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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第36話 発動された能力

 ぽっちゃり和佳子のトライデントとイリアのハルバードが激しくぶつかり合う。


 積極的に攻める和佳子。

 イリアは防戦が主体のようだ。


 和佳子は振り回すことに疲れたのか、トライデントの三つ又の槍を突き出す戦法に変えてきた。


 無駄に振り回すよりも、直線的な一撃をヒットさせようとしているのだろう。


 一方のイリアは前後左右の素早いステップで相手に的を絞らせない。


 そして少し溜めを作った。

 そして次の瞬間、今までよりも明らかに深く、和佳子に向かって接近していった。


 和佳子が「イィィ!!」と、渾身の突きでイリアの突進に対抗する。


 イリアはハルバードの斧の部分でトライデントの鉾先を下から跳ね上げた。


「クッ!!」と、和佳子が呻く。


 そして和佳子が突いた鉾先の軌道が大きくずらされてしまった!


 そこでイリアが「ハアァァ!!」と、ハルバードを突き出す。


 それは完全に和佳子に到達すると思われた。


「ヒィィッ!」と、和佳子が悲鳴をあげる。


 だが、イリアの動きがピタリと止まる。

 と同時にハルバードの鉾先も寸止めされた。


 それは和佳子の顔面を捉えることなく、ほんの数センチのところで動きを止めていた。


 和佳子は眼前に突き付けられた鋭い鉾先に息を飲む。


 そしてヘナヘナと座り込んだ。


 ツインテール桐子が「イリア!」と、叫ぶ。


 遠巻きにするしかなかった委員長の利恵も安堵の表情を浮かべた。

「良かった……」


 利恵の隣で2人の戦いを見守っていた姉御の愛衣が冷静に言う。

「イリアさんの方が上手だったわね」


 それを聞いて利恵が愛衣の横顔を見る。

「え!? 愛衣さん……」


 愛衣は和佳子の様子とイリアの立ち姿を見比べながら続ける。


「イリアさんにはまだ余力があるわ。和佳子さんはスタミナ切れね。それに決定的な違いがあるわ」


 愛衣の冷静な物言いに利恵は困惑した。

「違いって……」


 愛衣は断言する。

「イリアさんは初めから殺す気はなかった。でも、和佳子さんは本気で殺すつもりだった」


 だが、利恵は仲間が殺し合う場面に直面して震えが止まらなかった。


「そんな……どうして? どうしてそんなこと……」

 そう呟きながら利恵は涙を浮かべた。


 イリアはハルバードの先端を下げると、しばらく冷たい視線で和佳子を見下ろした。


 そして、クルリと背を向けて智世のところに戻ろうとした。


 その時だ。

 座り込んでいた和佳子が突然、立ち上がり「死ね!」と、トライデントを投げる姿勢に入った。


 虚を突かれたイリアが振り返る。


 だが、和佳子は、やり投げの選手のようなフォームでリリースの瞬間に入っていた。


 ツインテール桐子が「ダメだぁ! 和佳子ぉ!」と、叫ぶ。


 だが、桐子の願いも虚しくトライデントが放たれる。


 が、勢いがない。


 和佳子の手から離れたそれは、イリアに届くことなく力なく地面に落下した。

 そして、まるで時が止まったように和佳子の投げる動作が固まった。


「ぐっ、ギッ……」と、和佳子は不自然なポーズで呻く。


 イリアは何が起こったのか分からずに強張った顔で和佳子とトライデントを見比べる。


 そして「ダメェ……」という、か細い声に気付く。


「え?」と、イリアが声のした方向に目を遣る。


「ダメ……なんだから……」


 それは智世の発した声だった。

 その声は弱々しい。


 しかし、智世は顔を上げて和佳子を睨みつけている。


 その目は黒い瞳の部分が赤い。


 イリアがそれを見て驚愕する。

「な!? どうしたの! その目!」


 智世の眼力には鬼気迫るものがあった。

 そしてその異様な色はイリアを圧倒した。


 しばらくして、ぽっちゃり和佳子に動きが戻った。


 まるで停止ボタンを解除した動画のように和佳子は投げる動作を終えた。


 そして呟く。

