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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第52話 コの字型作戦

 望海が汗を拭いながら満足気な表情を浮かべる。


「ふう。思ったより重労働だったわね」


 梢は、ぐったりした様子で恨めしげに姉を見上げる。


「もうクタクタだよ。お姉ちゃん人使い荒すぎ」


 お嬢様の玲実も汗だくになりながら大きく息をつく。

 こんなにキツい肉体労働なんて初めての体験だ。


 望海はぐるりと駐車場を眺めて頷く。

「うん。これでよし。みんなお疲れ様。さて、じゃあ昼食にしよっか」


 望海の提案で3人は昼食を兼ねて近くの民家で休憩した。


 久しぶりに身体を動かしたせいか、お腹が膨れたところで3人とも小一時間ほど眠ってしまった。


 そして目が覚めたところで早速、行動に移る。


 各々の武器を持って町に繰り出す。


 3人は仕込みの終わったコの字型の建物を起点に、しばらく町の中心部に向かって歩いた。


 やはり町は静まり返っていて、たまに積雪が崩れる音が、やたら大げさに聞こえた。


 雪に埋もれた無人の町は誰も雪かきをしないので、より自然界に近いように見える。


 あらゆる建造物は、まるで大量のペンキを頭から浴びたみたいに白一色で押し潰され、輪郭が一様に失われている。


 望海が「この辺りでいっか」と、周囲を見回す。


 そこで玲実が小さく頷く。


 望海が3階建ての建物を指差して言う。

「ね。あの看板を狙ってみて」


 望海が指定したのはロシア語で書かれた看板だ。


 望海が「どう? 狙える?」と、玲実に視線を送る。


「分かった。やってみるわ」

 玲実はそう答えてからグレネード・ランチャーを撃つ体勢に入った。


 腰を落として身体の重心を下げる。

 小脇に抱えるグレネードの本体を調整して、砲身をやや上に向ける。


 そして、引き金に指をかける。


『バシュッ!』と、グレネード弾が発射され、弾が軌跡を残して飛んだ。


 着弾地点は、狙った箇所からやや外れたが『バーン!』と、看板の近辺で爆発が生じた。


 相変わらずの轟音に梢が両手で耳を塞ぐ。


 望海が「うへぇ、やっぱ凄いよい威力だね」と、首を竦める。


 撃った本人である玲実も発射した時の姿勢のまま、硬直している。


 望海がニヤリと笑う。

「けど、これぐらい派手な方がいいわ」


 玲実は、無言で強張った表情を見せる。


 望海は走り出した。

 そして振り返って玲実に指示を出す。

「次が撃てるようになったら、もう一回ね」


 それを聞いて玲実がコクリと頷く。


 二人を追うように梢も緊張したような面持ちで移動を始めた。


 望海の作戦はこうだ。


 まずは玲実のグレネード・ランチャーで無差別に、あちこちを攻撃する。

 爆発音を響かせて敵の注意を引き付けるのだ。


 望海は先行して偵察する役目だ。

 そして敵を発見したら接触して、わざと追ってくるよう仕向ける。


 その際には交戦も辞さない。


 望海は足に自信があったので追いつかれる心配はない。

 なので、敵を誘導してコの字型の建物に誘い込むのだ。


 しかし、そう簡単にはいかなかった。


 望海は少しずつ町の中心に移動しては、少し離れて玲実がそれに続く。


 望海が合図を送って玲実がグレネード弾を放つ。


 それを何度か繰り返したが、まるで反応が無い。


 望海が首を傾げる。

「おっかしいなあ。何で誰も出てこないんだろ? 警戒されてるのかなぁ」 


 どれぐらいそれを続けただろうか。


 作戦失敗かと諦めかけた時だった。


 ようやく望海の視界に動く物が目に入った。


「きたかな!?」


 そこで望海は曲がり角まで戻り、様子を伺う。


 そして慎重に前進して、さらに前方を注視した。


