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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第38話 いびつな勢力図

 南風荘の裏でヘレンと接触したことについて報告すべきか?


 半日近く悩んだところで、望海は自らの考えを玲実と梢に伝えることにした。


 山海荘の食堂で残った食料を掻き集めた夕食を取りながら望海が切り出す。

「あのね。実は、今朝、ヘレンて子に会ったの」


 それを聞いて玲実が箸を止める。

「ヘレン? あの金髪の子と?」と、玲実は硬い表情で望海の顔を見る。


「うん。アタシの武器を見つけた時にね。南風荘の裏で、ばったり」


 玲実は「そう……」と、複雑そうな表情を浮かべる。


 恐らく彼女は昨日、見張り小屋から飛び降りてきたヘレンに襲われたことを思い出しているのだろう。


 モエに騙されたとはいえ先に手を出したのは玲実だった。

 グレネード・ランチャーで小屋を攻撃してしまったという負い目はある。


 しかし、あの大きな槍がまともに当たっていたら大けがをしていたはずだ。

 何しろ先端がかすめただけで足にかなりのダメージを受けてしまった。


 あれは本気だったと玲実は思う。

 もしかしたら殺されていたかもしれないという恐怖が払拭できない。


 そんな相手に会っていたのを望海が黙っていたことに対して、玲実は良い顔をしなかった。


 玲実に芽生えた不信感を感じ取ったのか望海は「偶然よ」と、大げさに首を竦めてみせた。


 そして、その時のやりとりについて、かいつまんで説明する。


「アタシが武器を拾ったところに偶然、あの子が現れたの。銃を向けられたわ。アタシが武器を持ってたから。でも、玲実ちゃんのアレはわざとじゃないってことを説明したら納得してくれたみたい。悪いのはモエって子だってね」


 それを聞いて玲実は無言で頷く。

 ただ、納得している風では無い。


 そこで望海はポケットから四つ折りの紙を取り出して広げた。

 それは昼間に何度か書き直したメモだった。


 玲実はそれを黙って受け取る。


 梢がそれを覗き込みながら尋ねる。

「なに? これ?」


 それに対して望海が「勢力図よ」と、答える。


「勢力図?」と、玲実が眉を顰める。


「そう。アタシ達の現状を分析した物よ」


 望海は2人の顔を交互に見て神妙な顔つきで言う。


「正直言って今のアタシ等14人はバラバラだよね? しかも仲悪い。てか、悪いどころか憎しみ合ってる子達も居るぐらいだよね。例えば、ヘレンはモエ達と対立してる。その結果、死人が出てる」


 梢は望海が口にした『死人』という言葉がピンとこないのかポカンと口を開けて、まじまじと姉の顔を見た。


 望海は構わず説明を続ける。


「どっちが先に手を出したのかは分からないけど、モエ・乙葉・野乃花・詩織が仲間でヘレンと憎み合ってる。で、野乃花がヘレンに撃たれて死んだ。当然、モエ達はヘレンを許せない。多分、報復するつもりなんじゃないかな」


