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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第21話 石碑の謎

 地図上に記された白い『☆』印と2つの『×』印。


 その目的地らしき場所は、オアシスから10分程度歩いた所にあった。


 それが直ぐ見つかったのは、ちょうどストーン・ヘンジのように岩の群れが円形に並んでいて、遠目からも何かあるのが一目瞭然いちもくりょうぜんだったからだ。


「たぶん、これが白い☆印のことやな」と、モエは頷いた。


 ひとつひとつの岩は3メートルぐらいの高さで、エノキダケのような形で直立している。


 地図上では☆に隣接して×印が2つ記されているので、ここには武器が2つあるはずだ。


 一番乗りした元気娘のへそ出し乙葉おとはが早速、ひとつめの武器と墓を発見する。

「見っけ! あったよ!」


 乙葉が見つけたのは岩に立てかけられていた大剣だった。


 その長さはゆうに大人の身長を越えている。

 幅も20センチ近くある。

 さらにその大きさに見合った厚みがあるため、見ただけでそれが超重量であることは分かった。


 乙葉が「凄いね……」と、大剣の迫力に圧倒される。


 そこにグラマー野乃花が、やってきて期待に胸を膨らませる。

「ワオ! でっかいネ! で、それは誰の武器?」


 乙葉は黙って足元の十字架を指差す。


 野乃花が嬉しそうにそれを覗き込む。


 だが、直ぐに落胆らくたんする。

「ウーン……残念」


 自分の武器ではないかと期待していた野乃花だが、十字架には『KIRIKO』ときざまれていたのだ。


桐子きりこって子の分みたいね」と、乙葉が首をすくめる。


「エ? 桐子? どんな子だったっけ?」


 乙葉は覚えていた。

「ツインテールの子。自分の事『ボク』っていう子だよ」


「ああ、そういえばいたネ。そっか、あの子のなんだ……」


 乙葉と野乃花が大剣を前に、そんなことを話していると背後はいごでモエの「こっちもあったで!」の声が聞こえた。


 モエが詩織を呼び寄せる。

「詩織! 見てみ! あったで、詩織のが!」


 ちょうど大剣のあった位置とは正反対の場所でモエは詩織の武器を発見したらしい。


 乙葉と野乃花もモエのところに駆け寄る。


 詩織の足元にある十字架の名前は確かに『SHIORI』となっている。


 詩織は青ざめながら「こ、こ、これが……」と、恐る恐る武器を拾い上げる。


 詩織が手にしたのは鎌のようなものだった。


 ちょうど草刈りに使うような、それでもって、いかにも殺傷能力さっしょうのうりょくの高そうな刃をもったものだ。


 そして、なぜかち手の部分にチェーンが巻かれている。


 乙葉が近づいて目をらす。

「鎌……みたいだね? 重い?」


 詩織は首を振る。

「う、ううん。お、思ったより軽く感じる」


「そのくさりみたいなのは何やねん?」


 モエに言われて詩織が戸惑いながら鎖に触れる。

 すると『ガシャッ』と、鎖が地面にれた。


 その先端には重りのような物が付いている。


 それをしげしげと観察して乙葉が呟く。

鎖鎌くさりがまだね。忍者の武器みたい」


「鎖鎌やって? 何なん、それ?」

 モエが乙葉に説明を求める。


「ああ、なんていうんだろ。片手で鎌を持つでしょ。でもう一方で鎖を持ってブンブン振り回すの。ほら、先っぽに重りがついてるでしょ。それをぶつけて攻撃できるって感じ」


 乙葉の解説を聞いて詩織が泣きそうな顔になる。

「い、嫌だな。そ、そんなの使いこなせない」


「そんなことないやろ。練習すればええねん」


 詩織は落胆を隠せない。

「で、でも……こ、こんなのじゃ、モ、モンスターと戦えないよう」


 確かに、ドラゴンのような巨大なモンスターに立ち向かうには心もとない武器だ。


 切るというよりは刈るといった方が良い形状から、ある程度、接近しなければ攻撃できない。


 それに、鎖を振り回して、うまく重りを当てたとしても大したダメージは与えられないだろう。


 乙葉は他人事ひとごとのようにいう。

「私は面白い武器だと思うけどなあ」


 だが詩織は正直だ。

「や、や、やっぱり、何かいや。ちょ、ちょっとダサいし」


 詩織の本音にモエと乙葉が苦笑にがわらいする。


 ビビリの詩織が忍者みたいに、これを使用してるところを想像してしまったのだ。


 そんなやりとりを眺めていた野乃花が口を尖らせる。

「武器があるだけいいジャン。野乃花だけだヨ。何も無いの」


 うらやましそうに言う野乃花を乙葉がなぐさめる。

「大丈夫だって。きっと野乃花のも、どこかにあるよ」


 これで4人中3人の武器が手に入った。


 モエの戦斧せんぷ、乙葉のショットガン、そして詩織の鎖鎌くさりがま


 あとは野乃花の武器が発見できれば当面の目的は達成される。


 乙葉が周囲を見ながらいう。

「そういえば、ここって変な場所だよね」


「せやな。ストーンなんとかっていう場所みたいやな」


 乙葉は「なんか神秘的しんぴてきだよねぇ」と、呟きながら円の中心に向かってスタスタ歩く。


 岩の並びが作る円の半径は20メートルぐらいだ。

 その中心には緑っぽい台形の石が鎮座ちんざしている。


 高さ1メートル、幅2メートル、奥行き50センチぐらいの石は表面がツルツルしている。


 砂で汚れてはいるが石碑せきひたぐいなのかもしれない。


 乙葉は「ここで儀式とかやるのかな……」と、言いながら何気なく手を伸ばす。


 すると、次の瞬間、乙葉の台詞が、かき消されてしまった。

 と、同時に乙葉の姿が忽然こつぜんと消えてしまった!


