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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第29話 強力な切り札

 目的地のオアシスは、直ぐそこだ。


 モエが前方を見ながら言う。

「ほれ。あそこに岩と緑が見えるやろ。あそこがオアシスや」


 それを聞いて玲実は急に元気になる。

「ホント? やった!」


 玲実はモエを追い越してオアシスに向かって走っていく。


 その後姿うしろすがたを眺めながらモエが呆れる。

「なんやねん。めっちゃ元気あるやんけ……」


 玲実はオアシスに到着すると岩の近辺で武器を探し始めた。

 だが、お目当てのものは見つからない。


 一度、ここの探索を終えているモエはゆっくり到着する。


 玲実は不満そうな表情でモエに尋ねる。

「なによ。無いじゃん。私の武器はどこ?」


「心配せんでええよ。ちゃんとあるから。それより約束、忘れてへんやろな?」


「……分かってるわよ」


「多くは望まへん。あの見張り台をぶっ壊して欲しいだけや」


 モエは、そこでグッと拳を握りしめた。


 玲実が冷ややかな目で尋ねる。

「もし、わたしがそれを拒否したとしたら? どうする?」


 それに対してモエは一言。

「殺す」


 モエの即答に玲実は「なっ!?」と、驚愕した。


「心配すな。裏切りさえ、せえへんかったら、そんなことせえへんから」

 モエは、そう言って笑うが、その目は笑っていない。


 玲実は動揺を隠しながら取り繕う。

「そ、そんなことするわけないわ。か、借りは返さないと」


「なら、ええんやけど」

 そう言ってモエは戦斧を持ち上げて、オアシスの中心部を指した。


「アンタの武器やったら水の中に沈んどるで」


 玲実がキョトンとして水溜りとモエの顔を交互に見る。

「え? マジで。あれって深いの?」


「いや。そうでもない。一番深いところで腰の辺りぐらいやな」

「ヤダ。濡れちゃうじゃない」


「大丈夫や。すぐ乾く」


 まだ日の位置は高い。気温も今がピークのようだ。


 玲実は自らの服装と水面を見比べて少し考える。

 そして「もう!」と、言いながら、その場で服を脱ぎ捨て、下着姿になってから水に入る。


 玲実は、しなやかで長い脚を、恐る恐る水面に挿し込む。

 色が白くて長い脚は、さすがにモデルをしているだけのことはある。


「あら! 意外とぬるいわ!」


 思ったよりも深くなかったのもあって、玲実は子供のように嬉々として足で水を跳ね上げる。


 そして、しばらく足先で水を掻きまわしながらモエに聞く。

「ね、どの辺?」


 モエは水には入らずに玲実の行動を見守っている。


「真ん中へんや。水が透き通っとるから直ぐ分かるはずやで」


「ええ~ 一緒に探してよう」


「いやや。自分のやろ。自分で探しいな」


「なんだ。ケチ」

 玲実は口を尖らせながら水溜りの中央に向かって進んだ。


 確かに水は綺麗なのだが水底の砂が舞い上がって直ぐに足元が濁ってしまう。

 玲実は慎重に足を運びながら目的物を探す。


 そして黒い物体を見つけた。

「あ! これかな?」


 水中から引き揚げた物体を確認して玲実は妙な笑いが出てしまった。


「何これ? 銃なの?」


 それは丸い大きな回転式チャンバーが特徴的なグレネード・ランチャーだった。


 短い銃身にはグリップが垂直についている。

 銃床ストックは太くて短い。

 その為、ライフル銃などと比較して、ずんぐりむっくりしているように見える。

 その分、火力はありそうだ。


 色は白く塗られていてグリップやストックに金細工が施されている。

 だが、その重厚なフォルムは華麗さとは程遠い。


 玲実は武器を手に水から上がって一息つくと、早速それを構えてみようとした。

「これ、どうやって持つのかしら?」


 ハンドガンのように片手で持つには重いし、持ちにくい。

 両手で体の前に持ってくるにしても、腕の長さとランチャーの構造がマッチせず、バランスが悪い。


 最終的に、腰に接触させるように抱えるスタイルで落ち着いた。


 玲実が情けない顔をする。

「なんか恰好悪いわ」


「どや? 重ないか?」


「ううん。意外とイケる」


「そっか。ほな、あっち向けて撃ってみ」


 言われるままに玲実は大きな岩の方向を向いて右手をモゾモゾ動かす。


「うん。ええっと。こうして……引き金を……」

 玲実が不器用に引き金を引く。


 すると『ボシュッ!』と、尾を引くような破裂音がして弾が発射された!

