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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第31話 武器でしか死なない、傷つかない

 雪の町の民家で発見したビデオ。

 その衝撃的な映像……。


 それを見せつけられて、イリア、智世、桐子は言葉を失っていた。


 確かに動画の中の子は、自分の首を切り裂いていた。

 それなのに無傷……。


 そして、武器でなければ死なない、という言葉。


 ツインテール桐子は身に覚えがあった。


「そういうことだったのか……」


 桐子はそう言って無意識に自らの後頭部に手をやった。


 イリアが怪訝な顔で尋ねる。

「今ので何か分かったの?」


 桐子は2日目の出来事を思い出していた。

「ああ。思い当たる節がある。そうか。それであの時、ボクは……」


 島内を探索する際に、桐子は山道から滑落かっつらくしてしまった。


 その時、数メートル下の岩に後頭部を強くぶつけたはずなのに、かすり傷ひとつ付いていなかった。


 桐子はイリアと智世の顔を交互に眺めながら告白する。

「実は、ボク、利恵達と山の探索に行った時に、死にかけたんだ」


「えっ!?」と、イリアと智世が同時に声をあげる。


「崖から落ちたんだ。何か変な動物に突き飛ばされてね。それで後頭部を岩で強打したんだよ」


 桐子はサラリとそんな風に言うが、イリアと智世は驚きを隠せない。


「そんなことが……」と、イリアが桐子の顔をまじまじと見つめる。


 桐子は何でもないといった風に首を竦める。


「あ、でも、結果的に何ともなかったんだよ。だから皆にも言ってなかったんだ。けどさ、ガツーンってきた時はマジで死んだと思った。目の前が真っ赤になってさ、火花が目の中に捻じ込まれる感じ。分かるかな? あ、ちょっと変な例えだね」


 イリアが顔を顰めながら尋ねる。

「どれぐらいの高さから落ちたの?」


「んーと。そうだな5メートルぐらいかな?」


「まさか!? それで無傷だったっていうの?」


 イリアは信じられないといった表情で桐子の顔をしげしげと見つめた。


「いやあ、その時は超ラッキーだったと思ったよ。ていうか、そう思い込むしかなかった。だって確かに感じたんだ。後頭部が割れて血がドクドク出る感覚を。だからボンヤリと死ぬんだなって諦めてた」


