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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第17話 濡れ衣?

 南風荘なんぷうそうに戻ってくるなり、委員長タイプの利恵りえは大きな溜息ためいきをついた。

「駄目ね。あの子たちは」


 それは利恵にしては珍しくけわしい表情と低い声だった。


 我儘わがまま玲実れみ達3人組には心底、愛想がきたといわんばかりだ。


 そのリアクションにツインテール桐子きりこが驚いた顔をみせる。

「へえ、君が誰かのことをそんな風に言うなんて意外だな」


 利恵は眼鏡の位置を直しながら「そう?」と、首を傾げる。


「そうだよ。だって優等生ゆうとうせいタイプの君がそんなこと言うなんてさ」


 桐子にそう指摘されて利恵は苦笑いを浮かべる。

「私だって好き嫌いはあるわ。ていうか元々、ああいう子は許せない性質たちなの。協調性が無いくせに権利ばかり主張する人って大嫌い」


「おおっと。手厳しいね。とうとう見限みかぎったってことかい?」


「そうね。もう、関わらないようにする。見てるとイライラするから」


 そんなことを話しながら2人は南風荘のロビーに入った。


 薄暗い室内を見回して利恵がヘレンの姿が無いことに気付く。

「あれ? ヘレンさん……」


 利恵が館内かんないを探しに行こうとするが、桐子がそれをせいする。

「やめとこう。そっとしておいた方がいい。傷の具合は気になるけどね」


 桐子にはヘレンの流した涙は、モエの戦斧せんぷで切り裂かれた痛みというよりも、悔しさや理不尽りふじんさに対する怒りのように思えたのだ。


 少しずつ暗くなっていくロビーで2人は、それぞれソファにもたれて思いにふけった。


 明かりをけるでもなく、窓から差し込む光が遠ざかっていくのを、ぼんやりと見守る。


 途中で桐子が飲み物を取りに行き、瓶入びんいりのコーラを2本持ってきて無言で利恵に手渡した。


 利恵が目を細める。

「瓶入りのジュースなんて初めて! それによく冷えてる」


「だろ? 冷蔵庫で冷やしておいたんだ」


「冷蔵庫……あっ!」


 突然、利恵が大きな声を出したので桐子が目を丸くする。

「どうした? 急に」


「電気! 電気はどこから来てるの?」

「どこって……電柱からじゃないのか?」


「ううん。私が言ってるのは電気を作ってるところ。つまり、発電所よ」

「そういえば変だな。それっぽい施設は無かったような……」


「もしかしたら海底ケーブルでどこかと繋がっているのかも! だとしたら、この島はそんなに離れ小島じゃないはずよ!」


 桐子は半信半疑だ。

「そうかなぁ。山に登った時、陸地は全然見えなかったけどな」


「見えなかっただけで、意外と近いのかもしれないわよ?」

 そういって利恵は目を輝かせる。


「いや。だから、それがどうしたっていうんだい?」と、桐子は困惑する。


 すると利恵は眼鏡の奥で目を光らせ含み笑いを浮かべる。

「フフ。海を渡って脱出できるんじゃない?」


「あ、そうか! なるほど!」と、桐子が手を打つ。


「このまま誰も助けに来なかったら考えてもいいと思うの。いかだを作るとか。最終手段だけどね」


「おお! なんか希望が出てきたな」


 筏の材料はどうするとか誰を連れて島を出るかとかを2人で話していると、そこにびしょ濡れになったぽっちゃり和佳子わかこと姉御肌の愛衣めいが戻ってきた。


 利恵が2人の姿を見て驚く。

「あれ? どうしちゃったの?」


 和佳子が「エヘ。にわか雨……」と、舌を出す。


 和佳子は紺のブレザーにグレーのチェック柄スカートの制服を着ている。

 だが、スカートが濡れて真っ黒に見える。


 愛衣がロビーの明かりを点けながらなげく。

「私のせいなの。名前に似合わず雨女だから」


 そういう愛衣のセーラー服も濡れて濃い紫色になっている。


 桐子が「やれやれだね。タオル持ってくるから待ってな」と、ロビーを出て行く。


 利恵は愛衣と和佳子にお風呂をすすめた。


 その後、夜になってイリアと智世ともよが戻ってきた。


 泥だらけなうえにコートや革ジャケットを着た2人を見てツインテール桐子が驚く。

「それ、どうしたんだい? ていうか、どこまで行ってたんだ?」


 しかし、桐子の質問をさえぎるようにイリアが首を振る。

「疲れてるから。明日、詳しく話す」


 イリアはそういって彼女以上に消耗しょうもうした智世を気遣きづかった。


 イリアに支えられて歩くのがやっとの智世は顔色が悪い。


 これで南風荘組は、委員長の利恵、ツインテール桐子、姉御の愛衣、ぽっちゃり和佳子、イリア、智世、ヘレンの7人だけとなった。


   *   *   *


 翌朝、日が上るとほぼ同時に、誰かが南風荘の玄関で呼びりんを連打した。

 そして何やらわめいている。


 そのせいで1階の松の間で寝ていた面々《めんめん》が叩き起こされた。