 その反動で「きゃっ!」と、玲実が尻もちをつく。


 そして岩の辺りで『バン!』と、グレネード弾が炸裂した。


 それは、さほど大きな炎を伴うものではなかったが、耳をつんざく音と拡がる黒煙の勢いはまるで小さな爆弾のようだった。


 腰を抜かした状態で玲実が目を丸くする。


「ヤバイ……ヤバイって。何コレ? 超ヤバくない?」


 撃った本人が一番、驚いている。


 玲実は混乱している。

「これって銃なの? それとも爆弾? ミサイル?」


 ところがそんな玲実を尻目に、モエは驚愕しながらも顔がほころぶのを押えられない。


「思ってた以上の威力や。これならあの床を打ち抜ける……」


 乙葉のショットガンでは破壊できなかった見張り台の床。

 この武器なら木製の床など、容易に吹き飛ばすことができるだろう。


 玲実は玲実で念願の武器が手に入ってご満悦だ。

 立ち上がって鼻息も荒く宣言する。

「2発目行くよ!」


 そして今度はしっかりと姿勢を維持して『ボシュッ!』という反動に耐えながら2発目を放った。


 だが、弾は狙った場所から若干、逸れた。


 その弾道は煙の軌跡で判別できた。


 2発目の爆発音を聞いて玲実は「うーん。惜しい」と、唸った。


 そして「もう1回!」と、引き金を引く。

 が、弾は発射されない。


「あれ? 何で?」と、玲実が首を捻る。


 それを見てモエが笑う。

「連続では撃てへんはずや」


「え? どういうこと?」


「多分、それは1発ずつしか撃てへん。弾は要らんけど、次に撃つには13秒間、待たなあかんのやで」


 モエの説明を聞いて一応、仕組みは理解したようだが玲実が妙な顔をする。

「弾が要らないのはいいけど……どうなってんの?」


「さあな。ウチにも分からん。けど、乙葉のも、あの人殺し女の銃も同じ仕組みやから、そういうもんなんやろ」


「ふうん。変なの。とにかく、弾が無くても撃てるのね。それは助かるわ」


 確かに銃の構造や弾の充填などは誰かに教わらないと彼女達には出来ないだろう。


 おっかなびっくりでグレネード弾を撃つ玲実の狙いは安定しなかったが、弾切れの心配が無いということは、いくらでも練習ができる。


「よっしゃ。そしたら、少し練習しとこか。取りあえず真上に向かって撃つ練習や」


 モエはそう言ってニヤリと笑った。


 熟練度を求める必要はない。


 あの見張り台からヘレンを引きずり出すことさえ出来れば良いのだから。 


    *   *   *


 雪に覆われた町は音に乏しかった。


 まるで積雪が貪欲に音を吸収してしまったかのように、町は言葉を失っていた。


 自らが踏み込む足元で、雪が押しつぶされる音が切ない。

 それは小動物の鳴き声のように聞こえた。


 二手に分かれての民家探索は順調に進んだ。


 委員長の利恵をリーダーとした、ぽっちゃり和佳子、姉御の愛衣のチームは、並び順に家を回り、少しずつ食料を調達することに成功していた。


 とはいえ、他人の家を荒らすのは気が引ける。

 特に委員長気質の利恵にとって、それは略奪行為のように野蛮なもののように感じられた。


 利恵は家に入る前に深くお辞儀をして、出る時も同じように一礼して「ごめんなさい。ありがとう」と、付け加えた。


 そうすることによって罪悪感と折り合いをつけようとしているのだろう。

 また、家に入る時には靴に付いた雪や泥を丁寧に取り去ってから極力、床を汚さないように気を遣った。


 一方、イリア、ベレー帽の智世、ツインテール桐子の組は、回る家が重複しないように利恵達の順路と並行する形で、ひとつ道を隔てた並びの家を探索した。