 桐子はそう言ってビデオカメラに目を遣った。そして軽く頷く。

「でも、このビデオを見て理解した。なぜ、あの時ボクは助かったのか。つまりはそういうことだったんだ」


 イリアがぽつりと言う。

「武器でしか死なない」


 それはビデオメッセージで映像の子が最後に言った台詞だ。

 彼女は自らの身体を刃物で傷つけることでそれを立証してみせた。


 桐子はひとつ頷いてから呟く。

「すっかり忘れてたけど、ここは異世界なんだ……やっぱり普通じゃない。というか、もしかしたらボク達は既に死んでいるんじゃないか?」


 桐子はサラリとした口調でとんでもないことを言う。


 いつも冷静なイリアが珍しく動揺をみせる。

「死んでるって!? そんな……」


「い、いや、ゴメン。流石にそれは無いな。ちょっと突飛な発想だね」

 桐子は慌てて自分の発言を取り消した。


 だが、イリアと智世の表情は硬い。

 桐子の考えは少なからず2人にショックを与えてしまったようだ。


 空気を変えようと桐子が膝をポンと叩いて勢いよく立ち上がる。

「さ、次の家に行こうか。日が暮れるまでに出来るだけ多く回らないと!」


 そんな風に努めて明るく振る舞う桐子を見上げながら、イリアと智世は不安そうに互いの顔を見合わせた。


 桐子がビデオカメラを手に首を竦める。

「これは他のメンバーにも見せておかないとね……」


 そう言って桐子がハッとする。

「待てよ! 他にも妙なこと言ってたよな? 能力とか武器を奪えるとか何とか……あれはどういうことだ?」


「さあ?」と、イリアは何か思い当たる節があるのか視線を逸らした。


 桐子は青い顔をして言う。

「殺せば奪えるって、確かに言ってたよな? なんだか嫌な予感しかしないんだけど」


 桐子は考え込みながら、ツインテールを微かに揺らせた。


    *   *   *


 お嬢様の玲実は、平静を装いながら、ゆっくりと矢倉に向かった。


 モエの指示は単純だった。


 敵意を見せずに、普通に歩いて矢倉の真下に行く。

 そして真上に向かってグレネード弾をぶっ放して逃げる。

 ただ、それだけだ。


 ヘレンと敵対しているわけではない玲実と双子の3人組だけなら、矢倉に近づいても攻撃されないだろうと踏んでのことだ。


 作戦内容を知らされていない双子は歩きながらよく喋った。


 流石に野乃花の死はショックだったが、矢倉にヘレンが潜んでいることを知らされていたのは玲実だけだ。


 望海は伸びをしながらボヤく。

「ふぁあ、久しぶりに運動したから疲れちゃった」


 梢が呆れ顔で言う。

「お姉ちゃん、運動不足だよ。それ」


「まあね。それは否定しない」と、望海はケラケラ笑う。


「私も足が疲れたから人のこと言えないけど」と、梢も苦笑いを浮かべる。


 玲実はグレネード・ランチャーを小脇に抱えたまま周囲を見回す。

「それにしても変な所よね。この辺は人の気配が全く無いわ」


 その台詞は若干、取って付けたような、ぎこちなさが含まれていた。


 自分でもそう感じたのか、玲実は口を真一文字に結んでスタスタと先頭を進んだ。


 それに遅れること、望海が呑気に考えを口にする。

「港町と同じなんじゃない? 人だけ消えちゃった、みたいな?」


 それに対して梢は小首を傾げる。

「どうして誰も居ないんだろうね。避難したのかな?」


「は? 避難て、何から?」と、望海が顔をしかめる。


 梢は少し考えてから首を振る。

「いや、何かは分かんないけど……火山活動とか地震とか?」


「火山? そんなのあったっけ?」

「無い……ね」


「地震も無いでしょ。それなら家具とか引っくり返って室内メチャクチャなはずだよ」

「じゃあ、怪獣。怪獣が出たから逃げたのかも?」と、梢は適当なことを言う。


「それこそ無いでしょ。まあ、変な生き物がいるらしいけど」

 そういって望海はモンスターの話を思い出して嫌そうな顔を見せる。


 そんな双子の会話を黙って聞きながら玲実は矢倉に接近する。


 そして見張り小屋を見上げた。

「この辺で建物っていえば、これだけど……」


 玲実につられて望海と梢も上を見る。

「高いねえ」と、望海があんぐりと口を開く。


 梢が目を細めながら不思議そうに言う。

「なんでこんな高い小屋に住んでたんだろ? まさかこの辺、水没するのかな」


 望海が「まっさかあ」と、バカにしたように笑う。


 梢はムキになって言い返す。

「だって不自然だよ。きっと理由があるんだって」


 双子のやりとりをよそに玲実はぎゅっと唇を噛んだ。


 緊張してはいけない。

 心で自分にそう言い聞かせながら玲実ゴクリと唾を飲んだ。


 その頃、モエと乙葉は湿地帯の様子を伺いながら待機していた。


 いつでも飛び出せるように武器を握り締めて湿地帯への入口付近に身を隠す。


 モエが呟く。

「今のところ順調や。予想通りヘレンは撃ってこおへん」


 玲実達はヘレンと因縁が無い。

 玲実が何かをしない限りヘレンは攻撃してこないというのがモエの読みだった。


