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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第24話 要らない子

 イリア、桐子、智世は日が暮れる直前に南風荘に戻った。


 その30分後に利恵、愛衣、和佳子が帰ってきた。


 歩き疲れていた両グループは、甘い飲み物で喉を潤しながら、武器探索の成果について報告し合う。


 まず、委員長の利恵の口から山の中腹にある石碑のことについて説明がなされた。


「石碑と石碑が繋がっているの! 石碑に触れると、もう一方の石碑に一瞬で移動できるのよ」


 ぽっちゃり和佳子も興奮気味に体験談を語る。

「ホントに不思議なんだよ! 山の中と雪の原っぱを何度もできたんだから!」


 その話を聞いてツインテール桐子が智世のスケッチブックで★印の位置関係を確認する。


「本当だ。山と雪原。確かについになってる。この2つの記号は、そういう意味だったのか」


 利恵は続いてハンマーを見せながら雪原での出来事について語った。


 途中で姉御の愛衣が利恵の奮闘について補足説明する。


 毛が真っ赤な巨大イノシシの出現。

 利恵がそれをハンマーで倒したこと。


 和佳子も身振り手振りを交えながら利恵の勇気を称える。


 利恵は顔を赤らめて謙遜けんそんする。


 だが、急に真顔まがおで告白する。


「なんだか自分の力じゃないみたいだった。不思議な力が湧いてくる感じ。何でか分からないけど『やらなくちゃ!』って気持ちになったの」


 それを聞いてツインテール桐子がたずねる。

「それは武器を手にしたから強くなったような気がしたんじゃないか?」


 それに対して利恵は手を膝に置きながらうつむく。

「どうだろう。ちょっと違うような気もする。うまく言えないけど、もっと黒い感情……」


 桐子は強張った笑みを漏らす。

「黒い感情? 何だよそれ?」


 利恵の言葉にイリアがかすかに反応する。


 イリアは利恵を見て何か言おうとする。

 が、思い留まったように首を小さく振った。


 利恵は一点を見つめながら独り言のようにいう。

「やらなくちゃっていう衝動しょうどう……興奮してたのかもしれない」


 利恵は彼女なりに考えていたのだろう。

 巨大イノシシと戦った時は自覚していなかった自らの変化について冷静に分析しているのだ。


 イリアが、ぽつりと呟く。

「分かる気がする」


 その言葉に利恵と桐子が注目する。


 イリアはサーベルタイガーに対峙した時のことを思い出しながら続ける。


「武器を持つだけなら何ともない。だけど、敵を目の前にした途端、武者震むしゃぶるいした。ただ、目の前の対象が憎い、殺したい、みたいな残酷な感情……確かに黒い感情かもしれない」


