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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第57話 無間地獄?

 イリアとツインテール桐子は、雪の町に戻る前に手分けして作業を進めた。


 桐子は南風荘内の残りの食料を掻き集め、イリアは干しっぱなしの洗濯物を取り込んだ。。


 洗濯物は雪の町に探索に行く際に、外に出していたものだった。


 2階は閉鎖していたので、南風荘と隣接する物置小屋の間に張られた2本の洗濯紐にぶら下げる形で下着等を干している。


 イリアは、それを取り込みながら誰の物だったかを思い出しながら分別していく。


 別行動メンバーの洗濯物は無いので、ここには南風荘組6人の物しかない。


 すなわち、委員長の利恵、姉御の愛衣、ぽっちゃり和佳子とイリア、桐子、智世の6人分だ。


 この中には亡くなった智世の物も含まれている。


 イリアはそのことを思いだして、少し泣いた。


 気を取り直して作業を再開する。


 下着に続いてジャージをカゴに入れようとしたイリアの手が、ふと止まる。

「あれ? これって……」


 それは体育の時間に着るようなベーシックなものだ。

 紺色の上下に白の2本ラインがサイドに入っている。


 誰のだっけ? と考えるより先に内側に縫い付けられた名前のタグが目に付いた。


「まつ はれこ? そんな子、居たっけ?」


 手書きのそれは確かに名前のようだ。


『松晴子』と油性ペンで書かれている。

 ただ、自分達の中に該当するものは居ない。


 そこにツインテール桐子が慌てた様子で現れた。


「い、イリア! ちょ、ちょっと来てくれ!」


「どうしたの? そんなに慌てて」


「いいから来てくれ! 見せた方が早い!」

 そう言って桐子は強引にイリアの手を引っ張った。


 桐子はイリアを連れて南風荘の厨房内に入ると業務用冷蔵庫の前まで進み、扉を勢いよく開けた。


 冷蔵庫の中味を見てイリアが「そんな……嘘でしょ」と、目を丸くする。


 業務用冷蔵庫の中には肉、魚、野菜が収まっている。


 それらは最初にここを発見した時のままだった。


 桐子が乾いた笑いを浮かべる。

「ハハ、嘘みたいだろ? ここを出る時は殆ど空だったはずなんだ」


 イリアが「食べ尽くしたはずなのに……」と、顔を強張らせる。


 桐子は冗談ぽく「誰か親切な人が補充してくれたとか?」と言うが、直ぐに首を振る。

「ハハ、んな訳ないか……」


 しばらく2人は呆然と冷蔵庫の中を眺めた。


 そこでイリアが何かを思い出す。

「そうだ!」


 イリアは食堂に置いていたリュックを走って取りに行く。


 そして智世の形見であるスケッチブックを取り出した。


 イリアを追ってきた桐子が怪訝そうに尋ねる。

「イリア、どうしたんだい急に?」


 イリアはそれには答えずに急いでページをめくった。


 そしてこの島の地図が描かれたページを開く。

 正確には、乙葉のスマホに収められた見張り小屋の地図を智世が瞬間記憶で描いたものを凝視する。


 イリアが「ねえ、見て」と、地図のある箇所を指差す。


 イリアの指先、そこにはこの南風荘が長方形で印されている。

 そしてそこに重なるように数字の『8』が書き込まれている。


 長方形のひとつの辺に食い込むように、はみ出して8の文字が書かれていたので、何のことか分からなかった。


 しかし、イリアが言う。

「もしかして、これは数字の8じゃなくて、無限大のマークなんじゃない?」


 桐子が、ぽかんとして返す。

「無限大……これが?」


「あるいはメビウスの輪」


 イリアの言葉に桐子がうーんと首を捻る。

「つまりループしてるってことか……」


 逆にイリアが知らない単語が出て戸惑う。

「え? ループってなに?」


 そこで桐子が解説する。


「ああ。マンガやゲームなんかで良くある設定なんだけどね。『ループもの』というジャンルがあるんだ。時間が巻き戻って主人公が同じことを繰り返し経験させられるんだ。」


 イリアが聞き返す。

「繰り返される?」


「そうだよ。例えば、ある一日を何度も経験しなくてはならないとかね。主人公の記憶はそのままに、周りの人間や事象は何事も無かったかのように同じ一日を繰り返す。そういう設定をループ物っていうんだ」


