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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第4話 最初の犠牲者

<2日目>

 朝日を浴びる『南風荘』の外観は、のどかな港町の風情を漂わせていた。


 その2階からパジャマ姿の黒髪セミロング詩織が眠そうに階段を下りてくる。


 詩織は水を飲もうと厨房に入ろうとした。

「あれ?」


 何かの匂いに気付いて詩織が周囲を見回す。


 すると、姉御肌の愛衣がテーブルで文庫本を読んでいるのが目に入った。


 テーブルの上にはドリップ中のコーヒーが湯気を立てている。


愛衣が詩織に気付いて顔を上げる。

「あら、おはよう」


「あ、お、おはよう。起きてたんだ」


「早く目がさめちゃったのよ。よかったらコーヒーどう?」


「あ、あ、ありがとう」


 不揃ふぞろいのカップが二つ。湯気はもう立っていない。


 それを挟んで愛衣と詩織がテーブルで向き合う。


「な、なんだか悪いよね」


 詩織が申し訳なさそうにそう言うのを聞いて愛衣が「なにが?」と、首を傾げる。


「こ、この民宿。か、か、勝手に泊まったり、食料を貰っちゃたりして」


「仕方ないんじゃない。不可抗力ふかこうりょくだし、島には誰も居ないんだから」


「後でお金払ったら許して貰えるかな?」


「さあ? 少なくとも文句言う人はいないわよ」 


 詩織は長い黒髪が跳ねた箇所を手で撫でつけながらうつむく。

「そ、そ、それにしても大変なことになっちゃったね」


「そうね」


「きょ、今日はみんなで手分けして、もう少しこの辺りを調べて……」

 詩織がそう呟いた時だった。


 そこに誰かの「ギャァァ!!」という悲鳴が聞こえてきた。


「な、な、なんなの!?」と、詩織が大きな瞳をさらに大きくする。


 愛衣も「なにごと?」と、表情を曇らせる。


 愛衣と詩織が同時に立ち上がった。


「2階だわ!」と、愛衣が険しい顔で断言する。


 走り出す愛衣に詩織が慌てて付いていく。


 食堂を突っ切り、階段を駆け上がり、2階の廊下に到達する。


 すると眼鏡っ子委員長の利恵が寝ぼけまなこで部屋から顔を出していた。

「何事なの? 奥の部屋かな?」


 別な部屋からジャージ姿のモエが出てくる。

「誰やねん。朝っぱらから。目え覚めてしもたやん」


 愛衣と詩織が、それを押しのけるようにして奥の部屋に向かう。


 2階の客室は6つ。一番奥の『竹の間』の扉を愛衣が乱暴に開ける。


 次いで室内の様子を確認した詩織の目が見開かれる。


「ひっ!!」と、固まる詩織。


「キャァ!!」と、悲鳴をあげる愛衣。


 2人の視線の先には血の海。


 そして、その中心には出窓にもたれかかる敏美の無残な姿があった。


 彼女の目は半開きで首から血が激しく噴き出している。

「ど、ど、どうしよっ!?」と、詩織がパニックに陥る。


 2人に付いてきたモエが詩織と愛衣の後ろで仰天ぎょうてんする。

「うげっ!! なんやこれ!?」


 愛衣が室内に駆け込む。

「敏美! 敏美!」


 遅れて竹の間にやってきた委員長の利恵が立ちすくむ。

「な、なに……嘘でしょ!」


 騒ぎに気付いた少女達が、ぞくぞくと集まってくる。


 室内では愛衣が敏美の身体を揺すっている。


 敏美は口をパクパクさせるが声が出ていない。


「え? なんだって?」と、愛衣が自らの顔を敏美の口元に寄せて聞き取ろうとする。


 敏美の口は辛うじて動いている。

 だが、言葉は判別できない。


 敏美の首から吹き出す血の勢いが弱まる。


 委員長の利恵が狼狽うろたえる。

「きゅ、救急車? 医者? なんとかしなきゃ!」


