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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第56話 入り乱れる殺意

 双子の望海と梢は、ヘレンと一緒に行動することにした。


 できれば、委員長の利恵とは「手打ち」したい、というのが双子の意向だった。


 確かに、ぽっちゃり和佳子の死因を作ったのは、お嬢様の玲実だ。

 彼女のグレネード弾で和佳子は瀕死状態に陥ったのだ。


 しかし、その玲実は、おそらく利恵に殺されている。

 玲実を置いて逃げたので、それを見届けたわけではない。

 だが、あの状況では、そう考えるのが妥当だ。


 そうであれば、お互い様だ。

 これ以上、いがみ合う理由が無い。


 なので、万が一、利恵と接触してしまった場合は、ヘレンに仲裁に入ってもらおうということになった。


 隠れ家の玄関を出る寸前で、ヘレンが断りを入れる。

「一応、説得はしてみるけど保証はできないわよ?」


 ヘレンは、この町で調達した白のコートに斜め掛けのショルダーと荷物は少なめだ。

 だが、ライフルはしっかり持っている。


 望海が了承する。

「それでいいよ。けど、駄目だった場合はやるしかないから……」

 そう言って望海は双剣をまじまじと眺める。


 ヘレンが、やれやれといった風に首を振る。

「ミーの言うことに耳を傾けてくれるかどうか……利恵って子のメンタル次第かもね」


 望海は、やや楽観的だ。

「上手くいけば仲直りできるかも? アタシと梢は、そこまで恨まれてないはずだから」


 梢も出かける準備は終えたものの、あまり乗り気ではない。

「ねえ。説得するなら、もうちょっと待った方がいいと思わない? 頭を冷やしてからの方が良くない?」


 望海は即座に首を振る。

「だめよ。今晩、襲われたらどうするの? アンタだけ武器を持ってない状態なんだよ? 今戦うのは損よ」


「そ、そうだけど……」


「妹だから無条件で守って貰えるなんて考えないでね。それは甘えだよ」

「お姉ちゃん……」


 ヘレンが口を挟む。

「望海の言う通りね。自分の身は自分で守る。それがスタンダードよ」


 ヘレンにまでそう言われて梢がしょんぼりしたように「分かった」と、頷く。


 ヘレンが玄関の扉を開けながら言う。

「直ぐに接触できれば良いのだけど。暗くなる前に帰って来れるようにしないとね」


 ヘレンを先頭に望海、梢が続いて玄関を出る。


 と、その時、屋根の上から飛び降りてきたモエがヘレンに斬りかかった!