 イリアは静かに抑揚よくようのない口調でそう説明した。


 イリアの告白に愛衣と和佳子が神妙な顔をする。


 智世は不安げな顔つきでイリアの顔を見つめる。


 そんな重い空気を払拭ふっしょくしようと、ツインテール桐子が話題を変える。

「そうそう。次はボク達の番だね。結果からいうと岬で2つ、湿地で1つ武器を見つけたよ!」


 それを聞いて愛衣が「あら」と、顔を上げる。

「岬で2つ? 地図上ではどうなっていたかしら?」


 愛衣の疑問に桐子が答える。

「地図上では×印はひとつだった。けど、実際はふたつ。ひとつは智世ので、もうひとつは野乃花って子の分だったよ」


 桐子の言葉に自分の名前が出てきたので、智世がびくっとする。


 桐子が続ける。

「それとあと1個。沼地というか湿地みたいな所にこずえって子のがあったな。それは地図の×印どおりの場所だった」


 利恵が地図を眺めながら尋ねる。

「真ん中に建物みたいなものが描かれてるけど、これは何だったの?」


 桐子が答える。

「ああ、それは見張り台だね。結構、高いよ。でも上ることは出来ないみたいだ」


 桐子は、智世が気付いた奇妙な点については敢えて口にしなかった。

 それは縄梯子なわばしごの有無だった。


 智世の瞬間記憶が正しければ、行きと違って帰りは縄梯子が無くなっていた。

 それは誰かが、あの中に()()()()()()であることを意味する。


 桐子が、その話をしようかと考えていると、先にイリアがヘレンの不在に気付いた。

「そういえば、あの金髪の子は出て行ったままなの?」


 それを聞いて委員長の利恵が、はっとする。


 愛衣がツインテール桐子に尋ねる。

「ヘレンさん。まだ帰ってきていないの?」


「ああ。そのようだね。ボクも見ていないよ」


「ひょっとして」と、イリアが思い出す。「銃声を聞いたような気がする。湿地の方で……」


 それを聞いて桐子がイリアの言わんとすることを察する。

「そのことなんだけど……」


 そこで桐子は行きと帰りの違い、つまり矢倉の縄梯子の有無について説明した。

 誰かが見張り台に居ること。


 利恵が眼鏡に触れながら深刻そうに呟く。

「まさか、その見張り台にヘレンさんが……」


 桐子が腕組みしながら渋い顔をする。

「その可能性があるね。モエって子達という可能性もあるけど」


 イリアは険しい表情で首を傾げる。

「でもあの銃声は……」


 そこへ、いつの間にか席を外していた、ぽっちゃり和佳子が「大変! 大変だよ!」と、あわてた様子でロビーに戻ってきた。


「どうしたんだい?」と、桐子が振り返る。


 和佳子は息を弾ませながら訴える。

「また食べ物が無くなってる! ごっそり減ってるの!」


「なんだって?」

 そう言って桐子が立ち上がる。


 そして皆で売店コーナーまで移動する。


 そこで確認するが、確かに食料棚は、ほぼ空になっていた。


 武器探索に出る時に幾つか菓子を持ち出したのだが、その時よりも明らかに減っている。


 利恵が、やれやれといった風に首を振る。

「あの子達だわ……そうとしか考えられない」


 桐子が「あの子達?」と、顔をしかめる。

 そして「まさか、玲実れみと双子が?」と、利恵の顔を見る。


 利恵は断言する。

「ええ。そうとしか考えられない。私達が留守の間を狙ってあさっていったに違いないわ」


 イリアと智世が黙って顔を見合わせる。


 和佳子が「許せないっ!」と、怒りの声を上げた。「大事なお菓子を盗んでいくなんて!」


 食いしん坊な、ぽっちゃり和佳子にとって、それは最も許せないことだ。

 彼女は目をギラギラさせながら怒りをあらわにしている。


 普段は、おっとりした和佳子の激しい反応に利恵は驚きを隠せない。


 利恵は委員長気質で和佳子の怒りをしずめようとする。


「きちんと分けていなかったのが良くなかったのね。モエって子達もヘレンさんも持ち出してたみたいだし。自分達の分を確保しておかなかったのは失敗だったわ」


 和佳子は強い口調で「そんなことない!」と、利恵の言葉を否定する。


「盗んだんだよ! 自分達だけ食べるために! 自分勝手だよ! 取り返そうよ!」


 そう訴える和佳子の剣幕けんまくにツインテール桐子が困った顔をする。

「おいおい。けど、取り返すったって……」


 愛衣が落ち着いた口調で首を振る。

「厳しいわね。残りがこれだけとなると、あと2日持つかどうか」


 イリアが頷く。

「そうね。やはり雪の町を探索しないと」


 イリアの言葉に智世がビクッとする。


 瞬間記憶を持つ彼女には2人を襲ったサーベルタイガーの姿が生々《なまなま》しく記憶されているのだろう。


 そんな智世の肩を抱き寄せてイリアがささやく。

「大丈夫。今度は武器が揃ってるから」