 ゆっくり音をたてないように歩いてはいるつもりだが、足元で沈む雪の音は消しようがない。

 と、そこで望海の足が止まった。


 望海が「ひっ!」と、驚きの声を漏らす。


 なぜなら、無人と思われた通りの脇に委員長の利恵の姿を見つけたからだ。


 その距離は2メートルも無い。


 どうやら利恵の方が先に望海を発見していて、待ち伏せをしていたらしい。


 思ったより近い位置で利恵と鉢合わせしたので、望海は「な、な、なんで!?」と、腰を抜かしそうになった。


 利恵はハンマーを片手で持ちながら低い声で問う。


「どういうつもり?」


 利恵の迫力に気圧けおされて望海の足が震える。

「あ、あ……」


 メガネの利恵は周囲を見回して言う。

「ミエミエなのよね。どうせその辺に仲間が隠れてるんでしょ?」


 動揺を悟られないよう、望海は意地悪そうな顔つきで挑発する。

「……人殺し」


 それを言われて利恵が「なっ!?」と、目を見開く。


「よく平気でいられるよね? 仲間を殺しておいて」


 望海は利恵がぽっちゃり和佳子に止めをさしたと考えている。

 なので、カマをかけたのだ。


 望海に煽られて利恵は「な、何ですって!?」と、目を吊り上げてハンマーを構える。


 望海は警戒しながら、なおも挑発を繰り返す。


「真面目なフリして殺人鬼? 怖い、怖い」


「黙って! それ以上、言うなら……」


れんの? アンタに」


「黙れっ!」と、利恵がハンマーを振り上げて威嚇いかくする。


 望海はジリジリと後退しながらハンマーの動きを注視している。


 利恵はギリリと歯を食いしばりハンマーを振り下すかどうか思慮している。


 それはチキンレースだった。


 一触即発、先に動いた方が負けのような空気が張り詰めている。


 利恵はいつでもハンマーを振り下す準備ができている。


 望海は後ろ手に双剣を忍ばせている。


 望海が小さく叫ぶ。

「偽善者!」


 それがトリガーになった。

 その言葉は利恵にとってタブーだ。


 利恵が「あああっ!」と、ジャンプで距離を詰めながらハンマーを振り下す。


 そこで望海がその軌道を見切ってハンマーを避ける。


 ハンマーのヘッドは『ドゴン!!』と雪を押しつぶし、地面を打ち砕く。

 それは、相手をねじ伏せるような打力だ


 その威力を目の当たりにして望海が顔を歪める。

 そして叫ぶ。

「玲実ちゃん! 逃げて!」


 利恵は続けてハンマーによるショートレンジの打撃を繰り出した。

 そこで望海のクイックな動きが発動した。


 望海の驚異的なスピードはハンマーの動きを上回る。

 あまりの俊敏さに利恵は、まったく付いていけない。


 望海はハンマーヘッドをかいくぐって接近すると「貰った!」と、利恵の肩口に右の剣を振り下す。


 だが、『ガキン!』と、刃の動きが妨げられる。


「なっ!?」と、望海が驚愕する。


 剣から伝わる痺れを意識しながら「クッ!」と、半回転して、今度は左の剣で下から斜め上に斬り上げる。


 だが、剣先は利恵の頬をかすめて空を切った。


 利恵はスウェーバックの要領で剣の軌道をいなすと同時にカウンター気味にハンマーを横に振る。


 それを望海が腰を引いてわす。


 そして空振りでガラ空きになった利恵の脇腹を蹴る。


 それを食らった利恵が「きゃっ」と、バランスを大きく崩して転倒した。


 だが、利恵は「このっ!」と、直ぐに立ち上がる。


 望海は利恵に背を向けてダッシュする。

「どうなってんのよう!」と、望海は走りながら原因を考えた。


 訳が分からない。

 確かにこの剣で利恵の肩口を狙って斬ったはずなのに、ダメージが与えられなかった。


 望海は、利恵が追撃してくるまでに自慢の脚力で距離を稼ぐ。


 その時、『ヒュッ』と、トライデントが真横を追い越して『ザンッ!』と前方に刺さった。

 それは望海の進行方向を塞ごうとしている。