 それを見てモエが「うぇ!?」と、驚愕きょうがくする。


 ともに乙葉の消失しょうしつの当たりにした野乃花と詩織も絶句する。


 モエが目をしばたたかせる。

「嘘やろ? お、乙葉、どこ行ってん……」


 それはまるで落とし穴にはまった人の姿が一瞬で見えなくなるのに似ていた。


 だが、その場所には石碑がぽつんと鎮座しているだけだ。

 勿論、穴のようなものは無い。


 詩織が「き、き、き、消えた……」と、あごをガクガクさせながら目を見開く。


 野乃花の目から涙があふれる。

「乙葉ちゃんが……乙葉ちゃんが消えちゃったヨ」


 モエは慎重に歩を進め、ゆっくり石碑に接近した。


 詩織と野乃花はオロオロしながらモエの行動を見守るしかできない。


 モエが恐る恐る石碑に手を伸ばす。


 いったん、手を止めて目を閉じる。


 そしてひとつ深呼吸をして、意を決したように石碑に触れる。


 その瞬間、冷んやりした空気に包まれた。


「うわっ!?」


 強制的に場面転換ばめんてんかんするように視界が回され、身体が浮いたように感じられる。


 モエは、瞬時に気を失わないように気を張るが、全身はいうことを聞かない。


 だが、それはほんの数秒間の出来事だった。


 身体のコントロールや視界が失われたのは一瞬で、気が付くと周りは緑に囲まれていた。


「な、何や……今のは……」


 嫌な汗が額から流れてくる。

 そして強烈な緑と土の匂いに、むせそうになる。


「え? ここは、どこや……?」


 周りの様子を見てモエはさっした。

「森の中やん……」


 ふと横を見ると乙葉がペタンと女の子座りで呆然としている。


「乙葉! 乙葉、大丈夫か?」


 モエに名前を呼ばれて乙葉がわれに返る。

「あ、モエちゃん……これって夢?」


「いや、ちゃうで。現実や」

「何があったんだろ? 私達、砂漠にいたよね? 石の柱に囲まれた場所に」


「分からん。ただ、さっきの場所から、だいぶ離れた所に飛ばされたみたいや」

「どういうこと?」


「考えられるとしたら……石のせいや」

「石って? さっきの石碑?」


「せや。乙葉、石碑に触ったやろ?」

「あ、ああ、そうね」


「乙葉が消えた後でウチも石碑に触ったんや。そしたら目の前がくらっとして、気付いたらここにおった」


「テレポテーション? 飛ばされた? 石碑の力で?」


「それのせいとしか考えられへん」


 モエの側には先ほど砂漠のストーンヘンジで見つけた石碑と同じものがある。

 形や大きさ色合いから、それはちょうど対になるものと思われた。


 顔を見合わせて2人は考える。そして試してみることにした。


「もう一回、触ってみよ? もしかしたら元の場所に戻れるかもしれへん」

「でも、違う場所に飛ばされちゃうかも?」


「それは分らへん。とにかくやってみいへんと」

「分かった。やってみよ」


「ええか? いち、にの、3でタッチするで」


