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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第32話 しょせんは水と油

 槍をたずさえて見張り小屋から急降下してきたヘレンは、明確な殺意を持っていた。


 梢が棍棒の電撃で邪魔をしなかったら、おそらく玲実は、その槍の餌食えじきになっていただろう。


 ヘレンが「ユー!」と、梢を睨みつける。

 だが、その手に槍は無い。彼女の足元にも落ちていない。


 梢が「あれ?」と、拍子抜けしたような声を出す。

 電撃で叩き落としたはずのヘレンの槍が消えてしまったからだ。


 お嬢様の玲実もヘレンの周囲を探すが、やはり槍は無い。


 確かに大きなトゲのような円錐状の槍があったはずなのだ。


 頭上では玲実が放ったグレネード弾によって見張り台の床が燃え盛っている。

 大量の火の粉が木片を伴ってパラパラと落下してきた。


 玲実が忌々しそうに頭上を見上げる。

「もう! めちゃくちゃだわ!」


 その隙にヘレンは走り出した。

 彼女は山の方面に向かって全力で走る。

 その背中にはライフル銃が見える。


 だが、玲実達にそれを追う気力は無かった。

 ただ、走り去るヘレンの後姿うしろすがたを見守るしかなかった。


 そこに、モエが走ってきた。

「クソッ! 遅かったか!」


 その言葉に玲実がわれに帰る。

 そしてキッとモエを睨みつけて文句を言う。

「聞いてないよ!」


 玲実は足に痛みを感じていた。

 それはヘレンの上からの強襲で、槍の先端が左足をかすめた時にできた傷のせいだ。


 玲実はモエに詰め寄る。

「なんなの? あいつ! いきなり襲ってくるなんて! てか、聞いてないって! どういうことよ?」


 モエは一瞬、バツが悪そうな表情を見せる。

 だが、直ぐにいつもの顔つきで答える。

「せやから撃ったら早よ逃げろ言うたのに」


「そうだけど! 急に襲ってくるなんて聞いてない……あの子、あんなに狂暴なの?」


 そう言って玲実は上目遣うわめづかいで恨めしそうにモエを見た。


 モエが首を振る。

「やれやれ。まさかアンタらにまで攻撃してくるとはな。やっぱ、アイツは頭がおかしいで」


 望海がそれを聞いて顔を曇らせる。

「どういうこと?」


 そこでモエは自分達とヘレンの因縁いんねんについて改めて説明した。


 きっかけはモエが湿地帯で狙撃されたこと、南風荘を出る時のいざこざでモエがケガを負わせたこと、野乃花の死、そして矢倉の上下に分かれての銃撃戦。


 モエはヘレンの異常な攻撃性について淡々と述べた。


 だが、それを聞いて玲実がいきどおる。

「酷いわ! どっちもどっちじゃない!」


 痛いところを突かれてモエがたじろぐ。

「せ、せやかて、しゃあなかったんや」


 玲実は、さらに詰め寄る。

「あの子がそんな風だなんて、何で先に言ってくれなかったの? それ知ってたらもっと警戒したのに! 黙ってたなんて卑怯よ!」


 そうまくし立てる玲実に対して、モエが怒りをあらわにする。

「誰が卑怯やて? そっちかてドラゴンのこと黙っとったやないか!」


 モエは、玲実達がドラゴンの存在を知りながら秘密にしていたことを責めた。

 そのせいで危ない目にあってしまったのだ。


 それについて後ろめたく感じていたのか、玲実のトーンが下がる。

「そ、それは……教える機会がなかったから」


 2人に割って入るように望海がモエを非難する。

「とにかくアンタのせいだからね! 玲実が怪我したのは」


「知らんがな。悪いんはヘレンや」


「そりゃそうだけど」と、望海がモエを睨む。


 玲実は怒りを押し殺すように顔を上げるとモエに向かって宣言した。

「このままじゃ私達もあの子に狙われちゃうじゃない。あなたのせいでメチャメチャよ!」


「よう言うわ! 交換条件の約束やんか。その後でどうなろうか知ったこっちゃないわ!」


 そう言ってモエが玲実を睨む。

 玲実も強く睨み返す。


 しばらく対峙が続いた後に玲実がプイとそっぽ向く。

「危うくあの槍で貫かれそうになったんだから!」


 それを聞いてモエが驚く。

「槍? 槍やと?」


 玲実は「フン」と、鼻を鳴らす。

「そうよ。でっかい槍。象の牙みたいな太い槍で攻撃されたわ」


 モエが戸惑う。

「嘘やろ? なんでアイツ、武器をもう1個、持っとったんや?」


 モエの言葉に望海が口を開く。

「は? それってどういう意味?」


 モエは首を捻る。

「いや……ヘレンの武器はライフル銃や。けど、アンタを攻撃した時は槍みたいなモンを持っとったんやろ?」


 望海が思い出したように言う。

「そっか! 武器はひとり1個なんだよね?」


 そこで梢が口を挟む。

「しかも、武器は持ち主にしか使えないはず」


 梢の言葉を聞いて玲実と望海が顔を見合わせる。


 望海が「そういえば……」と、前置きしてポンと手を打つ。

「確かに墓に名前を書かれた子しか武器は使えない」


「せやねん。そやから分からへんのや……」


 他人の武器は使えない。

 それはこれまでの経緯からいって確実なルールだと思われた。


 しかし、現にヘレンはライフル以外の武器を使っていた。


 さらに不思議なのは、角のような大きな槍が突然、消えてしまったことだ。


 玲実は最初にヘレンが槍を突き刺した箇所に目を凝らした。

 そこには地面に穴が開いている。なので見間違いということはないはずだ。


 モエが溜息をつく。

「話が違うで……なんでアイツは複数の武器を扱えるんや?」


 もしも、ヘレンがライフル以外の武器を入手していて、それが使えるとなると厄介だ。


 武器の法則について望海と梢が考えを巡らしている間に、モエは土を蹴り上げた。

「クソッ! せっかくのチャンスを逃してしもた」


 ヘレンを取り逃がしてしまったのは失態だった。


 矢倉の見張り台を放棄させることには成功したものの、居場所が分からなくなってしまったことは、かえって危険が高まってしまったともいえる。


 それにヘレンがライフル銃以外の武器で玲実を攻撃してきたという事実にモエは嫌な予感がした。


「せや! 詩織と乙葉!」


 ふいにモエは思い出した。

 野乃花の死体が消えてしまったということを! 


