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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第63話 黒革の手帳

 モエは、いつの間にか利恵と愛衣が根城ねじろにしていた家に辿りついていた。


 どこをどう歩いたか記憶は無かった。


 ただ、一刻も早く血を洗い流したかった。

 そして着替えたかったのだ。


 熱いシャワーを頭から被りながらモエは何度も首を振った。

「サイアクや……クソッ」


 双子の妹、梢の顔面が裂けた瞬間の映像が目に焼き付いている。


 委員長の利恵が電撃で殺されたのを目の当たりにして、夢中で斬りつけてしまった。


 冷静に考えると、自分は双子に対して恨みは無かった。

 かといって、利恵とは一時的に行動をともにしていただけで、彼女がやられて激高したわけでもない。


「なんで、あんなことしてもうたんや……」


 無抵抗の梢を戦斧の餌食にしてしまったことをモエは悔いていた。

 どんなに忘れようとしても払拭できるものではなかった。


 指先がふやけてしまうまでモエはシャワーを浴び続けた。

 そして、強烈な自己嫌悪に眠気が混じってくるのを自覚した。


 重い足取りでシャワールームを出る。

 濡れる足元に気付いて、やれやれと首を振る。


 止む無くバスタオルを掴んで乱雑に身体を拭く。

 そして鏡に映った自らの裸体を見て目を見開いた。


「うそやろ……」

 左胸の上、左の二の腕、肘、右の首筋、脇腹にひと目で分かる痣が出来ていた。


 あれだけ強く洗い流したのだから血ではない。

 無論、痛みも無いので打撲でもない。


「これって……やっぱ、そうなんか?」


 モエは試しに左胸の痣を2回タップしてみた。ちょうど利恵がやっていたように。


 すると『パヒュン!』と、破裂音がして続いて足元で『ゴトリ』と重い音がした。


 目を落とすとハンマーが床に転がっている。

 それは利恵が使用していたものに違いない。


 しばらく固まっていたモエはハンマーが13秒後に『ポフン!』と、消失するのを見守ってから、大きなため息をついた。


 それは体内の活力が全部、漏れ出してしまいそうな長いため息だった。


「なんで4つも、ついとるんや……」


 自らの身体に現れた痣。

 そこで所有権の移転について思いを馳せた。


 利恵は自らの武器であるハンマーの他に、ぽっちゃり和佳子のトライデントとお嬢様の玲実のグレネード・ランチャーを持っていた。


 その利恵を梢が殺した。


 彼女は電撃棒で利恵を感電死させた。ほぼ即死状態で。

 

