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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第40話 詩織とモエ

 モエは、寝起き特有の頭の重さに辟易へきえきした。


「つっ……」 


 頭がクラクラする。

 どれぐらい寝ていたのか見当もつかない。


 窓の周辺を見る限り夜ではなさそうだ。


 この隠れ家が位置する森の奥は、いつも薄暗く静まり返っていて、まるで時が止まっているように感じられる。


 木製の古びたベッドは湿っぽい。

 酷い寝汗で身体が冷え切っていた。


「みんな……」と、モエは上体を起こした。


 モエの隣では乙葉が寝息を立てている。


 だが、詩織の姿が無い。

 その代りに良い匂いがする。


 食欲を呼び起こす香りにモエのお腹が鳴った。


 匂いのする方向に自然と足が向かう。


 壁一枚を隔てただけの隣室は食事ができるテーブルと簡素な料理台しかない。


 モエは料理台に向かう人物の後姿うしろすがたに声を掛ける。

「詩織?」


 モエに名前を呼ばれて詩織が振り返る。

「あ……お、お、起きたの」


 相変わらず、どもってしまう詩織だったが、その笑顔はごく自然なものだった。


「この匂い。何か作っとん?」


「う、うん。ぞ、雑炊をね。お腹空いてるだろうと思って」


 どうやら詩織は先に起きて食事の用意をしてくれていたようだ。


 詩織の勧めでモエは早速、頂くことにした。


 旅館から持ってきたお椀に盛られた雑炊を「熱っ!」と、首を竦めながら最初の一口を頬張る。


 そして目を輝かせる。

「うん。美味い! イケるで。詩織、やるやん!」


「た、たいしたことないよ。それに、あ、有りあわせだし」


 モエ達が南風荘から持ち出した食料は缶詰や袋ラーメンなど日持ちのするものばかりだった。

 それも大半は消費してしまった。


 そんな中で残り少ない食料をやりくりして、こんなに美味しい雑炊が出てきたことにモエは感心した。


「いや。あるもんだけでこういう味が出せるんや。ホンマ大したもんやで。詩織は、ええお嫁さんになれるわ」


「い、いやだ。そんな。そ、そんなの、まだまだ先だよ……」

 そう言って詩織は赤くなる。


 そんな詩織を見るモエは何か言いたそうにニヤニヤしている。


 詩織はモエの視線に気付いて余計に照れる。

「お、お、おかわり、あるよ」


「おう。貰うわ」と、モエが空になったお椀をグイと突き出す。


 それを受け取って詩織が雑炊をよそって返す。


 と、その時、モエが「あれ?」と、詩織の傷だらけの手に気が付く。

「詩織。どしたん? その手」


 詩織が慌てて手を引っ込める。

「な、な、なんでもないよ……」


「いや。傷だらけやんか。まさか料理する時……いや違うな」


 モエの表情が曇る。


 そして周囲を見回して、調理台の端っこにある武器に目を留めた。

 それは詩織専用の武器である鎖鎌だ。


 鎌と重りが鎖で繋がれた忍者の武器のような鎖鎌。

 それが詩織の武器だった。


 モエは席を立ち、鎖鎌に手を伸ばす。

「ひょっとしてウチらが寝とった間に特訓しとったんか?」


「ん……ちょ、ちょっとね」


 詩織は、そう言葉を濁すが、鎌の持ち手には彼女の血と思われるものが付着している。


 おそらく、手に肉刺まめができるぐらい使い方を練習したのだろう。