 梢が「危ない!」と、叫びながらヘレンを突き飛ばす。


 まさか、かわされると思っていなかったモエが「嘘やろ!?」と、着地しながら驚愕する。


 予期せぬ襲撃に望海が「な、なんで!?」と、固まる。


 ヘレンは「ぐっ!」と、呻いて体勢を立て直そうとする。

 だが、すぐ近くで『ガサッ!』という小枝が数本、折れる音が発生した。


 その方向に3人の視線が向けられる中、植込みから飛び出してきた乙葉がショットガンを撃つ。


『バン!』


 咄嗟とっさにに、右に飛んで避けるヘレン。


 乙葉は歩みを止めずに、さらに接近、ヘレンとの距離を詰める。


 ヘレンが「くっ!」と、反撃を試みるが、近すぎてライフルでは対応しきれない。


 乙葉は、「死ねっ!!」と、2発目を狙う。

 決して外さないという強い意思をもって乙葉は、銃口を出来る限りヘレンに近付けようとした。


「危ないっ!」と、ゾーンに入った望海が、目にも止まらぬスピードで乙葉のショットガンを左手の剣で跳ね上げる。


 銃身を跳ね上げられた状態で発砲してしまう乙葉。

 発砲音と「なっ!?」という乙葉の叫びが同時に生じる。


 望海は半回転しながら、なおも乙葉に斬りかかる。


 が、迷いがあった。

 乙葉に対する恨みは無い。

 あと半歩踏み出せば、深く斬り裂くことができた一撃だった。


 しかし、迷いが一振りを鈍らせた。

 雪の深さに足を取られたせいもある。


 乙葉の腹を狙った剣は浅く、乙葉のへそ付近をかすめて空を切った。


 乙葉が「うぐっ!!」と、呻く。


 飛び降りた衝撃でダメージを受けていたモエが、ヘレンへの攻撃に再度、加わる。

 モエは、靴が脱げるのも構わず雪から足を引き抜くとヘレンに突進した。


 そして素早く戦斧を振る。

 完全に間合いに入っていることを確信した。


「もろたで!!」


 だが、戦斧の刃が虚しく空を切る。

 捉えたと思ったはずのヘレンが突然、目の前から消えてしまったのだ。


 モエは目の前の出来事が信じられなかった。

「なんでや!?」


 モエが振り下した戦斧はヘレンの左半身を確実に捉えたはずだった。


 それなのに手応えが無いどころか姿まで見失ってしまった。

 まるで、触れようとした幻が目の前で消え失せてしまったかのように。


 と、次の瞬間、モエの左後方からヘレンが槍を持って突撃してきた。


 ヘレンは「ああああっ!」と、槍をバットのように振ってモエの腰を強く打った。


「ぐあっ!」と、モエが吹っ飛ばされる。


 飛ばされた勢いで、頭から雪に突っ込むモエ。


 それを見てヘレンが槍の先端をモエに向ける。


 モエが「ひっ!」と、身体をねじって起き上がろうとする。

 だが、腰の痛みで動きが鈍い。


 ヘレンは、唇を噛みながら険しい表情で数歩、踏み込む。

 槍の先端がグッと伸びてモエの手にしていた戦斧に『ガッ!』と、強く当たった。


「うぐっ!」と、モエは右手の痺れに顔を歪める。

 そして戦斧を落としてしまった。


 一方、望海の一太刀を脇腹に受けた乙葉は、ショットガンの銃身を振り回して望海に殴りかかった。

「くっそおぉおお!」


 望海は冷静にそれを避け、距離を取ろうと数歩下がる。


 そこで、乙葉が振り回していたショットガンを素早く持ち替えて射撃体勢に入る。


「あっ!?」と、望海が慌てる。

 流石にそれは距離が近すぎる。


 乙葉は顔を歪めて「死ねっ!」と引き金を引く。


『バンッ!』という銃声。


 至近距離の銃撃に望海は顔を背けて硬直した。

 だが、散弾は食らっていない。


 目を開けて「なっ!?」と、望海が驚愕する。


 なぜならヘレンの背中が目に入ったからだ。


 望海と乙葉の間に割り入ったヘレンは、腕に装着している円形の盾を乙葉の銃口に押し付けていた。


 お盆ほどの大きさの盾で銃口を塞ぐようにギリギリまで近づけることで、散弾が拡がるのを防いだのだ。


 だが、ヘレンと乙葉の間で弾けた散弾は双方に反動というダメージを与えた。


 乙葉が「くそっ!」と、距離を取りながら2発目でヘレンを狙う。


 そうはさせまいとヘレンはもう一度、痣をタップして槍を取り出しながら間合いを詰める。


『バンッ!』


 2発目の散弾が炸裂した。


 が、ヘレンの姿は無い。


 乙葉は驚愕する。

「外した!? この距離で!?」


 そこで乙葉の背後に回ったヘレンが槍を乙葉の肩口に振り下した。


「いつっ!」と、乙葉の片膝が落ちる。


 振り返りながら乙葉が「いつの間に!?」と、目を剥く。


 ヘレンの槍による2撃目が乙葉の側頭部を狙う。

 防御しようと手をかざす乙葉。


 と、その時、乙葉の手に触れた槍の軌道が大きく流れた。

 まるでアウトコースのボール球に手を出してしまった打者のようにヘレンが空振りする。


「ホワット!?」


 まるで無理やり力の方向を変えられたような感覚にヘレンが驚く。


 乙葉は反撃しようとヘレンを睨むが、最初に肩に喰らった槍の打撃ダメージが大きい。

 肩口が痛むのでショットガンを持つ右腕が上がらない。


