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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第33話 考察 雪の町にて

 雪に支配された町は、日が暮れると寒さのレベルが段違いだった。


 今日の探索は打ち切りにして、6人は今夜の根城ねじろにする家に集合し、手分けして夜に備えた。


 委員長の利恵がメガネの曇りに辟易へきえきしながら、リビングに入ってくる。

「まだ寒いわね。3台も使ってるのに」


 ストーブ1台では、とても足りなかった。

 他の部屋から運んできた2台を加えて、やっと室内着で過ごせるレベルだ。


 姉御の愛衣がホッと一息つく。

「みんな、お疲れ様。今日は疲れたわね」


 他人の家を探索して回るという慣れない作業に皆、相当疲れていた。

 食事も取っていない。


 そこで、今日の探索で調達した食料を使って夕食にする。


 イリアが「いい感じで焼けてきたわ」と、ストーブの上で焼くパンを裏返す。


 カチカチの塊みたいなパンはナイフで切り分けるのが大変だった。

 まるでノコギリで日曜大工に挑むみたいに苦労した。


 イリアが焼いたパンを主食にして、おかずは缶詰を幾つか開けて用意した。 

 勿論、ラベルの文字が読めないので絵を見て内容物を推定するしかない。


 利恵が魚の切り身だと思われる絵がついたラベルの缶を開ける。

「なんだか油が凄いわね……体に悪そう」


 お皿に缶の中味を移して皆で囲む。


 オイルまみれの切り身、脂の乗りすぎている正体不明の肉、やたら白っぽい豆の煮もの、どの皿も食欲がわかないような見た目と匂いで、皆、手を出すのを躊躇ためらった。


 そんな中、イリアが魚の切り身に手を出した。

 彼女はスプーンでそれをすくうとパンの上に乗せて頷く。

「うん。こうやってパンに乗せればいいんじゃない」


 イリアが先陣を切って毒見をする。

 もともとポーカーフェイスの彼女だが、特に表情は変わらずモグモグと口だけが動く。


 その様子を周りのメンツが見守る。


 するとイリアは澄まし顔で感想を口にする。

「悪くない」


 イリアのコメントを信じて利恵と智世が真似をして魚の切り身をパンに乗せる。

 愛衣とぽっちゃり和佳子は謎の肉をスプーンで切り崩してパンに乗せる。


 各々《おのおの》が、それを恐る恐る口にして、皆同じように小さく口をモグモグさせる。


 イリアは何ともないというように2口目を飲み込んで首を傾げる。

「何の魚だろ?」


 イリアの疑問に愛衣が答える。

秋刀魚サンマ燻製くんせいね。塩味だから何にでも合うんじゃないかしら」


 こっそり別な缶を開けて味見をしていたツインテール桐子が変な顔をする。

「こっちはトマトソースっぽいぜ。さすがに秋刀魚にこれは……」


 利恵が呆れたようにいう。

「あら。そっちも開けちゃったの? これだけでも食べきれるかどうか分からないのに」


「ゴメンゴメン。まだこっちの方が食えそうだったからさ」

 そう言って桐子が申し訳なさそうに空いている皿に中味を移す。


 リビングのローテーブルを囲んで6人は質素な食事を取った。


 途中で和佳子が何かを思いついたようで、食料の中から板チョコぐらいのチーズを取り出した。


 そして「チーズも固いから乗せっちゃおう」と、それをストーブに乗せた。

 途端にチーズ特有の匂いが一気に広がる。


 和佳子が「うわっ! くっさ!」と、慌ててチーズを取り上げようとするが熱くて触れない。


 桐子が「ちょっ! 何やってんだよ!」と、紙を使ってチーズをどけようとする。

 ところが、チーズが垂れてストーブの上面にこびり着いてしまった。


 桐子が「しまった! 余計に取れねえ!」と、奮闘する隣で和佳子は鼻を摘まんでオタオタする。


 そこへイリアが無言で割って入り、手にしていたナイフで手際よくチーズをストーブから剥がした。


「おおっ!」と、桐子が目を細める。

「相変わらず冷静だな。イリアは」


 そんな騒ぎがありながらも6人は何とか空腹を満たした。