「詩織。なんで急に武器なんか……」

 モエはそこまで口にして次の言葉を飲み込んだ。


 詩織には彼女なりの思いがあるのだろう。

 それをおもんばかってモエはそれ以上、追及しなかった。


 そこで急に会話が途切れてしまった。


 少し気まずくなってしまったのでモエが話題を変える。

「ところで、詩織は何で読者モデルやってるんや?」


 この撮影旅行に参加している子たちはモエも含めて、皆、とある雑誌の読者モデルをしている。


 モエがいきなり予想外の質問をしてきたので詩織が戸惑う。

「え? そ、そ、それは……」


「いや、気い悪くしたらゴメンな。その、何ていうかな。詩織は人前に出るの好きそうじゃないやん」


 モエの指摘に詩織はうつむいた。

 そしてポツリと呟く。

「変えたかったから……」


「え? 変えるて何を?」


「じ……じ、自分を変えたかったから」


 思っていたのと違う回答にモエがリアクションに困る。

「そ、そうなんか」


 詩織は半べそをかいた後のような笑顔で告白する。

「わ、私……コミュ障なんだよね。学校にもあんまり行ってない」


 モエはあぐらをかいて、バツが悪そうに頭を掻く。

「そうなんか……そりゃ、ヘビーやな」


 詩織は珍しく言いたいことを口にする。

「そ、そんな自分が嫌だったの。だ、だから変わりたいって……いつも思ってる」


 詩織は自分がコミュニケーション障害だという。


 それを直すために人前に出る読者モデルに挑戦するのは一種のショック療法なのかもしれない。


「なるほどな。それで応募したんやな」


「う、うん。でも、せ、性格なんて、そう簡単には変わらないよね。だから今も……しょ、正直、苦しい。自分でも無理してるって分かる」


 自分を変えたいと願う人間は少なくない。

 だが、その為に努力している者はきっと少数派だ。


 モエは「見直したで……」と、正直に感じたことを口にした。


 詩織は笑顔で首を振りながら言う。

「そ、そんな大したことじゃないよ。そ、そういうモエちゃんは、何で読者モデルに応募したの?」


「へ? ああ……ウチか。ウチは、お金の為や」

「お金? そ、そうなんだ」


「せや。自分で金を稼ぐにはコレしかないやろ。中学生じゃバイトできひんし」

「お、お金かぁ。でも、そ、そんなに稼げないよね」


「ええねん。丸一日、拘束されて三千円でも十分や。小遣い程度でも自分で稼いだことに意味があるねん。それにな。ホンマは色んな服、着させて貰えるのが嬉しいんや」


 モエはそう言って少し照れた表情を見せる。


「そ、そっか。ただでお洒落できるもんね。ファ、ファッションの勉強にもなるし」


「まあ、お洒落したところで、こんな胸の無い色黒女、誰が見んねんて話なんやけどな」

 そう言ってモエは苦笑いを浮かべる。


「そ、そんなことないよ。モエちゃん、スリムだし顔も可愛いし。ハーフみたいだよ」


「ハーフって、そんな、フィリピン系とか言われたことはあるけどな」


 モエはそんな風に言うが、確かに彼女は目鼻立ちがすっきりしていて整った顔立ちをしている。

 それに東南アジア系というよりは中東辺りの血が混じっているような雰囲気がある。


 モエはしんみりした口調で心情を吐露とろする。


「ウチ、大家族の末っ子やねん。そのせいで昔から服は姉ちゃんの『お古』ばっかりや。けど、それは仕方ない。貧乏やしな。せやから、次から次へと新しい服を着れるのは純粋に楽しいねん。しょうもないことかもしれへんけどな……」