 乙葉はショットガンを抱えて唇を噛んでいる。

 その目には生気がみなぎっていた。

 野乃花の死に呆然としていた彼女が今こうしていられるのはヘレンへの復讐心かもしれない。


 モエが乙葉に声を掛ける。

「乙葉。冷静に……冷静に、やで」


 乙葉は無言で頷く。


「もうちょっとや。うまいこと一発で命中させてくれたらええんやけど……」


 モエが独り言のようにそう呟いたところで「ぎゃー!」という叫びが背後で生じた。


 ビクッとしてモエと乙葉が身を竦める。


「な、なんやねん?」と、モエが振り返る。


 絶叫の主は詩織だった。

 野乃花の遺体に付き添っていた詩織が叫び声を上げたのだ。


 詩織はオタオタしながら泣き叫ぶ。

「野乃花ちゃんが! 野乃花ちゃんの身体が! 消えちゃった!」


 それを聞いた乙葉が血相を変えて走り出す。


 詩織に向かって一直線に向かう乙葉を見てモエが慌てる。

「ちょ、乙葉!」


 モエの制止も聞かずに乙葉は詩織のもとに駆け寄った。

 そして血の付いたシートがペタンコになっているのを見て両膝を地面に着いた。


「ああっ!」と、乙葉はシートに縋りつく。

 だが、そこにあるはずの遺体は無かった。


 シートをめくるがそこには何も無い。

 押しつぶされた草があるだけだ。


 詩織は頭を抱えて恐怖におののいている。

「わ、わか、分かんないよ! な、なん、なんなのよう!」


 2人の様子を見守りながらモエは迷った。


 野乃花の遺体が消えてしまったというのが事実なら、それは一大事だ。

 それにパニックに陥った2人を放っておくわけにはいかない。


 一方で、作戦は佳境を迎えている。

 今まさに玲実が矢倉の下で砲撃の準備にかかっているのだ。


「クソッ! タイミング悪すぎや……」


 その頃、玲実達は矢倉の真下に到達していた。


 望海が腕組みしながら小屋を見上げる。

「これって、何かの見張り台なんじゃないかな?」


 梢が「でも、どうやって上るの?」と、首を傾げる。


 玲実がその疑問に答える。

「たぶん縄梯子なんじゃないかな。今は無いみたいだけど」


 会話の途中で玲実はさりげなくグレネードの持ち方を変えた。

 そして、無言で小屋の底を見上げてグレネードの砲口を向けた。


 それを見て望海が「え?」と、驚く。


 梢も玲実の行動を見てキョトンとする。


「ええい!」と、玲実がヤケ気味に引き金を引く。


『ボシュッ!』と、放たれた弾が白煙を引きずりながら上昇し、小屋の床に向かう。


 そして当たったように見えた。

 間髪おかずに『ババンッ!』と、小爆発が起こる。


 思ったよりも爆風と熱気、そして細かな破片が降りかかってくる。


「ギャッ!」と、望海が頭を抱えてしゃがみ込む。

 梢は口を開けたまま玲実の横顔を見つめている。


 当の玲実は頭を守りながら熱をはらんだ煙を浴びて「いやだ! もう!」と、顔を顰める。


 見張り小屋の床がどうなったかは、煙で確認できない。

 そしてやたら焦げ臭い。


 モエのリクエスト通りに撃つことは撃った。

 が、それで何がどうなったのかはまるで分からない。


 玲実は小屋を見上げながらぼんやりとしていた。


 と、その時、『ガタガタッ』と、上の方で音がした。

 そしてバッと何かが落ちてきた。


「キャッ!」と、玲実が飛び退く。

 それが縄梯子であることに気付いたところで、上を見る。


 すると白っぽいものがキラリと光った。


「なにアレ?」と、玲実が目を凝らそうとすると、それは一直線に落下してきた。


「あっ!」と、玲実が危険を感じて距離を取ろうとする。


 そこに「あああっ!」と、いう絶叫と共にヘレンが落ちてきた。


 衝突を避けようと反射的に玲実が身体をよじる。


 だが、ヘレンは白い槍を突き立てるように落下し、玲実の足をかすめて地面にそれを突き立てた。


「ギャー!」と、玲実ではなく、望海が絶叫する。


 玲実は驚愕しながらも、つい先程まで自分が立っていた位置に突き刺さった槍を見て怒りを沸騰させた。

「危ないじゃない!」


 玲実がヘレンに向かって叫ぶ。


 が、ヘレンは髪を振り乱して玲実を睨み返す。

 そして、素早く地面から槍を抜くと今度は突きの要領で玲実に襲い掛かった。


「ちょっと! 何すんのよ!」と、必死でかわす玲実。


「ああああっ!」と、さらに突きを繰り出すヘレン。

 避けようとする玲実。


 だが、槍の先端がまさに玲実の胸を捕えようかといったところで『ガキン!』と、金属の衝突音が生じた。


 そのせいで槍の軌道が左に流れる。

 そして『バチッ!』というスパーク音が生じてヘレンが思わず槍を手放す。


「え!?」と、玲実が見ると、梢が棍棒こんぼうを両手で持って肩で息をしている。


 梢は電撃を出す棍棒でヘレンの突きを払ったのだ。


 そして、なし崩し的に戦闘が始まった!


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