 取りあえず、お腹がふくれたところでイリアが紅茶を入れる。


「ありがと」と、カップを取って口に近付けた利恵が目を輝かせる。

「あ。これ……とっても香りが良い」


 桐子が一口飲んで「おお! このミルクティは最高だね! 甘さが絶妙だ」と、絶賛する。


 愛衣が鼻をヒクつかせながら尋ねる。

「ひょっとして、お酒が入ってる?」


 それを聞いてイリアが頷く。

「ええ。ラベルは何て書いてあるか読めなかったけど多分ブランデー。本当は寒いからウォッカが良かったんだけど」


 その回答にツインテール桐子がクスリと笑う。

「いいのかよ。未成年が酒なんか飲んじゃって」


 それは優等生タイプの利恵に向けられた言葉だったが、当の本人は美味しそうにそれを飲み干すと澄まし顔で言った。

「おかわりくださる? ブランデー多めで」


 利恵のリクエストにイリアの顔がほころぶ。

「了解。寒いからね。アルコールが入った方が温まる」


 皆で食後のお茶を楽しんでいる中、ぽっちゃり和佳子がスナック菓子をボリボリ食べているのを智世が見て少し羨ましそうな顔をする。


 その視線に気付いた和佳子が「あげないよ……」と、目を逸らす。


 そのやりとりを見て桐子が苦言をていする。

「和佳子。独り占めはよくないんじゃないか? それじゃ玲実達のことを責められないぜ」


 しかし、和佳子は聞く耳を持たない。

「いいの。これは私が取り戻してきたんだから。だから私の物なの」


 桐子は、やれやれと首を振る。

「そもそも、お菓子食うぐらいなら缶詰、残すなよ……」


 桐子の指摘はもっともだ。

 皆、慣れない食べ物で我慢したのだ。

 それなのに自分だけ好きなスナック菓子を食べるというのは空気が読めないと言われても仕方が無い。


 しかし、和佳子は口を尖らせる。

「だって、これが無いと死んじゃうもん」


 和佳子の態度にイリアと利恵が露骨ろこつに不快そうな表情を浮かべる。


 愛衣は呆れてコメントする気にもなれない様子だ。


 あの大人しい智世でさえ不満気な視線を和佳子に送っている。


 そんな険悪な雰囲気の中で和佳子のスナックを噛む音がやけに大きく聞こえる。


 そこで桐子が雰囲気を変えようと例のビデオを取り出した。


 本当はテレビ画面に繋ぎたいところだがケーブルが無い。

 それになぜかこの家のテレビはブラウン管の古い型だった。


 そこで止む無くビデオカメラについている小さな液晶画面を皆で見ることにした。


 先入観が入らないように桐子は内容については一切触れず、「とにかく見てくれ」とだけ伝えて再生ボタンを押した。


 その映像を初めて見る利恵、愛衣、和佳子が並んで画面を注意深く見守る中、問題の動画が再生される。


 そしてラストの自傷行為を見て一同は黙り込んだ。


 映っていたのは知らない女の子とはいえ、自らの首を掻き切る少女の行動は見る者に衝撃を与えた。


 初見ではない桐子達3人でさえ直視することが躊躇ためらわれた。


 利恵が眼鏡の位置を直しながら口を開く。

「て、手品じゃないわよね?」


 しかし、それには誰も答えない。

 それがかえって真実味を与える。


 利恵は顔を強張らせながら続ける。

「ち、ちょっとショッキングな動画だけど……参考になるかも」


 そこで桐子が頷く。

「ああ。ボク達の知らなかったことを教えてくれてる」


 利恵が桐子の言わんとすることを理解する。

「知らない子の名前が幾つか出てくるわね。つまり、私達より前に、この町を訪れてた日本人の子達がいるってことよね?」


 イリアが軽く頷く。

「ミーコ、ハルちゃん、カナ、マキ。そしてこの子と『あいつ』と呼ばれた人間……」


 利恵が顔を曇らせる。

「あ、『あいつ』っていうのは……」


 姉御の愛衣が利恵の代わりに尋ねる。

「このビデオの子が、殺されるって警戒してた子ね?」


 ツインテール桐子は眉間にしわを寄せて頷く。

「ああ。あいつと言われた人間が、この子の仲間を殺して、残りの人間も殺そうとしているのが分かる」


 動画の少女の伝えようとしたことを思い起こす。