 その間に敏美がガックリと首を垂れる。

 愛衣がそれを抱きかかえて「敏美ィ!!」と、号泣する。


 もはや手遅れであることは誰の目にも明らかだった。


 仰向けになった敏美の血まみれの死体。


 その頭を抱えていた愛衣が、ゆらりと立ち上がり皆を睨む。

 彼女の古臭いセーラー服は血まみれだ。


「……誰? ……誰がやったの?」


 愛衣の問いに利恵とモエが驚愕する。

 利恵が「え? ちょっと……」と、後ずさりする。


 愛衣は一歩前に出て声をあららげる。

「誰なの! 誰がこんな酷いことを!」


 モエが強張った表情で答える。

「し、知らんがな! アンタが一緒におったんちゃうん。先輩後輩なんやろ?」


 利恵も眼鏡の位置を直しながら指摘する。

「確か部屋も同室だったはず……」


 詩織がモエと利恵に愛衣のアリバイを説明する。

「う、ううん。愛衣さんはさっきまで、わ、私と1階にいたから……」


 姉御肌の愛衣が、きりっとした目で入口の面々を睨みつける。

「この中の誰かでしょ! だってホラ!」


 愛衣は閉まっている窓を示す。窓は閉まっている。

 愛衣は断言する。

「つまり2階にいた誰かよ!」


 モエが戸惑う。

「ちょ……ウチ、熟睡してたんやけど」


 双子の望海と梢、グラマー野乃花、ツインテール桐子が騒ぎを聞きつけて集まってきた。


「なになに? なんの騒ぎ?」と、室内を見た桐子がぎょっとする。


 野乃花も同様に「ヒッ!」と短い悲鳴を上げて固まる。


 入口の面々に向かって厳しい視線を向ける愛衣。


 委員長の利恵が恐る恐る声を掛ける。 

「落ち着いて愛衣さん。とにかく警察を呼ぶから……」


 そう言い残して利恵は部屋を出て1階に向かった。


 それぞれの部屋から顔を出した少女達は怪訝けげんな顔で事の成り行きを見守っていた……。


    *   *   *


 昨夜と同様に1階の『松の間』で輪になって座る少女達は、一様に厳しい表情で黙り込んでいた。


 委員長タイプの利恵はポニーテールを揺らせながら目を伏せた。

「結局……どの民宿も電話は繋がらなかったのね」


 ぽっちゃり和佳子がスナック菓子の袋に手を突っ込んだまま困ったような顔をする。

「うん……警察、呼べないね」


 金髪ヘレンが、お手上げのゼスチャーで首を振る。

「ジーザス。ミー達は完全に孤立してるってことね」


 お嬢様の玲実は立ち上がって怒りをぶちまける。

「てか、異常すぎでしょ! 何なの? これが企画だっていうの?」


「うるさいなぁ。そんな訳ないやん。人が死んでるんやで」


 そう言ったモエを玲実が睨む。

「分かってるわよ! それくらい!」


 ぽっちゃり和佳子が「ああ、もう頭おかしくなりそう」と、言う途中でお腹が『グゥ』と鳴って赤面する。


 ヘレンが腕組みしながら冷めた目で一同を見る。

「問題は……誰がったかより、何の凶器で殺ったか、だよね」


 その言葉に、へそ出し乙葉とグラマー野乃花が、びくっとする。

「凶器って……」と、乙葉の顔が歪む。


 詩織がビビリながら言う。

「ここ、こ、怖いこと言わないでよ。こ、こ、この中の誰が、そんなことするっていうの?」


 しかし、ヘレンは冷静な顔つきで答える。

「だって1階の玄関。カギは閉まってたんでしょ?」


 その問いにイリアと智世が頷く。


 イリアが報告する。

「寝る前に私たち2人で見て回ったから間違いないわ」


 智世は相変わらずスケッチブックをしっかり抱えている。


 それを受けてヘレンは推測する。

「オウ。2階の窓も閉まってた。ということは、外部から侵入した何者かが、あの子を殺して逃げた可能性は低いんじゃないかしら」


 双子の望海が頷く。