 ギリギリまで手のひらを近づけて石碑に触れる準備をする。


「いくで! いち、にの、さん!」


 その瞬間、先程と同じ現象が起こった。


 視覚と浮力の暴走に翻弄ほんろうされる。

 五感ごかんが自分の身体から引きがされそうな感覚! 


 ただ、二度目ということもあって、さっきみたいにパニックにはならない。


 モエは片目を開けて身体のバランスに気をつかう。

 乙葉は、ぎゅっと目を閉じて成り行きに身を任せる。


 そして、もとの砂漠に戻ってきた。


 乙葉が「戻ってきた?」と、恐る恐る目を開ける。


「みたいやな……」と、モエが息をつく。


 石碑の前に突如、現れたモエと乙葉の姿を見て、抱き合って号泣していた野乃花と詩織が驚愕する。


「乙葉ちゃん! 乙葉ちゃんだヨ!」


 野乃花は詩織を押しのけて、乙葉に駆け寄ると大型犬のダイビング・アタックのように飛びついた。


「痛いって! 野乃花」と、乙葉がグラマーなボディに圧迫されながらうめく。


 しかし、野乃花は豊満な胸をグリグリ押し付けて乙葉を強く抱きしめる。

「良かった、良かったヨ! 生きてて……」


 詩織が涙を拭いながらモエの手を取る。

「よ、よ、良かった。ほ、ホントに……」


 モエが照れくさそうに首を振る。

「おいおい。大げさやなあ。大丈夫やって。ちょっとビビったけどな」


 野乃花のハグに閉口へいこうしていた乙葉がいう。

「ねえ、ひょっとしてその石碑。地図でいうところの星印に関係してるんじゃない?」


 その言葉にモエと詩織がはっとする。


 そしてモエはリュックから自分のスマホを取り出して地図を確認する。


「せや! さっきの場所! そういうことか!」


「ど、ど、どういうこと?」と、詩織が困惑する。


 そこでモエが先程の出来事を説明した。

 そして結論付けた。


「この石碑は触ると別な場所の石碑にワープするんや」


 乙葉は力強く頷く。

「そう。間違いない。さっきの場所は森の中だよ」


 野乃花と詩織は信じられないといった風にポカンとしていたが、モエが2人に向かって笑顔でいう。


百聞ひゃくぶん一見いっけんにしかずや。みんなで試してみようや」


 乙葉もワクワクしたような顔つきで言う。

「ちょうど良かったよ。砂漠の中を歩くよりよっぽど近道だよ」


 確かに乙葉のいうように地図上では、ワープ先の石碑があるのはジャングルの端っこに当たる。


「せやな。そこからなら暗くなる前に、もう一か所回れるな」


 モエの言葉に野乃花の顔がぱっと明るくなった。

 そして『頑張るぞ』のポーズで、

「よっし! 行ってみヨー!」と、その場で軽くジャンプした


 思わぬ発見に色めく面々だが、その不思議な原理については、まるで見当がつかなかった。


 不思議なことだらけのこの島では、もはや何があってもおかしくない。


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