『私達を入れて残りは6人。このままではあいつに殺される。力を合わせないと無理』という台詞は、彼女達が置かれている切羽詰せっぱつまった状況を表している。


 そこでイリアがリュックから取り出した手紙を披露した。

 縦読みすると『早く助けて殺される』と読める例のメモだ。


 イリアは海岸で拾った小瓶こびんに、これが入っていたことを説明したうえで推察する。


「これは恐らく助けを求める手紙。もしかしたら、この動画に出てきた人達の誰かが書いたのかもしれない」


 利恵は青ざめた顔で力なく首を振る。

「誰かが戦った形跡とかお墓とか……そういう意味だったのね」


 そう言って利恵は神社で見た光景を連想する。


 血の手形や壊れた狛犬、壁の穴や焦げ……あれは誰かと誰かが激しく戦った跡だったのだ。


 イリアは病院で発見したバリケードや破壊された機器、どす黒い血痕だらけの病室を思い出す。


 ただ、疑問もある。イリアがそれを口にする。

「でも、だとしたらお墓に彫られているのが何で私達の名前なんだろ?」


 利恵は、しきりに眼鏡に触れながら首を振る。

「分からないわ。さっきの動画に出てた名前の子達は、誰ひとりとして私達と同じ名前じゃない……」


 考察が行き詰ったところで桐子が話題を変える。


「ここで分からないのが『能力』ってやつだ。ボクは武器を持っていないから分からないんだけど、君達はどう?」


 桐子に尋ねられて利恵が「能力? 分からないわ……」と、考え込む。


 次に桐子はイリアと智世の顔を見て回答を求める。

 だが、2人とも思い当たる節は無いようで戸惑っている。


 桐子は腕組みしながら言う。

「能力というのは特技みたいなものかな。智世の瞬間記憶みたいな?」


 それを聞いて愛衣が首を捻る。

「それは違うんじゃないかしら。智世さんの能力は生まれつきのものでしょ。多分、ここでいう能力は後付けで与えられるものなんじゃないかしら」


 利恵は自信なさげに口を挟む。

「断言は出来ないんだけど、それって武器を持つと能力が身につくってことなんじゃないかな。だって、あのハンマーを持った時の腕力……尋常じゃないもの」


 桐子が苦笑いを浮かべる。

「確かに華奢きゃしゃなキミがあんな重たそうなハンマーをブンブン振り回せるっていうのは未だに信じられないもんな」


 利恵はうつむき加減で告白する。

「それと、はっきりした自覚は無いんだけど、武器を持つと武者震いするっていうか、やらなきゃって意欲が湧いてくるっていうか、変に気分が高まるような気がするの」


 それにイリアが同調する。

「分かる。私も武器を手にした時に妙な高揚感を自覚した。黒い感情、というやつかもしれない」


 桐子は智世に向かって尋ねる。

「智世は? やっぱり銃を持った時にそういう気分になったかい?」


 智世は驚いて首をブンブン振る。そして申し訳なさそうに言う。

「そんな余裕ないよ……持ってるだけで怖くって……」


 桐子は考える。そして降参した。

「ダメだ。分からねぇ。能力って何なんだ? おまけに奪うとか奪われるとか、さっぱり理解できねえや」


 そこで「そういえば」と、口を開いたのは、ぽっちゃり和佳子だった。

 彼女はスナックを口に含みながら呑気そうに言う。


「なんか投げる力がついた」


 その言葉に利恵が驚く。

「投げる力? どういうこと?」


 和佳子はアヒル口で答える。

「物を投げるとき、凄く遠くまで飛ばせるんだよね」


 和佳子の武器はトライデントだ。重くて他の者には扱えない。

 だが、和佳子はそれをやり投げのように何十メートルも飛ばせる。


 愛衣は冷静に分析する。

「和佳子さんの能力は『投げる力』、利恵さんは『怪力』ってことかしら」


 桐子がそれを受けてイリアと智世を見る。

「となるとイリアと智世にも何らかの能力があるんだろうね……」


 そう言われてもイリアは困惑するしかなかった。


 武器を手にすることで得られる普通ではない力……。


 だが、イリアにはそれを実感することは出来なかった。


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