 モエは玲実達を矢倉の下に残して駆け出した。


 しばらく走ったところで『ボシュッ!』と、背後で発射音が聞こえた。


「えっ?」と、振り返る間もなく、モエの左前方で小爆発が起こった。


「うっ!」と、モエが熱風を受けて顔をしかめる。


 足を止め、振り返ってモエが怒鳴る。

「おいっ! どういうつもりや!」


 着弾した場所からみて、玲実が当てようとしていないことは明白だった。

 だが、それは警告というより宣戦布告とモエは解釈した。


 グレネードを撃った玲実は、モエの問いには答えずに微笑を浮かべる。

 その隣で望海が中指を立ててモエを挑発している。


「あいつら……」と、モエは唇を噛んだ。


 恐らく、玲実はモエのせいでヘレンに殺されかけたと決めつけているのだろう。


 それは否定できない。

 だが、まさかこんな形で抗議してこようとは……。


 モエは戦斧を強く握り締めた。

 ダッシュして斬り込めば、大きなダメージを与えることはできるはずだ。


 武器を手にした者は、身体的能力が向上する。

 おそらく、玲実達は、それを知らない。


 モエは戦斧をかざして警告する。

「そっちがその気なら、こっちも本気でやるで!」


 玲実のグレネードが、どのようなものかは分かっている。

 接近戦には向いていない武器だ。


 玲実と望海は言い返す。

「やれるもんなら、やってみれば!?」

「こっちは梢の武器もあるんだよ!」


 それを聞いてモエが思い出す。

 梢の武器というのは、あの矢倉の近くにあった電撃を発する棍棒だ。


 それでも今なら倒せる。

 ここで玲実達と一戦交えることも頭を過ったが、今は詩織達のことが心配だ。


 そちらを優先すべくモエは怒りを押し殺した。

 そして「くそったれ!」と、言い残して再び森の方面に駆け出した。


 走り去るモエの背中に向かって玲実は冷たい視線を投げかけた。


 そして吐き捨てる。

「このままじゃ済まないわよ……」


 望海も腕組みしながら同意する。

「やっぱり、あの子達とは仲良くなれないわ」


 さらに、普段、争いを望まない妹の梢でさえ、棍棒を手に険しい顔で立ち尽くしている。



 モエが駆けつけた時、詩織達のパニックは収まっていた。


 しかし、それは良い意味でではない。むしろ逆だ。


 詩織と乙葉にはショックを通り越して泣き叫ぶ気力すら残っていなかった。


 2人は、まるで意識の底が抜け落ちてしまったように虚ろな表情でへたり込んでいた。


 モエは一目で事の深刻さを理解した。

「しっかりせえ」という言葉が喉元まで出掛かったが、それは逆効果だと悟って堪えた。


 その代りに無言で草が凹んだ箇所を見つめた。

 そこにあったはずの野乃花の遺体は消え失せている。


「マジか……」

 やはりモエにも信じられなかった。


 目眩を覚えてモエが座り込む。


 それは丁度、緊張感が切れた時のガス欠に似ていた。

 急に疲れが出たこともある。


 野乃花の遺体が存在したはずの場所を囲んで、モエ達は日が暮れるまで動けずにいた。


 ゆっくりと赤みを帯びた日差しは、見た目ほど熱を持たないオレンジの領域を急速に拡げて、森の木々を彩った。


 そして今度は急に、それに飽きたかのように光の供給を止め、夜へとバトンタッチしようとしていた。


 ブルッと震えてモエが「寒っ……」と、我に返った。


 相変わらず乙葉と詩織は呆けている。


 乙葉の泣きはらした目には生気がなかった。

 詩織は詩織で体育座りのまま一点を見つめている。


 モエは深く溜息をついて呟いた。

「野乃花……どこいってん……」


 ふと、ある考えが浮かんだ。

「ひょっとして、あの石みたいにどっかワープしたんやろか……」


 しかし、乙葉と詩織の反応は無い。


 モエは独り言を続ける。

「せや。きっと、移動しただけや。どこかにあるはずや」


 それは願望に近かった。

 だが、不可解な事象が当たり前のように起こるこの島では死体が移動するということも有り得る。

 きっと想像もできないような力が働いて野乃花の遺体をどこかに運んでしまったのだろう。


 突然、乙葉がすっくと立ち上がった。

 そしてモエに向かって尋ねる。

「あの女は?」


 それはまるで無人の音楽室で鳴ったピアノの一音のように聞こえた。


 そのせいでモエの反応が遅れた。

「あ……ヘレンのことか。ゴメン。逃げられてしもた……」


 そう言ってモエは申し訳なさそうに乙葉を見る。


 乙葉はチラリとモエと目を合わせて無表情で呟く。

「それは良かった」


「え? なんでや……」


「この手で殺すから」


 乙葉の口から出た言葉にモエが「乙葉……」と、顔を強張らせる。


 ヘレンへの復讐心が唯一のモチベーションになること。


 それが危険なのはモエにも分かっていた。


 だが、今の乙葉を見ていると、モエにはそれを否定することは出来なかった。


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