「つまり、このホテル全体が密室ってことになるわけね」


 委員長の利恵が小声で訂正する。

「ホテルじゃなくて旅館なんだけど」


「細かいことはいいの。これは殺人事件だよ!」

 そう言って目を輝かせている望海を妹の梢が冷たい目で見ている。

「はじまったよ。ミステリーおたく……」


 そんな妹の突っ込みなど気に留めることなく望海はニヤリと笑う。

「短時間でここを出ていくことは不可能。ということは……」


 委員長気質の利恵が「待ってよ! 探偵ごっこしてる場合じゃないでしょ! 真面目に考えて」と、望海を睨みつける。


 望海も睨み返す。

「は? 真面目に考えてるつもりだけど?」


 モエが耳をほじりながら呆れたように言う。

「とにかく皆、落ち着こうや」


 不安そうな表情の、へそ出し乙葉とグラマー野乃花はしっかり抱き合っている。

 考え事をするイリアの表情も冴えない。


 黒髪セミロング詩織が、おずおず口を開く。

「ね、ねえ。て、提案があるんだけど……」


 ツインテール桐子が「提案だって?」と、詩織をチラ見する。


「う、うん。こ、ここで議論してても始まらないでしょ。だ、だから皆で手分けしてこの辺りをもっと探索してみない?」


 委員長の利恵が直ぐに賛成する。

「あ、それ、私も考えてた。この辺だけじゃなく港の向こう側とか山の向こう側とかに足を伸ばしてみた方がいいと思う。どうかしら? 皆さん?」


 司会進行役のような利恵の問いかけにグラマー野乃花が頷く。

「そうだネ。あんなこともあったし」


 ボクっ子ツインテールの桐子も同意する。

「仕方ねえな。やっぱ警察も呼ばないとな」


 だが、お嬢様の玲実は怒りの表情で言い放つ。

「私は絶対に行かない! 行きたい人だけで行けばいい!」


 委員長の利恵がそれをさとそうとする。

「ちょっと玲実さん。こんな時は皆で力を合わせて……」


 利恵の物言いに玲実はカチンときた。

「嫌だって言ってるでしょ! てか、何でアンタが仕切ってるのよ!」


 玲実の指摘に利恵が言葉を飲み込む。


 玲実と仲の良い双子も拒否の姿勢を示す。

「私も残るわ」と、姉の望海。

「私も面倒だから行きたくない」と、妹の梢。


 やはり玲実と双子の3人組は、非協力的な態度のままだ。


 モエがゆっくり立ち上がる。

「しゃあないな。そんならウチは港の向こう側に行ってみるわ」


 それを聞いてベレー帽の智世が、びくっとする。そして泣きそうな顔になる。


 港の反対側の森……智世は昨日、目撃したドラゴンのような生き物を思い出して震えた。


 だが、それを言葉にすることができなかったので、誰にも気付いてもらえない。


 利恵が眼鏡の位置を直しながら頷く。

「じゃあ、私は昨日中断した山に登るルートで」


 ツインテール桐子も乗り気だ。

「ボクも行くよ。高いところから観察するのは探索のセオリーだからね」


 ぽちゃり和佳子も手を挙げる。

「私も。お店探す! 食べる物、大事!」


 金髪ヘレンは無言で軽く右手を上げる。

 彼女も登山組に立候補するようだ。


 その結果、登山組は、委員長タイプの利恵、ツインテール桐子、ぽっちゃり和佳子、クール系金髪のヘレン、姉御肌の愛衣の5人となった。


 一方、港を超えた森の方面に向かう組は、関西弁ジャージ娘のモエ、へそ出し乙葉と親友のグラマー野乃花、あがり症の黒髪セミロング詩織の4人となった。


 智世は、スケッチブックをぎゅっと抱くが、どうしてもモエ達に声を掛けることができない。


 涙目でモエを見る智世を横目にイリアが怪訝そうな表情を浮かべる。

 だが、智世が懸念していることにまでは思い至らなかった……。


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