第3話 武器の所有権/集団神隠し?
砂浜では姉御肌の愛衣を先輩と慕う敏美、ぽっちゃり和佳子、グラマー野乃花が何かを囲んで話し合っている。
そこに山道を下ってきた利恵達が合流した。
委員長タイプの利恵が眼鏡を触りながら尋ねる。
「そんな所で何やってるの?」
ぽちゃり和佳子が気付いて振り返る。
「あ、そっちはどうだった?」
姉御肌の愛衣が黙って首を振る。
その様子を見て和佳子がガッカリする。
「そっか。こっちも全然。誰も居やしないよ」
グラマーな野乃花が頷く。
「それどころか犬やネコも居ないヨ」
へそ出し乙葉が敏美達の囲む物体を、ひょいと覗き込む。
「てか、みんなそこで何やってんの?」
そこにあったのは白い十字架の墓標だった。
ツインテール桐子は「げっ!?」と、身を引く。
「ここにも!?」と、委員長の利恵が目を丸くする。
利恵の反応に気付いて、ぽっちゃり和佳子が尋ねる。
「ここにもって?」
利恵が山の方向をチラ見しながら説明する。
「実はこれと同じものが神社にもあったの……」
和佳子が「マジで?」と、キョトンとする。
桐子が呆れたように言う。
「やばくね? これってお墓だろ?」
姉御肌の愛衣は墓標を眺めながら冷静に聞いた。
「それで、誰の名前が書いてあるの?」
ぽっちゃり和佳子がモジモジしながら答える。
「それがね。アタシの名前と同じ……」
確かに墓標には『WAKAKO』と刻まれている。
そしてその傍にトライデント(三つ又の鉾)が転がっている。
それは鉾というには太くて2メートル近い長さを有している。
さらには持ち手の部分に派手な金の装飾が施されていた。
ツインテール桐子がゴクリと唾を飲みこむ。
「これも凄ぇな。RPGに出てきそうな武器だぜ」
敏美が桐子に尋ねる。
「そっちの武器は何だったの?」
桐子はニヤニヤしながら答える。
「ショットガンだよ。しかも乙葉専用だ」
それを聞いて、へそ出し乙葉が口を尖らせる。
「ちょっと止めてよ! あれは偶然だよ!」
桐子は首を振る。
「いいや。アレは乙葉しか扱えないんだって。ボクが引き金を引いてもビクともしなかったんだから」
乙葉は反論する。
「それは、あなたが出来なかっただけじゃない。他の子でも出来たかもしれないよ?」
それを無視してツインテール桐子がトライデントを拾い上げようとする。
が、重くて持ち上がらない。
「重っ! 何だ、これ?」
桐子に代わって眼鏡女子の利恵がトライデントを両手で持ち上げようとする。
「本当だ。これは無理」
グラマー野乃花が胸元を見せながら舌足らずな声でいう。
「でしょ。私も敏美ちゃんも持ち上げられなかったのヨ。でも……」
野乃花がチラリと、ぽっちゃり和佳子を見る。
和佳子がヤレヤレといった風に首を振る。
そしてトライデントに手を伸ばす。
「なんでか分んないんだけど」
そう言って和佳子は軽々とそれを片手で持ち上げてしまった。
それを見てツインテール桐子が驚愕する。
「凄え……それって和佳子専用ってことか?」
「分かんない。こんなに軽いのに」と、和佳子は苦笑いを浮かべてトライデントを軽く振り回す。
慌てて後ろに飛び退く少女達。
委員長気質の利恵がそれを咎める。
「ちょっと! 危ないでしょ!」
ぽっちゃり和佳子が「あ、ごめん」と、シュンとする。
桐子がポンと手を叩く。
「分かった! やっぱ十字架に書いてある名前と関係あるんだよ!」
乙葉が半泣きになりながら否定する。
「ええ~ ぐ、偶然だよ」
「いいや。絶対そうだって! どういう仕掛けか知らないけど、墓に書かれた人間にしかその武器は扱えないんだよ」
桐子の言葉に皆が言葉を失った。
GWを利用した楽しいグラビア撮影のための合宿のはずが、無人の港町に少女達だけで放置されてしまった。
しかも電波が届かないところをみると、かなりの田舎だと思われる。
そして不気味な墓標と武器の存在……。
しばらくして委員長タイプの利恵が提案する。
「とにかく港に戻らない? 皆で対策を考えないと」
だが、誰も返事をしない。
この異常な状況に、ただ力なく項垂れるしかなかった。
* * *
放置された15人の少女達が集う『南風荘』は民宿街の真ん中あった。
人が消えた町。どの建物も無人なのに施錠されていない。
勝手に入るのは気が引けたが、やむを得ない。
ここがどこで、この後どうすれば良いのか?