 その説明を聞いてイリアの表情が曇る。

「この場所がそうだと?」


 桐子は「うーん」と唸ってから言う。

「冷蔵庫の中味が減っていないということは、ここだけループしている可能性があるね」


 イリアはピンと来ないようだ。

「え? そんな部分的なのってアリなの?」


「分からない。世界が丸ごとループっていうなら分かるけど、部分的なループってのはどうだろ? まあ、この島は変なことだらけだから有り得るかもしれない」


 イリアは冷蔵庫の扉を閉めて、うな垂れる。

「もし、このことが分かってたら食べ物は何とかなったのに……争いだって避けられたかもしれない」


 桐子はイリアの肩に手を乗せて首を振る。


「仕方ないよ。この地図は、このことを教えてくれていたのかもしれないけど、そんなの誰も気付かないよ。それに検証してみないと本当かどうかも定かじゃないし、どれぐらいの周期でループしているのかも分からない」


 地図上の『8』が示す意味。


 それは、その場所がループしていることを表しているのだろうか? 

 或いは自分達の今の状態が繰り返される運命にあることも考えられる。


 桐子はその可能性に言及しながら険しい顔をする。

「この異世界でボク達は永遠に殺し合わなきゃならないのか? 繰り返し、繰り返し」


 イリアが珍しく弱気な様子で首を振る。

「そんなの嫌……そんなのって……」


 イリアの心は折れかかっていた。


 只でさえ理解不能なこの異世界にうんざりしているのに、ここから脱出するどころかループする運命となっては、無間地獄むげんじごくに落ちたも同然だからだ。


 イリアは頭を抱える。

「異世界……それもループの可能性がある世界。何度も何度もこんな経験を繰り返さなきゃならないなんて……」


 桐子は強張った顔で答える。


「いや、どこかでループが途切れるってこともあるかもしれないし、こっちの世界で死んだときは元の世界に戻れるかもしれない。だから智世とか詩織とかは……」


 イリアは虚ろな目をして「だといいけど……」と、呟く。


 桐子は自らの仮説を否定するように力なく首を振る。


「いや、死んだからといって、その保証は無いか……それに、そもそも普通には死ねない」


 イリアが頷く。

「武器でなければ死なない。つまり、自殺することすら出来ない」


 桐子はヤケ気味に言う。


「そうだ。だったら、いっそのこと武器を使って自殺するのってどうだろう? あるいは、わざとい相打ちになるようにするとか?」 


 ただ、桐子は自分で提案しておいて「駄目だ、そんなの」と否定する。


 仮に武器を使って自らの命を断ったとしても、はじめからの繰り返しになってしまうかもしれないのだ。


 恐らく、このことを聞いたら皆、絶望するだろう。


 桐子は「やっぱり皆を集めて良く話し合おう」と、力なく口にした。


 桐子の言葉にイリアは力なく頷く。

「そうだね……」


 この異世界がループするのだとしたら、今のところ成す術はない。


    *    *    *


 幸い誰も追って来る気配は無い。


 後方に目を遣りながら望海が息をつく。

「ハァ、ハァ……何とか逃げ切れたようね」


 3人が走ってきた道は、雪の表面を引っ掻いたような痕跡を残している。


 梢は息を整えながらペタンと座り込む。


 ヘレンは息を切らせながら汗を拭う。

「ノウ。参ったわね……もう何が何だか……」


 モエとへそ出し乙葉の急襲にも驚かされたが、まさか、あそこで委員長の利恵まで乱入してくるとは想定外だった。


 望海が爪を噛む。

「あの戦いで納得できないことが幾つかあったわ」


 ヘレンが望海の言わんとすることを理解した。

「イエス。当たったと思った攻撃が避けられた。あるいは効かなかった」


 望海は思い出す。

「あのメガネ女の肩に斬りつけたとき……あれは防具に当たっちゃったのかも? ヘレンも防具を出せるわよね?」


「イエス。武器を奪った結果、防具と能力が付いてきたと考えるのが妥当ね」


 望海がヘレンに問いただす。

「それはそうと、アナタ、凄い避け方してなかった? 一瞬、消えたように見えたけど?」


「オウ、それはたぶん、野乃花という子の槍に付随していた能力だわ。瞬間的に移動する能力」


 望海が目を丸くする。

「瞬間移動!? だから突然、目の前に現れたのね!」


 乙葉のショットガンが望海の至近距離で発砲された際に、突然ヘレンが現れて防具の盾を銃口に押し付けて助けてくれた。


「アメイジングな力。無我夢中だったから意識して使ったわけではないけど」 


 そこで梢が不安そうに言う。

「あのショットガンの子も変な能力を使ってたよね?」