「やっぱり!」と、望海が振り返る。


 それは利恵が投げたものだと理解する。


 望海の推理は当たっていた。

 やはり利恵は、ぽっちゃり和佳子のトライデントを自分のものにしている。


 望海は利恵が追って来るように離れ過ぎず、追いつかれない程度に目的地へ向かって走った。


 そしてその目論見通もくろみどおり、利恵は望海を執拗に追いかけてくる。


 ちょうどコの字型の建物の手前で、望海が先に逃げた玲実に追いついた。


「玲実ちゃん、隠れて!」


 望海の指示で予定通り、玲実が駐車場の入口付近の車の陰に隠れる。

 山のような雪を纏った車は格好の隠れ場になるのだ。


 続いて望海は利恵が追って来るのを確認した。

 そして利恵に自らの姿を見せつけてから、彼女の死角に入るように建物の陰に身を隠した。


 望海を追ってきた利恵は息があがっていた。

 深い雪のせいで足は重い。


 それでも望海達の足跡を辿りながら必死に食らいついていく。

 復讐心が利恵を駆り立てていた。


 望海の姿が見えた建物の角を曲がる。

 しかし、その姿は見えない。

 どこかに隠れたのだろうと利恵は推察する。


 駐車場があって、それを建物がコの字型に囲んでいる。


「どこ!?」と、利恵は目を凝らす。


 と、そこに奥の建物の入口近くに望海の姿を発見した。


「いた!」


 利恵はその方向へ移動しながら痣をタップしてトライデントを出す。


 それを空中でキャッチして流れるような動作で投げる!


 トライデントが物凄い勢いで建物の玄関口に一直線で飛んでいき『ガコッ!』と、壁に刺さった。


 相手は驚きながらも慌てて玄関口から建物の中に引っ込んだ。


 それを利恵がハンマーを片手に追う。

「逃がさない!」


 駐車場にできた一本道を走る。

 足跡はひとり分。玄関口まで一直線に伸びている。


 と、その時、利恵の背後から望海が現れた!


 望海は、携帯用タンクのガソリンを派手にいた。

 そして、十分に距離をとると、火炎瓶に火を点けてそれを放った。


 次の瞬間、投げ入れた火炎瓶が『ボン!』と爆発して、駐車場の入り口付近が燃え上がった。


 玄関口に向かっていた利恵がその音に気付いた。

 彼女は、立ち止まって振り返る。


 その目に一瞬、望海の姿が目に映る。


「えっ!?」

 玄関口から建物内に逃げ込んだはずの望海がそこに居ることが信じられなかった。

 しかも、ガソリンを撒いて火を点けるなどという恐ろしいことをしている。


「しまった!」と、利恵は焦る。


 来た道は火の海だ。

 められたと悟った利恵は、止む無く玄関口に向かう。


 だが、そこも燃えている。

「な!?」 


 いつの間にか玄関口の辺りからも激しい炎が立ち上っている。


 ちょうど利恵を挟むように前後が炎と黒煙の壁で塞がれてしまった。

 一本道の真ん中で立ち往生する利恵。


 望海が叫ぶ。

「撃って! 玲実ちゃん!」


 利恵の立ち位置を狙って、玲実のグレネードが放たれる。


『バーン!』という破裂音が利恵の近くで発生した。


 その爆発で引火した車がさらに激しく燃えだして、爆発音があちこちで生じる。


 それは望海達が仕掛けた罠だった。


 望海は近辺の民家から集めたガソリンのミニタンクを駐車場のあちこちに埋めておいたのだ。


 雪に埋まったそれらが次々に誘爆して、あっという間に駐車場は火の海に包まれた。


 駐車場内は、まるで燃料を過剰にぶち込まれた焼却炉のように激しく燃え盛った。


 黒煙は逃げ場を求めて我先に上に向かう。


 うねった炎は、まるで叩き起こされた獰猛な生き物のように猛り狂い、絡み合いながら不規則な渦となって溢れ出した。


 猛烈な音と熱に圧倒されながら望海は確信した。


「ザマア! これでくたばったでしょ! メガネ女め!」


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