 望海の解説を聞きながら玲実が指摘する。


「ひょっとして、このメモに書いてる『色黒』『ヘソ出し』『ビッチ』『地味』っていうのが、その4人のこと?」


 確かに望海のメモには名前ではなく、偏見でチョイスされた単語が並べられている。


「そう。その方が分かり易いでしょ」と、望海は頷く。


 その回答は実にあっけらかんとしたものだ。

 そのリアクションを見て、それまで表情が硬かった玲実が「それはそうだけど……」と、苦笑する。


 モエの色黒は分かる。


 乙葉が短いセーラ服でおへそを出していたことも印象に残っている。


 しかし、グラマーな野乃花を『ビッチ』と決めつけるのはいかがなものか。


 それに詩織が『地味』というのも何気に酷い。


 望海は悪びれるでもなくメモについて説明する。

「あだ名の後ろにカッコ書きしてるのは、その子が持ってる武器」


 それを聞いて梢がおさらいする。


「本人にしか使えない武器だよね。色黒モエが『斧』で、ヘソ出し乙葉は『散弾銃』、地味な子は『鎌』……で、死んだ野乃花さんは『槍』なんだね」


 梢は野乃花だけ望海の命名ではなく「さん付け」にした。

 それは亡くなった人間に対する彼女なりの配慮なのかもしれない。


 玲実が野乃花のカッコ書きされている『槍?』の記載を見て問う。


「ここだけ『?』マークが付いているのはなぜ?」


 望海はその質問を待っていたかのように真剣な表情で頷く。


「うん。それなんだけどさ。信じられないかもしれないけど聞いてくれる?」


 玲実が「何よ。急に……それで?」と、続きを促す。


 望みは軽く息を吸い込んで言う。


「ヘレンが槍を持ってたのよ」


 それを聞いて玲実は首を捻る。

「そうなの? あの子の武器はライフル銃じゃなくって?」


 望海は、やれやれといった風に首を振りながら言う。


「それがライフルだけじゃないんだよ。多分、後から槍の所有権を得たんだと思う。本来、その槍の持ち主は野乃花だったんだんじゃないかな? ただ、所有権が移ったのかどうかは未確定だから『?』マークをつけたんだけどさ」


 梢が変な顔をする。

「え? 何? 意味わかんない」


 そんな妹の反応は置いておいて望海は玲実に向き直る。


「元の持ち主は恐らく野乃花。それがヘレンに所有権が移った……らしいのよ」


 聡明な玲実は即座に理解した。

「所有権が移った? ヘレンはそれを自分の物にしたってこと?」


 望海は頷く。

「そうなの。アタシも槍を見せられるまで信じられなかった」


「なぜそんなことが……」と、玲実は首を捻る。

 そしてハッとする。「まさか!」


 望海は答えを持っている。だが、自らそれは提示しない。

 玲実がその答を口にするのを待っているのだ。


 玲実は強張った表情で呟く。

「殺した……から?」


 望海は正解だというように頷く。

「そう。奪ったってことになる」


 玲実は、こめかみを押さえながら首を振る。

「まさかそんなことが……」


 望海は身を乗り出して言う。


「これは大事なこと。信じるかどうかよ。ただ、ここでは信じられないようなことばかり起こるから、有り得ない話ではない……」


 それには玲実も同意する。

「確かに。モンスターがいたり、石碑で瞬間移動できたり、変な事ばかりよね」


 話についていけない梢がむくれる。

「ちょっと、お姉ちゃん! 分かるように説明してよ。もう」


 それを受けて望海が面倒そうに噛み砕いて梢に説明する。


「武器は持ち主が決まってる。けど、相手を殺した場合は、その子の武器が自分のものになるの。だからヘレンが槍を持ってたってことは、ヘレンに殺された野乃花の持ち物だったって推測できるの」