1階の『松の間』で少女達は途方に暮れていた。
色黒の関西娘モエは相変わらずのジャージ姿で重ねた座布団の上で寝転んでいる。
畳に仰向けで天井を睨むのはアメリカ人のヘレン。時折、英語で何かを呟いている。
巻き髪を指で弄るお嬢様の玲実は、かなりイラついている。
怒りをぶつけたいのに相手が居なくてストレスをため込んでいるように見える。
その近くには、玲実の腰ぎんちゃくの双子の姿。
姉の望海は寝転がってイヤホンで音楽を聴いている。
妹の梢は体育座りでぼんやりと畳の縁を指先で擦っている。
膝を抱えた、ぽっちゃり系和佳子のお腹が鳴る。
その側にはカップ麺の容器、お菓子が散乱している。
ツインテールの桐子はなぜか柔軟体操に余念がない。
姉御肌の愛衣は敏美に肩を揉ませている。
目を腫らしたヘソ出し乙葉は、グラマーな野乃花の膝に頭を乗せて撫でてもらっている。
グラマー野乃花が居心地悪そうに言う。
「なんだか落ち着かないネ」
乙葉は、叱られた犬のようにしょんぼりしている。
「勝手に入っちゃって怒られないかな……旅館の人が戻ってきたら謝らないと」
無心でスケッチブックに絵を描くベレー帽の智世。
出窓に腰かけてボンヤリ外を眺めるハーフのイリア。
委員長タイプの利恵は皆の様子をオロオロしながら見守っている。
長らく考え込んでいた黒髪セミロングの詩織が遠慮がちに口を開く。
「け、結局、誰も居なかったね」
詩織はどもってしまう癖がある。
『ビビリ』であることは本人も認めているが、その癖のせいで挙動不審に見られてしまうことが多い。
体育座りの双子の妹、梢が不機嫌そうに言う。
「誰も迎えに来ないし、電話も繋がらない。どういうこと? 扱い酷くない?」
姉の望海は妹の梢と同じような不機嫌な顔をみせる。
「人気投票。その為の撮影だったはずだよね?」
お嬢様な玲実が指を髪に絡めながらキレる。
「もう! なんなの! なんでこんな目にあわなきゃなんないのよ!」
荒れる3人組を委員長タイプの利恵がなだめる。
「ね、3人とも落ち着いて。スタッフさん達が帰ってくるまで、ここで待ちましょ」
そこでヘレンが上半身を起こして金髪を掻き上げる。
「どうかしら。無駄だと思うけど」
利恵が「な、なんでよ?」と、動揺しながら眼鏡に触れる。
ヘレンは流暢な日本語で続ける。
「もし、意図的に連れてこられたのなら、この状況は仕組まれたものじゃない?」
黒髪セミロングの詩織が神妙な顔で同意する。
「た、確かに。ね、ねえ? 私達、どうしてあんな所で目が覚めたと思う?」
ぽっちゃり和佳子が「え?」と、目を丸くする。
詩織が、皆の視線が自分に集まるのを感じて唾を飲む。
「も、も、もしもよ。遭難して取り残されちゃったのなら、ふ、船の中で目が覚めるはずでしょ?」
座布団の上で関西娘モエが頷く。
「せやな……遭難では無いわな。天気も良かったし」
グラマー野乃花が、へそ出し乙葉の頭を膝に乗せたまま言う。
「てか、あれって放置だよネ?」
それを聞いて詩織が泣きそうな顔をする。
「そ、そもそも15人全員が同時に寝ちゃうって、へ、変じゃない?」
委員長気質の利恵が顔を強張らせる。
「まさか薬を盛られたとでも?」
ツインテールの桐子が頷く。
「ボクもその可能性が高いと思う」
その言葉に乙葉がビクっと起き上がった。
「そ、そんな! だれがそんなこと!?」
ヘレンは冷静に言う。
「今ここに居ない人たちなんじゃない?」