「……なんで動けなくなったの?」


 どうやら彼女はトライデントを投げる瞬間に身体の自由を奪われてしまったらしい。

 そのせいで投てき動作が固まったままだったのだ。


 それを聞いてツインテール桐子が「金縛りかよ!?」と、驚く。


 そして、はっとして智世の顔を見る。

「なんだ!? その目は!?」


 やはり桐子も智世の変色した赤い目にたじろいだ。


 そして呻くように言った。

「金縛り……まさか、それが智世の能力なんじゃないのか?」


    *    *    *


 待望の武器を手にしたにもかかわらず、望海は途方に暮れていた。


「参ったなぁ……」


 ミステリー好きの望海にとって「これだ!」と閃いた推理が外れたことは少なからずショックだった。


 このシチュエーションが仕組まれたものだと考えた望海は、自分達15人の中に、その首謀者が居るはずだと推測した。


 そして、それは敏美を殺した人間だと思われた。


 そのようなミステリーを幾つか読んだことがある。


 犯人が復讐の為に標的となる人間を一か所に集めて閉鎖的な空間を作り上げ、一人ひとり殺害していくという内容だ。


 原点に返って今の状況を、それらのミステリーと重ねれば真実が分かるはず。

 そう思い立って殺害現場を検証しようとしたのだが……。


「これじゃ、アタシが疑われちゃうじゃない」と、望海は口を尖らせて呟いた。


 無論、血液をDNA鑑定することなど出来ない。

 なので、この剣に付着したものが敏美のものだとは断定できない。


 しかし、これらの武器が持ち主にしか扱えないという制約がある以上、敏美殺害の凶器に最も近いと思われるこの剣の持ち主が自分だというのは非常にマズい。


 望海がこの状況を梢たちにどう説明しようか考えていると、背後の茂みで『ザッ』と、音が発せられた。


「なっ!?」と、望海が驚いて振り返る。


 すると茂みの中から現れたヘレンが「誰?」と、尋ねてきた。


 彼女はライフルを構えて望海に狙いをつけている。


 思わず両手を挙げながら望海の顔が強張る。

「ちょ、ちょっと待ってよ」


 しかしヘレンは無言で望海を睨む。

 そして望海が手にしている2つの剣を見て小さく「ファック……」と、吐き捨てた。


 その反応を見て望海が慌てる。

「い、いや、これは……見つけたの。そこで! 今!」


 望海の弁解に対してヘレンは無反応だ。


 あの湿地帯での出来事を根に持っているかもしれないと望海は危惧した。


 なぜなら玲実がグレネードランチャーで攻撃したせいで、ヘレンは見張り台を放棄せざるを得なかったからだ。


 さらに彼女がモエ達と対立していて野乃花を射殺したことも聞いている。


 互いに無言で相手の出方を伺う。


 何とも言えない緊迫感で対峙する両者をよそに鳥のさえずりが聞こえる。

 朝露に濡れた草の湿気が今更のように足元に纏わりつく。


 どれぐらい睨み合っていただろうか。

 先に口を開いたのは望海だった。


 望海は意味深な笑みを浮かべて提案した。

「ねえ。アタシと組まない?」


 望海からの思わぬ提案にヘレンは警戒するように眉を吊り上げた。

「ユー……どういうつもり?」


 そう言って銃口を向けてくるヘレンの圧力に望海が慌てる。

「だ、だから、そのままの意味よ!」


 それを聞いてヘレンはしばし考える素振りを見せる。

 そして銃口を下しながら尋ねる。

「組むって言ったわよね。でも何の必要があって?」 


 ヘレンが話に乗ってきそうだったので望海は意味深な笑みをみせる。

「あなた、あのモエって子達に狙われてるんでしょ?」


「ええ」と、ヘレンが頷く。


 望海は試すような顔つきでヘレンに告げる。

「死んだわ……野乃花って子」


 ヘレンは驚く風でもなく僅かに目を伏せた。

「そう……」


「あなたが撃ったんでしょ? その銃で」

 その質問にヘレンは答えない。それが答だ。


 望海はモエ達とのやりとりを思い出しながら続ける。


「先に言っておくけどアタシ達はあなたに何の恨みもないわ。モエって子に騙されてただけ。玲実ちゃんがあなたの居た小屋を撃っちゃったでしょ? 中にあなたが居るなんて知らされてなかったの」