 智世は自分のハンドガンのことを言われていると思ったのか、泣きそうな顔でイリアを見る。


 イリアは利恵の持ち帰ってきたハンマーと和佳子のトライデントを順に見て頷く。

「うん。みんなで力を合わせれば追い払えるはず」


 イリアの言葉に智世が「そだね……」と、弱々しく応える。


 食料を確保しようと皆が前向きになっている中、ぽっちゃり和佳子だけはふんまんやるかたない様子で、しきりに爪を噛んでいる。


 そんな和佳子の様子を横目で見ながらツインテール桐子は新たな火種ひだねになることを心配していた。


    *    *    *


 野乃花の顔色が良くない。


 どんどん日が暮れていく中で、お腹を撃たれた野乃花は虫の息だ。


 モエ、乙葉、詩織は何もできずにそれを見守る。


 うめくように野乃花が口を開いた。

 まだ意識はあるらしい。


「私の為に……無理しないでネ」


「どういうことや?」と、モエが困惑する。


 野乃花は息を切らしながら続ける。

「私が、死んでも……誰も、悲しまないヨ。だって……要らない子、だから」


 乙葉が悲しげに首を振る。

 そして手を伸ばして野乃花の髪に指をし込む。


「しゃべっちゃダメだよ。野乃花」


「でも、ホントのことだから……家族も居ないし。それに……ウゥッ」

 野乃花の顔が苦痛で歪む。


 そんな姿を乙葉は脱力したような様子で見つめる。

 そして野乃花に代わって彼女の境遇きょうぐうについて語り始めた。


「野乃花はね。4年前に事故で独りぼっちになっちゃったんだ」


 その言葉に詩織とモエが目を見開く。


 詩織が「じ、じ、事故?」と、手の平で口を覆う。


「うん。乗ってた車がトラックに追突されたんだって。高速で。それでお父さんとお母さん。お姉ちゃんが亡くなってしまったの。みんな即死だったって。生き残ったのは野乃花だけ。奇跡的にケガで済んだ。でも家族を失った」


 乙葉の語り口は、感情がこもっていないように聞こえた。

 しかし、かえってそれが『やるせなさ』を感じさせた。


 さすがのモエも顔を歪める。

「そんなことがあったんか。普段の野乃花からは想像できへん……」


 乙葉は、なおも続ける。

「家族を失った野乃花を引き取ったのは父方の叔父さん一家。でもそいつらはクズだった。野乃花の為じゃなくてお金の為に引き取ったのよ」


 そこで詩織が顔をしかめる。

「そ、そ、それって!」


 乙葉がグッとあごを引く。


「そう。やつらの目的は保険金と賠償金ばいしょうきん。一度だけ野乃花の家に行ったことがあるの。でも最悪だった。高そうな車、新しい家、あれは全部、そのお金だと思う。そんな生活できるはずが無いのに。それから野乃花のいとこ。すっごい嫌な奴。不細工なくせに野乃花のことライバル視して意地悪ばかりしてきた」


 モエが吐き捨てる。

「胸クソ悪うなる話や。ホンマに金に汚い奴がおるんやな」


「ひ、ひ、酷い。そ、そんなの酷過ぎる。お金だけ盗って……」


 詩織の言葉を受けて乙葉が大きく溜息をつく。

「田舎から出てきた私にとって野乃花は初めての友達。孤独を救ってくれたたった1人の親友。感謝してるし、野乃花で良かったと思ってる……らない子なんかじゃない!」


 それを聞いて野乃花は口元に笑みを浮かべ、まるで分かっているといった風に首を動かす。


 乙葉は唇を噛んで、ぎゅっと目を閉じた。


 そして手の甲で涙を拭うとカッと目を開いた。

「だから許さない! 野乃花をこんな目に合わせた奴を!」


 乙葉は決意を秘めた顔つきをみせる。


 それに呼応してモエがキリッとした表情で戦斧を握り締める。


 モエは詩織に「野乃花のこと頼むで」と、いってスタスタと歩き出す。

 向かう先は湿地帯への出口だ。


 乙葉は野乃花の頬に手を当てて目を細める。

 そしてすっと立ち上がるとショットガンを持って黙ってモエに続く。


 もともとヘソが出るようなすその短いセーラー服の乙葉だったが、止血の為にスカートを使ってしまったので今は下着とソックスしかはいていない。


 しかし、そんな格好でも気にしていられない。


 詩織はそんな2人の後姿うしろすがたに向かって「気を付けて……」としか声を掛けることが出来なかった。


 モエと乙葉はジャングルと湿地帯の境目に立ち、暗がりに目を慣らす。


 狙うは300M先の矢倉だ。


 それは復讐者ヘレンのひそとりで


 乙葉が自らにミッションを与えるように言う。

「闇にまぎれて接近して、一気にカタをつける!」


 モエは黙って頷く。


 そして互いに何度か大きな深呼吸で戦意を高める。


「ほな……行くで!」


 それを合図にモエと乙葉は同時に飛び出した!


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