 その梢を殺したのは自分だ。


 ということは、利恵の持っていたものが一時的に梢に移転し、最終的にそれが自分に回ってきたということになる。

「マジか……こんなもの……」


 しかし、武器が移ったということは、それに附属する特殊能力も移転しているはずだ。


 モエは思い出す。

「利恵の馬鹿力……和佳子の投げる力……玲実のは何やったっけ?」


 そこで利恵が望海と対峙した時のやり取りを脳内補完しながら再生する。

「治癒? 回復? なんか、そんな話やったはず……」


 利恵は望海に撃たれた箇所を手の平を当てて治していた。


 しかし、梢の能力が定かではない。


 ただ、最初にヘレンの隠れ家を急襲した時に梢が危険を察知して攻撃を回避したことを考えると、危機回避能力が彼女の特殊能力ではないかと推測される。


「そんな力、要らんのに……」


 モエは吐き捨てるようにそう呟くと裸のままリビングに移動した。


 自分のものを含めて荷物は一箇所に集めていたからだ。


 ソファには利恵と愛衣の荷物が放置されていた。


 どちらが利恵の物かは一目瞭然だった。


 几帳面な利恵は服にシワがつかないように着替えをすべてバッグから出して、まるで売り物にしているみたいに綺麗に畳んだ状態で重ねている。


 一方の愛衣は姉御肌らしく大ざっぱに服を脱ぎ捨てている。


「手帳か……」


 ふと、モエはそこに放置されている黒い手帳を手に取った。


 なぜそうしてみようと思ったのか自分でも分からなかった。

 ただ、何となく見てみようと思いついたのだ。


「なんか全然、可愛い無いなあ」


 黒革の手帳はビジネスマンが使うようなありふれた物だった。

 なぜ、そんな可愛くないものを姉御の愛衣が持っているのか不思議に思った。


 何気なくページを開いてみてモエは唸った。


「うっ……なんや、これ?」


 真ん中辺りのページに細い鉛筆が挟まれている。

 そこで最初に目に入った文字を口にする。


「松、晴子……はれこ。なんでこの子だけ?」


 ぽつんと一番上に記された『松晴子』という名前の下にはズラリと女の子の名前が並んでいる。


 その右側には見たことも無いような文字というか記号が細かく記入されている。

 どうやら何かのリストのようだ。


「誰や、こいつら? けど……」


 リストに並ぶ名前には軒並み×印がついている。

 ひとつだけ×がついていない名前がある。


「宮川れおな……この子だけ×がついてないな」


 モエは首を捻りながらページをめくった。

 そして次のページを見て「うっ!」と、絶句する。


 なぜなら、見覚えのある名前がそこに記されていたからだ。


『藤川 イリア

 花村 きりこ

 加賀見 のぞみ

 加賀見 こずえ

 関田 りえ

 竹野 しおり(バツ印)

 森 おとは

 石原 ともよ(バツ印)

 一之瀬 めい

 渡部 わかこ(バツ印)

 天草 れみ(バツ印)

 鈴木 ののか(バツ印)

 山上 モエ

 二宮 としみ

 ダグラス ヘレン(バツ印)』


 フルネームで書かれているので一瞬、何の集団か分からなかった。

 だが、下の名前の並びを見て、それが自分達のことだと理解した。


「こっちも名前のとこにバッテンがしてあるな……あれ? けど、なんで名前が平仮名なんやろ?」


 それともうひとつ。おかしなことに気が付いた。


「なんでこの子に×が付いてないんや? いや待てよ? もし、これを愛衣が書いたんやとしたら……」


 ある疑念が過った。

 と、同時にこの並んだ名前を見て、モエの背筋が凍った。


「ど、どういう意味や!?」


 モエは平仮名で書かれた名前の頭文字を指でなぞった。


「イ、き、の、こ、り、し、お、と、め、わ、れ、の、も、と、ヘ」


 何か重要な意味があるような気がして胸騒ぎがした。


 前のページもめくってみる。

 そして、同じように知らない女の子達の名前の頭文字を拾っていく。


「いきのこりしおとめ、われのもとへ……同じや!?」


 まるで、言葉遊びのクイズを解くようにモエは頭の中で単語を変換する。


「生き残りし乙女、われのもとへ」


 そう解釈した時、モエは強烈な震えに卒倒しそうになった。


    *    *    *


 まさに決定的な一撃を放とうとした望海の動きが止まった。


 ショットガンの引き金を引こうとした指先がピクリとも動かない。

「うぐっ……なんで!?」


 望海は金縛りにあったように意識と身体が寸断されている。

 意識はクリアなのに身体のコントロールが失われている。


 望海は、イリアを見て気付いた。

「何……その目?」


 イリアの赤い目を見て望海は思考を巡らせた。

 恐らく、この金縛りは、あの赤い目による能力なのだろう。


 一度は死を覚悟したイリアだったが、間一髪、智世から受け継いだ赤い目で望海の攻撃を封じ込めたのだ。


「く……この……」と、呻く望海の手元で『ボフン!』とショットガンが消失した。


 それからワンテンポ置いてイリアの目が通常の色に戻る。


 そこで望海の身体が動く。


 赤い目による金縛りが解けた望海がバックステップで距離を取る。

「くっ! な、何なのよ!!」


 望海はイリアを睨みつけながら状況を整理する。

「くそっ! 13秒ルールか……」


 その独り言はイリアの耳にも届いた。

「13秒ルール?」


 イリアはその意味を考える。


 そういえば痣をタップして出した武器は数秒で消えてしまう。

 もしかしたら、その時間が13秒なのかもしれない。


 それと赤い目の能力。これも効果が持続するのが同じくらいだと思われる。

 だが、すべての能力が13秒も持続するとは思えなかった。


 イリアが考え込む様子を見て望海が鼻で笑う。

「フン。今頃気付いたの? 13秒。または1.3秒。瞬発系の能力は短いのよ」


 ―― 13という数字。それが色々なところでキーになっている?


