声を荒らげる。

「狙撃やて? まさか、あれはアンタの仕業やったんか!」


 思い当たる節はある。


 ひとつ目は最初の探索を終えて南風荘に引き上げる際、湿地帯で狙撃を受けた時だ。

 モエは右腕を撃たれた。


 もうひとつは、砂漠のストーンヘンジでイリア達と別れた直後に背後から撃たれた時。

 それは共にヘレンによるものと判断した。


 だが、今となっては自分達を仲間割れさせる為に敏美がヘレンのフリをしていたと考えた方が自然だ。

「まさかアンタも武器を使えるんか?」


「まあね。貴方達に与えた武器は一通り」


 そう答えた敏美の澄まし顔を見てモエは怒りを露わにした。

「ふ、ふざけんな!」


 モエは激高すると戦斧を手に取った。そして敏美に向かって突進する。

「うぁああっ!」


 叩きつけるように刃を振り下す。


 だが、その動きがピタリと止められてしまった。


「なんや!?」


 目の前の敏美は足を組んだまま軽く手を挙げている。

 まるで写真に写るためにピースをするみたいに。


「くっ! バカな!?」

 モエは戦斧を動かそうと試みるがビクともしない。


 良く見ると刃の部分をピースした指で挟み込むように敏美がそれを受け止めている。

 しかも涼しげな表情で。

 その姿はまるで煙草をふかす貴婦人のようだ。


「無駄よ。貴方には」

 敏美はそう言って軽く手首を返した。


 たったそれだけの動きなのに戦斧は抗いきれない力でモエの手から逃れると、回転しながら飛んで壁に『ザンッ』と刺さった。


「くそっ!」と、モエが素手で殴りかかる。


 だが、敏美は避けようともしない。

『バチッ!』と、見えない壁に拳が止められる。


 拳の痛みに「痛っ」と、モエは顔を歪める。


 敏美は含み笑いを浮かべて言う。

「今の貴方は候補にすぎないわ。完全体にならないと私達とは勝負にならない」


「なんやて? 候補? 完全体? 何言うてんのかさっぱり……」


「まだ分からないの? 頭悪いわね。ていうか、それだと勝ち抜けても戦力にならないんじゃないかなあ」


 敏美の馬鹿にしたような言い草にモエは唇を噛んだ。

 そして考える。

 この状況、これまでの経緯、そして提示された幾つかの言葉……。


「アンタが仕組んだんやな? ウチらを戦わせるように。目的は何や?」


「ああ、やっと理解したのね。良かった。イチから説明するのは面倒だもん」


「答えろや。何が目的なんや!」


 モエの詰問に対して敏美は余裕を持って答える。


「一言でいえば『選抜戦』よ」


「選抜戦……何の選抜やねん……」


「生き残った子を選ぶ為の選抜よ。一番強い子を集めて、あの方をお守りする部隊を編成するんだって」


「あの方? あの方って誰や?」


「それは後のお楽しみ。けど、メンドクサイなあ。私は言ったのよ。どうせならコロシアムみたいな所に幽閉して殺し合いさせれば簡単なんじゃないかって。でも、それじゃ駄目なんだって。まどろっこしいけど、こういうシチュエーションの中で生き残ることが戦士としての資質を測るんだとか……」


 モエは頭が痛くなってきた。


 それは非現実的な話を受け入れたくないという感情と、これまで散々見せつけられてきた異世界のリアルがゴチャゴチャになっているからかもしれない。


 そこでさっきの言葉が思い起こされた。


 ―― 生き残りし乙女、我の下へ


 先程、敏美は偽名を名乗った理由を「と」で始まる名前が必要だからと説明した。

 ということはやはり名前の並びに意味はあった! 


「だんだん分かってきたで……つまり、アンタもこの選抜戦を経験してきたんやな。ウチ等と同じように。せやから戦いの痕跡があちこちにあるんやろ?」


「そうよ。酷い話よねえ。あの時は本当に何度も死ぬかと思ったわ。私達の時はモンスターみたいな子がいてね。最初は逃げ回っていたのよ」


「ああ……あの動画か」


「そうよ。ビデオカメラ。あれはわざと貴方達の目につくような場所に置いたの。ヒントになるようにね。その手帳もそうよ」


 モエは投げやりな口調で返す。

「なんや。結局、ウチ等はアンタに踊らされとっただけかいな。アホらし……」


 モエは敏美の向かい側の椅子に腰を下ろすと大きなため息をついた。

 そしてテーブルに肘をついてフンと鼻を鳴らす。


 敏美はそんなモエの行動を見守っている。


 モエは壁に刺さった戦斧を眺めながら言う。

「そうと分かったらもう戦う理由もあらへんな。止めや。止め」


 だが、敏美は怖い顔をして言う。

「そういうわけにはいかないわ」


「なんでや? ウチはもう戦う気なんて無いで?」

「最後の一人になるまで戦って貰わないと困るわ。生き残れるのは一人だけなのよ?」


「フン。知らんがな」

「あっちは決着がついたみたいだから貴方を入れてあと2人。最後の相手はイリアって子のようね」


 その言葉にモエがピクリと反応した。が、直ぐに興味ないフリをする。

「へえ、そうなんか。けど、どうでもええわ」


「そう言っていられるのも今のうちよ。武器と能力はあっちの方が多いわ」

「ウチはもう戦わん。アンタの思うようにはいかへんで」


「そう。じゃあ、黙って殺されるつもり?」


 煽るような口調の敏美をモエが睨む。

 そしてドンと机を叩いて立ち上がる。

「アンタの指図は受けへん!」


 敏美は冷静な口調で言う。

「そう。好きにすれば? でも、生き残りたければ全力で戦うことね。亡くなった他の子のためにも」


「わかっとるわ!」と、モエはプイと顔を背ける。


 そしてそんな態度を取りながらも密かに考えを巡らせていた。


 敏美の話を聞く限り、どうやら敏美には仲間が居るように思えてならなかった。


 彼女の言葉の端々にはその存在が仄めかされていた。


 そして恐らくそれはモエも知っている人間だということも……。


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