「イエス。おそらく、手を触れずに衝撃をいなすことができるんじゃないかしら?」


 望海が唸る。

「衝撃をいなす……向かってきた力をらすことができるってことか……」


 ヘレンが逆に質問する。

「玲実のグレネード・ランチャーはメガネの子が使っていたようだけど、何の能力が付属されていたの?」

 ,

 望海が悔しそうに言う。

「分からない。結局、玲実ちゃんの能力が判明する前にやられちゃったから」


 ヘレンは懸念する。

「あのグレネード・ランチャーは厄介ね」


 梢が今更のように気付く。

「バズーカじゃないんだ。あれって、グレネード・ランチャーっていうのね」


 望海は苦しそうな表情でお願いする。

「お願い、ヘレン。その銃であのメガネ女を撃って! あのメガネを倒すには狙撃するしかないわ」


 しかし、ヘレンは首を振る。

「ノウ。それは出来ない」


「何でよ! こういう時は助け合わないと! 一緒に戦った仲じゃない」


「そういう問題じゃない。やられたらやり返すのが私の主義だけど、彼女は……」


 歯切れが悪いヘレンに望海が詰め寄る。

「どうして? 自分が狙われてないから? 自分のことしか考えてないワケ?」


 望海の強い口調にヘレンが嫌悪感を示す。

「ノウ! それはユー達と利恵の問題でしょ。ミーは巻き込まれただけよ」


 望海は不満そうに言い返す。

「けど、梢が突き飛ばしてなければ、やられてたよね?」


 玄関を出た瞬間にモエの強襲を受けた時。

 そして逃げる際にトライデントで狙い撃ちされた時。

 梢の危険察知能力が無ければヘレンは無傷では済まなかったはずだ。


 それはヘレンも素直に認める。

「イエス。それは感謝してるわ。だから身体を張ってショットガンを防いだじゃない。それで借りは返したつもりよ」


 望海は抗議する。

「そんな単純なものじゃないよ! アンタのせいでアタシ達だって巻き込まれちゃったじゃない! アイツ等とは無関係だったのに」


 望海は自分が乙葉達と対立することになったのはヘレンのせいだと主張した。


 望海の言い分にヘレンが「そ、それは……」と口ごもり、背を向けた。


 梢はオロオロしながら2人の言い争いを見守っているだけだ。


 そこで望海が、やれやれといった風に首を振る。

「あのメガネ女はバケモノだよ。もう、手に負えない」


 それは望海の本音だった。


 ハンマーとトライデント。

 それだけでも強力なのに、そこに玲実のグレネード・ランチャーが加わった。

 能力のこともある。


 それに人が変わったような利恵の雰囲気。

 あれは人を殺した人間特有の邪悪さのように望海には感じられた。


 次に望海はヘレンの後姿を眺めながら考える。


 先ほどの戦いぶりを見てもヘレンは本気で相手を殺そうとしていない。

 結局、彼女はライフル銃を使わなかった。威嚇射撃の一発だけだ。


 槍の使い方にしてもそうだ。

 モエに対しては戦斧を叩き落とし、乙葉に対しても突きではなく殴ることで致命傷を避けていた。


 本当に殺す気でいたならチャンスはあったはずなのに……。


 しばらくしてヘレンが提案する。

「やっぱり、ここで別れましょう」


 それを聞いて梢が「え?」と、不安気な表情を浮かべる。


 望海は、やっぱりねといった風に無言で首を振る。


 ヘレンが続ける。

「こんな状態で協力し合うのは無理ね。それに分散した方がお互いに自分の身を守り易いわ」


 梢は涙目で頭を抱える。

 望海は唇を噛んで何か考え事をしている。


 双子からの回答が無いのでヘレンは周囲を見回して小さく溜息をつく。

「ふぅ。夜になる前に新しい家を探さ……」


 ヘレンの言葉が『ザッ!』という音に遮られた。


 そして、カクンと傾いたヘレンの頭がコロンと回って『トスッ』と積雪に落下した。


 それは一瞬の出来事でありながらスロー映像のようにも見えた。


 まるで誰かが、いたずらで丸い異物を投げ込んだみたいにも思える。


「ひっ!!」と、いう梢の悲鳴。


 何が起こったのか理解するのに数秒を要した。


 頭部を失ったヘレンの身体は、ゆっくり前のめりに『ドサッ』と倒れる。


 瞬速で振るった望海の剣によってヘレンの首はねられてしまった。


「お、お姉ちゃん!?」


 梢の呼びかけには反応せず、望海は血に濡れた剣をダラリと下げてヘレンの生首を見下ろしている。


 ヘレンの首から吹き出した大量の血。

 それはまるで、かき氷に赤のシロップをかけ過ぎた時のように雪を溶かした。


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