 ヘレンは顔を上げて望海の目をじっと見る。

 まるで真偽を確かめようとするかのような強い瞳で。


 望海は、その強い視線にたじろぎそうになりながら謝る。


「ご、ごめん。悪かったと思ってるわ。でもね。ホントに知らなかったの。モエって子が隠してたのよ」


 ヘレンは、やれやれといった風に首を振る。

「そういうことね……分かった。嘘ではないようね」


 望海はホッとしながら、なおも続ける。


「あなたがモエって子達となんで対立してるかは分からない。けど、あっちはあなたを殺す気でいるみたいよ」


「分かってる……それはミーも同じ」


 あっさりと殺意を認めたヘレンの表情を見て望海は鳥肌が立つのを自覚した。

 だが、それは恐怖というよりは大変なことが起こっている時の興奮に似ていた。


 望海はゾクゾクする感覚を抑えながら頷く。


「そう。だから組まないかって言ったの。だって1対3じゃ分が悪いでしょ?」


 望海の言葉に対してヘレンは首を振る。

「ノー。わたしはひとりで戦う。これがあれば十分戦える」


 そう言ってヘレンはライフルに目を遣った。


 だが、望海にとってヘレンの反応は想定内だったようだ。


「分かってる。一緒に行動しようとは言わない。アタシには妹と玲実ちゃんが居るから。でも、情報交換とか援護ならできるよ?」


 その言葉を吟味するようにヘレンは望海を観察する。そして呟いた。

「情報交換ね……」


 望海は軽く頷いて先に情報を提供する。


「モエが斧、乙葉が散弾銃、それは知ってるかもしれないわね。で、もうひとりの詩織って子。あの子は鎌みたいな武器を持ってるわ。鎖がついてる鎌」


「リアリィ?」


「つまり3人とも武器を持ってるってことよ。どう? 敵の手の内が分かったでしょ?」


「ユー……なぜそれを教えてくれるの?」


 ヘレンの問いに対して望海はすまし顔で答える。


「あなたに殺られて欲しくないからよ」


 望海の言い方は自然なものだった。

 だが、ヘレンには、かえってそれが不気味なもののように感じられた。


 それを察したのか望海は含み笑いを浮かべて尋ねる。

「あなたも見たんでしょ? 小屋の中の落書き」


 望海が言っていることを理解してヘレンは無言で頷く。


 それを受けて望海も頷く。


「そうよ。アタシも見たの。あと3人とか生き残るとか書いてあったでしょ? たぶん、あれはアタシ達より前に、ここで誰かが殺し合った時のものなんだよ」


 その可能性については思うところがあったのか、ヘレンはハッとしながらも強張った笑みをみせた。

「ユーは怖い子ね……」


「ふふ。そんなことないよ。アタシは死にたくないだけ」


 望海とヘレンは、しばらく互いの腹を探り合うように対峙した。


 そして、ヘレンが大きなため息をつく。

「じゃあ、行くわ」


 そう言ってヘレンは望海に背を向けると山の方に向かって歩き出した。


 そこで思い出したように立ち止まって振り返る。

「そうだ。あの野乃花って子はいつ死んだの?」


 望海が答える。

「時間は分らないけど……アタシ達と会った時はもう死んでた。たぶん、アンタに撃たれて、しばらくしてからじゃない?」


 それには答えずにヘレンは逆に質問する。


「野乃花の武器は? ひょっとして槍なんじゃない?」


「さあ? それは分らないな」


「そう……だとしたら」と、ヘレンは顎に指をあてて少し考える。

「たぶん、野乃花の武器は槍だったんだと思う。そしてそれは今、ミーの物になった」


 それを聞いて望海が目を丸くする。

「え!? それって!?」


「ユー達も見たでしょ? 小屋が破壊された時に」


「そういえば……」


 確かに玲実がグレネードで小屋を攻撃した時、飛び降りてきたヘレンは大きな槍で攻撃を仕掛けてきた。

 おそらく、ヘレンはそのことを言っているのだろう。


「情報交換」と、ヘレンは微かに口角をあげる。

 そして自らの仮定を口にした。

「殺した相手の武器は自分の物になる」


 そう言いながらヘレンは右手で左肘の『痣』をポンポンと2回タップした。

 すると『スパァン!』という破裂音と共に光が広がった。


「なっ!?」と、望海が眩しさに顔を背ける。


 が、次の瞬間に驚愕した。


 なぜならヘレンが白くて恐竜の牙のような槍を持っていたからだ。


 さらにヘレンの左腕には丸い盾がついた防具のような物が装着されている。


「え? どこからそんなものを?」と、望海が戸惑う。


 ヘレンは無言で槍を持ち上げると何度か振ってみせた。


 見た目は重そうだが、苦も無くそれを扱うヘレンを見て望海は理解した。

「2つ目の武器……殺した相手の武器が……」


 その時、『ボンッ!』と槍が突然、消え失せた。

 腕の防具も消失した。

 

 そこで望海がまた驚く。まるで手品だ。


 ヘレンは左肘と手首の中間にある『V字型』の痣を示しながら言う。

「これを2回叩くと短時間だけど別な武器が使えるようになるの」


 望海は「信じられない……」と、まるで、とんでもない発見をした学者のような顔つきで呟く。


 しかし、ヘレンの表情は冴えない。

「この痣は、あの子を殺しちゃった時に出来たもの。これは罰なのかもね……」


 ヘレンはそう言い残して茂みの中に消えて行った。


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