「え?」と、梢が固まる。

 やはりそのロジックは受け入れ難いもののようだ。


 望海が人差し指を立てて言う。

「大事なことは、それによって戦力が変化するってことよ」


 望海のメモには右上にモエ達4人のあだ名が示されていて、その左側に『ヘレン』の名が書かれている。


 そして、その間には対立を表す左右の矢印が印されている。


 望海はその部分をペン先で突きながら続ける。


「これだけ見ればヘレンが不利なように見えるでしょ? アタシも最初はそう思ってた。けど、ヘレンは2つの武器を持ってる。で、恐らくモエ達はそのことを知らない」


 玲実がそれを聞いて戸惑う。

「不利とか有利とか……何を言ってるのよ」


 だが、望海は話を止めない。


「この子達は本気で相手を憎んでるんだよ? 全面戦争なの! そう考えると、この先、武器をどれだけ持ってるかが勝敗を左右すると思うの」


 そう言う望海はワクワクしているように見える。


 玲実と梢はそんな望海の言動に違和感を持った。


 2人との温度差を感じたのか望海が咳払いをして説明を続ける。

「それで、アタシ達は、モエに騙されてヘレンと衝突したけど誤解は解けた」


 望海はメモの中央に書かれた自分達の名前を丸で囲み、ヘレンの名前に向かって線を引いた。


 そして、モエのグループに向かって矢印を書いて『不信感』と、書き加えた。


 それを見て梢がウンウンと頷く。

「なるほど。分かり易いね。歴史の授業みたい」


 望海は梢のコメントに拍子抜けしながら、なおも図に加筆を続ける。


「それでアタシ達の左側。こいつらは敵になる可能性が高い」


 望海達の名前の左側にはスペースを置いて『メガネ』『アネゴ』『ツインテール』『ブタ』とあだ名が縦に並べられている。


 そして、少し離れたところに『オオカミ』『ねくら』と書いてある。


 梢が面白がって答え合わせを始める。


「メガネは、あのバカ真面目な子でしょ。利恵っていったっけ。で、アネゴは愛衣さんね。分かる分かる。ああ、ツインテールは自分のことボクっていう桐子ちゃんか。あの子、変わってるよねぇ。けどブタはダイレクトすぎだよ。ウケるけど」


 玲実が苦笑いを浮かべながら感心する。

「あなたホントに遠慮が無いわよね」


 梢がイリアの名称で悩む。

「でも、オオカミって何? 何でオオカミ?」


「ああ、あの子『一匹オオカミ』だから」


 望海の答えに梢が大げさに仰け反る。

「なにそれ!? 分かんないよ! 根暗はスケッチブックの子だって直ぐ分かるけど」


 望海は6人の名前を丸で囲もうとするが途中でペンを止める。


「うーん。これでひとグループなんだろうけど、イリアって子はツルむの嫌がりそうなんだよねぇ」


 玲実はイリアのことを思い出しながら「そうね。私もそう思う」と、頷いた。


 望海はそのグループから自分達のグループに線を引いて対立を示す矢印を書く。

「とにかく、このブタだけは許さない。だよね? 玲実ちゃん」


 急に振られた玲実が虚を突かれる。

「え? あ、ああ……そうね」


 望海はさらに続ける。

「あの利恵って子も仕切りやでウザいし、イリアだって無愛想だしムカつくよね」


 イリアのハルバードを勝手に触って怒られたことを望海は根に持っているようだ。


 そこで梢がぽつんと呟く。

「あっちもアタシ等のこと良く思ってないかもね」


 それに玲実が反応する。

「は? 何でよ! 私達は別に!」


 だが、梢は意外に冷静な口調で応える。

「智世って子を使いっぱにしてたことに怒ってたんじゃないかな。イリアちゃんは」


「う……それは……」と、玲実が言葉に詰まる。

 確かに思い当たる節があったのだ。


 望海が気まずくなった空気を変えようと軌道修正する。


「で、話は戻るけど、困った事にメガネのグループの情報が少ないんだよね。分かってるのは、あのブタ女が持ってる武器は三つ又の槍で、イリアが斧だか槍だか両方がついてる武器だってこと」


 玲実がメモを眺めながら言う。

「なるほどね。それで他の子はカッコ書きの中が空欄なのね」


「そうなの。武器を持ってるかどうかも分からない」


 そう言って苦い顔をする望海の様子を見て梢が不安を口にする。

「ね。どうしてそんなことを気にするの? 別に、いいじゃん。誰が武器を持っていてもいなくても……」


 すると望海は「分かってないなあ」と、前置きして妹に言い聞かせる。


「いい? アタシ達の武器はアンタの電撃棒とアタシの短剣2本、玲実ちゃんのバズーカーみたいな銃。グレネードっていうらしいんだけど。で、これだけあれば十分とも思うけど、万が一、他の子達と戦うことになった時に相手の手の内が分かってないと不利でしょ?」


 梢が納得できないといった風に首を振る。

「だから何で戦うのが前提なのよ。関わらなきゃいいんじゃない?」


 しかし、望海は冷めた目つきで呟く。

「そうもいかないんだよねぇ」


 それを聞いて「え?」と、梢が言葉を失う。


 玲実も真剣な顔つきで次の言葉を待つ。


 望海はペン先でメモをコツコツ叩きながら言う。


「アタシ達は殺し合う運命にあるんだよ。たぶんね」


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