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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第35話 我慢の限界、仲間割れ!?

 雪をまとう街路樹や屋根は、朝の光を浴びて、その滑らかなフォルムで街並みに同化しようとしていた。


 あらゆる物体を覆う雪、雪、雪。


 雪は、その緩やかな繋がりで、あらゆる物体を白の調和に取り込もうとしているように見えた。


 そんな雪景色の中、委員長の利恵を先頭に、ぽっちゃり和佳子と姉御の愛衣、そしてイリア・智世・桐子を含む6人は、次の探索予定地に向かっていた。


 比較的、住宅が密集していたはずなのに、通りを一本隔てると、いきなり広場のような開けた場所に出くわした。


 広場といっても噴水や遊具があるわけではない。

 ただ、建物が無いフリースペースといったところだ。

 おそらく普段は青空市場や選挙の演説会などに使われる場所なのだろう。


 平坦な白が広がる様を眺めながら利恵が足を止める。

「結構、広いね。学校のグランドぐらいあるんじゃないかしら」


 利恵の見たままの感想に愛衣が微笑む。

「周りが雪だから広く見えるのかもね」


 確かに愛衣が言うように道路や地面の段差などが雪で覆われている為に、実際よりも広く見えるのかもしれない。


 ツインテール桐子がニヤニヤしながら頷く。

「おお。これだけ広いと雪合戦したくなるな」


 それを聞いて利恵が呆れる。

「桐子さん、意外と子供っぽいのね」


「は? 悪いかよ」


 本気で怒っているわけではないのだろうが、桐子はそう言って雪をすくって玉を作ると「うりゃ!」と、利恵に投げつけた。


「ちょ、冷たぁい!」と、利恵が大げさに反応する。

 そして雪玉を作って投げ返す。


 そんなやり取りをクールに眺めていたイリアが何かに気付く。

「しっ! 静かに」


 イリアの隣にいたベレー帽の智世が、ある方向に異物を発見した。

「やだ……あれ……」


 智世の視線の先には広場から病院方面の通りに繋がる箇所がある。


 そこに動いている物体があることが判別できた。


 イリアの顔が強張る。

「あれは……」


 動く物体の正体は、長い牙を持つ真っ白な虎だった。


 それはまさしくイリアと智世を襲ったサーベルタイガーだ。


 桐子が「わわわ! なんだありゃ!?」と、パニックになる。


 サーベルタイガーは速度を上げながらこっちに向かってくる。


 やがてその姿が6人の目にはっきり捉えられる。


 ぽっちゃり和佳子が「怖っ! やだ! もう!」と、目を背ける。


 利恵は、ずり落ちそうになった眼鏡を押えながら口をパクパクさせる。

 が、声にならない。


 巨大イノシシを退治した利恵と和佳子でさえ、その迫力に尻込みしている。


 蜘蛛の子を散らすように逃げようとしたところでイリアが「バラバラになっちゃダメ! 1か所に集まって!」と、叫ぶ。


 確かにこの広場で四方に散るのは格好の的になってしまう。


 ここは固まって撃退する方が良いというのがイリアの判断だった。


 イリアはハルバードを構えながら指示する。

「武器を持ってる人は4方向を分担して警戒して!」


 武器を持たない愛衣と桐子を守るように、背中合わせにイリア、和佳子、智世、利恵が武器を持って各々の正面を警戒する。


 この陣形ならどの方向からサーベルタイガーが襲ってきても対処できるはずだ。


 緊張感と寒さで身体が固くなる。


 吐く息は白く、耳は聞き耳を立てるには冷たすぎる。


 桐子が「来たっ!!」と、叫ぶ。


 サーベルタイガーは、イリアに向かって真っ直ぐ突っ込んでくる!