 イリアは記憶を辿りながら立ち上がる。

 そして試しに左腕の痣をタップして鎌を取り出す。


「えいっ!」

 今度は最初から鎌の部分を投げた。


 望海は余裕の表情で難なくそれをかわす。

「甘いね。動けない間に攻撃してくれば良かったのに」


 確かに先ほどの金縛りの状態で、その攻撃を受けていたら望海は躱すことが出来なかったろう。


 望海の挑発にイリアは「くっ!」と、悔しげな表情を見せる。

 そして目に意識を集中した。


 だが、赤い目には変化しない。

 望海の動きが止まらないところを見ると、効いていないのは明らかだ。


 望海は高らかに宣言する。

「もう、その手は食わないわよ」


 そう言って彼女はフッと姿を消した。


 そしてイリアの背後に瞬間移動すると、槍による突進を繰り出した。

 それは野生のサイが角で攻撃してくるような迫力があった。


 ただ、直線的な攻撃になってしまう。それは望海も分かっている。


 望海の『ザッ!』という足音に反応してイリアは横っ飛びに避ける。

 イリアの反射神経は相当なものだ。


 だが、望海は攻撃を躱されても慌てない。

 すぐさまショットガンを取り出し、至近距離でイリアの背中を狙う。

「今度は後ろからよ!」


 望海は、金縛りの能力は目を見なければ良いのではないかと推察していた。


 先程は正面から撃とうとして動きを止められてしまった。

 だから今度は後ろから撃とうと考えたのだ。


『バン!』


 ショットガンが放たれる。


 イリアは右に避ける。

 この距離で避けきれるはずがない。


 しかし、散弾は一発も当らない。

 むしろ彼女の身体の近くで弾が跳ねたように見えた。


 望海が驚愕する。

「まさか無敵? バリアなの!?」


 まるで見えない結界が張られているかのような現象に望海の目論見が外れた。


 そこでイリアが振り返って顔をこちらに向けてくる。


「まずい!」と、望海は目を合わせないように顔を背けて走り出す。


 幸い、その動きを止められることは無かった。

 ということはやはり、目を合わせてしまうと金縛りに遭ってしまうのだ。


 望海は逃げながら考える。

 イリアのバリア効果が持つのは『13秒間』か『1.3秒』のどちらか? 


 もし、望海の超スピードのように持続効果が1.3秒なら先にバリアを消費させればいい。


 もう一度、能力を発動させるのに必要なインターバルの13秒間に畳み掛けることができる。


 だが、バリアの効果持続が13秒だったら? 


 攻撃の手数が足りなくなる恐れがある。

 それに厄介なのが赤い目の金縛りだ。


「必ず隙が出来るはず……」

 望海はそう自分に言い聞かせて頭の中で攻撃を組み立てる。


 彼女はトランプゲームでフィニッシュまでの手順を描いて勝負するタイプだ。

 それに対してイリアは直感で動いている。


 望海はイリアの武器と能力、それに対する自分の武器と能力を比較しながら短時間でシミュレートする。

 そして仕掛けることにした。


 望海はライフル銃を取り出すと「うぉおお!」と前進しながら狙いを定めて撃った。


『バン!』


 次の瞬間、イリアの身体の近辺でライフルの弾が弾かれるのが望海の目に入った。


「ここでバリア……」

 望海はイリアの目を見ないように走って距離を詰める。


 イリアはハルバードを構えて迎撃態勢を取る。


「今だ!」と、望海が瞬間移動する。


 イリアは望海が消えたのを確認して直ぐに身体を反転させて背後を警戒する。


『ザッ!』という音がイリアの左方向で発生した。


 それに反応したイリアが音のした方向に顔を向ける。


「あっ!?」と、イリアが目を見開く。


 なぜなら、望海が来ると思われた方向には大剣しか無かったからだ。

 今の音は大剣が自身の重みで倒れた時に発した音だったのだ。


「しまっ……」

 イリアが反対方向に向き直ろうとした時、影が視界に覆いかぶさってきた。


 望海はイリアを双剣の射程内に捕えて「もらった!」と、左の剣をイリアの首筋に振り下した。


「ぎゃっ!」『シャッ!』


 イリアの悲鳴と望海の剣が振り切られる音が重なった。


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