 ヘレンが、さらにショットガンを叩き落とそうという狙いで槍をコンパクトに振る。


 それを迎え入れるように乙葉が左手を槍の軌道に合わせる。

 そして横に払った。


 すると乙葉の手の動きに合わせて槍の軌道がクンと変わった。


 そのせいでヘレンの体勢も崩れる。

「ノウ!」


 またしても攻撃がスカされた。

 槍に触れていないのに軌道を変えられてしまった。


 それが乙葉の能力だとヘレンは気付いた。


「アンビリーバブル……」


 そこに『ズガーン!』という爆発音と共に爆風が近くで発生して、ヘレン、乙葉、望海がなぎ倒される。


 さらに屋根に溜まっていた雪が、ドサドサっと大量に落ちてくる。


 爆発の直撃は免れたものの、ヘレンは何が起こったのか把握できずに、うつ伏せの状態で顔を引きつらせる。


 仰向けに倒れた乙葉は、雪の冷たさと傷の痛みに顔を顰めながら起き上がろうとする。


 顔から雪に突っ伏してしまった望海は何とか顔を上げて顔面から雪を払う。


 最初に気付いたのはモエだった。

「り、利恵やんか!」


 モエが注視する方向に目を遣った梢が「きゃっ!」と悲鳴をあげる。


 2人の反応に気付いた望海が、モエ達の見ている方向に顔を向ける。

「あ! あのクソメガネ!」


 5人が入り乱れる場所から通りを隔てて20メートルほど離れた位置で利恵がグレネード・ランチャーを構えている。


「ホワット? 今のは!?」と、ヘレンも今の爆発が利恵の攻撃だと理解する。


 望海の顔色が変わる。

「まずい! 逃げないと!」


 望海は足元の双剣を拾いあげると固まる梢を「早くっ!」と急かした。


 そしてヘレンの手を引いて「アンタも来て!」と起き上がらせる。


 屋根から大量に落ちてきた雪のせいで玄関付近は真新しい凹凸ができていた。


 望海はそれを踏み越えて通りに出ようとする。

 その目に、こちらに向かって来る利恵の姿が写る。


 利恵はハンマーを持って一直線に走ってくる。


 そこでヘレンが「ノウ!」と、叫びながらライフルを発砲する。


 それは利恵の進行方向手前に着弾し、利恵の勢いを削がせた。


 乙葉が望海達が逃げようとするのに気付いてショットガンを探す。

 だが、落ちてきた雪に埋まってしまったそれは簡単には見つからない。


「くそっ!」と、乙葉がイラつきながらショットガンを探す間に、望海と梢、ヘレンの後姿が遠ざかる。


 利恵は立ち止まって胸の辺りをタップする。


 そして、その動作で『ポムッ!』と、出現させたトライデントを、やり投げの要領で放る。


 風を切って飛ぶトライデントが放物線を描いてヘレンの背中に迫る。


 梢が走りながら「危ないっ!」と、ヘレンを横に押す。


 そこにトライデントが到達して間一髪、ヘレンが直撃を免れる。


 ヘレンは一瞬だけ振り返って利恵を睨みつけるが、直ぐに前方に向き直って走り出す。


 委員長の利恵は、忌々しそうに望海達の後ろ姿を眺めながら、ゆっくりとモエと乙葉に近付いた。


 モエが安堵の表情で「助かった……」と、座り込む。


 ようやくショットガンを雪から引き抜いた乙葉が、雪を払いながら悔しがる。

「あいつら……くそっ」


 利恵に遅れてボウガンを持った姉御の愛衣が合流する。


 愛衣は踏み荒らされた玄関回りと乙葉の流した血を見回しながら「何て事を……」と首を振る。


 モエが、ヨロヨロと立ち上がりながら利恵に礼を言う。

「すまんな。おかげで助かったわ」


 だが、利恵はニコリともせずモエの顔を一瞥しただけだった。


 代わりに愛衣が尋ねる。

「これは……どういう状況なの?」


「ああ……うちらはヘレンに復讐しようとしたんや。偶然、足跡を見つけてん。けど、まさかあの性悪な双子と組んどったとはな。想定外や」


 モエは簡単に経緯を説明した。


 愛衣は眉間に皺を寄せてモエの話を黙って聞いた。


 一方の利恵は聞いているのか、いないのか分からない。

 憮然とした表情で突っ立っている。


 脇腹の傷を押さえながら乙葉が落ち着きを取り戻す。

「ヘレンは野乃花の仇、イリアは詩織の仇。どっちも憎い」


 乙葉の言葉に利恵がメガネの下でピクリと眉を動かす。

「いいんじゃない。気が済むまでやれば」


 それは以前の利恵からは考えられないぐらい冷たい口調だった。


 それに優等生ぶっていた頃の利恵しか知らないモエと乙葉にとっては意外な台詞だと思われた。


 モエが呆れたように言う。

「利恵……あんた、変わったな。なんか感じが全然ちゃうわ」


 それが素直な感想だった。

 口調といい、表情といい、利恵は別人のようになってしまった。

 

 それは乙葉の変化以上に衝撃的なものだ。


 愛衣が2人に提案する。

「2人ともこの町に着いたばかりなんでしょ? 今日は私達のアジトに来て休んだらどう?」


 モエと乙葉は顔を見合わせる。

 そして同時にコクリと頷いた。


 それを見ても利恵は何も言わなかった。


 ただ、その横顔には冷徹な決意を秘めているように2人には見えた。


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