乙葉は赤い目を見開く。
「まさかスタッフさんたちが? 何のために?」
双子の梢は膝を抱えながら他人事のように言う。
「さあ。なんかのドッキリじゃない?」
姉の望海が呑気そうに応える。
「ひょっとしてライブ中継? どこかにカメラがあるのかも」
お嬢様の玲実が鼻で笑う。
「それはないんじゃない」
それに対して望海が反論する。
「分かんないわよ。Webで配信されてるとか?」
玲実はすっくと立ち上がって憤慨する。
「もしそうだったら帰った時に事務所に抗議してやるわ!」
ツインテール桐子が、ひとりで合点する。
「わかったぜ……なんでアオイとか、ミルとかが今回来てないのか」
眼鏡の利恵が「どういうこと?」と、尋ねる。
桐子は半笑で答える。
「だってエントリーは20人だったろ? けど、ここに居るのは15人。人気のある子とか事務所が強い子とかは参加してないんだよ」
「なにそれ。酷くない?」と、ぽっちゃり和佳子。
「なんか悔しい……」と、爪を噛むお嬢様の玲実。
そこで双子の望海が問う。
「にしても変じゃない?」
「何が?」と、妹の梢。
望海は首を傾げながら言う。
「ここの住人。みんな家を開けっ放しにして、どこ行ったのかな?」
モエも「せやね。なんか不自然」と、同意する。
ツインテール桐子はニヤリと笑う。
「集団神隠し! だったりしてな」
どもりながら詩織が皆の顔色を見ながら口を挟む。
「そ、そのことなんだけど……き、気になることがあるんだ」
皆の注目が詩織に集まる。
「み、港を見て気付いたんだけど、ろ、ロープだけが残されてたんだよね」
そう言って詩織はロープが絡まったままの係船柱を思い出した。
「それがどうかしたの?」と、委員長の利恵が続きを促す。
詩織が船からロープを放り投げる船員の図を思い浮かべながら続ける。
「ふ、船を繋いでおくロープって普通は船に積んでるはずなの。な、なのにロープだけが係船柱に残ってた。まるで船が消えちゃったみたいに」
ぽっちゃり和佳子が不安そうな顔をする。
「ちょ……怖いこと言わないでよ」
「マリー・セレスト号……」
ツインテール桐子の言葉に和佳子が「は? 何それ?」と、きょどる。
窓際のイリアが一瞬、興味を持ったように振り返る。
だが、また窓の外に目を遣る。
ボクっ子のツインテール桐子が怪談話を披露するみたいに声のトーンを落とす。
「オカルトマニアには常識なんだけど、昔マリー・セレスト号って船があってさ。その船の船員だけが忽然と消えちゃった事件があったんだ。なんでも発見された時、スープに湯気が立ってたんだってさ」
グラマー野乃花が、海上をゆく貨物船の外観と無人の食卓でスープに湯気が立っているところを想像して怯える。
「エ? 何それ、怖くない?」
彼女にしがみついて再び泣き出す乙葉。
「帰りたいよ……お母さん」
へそ出し元気娘の乙葉が、さめざめと泣く様子に他の少女達も首を垂れる。
嫌な沈黙を破るように姉御肌の愛衣が提案する。
「とにかく今夜はここを借りるしかないみたいね」
「そうですね先輩」と、敏美がすぐさま同意する。
「幸い部屋は幾つかあるみたいだし。適当に別れて泊まりましょ」
「勿論、私は先輩と一緒♪」
委員長タイプの利恵はクラス会議を締める時のような口調で仕切る。
「そうしましょ。今日は皆疲れてるだろうし。それで明日はもう少しこの辺を回ってみましょう。だって分からないことだらけだから……」