 そんな寂しそうなモエの表情を見て詩織が言葉を飲む。

 上手い言葉が出てこない。

 どう反応して良いか分からず詩織は「モエちゃん……」と、涙ぐむ。


 モエは詩織に向かって微笑む。

「ウチ、この仕事好きやで。ホンマに嬉しいねん。恥ずかしい話やけど」


「ううん。そんなことない。き、気持ちは分かるよ」


「そういう意味では幸運やったんやな。ウチみたいなダサい子がスカウトされるなんてな。ホンマ『ヒキカゼ』のおっちゃんには感謝せなアカンわ」


「ひ、ヒキカゼって、スカウトの『引風ひきかぜ』さん? わ、私も一緒だわ」


「そうなん? そっか。あのおっちゃん、全国、飛び回っとる言うとったもんなあ」


 2人をスカウトした人間が同じだったことで盛り上がっているところに目を覚ました乙葉が「おはよ……」と、やってきた。


「お、やっと起きたか。いうてもウチもさっきまで寝てたんやけどな」

 そう言ってモエは笑顔で乙葉を迎える。


 だが、乙葉は眠そうに目をこすりながら無言でテーブルの前についた。


「お、乙葉ちゃんも食べる? ぞ、雑炊作ったんだ」


 詩織の言葉に乙葉は表情を変えずコクリと頷いた。


 寝起きなので仕方が無いのかもしれないが、愛想の無い乙葉の態度にモエが少しイラッとする。


 気の弱い詩織は、そんな空気を察してか甲斐甲斐しく乙葉に雑炊を提供した。


 だが、乙葉は相変わらず無反応で態度が悪い。


 おまけに立て続けに3回おかわりをした。

 その食べっぷりに驚きつつ、モエが心配する。


「せや、詩織は? ちゃんと食べたんか?」


「わ、私はいいの。あ、味見でお腹いっぱいになったから……」


 詩織は笑顔でそう答えるが、まさか乙葉がこんなに食べるとは思っていなかったのではないだろうか。

 恐らく、足りなかったと思われる。


 詩織は気を遣って自分の分が無くなってしまっても嫌な顔を見せないだけなのだろう。

 そう思ってモエは雑炊をかきこむ乙葉の様子を苦々しそうに見つめた。


 それと同時に、どうしても得体の知れない違和感が拭いきれずに気が滅入った。

 それほどまでに乙葉の変貌へんぼうは明らかだった。


 以前の彼女は丈の短いセーラー服から『おへそ』が出ても気にしない明るいキャラだった。

 そして、自虐的な田舎者ネタで周りを笑いに誘い、また自らも良く笑う子だった。


 そんな彼女が野乃花の死を境に、まるで人格が変わってしまった。


 口数は極端に減り、モエ達に対する態度も言葉も素っ気ない。


 それに何より、あれ以来、笑顔を見せていない……。


 モエは乙葉の食事が、ひと段落するのを待った。

 そして切り出す。


「もうお昼やな。今日は温泉入ってグダグダするにしても、明日からどうしよ?」


 モエ自身、具体的なプランがあるわけではない。

 詩織もその点について意見は無いようだ。


 すると乙葉が唐突に口を開いた。

「決まってるでしょ。探しに行くの」


 野乃花の遺体が消失した場所から引き上げる際に、漠然とではあるが決めたことがある。


 それはヘレンを追って復讐すること。


 それと同時に消えた野乃花の遺体を見つけだすことだった。


 どちらもあまり気の進むものではない。


 あれから時間が経ってしまったこともあって、モエと詩織は遺体を探すというモチベーションが下がっていた。


 しかし、乙葉は力強く宣言する。

「準備出来たら出るわよ。グズグズしてらんない」


 乙葉は急にやる気モードに入っている。


 モエが反対の意を示す。


「ちょっと待てや。別に明日からでもええんやないか? やみくもに探しても野乃花の死体は見つからへんで?」


 詩織も同意する。

「そ、そうだよ。ちゃ、ちゃんと原因を探らないと」


 しかし、モエと詩織の言葉に対して乙葉が冷たい視線を返す。

「ダメ。そんな余裕はない」


「せやかて……」と、言いかけてモエが目を見開く。


 なぜなら乙葉の顔は真剣を通り越して、覚悟を決めた侍のような殺気が漂っていたからだ。


 乙葉は、すっくと立ち上がって顎を上げる。

「ルートは決めてあるの。砂漠を通って左方向に進むわ!」


 そこで詩織が首を傾げる。

「ひ、左って……雪景色が見えたって方角?」


 詩織は初めの頃に山登りをしたメンバーの報告を思い出していた。


 山から見下ろした景色が境界線を挟んで冬と夏に分かれていたこと。

 そのことから地図の左上部分は雪に覆われているのではないかと予想されていた。


 とはいえ、比較的早い段階で別行動をとることになったモエ達にとって、その場所は未知の領域だった。


 あの後で誰かがそこを訪れたのかもしれないが、その情報は持っていない。


 モエも乙葉の方針に疑問をていする。

「けど、なんでそっちなん?」


 モエの質問に対して乙葉が断言する。

「あの女、ヘレンを追うため。あの女は食料を求めて、ここに向かったはずよ」


 それを聞いてモエと詩織が顔を見合わせる。


 それに構わず乙葉が続ける。


「左の方には恐らく町があるはず。例の地図では建物が四角形で書かれてたでしょ? それが幾つも書き込まれているってことは最初の港町なんかよりも建物が密集してる可能性が高いわ」


 確かに乙葉の推測は正しいもののように聞こえる。


 だが、ヘレンが乙葉の予測するような動きをするかは未知数だった。



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