 こちらの組はイリアが食料調達にまとを絞ってテキパキと探索を進めるので、一軒当たりの所要時間は短い。


 ただ、不思議なことに、どの家も自由に中に入ることが出来た。


 たまに鍵が破壊された扉があったが、それについては桐子が推察する。


「マリーセレスト号事件と同じだ。きっと人間だけが突然、消え失せたんだよ。だから鍵もかかってなければ作業途中のものが放置されてるんだよ」


 確かに奇妙な痕跡は至る所で見受けられた。


 例えば、ある家ではほうきとチリトリが部屋の真ん中に放り出されていた。

 それもゴミを一か所にまとめて、あとはチリトリに移すだけの状態で、だ。


 なぜ、そこで止めたのか? と、問いたくなるような痕跡は至る所で見受けられた。


 室内干しの途中であろう洗濯籠せんたくかご、食べかけの皿が並ぶ食卓、作業途中と思われるデスクなどなど。


 桐子の『人だけが消えた』という説が正しいと思わせる状況が幾つも存在する。


 何軒目かの家でツインテール桐子が室内を見回しながら呟く。

「やっぱ、ロシア……なんだよな」


 室内装飾はさほど変わったものではない。

 外国映画などでよく見かけるものと大差は無い。


 ただ、こういったたぐいの背景はアメリカのものでも欧州のものでも大きな違いは無いように思える。

 それはどこの国を舞台とした映画と聞いて初めてそうなのかと認識する程度だ。


 桐子はリビングのローテーブルにあった雑誌を手に取って眺めた。

 そこに印字されている文字はアルファベットではない。


「ロシア語か……」

 桐子は、やれやれといった風に首を振って溜息をついた。


 そこにイリアと智世が戻ってくる。


 イリアは手にしたパンのようなものを見せて首を竦める。

「焼けば何とか食べられそう」


 智世がその横で強張った笑みをみせる。

「た、たぶん、もともとこういうパンなんじゃないかな」


 桐子は受け取ったパンをしげしげと眺める。

「堅ってえな! こりゃ切るのにノコギリが要るな」


 それはパンというにはあまりに異質なものだった。


 円盤型のそれは顔ぐらいの大きさがあって、厚みも十センチ位だ。


 しかし、全体を覆う焦げ目は、焼きすぎのような気がしたし、表面の固さはとても食べ物だとは思えない。


 桐子が呆れる。

「まさかこれだけ? この家、他に食料は無かったのかい?」


「いいえ。あるにはあるんだけど……」


 イリアが何か腑に落ちない様子なので桐子が尋ねる。

「だったら、何でそんな顔してるんだよ?」


 イリアは腕組みしながら答える。

「荒らされた跡があった。今まで見た家も多分そうなんだと思う」


「そう言われてみれば……ボクも違和感を感じてた」


 イリアが呟く。

「食料……恐らくは私達と同じ目的で誰かが漁った後なんだわ」


 イリアの言葉に「うん」と、智世が頷く。


 桐子は納得する。

「なるほど。そういえば入口のカギが破壊されてた家があったよな。てことはボク達より先に誰かが……」


 イリアは桐子の目を見ながら説明する。

「問題はそれが誰なのか……まだ、この島に居るのかもしれない」


 それを聞いて桐子がぎょっとする。

「なっ!? そ、そんな……ボク達だけじゃないってことか?」


 この島に上陸した自分達15人以外に誰かが、この雪の町に潜んでいるとしたら?


 それは由々しき問題だ。

 友好的な人間なら協力しあうことも考えられる。


 しかし、戦った跡が点在するということは、敵になる可能性もあるのだ……。


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