 と見せかけて、時計回りに智世の正面に移動する。


 そして溜めを作ってから突っ込んできた。


 イリアが「撃って! 早く!」と、叫ぶ。


 だが、智世は金縛りにあったように動けない。


 和佳子が怒鳴る。

「早く撃ちなさいってば!!」


 だが、こともあろうに智世は「できないよ!」と、しゃがみ込んでしまった。


 サーベルタイガーが迫る。

 そして、あっと言う間に智世に接近してきた。


 一瞬、視界から消えた、と同時に残像が一同を掠めて後方へ流れて行った。

『ガリッ!』という音を残して。


「痛ぁい!」と、ぽっちゃり和佳子が左腕を押えてしゃがみ込む。


「大丈夫か!」と、ツインテール桐子が声を掛ける。


 どうやらサーベルタイガーは、すれ違いざまに和佳子の腕を引っいたらしい。


 和佳子が物凄い形相で智世を睨む。

「アンタのせいよ! 何で撃たないのよう!」


 智世は目に涙を溜めながら訴える。

「だって……無理だよう。できないもん」


 和佳子は吐き捨てる。

「ホント使えない! 最悪っ!」


 利恵が叫ぶ。

「喧嘩してる場合じゃないわ! また来るわよ!」


 利恵の視線の先には方向転換して、再び向かってくるサーベルタイガーの姿があった。


 その相変わらずのスピードは目で追うことは困難だ。


 遠くなら何とか見えても接近されると、まるでついていけない。

 そのせいでさっきは消えたように見えたのだ。


 利恵が「ええーい!!」と、ハンマーを振り上げる。


 突っ込んでくる敵のタイミングに合わせて一撃を喰らわせるよう、間合いを取る。


 サーベルタイガーは雪の上を苦も無く走る。

 そして世界レベルのラグビー選手みたいなステップでフェイント気味に突っ込んでくる。


 利恵が「えいっ!!」と、ハンマーを振り下ろす。


 だが、またしても敵の姿が消え失せた。

 と、同時に今度はイリアが「ああっ!」と、悲鳴をあげた。


 桐子が悲壮な声を絞り出す。

「イリア! 大丈夫か?」


 彼女は何もできない自分を責めるように強く唇を噛んだ。

 

 イリアが答える。

「大丈夫。武器に当たっただけだから」


 和佳子が「チクショー!!」と、トライデントを投げた。


 だが、走り去るサーベルタイガーには当たらない。


 このままでは、なぶり殺しだ。


 イリアがハルバードを握り直して叫ぶ。

「みんな逃げて! 私が引き付けるから!」


 分散して逃げた方が助かる確率は高まる。

 だが、周囲の建物までは距離がある。

 そこでイリアは自分が囮になろうと考えたのだ。


 だが、その目論見はあっさりと外れてしまった。


 なぜならサーベルタイガーは戦う意志を示すイリアではなく、一目散に逃げる和佳子と智世に向かって行ったからだ。


 サーベルタイガーは和佳子と智世に狙いを定めて走ってくる。


 それは全速ではないが、その距離は見る間に縮んでいく。


「まずい!」と、イリアが2人に向かって走る。


「ひいぃ!」と、智世が逃げる。

 それに続いて、ぽっちゃり和佳子も慌てて逃げる。


 と、その時、何を思ったか和佳子が智世を後ろからドンと押した。


 その勢いで智世が前方に向かって派手に転ぶ。


 それを見て和佳子は、その隙にトライデントを拾いに走る。


 サーベルタイガーは智世に飛び掛かり、彼女を組み敷いた。

 そして前足を智世の胸に乗せて低く唸る。


 イリアはハルバードを投げつけるかどうか迷った。

 とても間に合いそうにない。


 智世は「あ……ヤダ……」と、仰向けに倒れたまま動けない。


 サーベルタイガーは智世の喉にその牙を突き刺した。


「ぎゃあああ!」という智世の絶叫が響く。


 イリアは思わず目を背けた。


 とその時、『ザンッ!』という音がした。


 見るとサーベルタイガーの脇腹に和佳子のトライデントが突き刺さっている。


 ぽっちゃり和佳子がイリアに向かって「早く! 止めを!」と、叫ぶ。


 その言葉に我に返ったイリアがハルバードを握り締める。


 そして怒りに任せてダッシュして、サーベルタイガーの首筋に鉾先を目一杯ぶち込んだ!


「ギャウッ!」と、サーベルタイガーが悲鳴をあげる。


 イリアは素早くハルバードを引き抜くと、今度は先端の斧を振り上げて敵の頭をかち割るように振り下ろした。


『ガゴッ!』と、固い物が砕ける音がした。


 悲鳴は無い。


 サーベルタイガーは頭部を微かに震えさせながら、ゆっくりと崩れ落ちるように倒れた。


 それは音の無い映画のワンシーンのようだった。


 サーベルタイガーの絶命を見届けてイリアは我に返った。

 そして智世に駆け寄る。


 仰向けに倒れていた智世が目を開く。

 その首筋に傷は無い。

 確かに牙が刺さっていたはずなのに、だ。


 イリアは智世を抱き起しながら「本当に大丈夫なの?」と、頭や首を点検する。


 幸い、傷らしい傷は無い。

 それどころか血の跡すら無い。


 智世が弱々しく笑う。

「ごめん。ありがと……」


 それを見てイリアは安心すると同時に和佳子に対する怒りが込み上げてきた。


 イリアは和佳子を怒鳴りつけた。

「なんてことするのよ! 卑怯者!」


 しかし、和佳子は悪びれるでもなく不機嫌そうに言い放つ。

「はあ? いいじゃん。無事だったんだから。だって武器でしか死なないんだよね?」


「そういう問題じゃない!」


 イリアは和佳子が智世を突き飛ばして囮にしたことが許せなかったのだ。


 だが、和佳子は真に受けていない。


「仕方ないよ。それぐらいしか役に立たんないんだから。てか、ビビッて撃てないなんて使えないよね? 武器もってる意味ないじゃん」


 その態度にイリアの顔つきが変わった。

 イリアはハルバードを片手にゆらりと立ち上がる。

 そして和佳子を睨みつけた。


「もう我慢できない」

 そう言ってイリアは両手でハルバードを持って構えた。


 それを見て和佳子は一瞬たじろぐ。


 だがトライデントを持ち替えて戦闘態勢に入る。

「な、なによ? やる気?」


 ハルバードのイリアとトライデントの和佳子が対峙する。


 先に動いたのはイリアだ。


「ああああっ!!」と、イリアが走りながらハルバードをバトミントンのように一回転させて鉾先を和佳子に向ける。


 対する和佳子は両手でトライデントを斜めに突き出して鉾先を受ける。


『ガキン!』と、大きな衝突音が広場に響いた。


 すかさずイリアが鉾先を引いて低い姿勢で半回転し、遠心力を利用して先端の斧を当てにいく。


 その軌道を寸前で和佳子がバックステップで回避する。


 それで和佳子の闘志に火がついた。


「やったなぁあ!!」と、叫んで和佳子はトライデントを振り回す。


 イリアは冷静にそれをかわしながら間合いを取る。


 時折、両者の武器がぶつかり合い、金属の衝突音が生じる。


 イリアは、和佳子の大振りな攻撃を見切って、一歩踏み込んでの突きを繰り出し、直ぐに下がっては相手の攻撃範囲から外れる。


 その突きはカウンターを狙っているようで、同時に牽制しているようにも見える。


 その分、踏み込みが浅く、鉾先は和佳子の身体にまでは届かない。


 2人の攻防にツインテール桐子が悲鳴をあげる。

「何やってんだ!? 2人とも!」


 しかし、ヒートアップした2人の耳にそれは届かない。


 それどころか徐々に両者の距離が近づいていくように見える。


 ぶつかり合う武器の放つ衝突音も徐々に重く、大きくなっていく。


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