 ツインテール桐子が目をこすりながら玄関に向かう。

「誰だ? こんな朝早く……」


 姉御の愛衣と委員長の利恵もそれに続く。


 利恵は、寝起き特有の緩慢かんまんな動きで施錠せじょうしていた玄関の扉を開ける。


 すると、そこには双子の姉の望海のぞみと玲実の2人が鬼の形相ぎょうそうで立っていた。


 利恵が眼鏡を触りながら不機嫌そうにいう。

「なに? 朝っぱらから?」


 すると玲実はツカツカと利恵に歩み寄り、いきなり『バチッ!』と、平手打ちをした。

 その勢いで眼鏡が宙を舞う。


「痛っい!」

 利恵が頬を押えながら絶句する。


 桐子と愛衣も呆気にとられる。


 玲実は苛立ちを隠せない様子で身体を揺する。

 そして利恵に向かって言い放った。


「あんたの仕業でしょ! ふざけないでよね!」


 玲実にビンタされた利恵が言い返す。


「は? 朝っぱらから何? 寝ぼけてるの? 私が何をしたって? 説明しなさいよ!」

 それは校則を破った生徒を詰問きつもんするような口調だった。


 利恵の反応に玲実が一瞬、たじろぐ。

 だが、その怒りは収まらない。

「これ! ひょっとして、あんたのじゃない?」


 玲実が突き出したのは汚れたハンカチだ。


 利恵が答える。

「それ……私の持ってるのと同じみたいだけど……それをどこで?」


 玲実が怒鳴る。

「とぼけないで! これで石をくるんで夜中にガラス割ったでしょ! おかげで全然、眠れなかったじゃない!」


 利恵が「ガラス? 割ったって? 誰が?」と、怪訝けげんな顔をする。


 玲実の後ろで望海が口を尖らせる。

「そうだよ。石を投げこんで窓ガラスを割ったでしょ。しかも一時間おきに」


 玲実と望海は山海荘さんかいそうのガラスが夜中に破壊されたと訴える。


 このハンカチは石と一緒に割れた窓ガラスの所に落ちていたというのだ。


 身に覚えのない利恵が戸惑う。

「ちょ、ちょっと待ってよ。何で私がそんなことを……」


 玲実は決めつける。

「はん! どうせ嫌がらせなんでしょ! アタシらが協力しないから気に入らないんじゃないの? アンタ、仕切りたがりだから」


 そこまで言われて利恵が再びヒートアップする。

「どういう意味よ! 確かに、あなたたちは最悪だけど」


 望海が「さ、最悪!? 酷っ!」と、顔をしかめる。


 玲実が、したり顔で突っ込む。

「ほら! それがアンタの本音でしょ! 罰を与えたつもり? 何様なの?」


 それに利恵が反論する。

「言いがかりはしてよ! みんな松の間で寝てるのよ? 夜中に何度も出て行ったら誰か気付くわよ」


 利恵の言い分に玲実のトーンが下がる。

「な……じゃあ、このハンカチは何? アンタじゃなければ誰なのよ?」


 そこで望海が思い出す。

「もしかして大阪の子? そういや、あの子達どこ行ったの?」


 桐子が「さあ? ボクには分からないよ」と、首をすくめる。


 愛衣が仲裁ちゅうさいの為に口をはさむ。

「それくらいにしておいたら? 多分、ガラスを割った人間を特定するのは難しいと思うわ」


 桐子も同意する。

「そうだよ。ボクらは警察じゃないし」


 どうにも収まりがつかない玲実が、まだ何か言いたそうな顔で南風荘の面々を睨みつける。


 しきりに眼鏡を触る利恵、冷静な愛衣、呆れ顔の桐子。


 それを見比べて玲実が「フン! 行くわよ!」と、きびすを返す。


 望海がそれに続くが、納得できないといった顔で玲実に尋ねる。

「いいの? みんなで口裏合わせてるのかも?」


「もういい。でもタダじゃおかないんだから。あの子達はみんな敵!」 


 南風荘の玄関を出て、少し歩いたところで玲実が何かに気付いて足を止める。


「ね、見て!」

 

 玲実の目に留まったのはイリアのハルバードだった。


 ハルバードは屋外の洗い場で昨夜のうちにイリアが洗った後に干していたものだ。


 南風荘の洗い場にはりょうに使う道具や釣竿などが壁に立てかけられる形で日に干されている。

 その中にキラリと光るものがあったので玲実に発見されたのだ。


 玲実と望海が近くに寄って、物珍ものめずらしそうにそれを眺める。


 玲実が感心したようにハルバードの表面に触れてみる。


「うわあ……なにこれ。槍? 斧?」 


 望海が「すっごい、凶悪な形してるね。これって……」と、手に取ろうとするが、重すぎて持ち上がらない。

 挙句あげくに倒してしまう。


『ガシャーン』という大きな音が響く。


 望海が「やば。倒しちゃった」と、舌を出す。


「あらら。けど、これって誰のだろ?」と、玲実は首を傾げる。


「さあ?」


 玲実は顔を顰めながら首を振る。

「なんでこういうものを持ちたがるのかしら。物騒ぶっそうじゃん」


「だよね。気がしれないよ。まあ、一応、戻しとかないと。誰のものか知らないけど」

 望海はそう言いながら元通りにしようとハルバードを持ちあげる。


「重っ!」


 望海は両手を使って全力でそれを地面から引き離そうとする。

 だが、ほとんど持ち上がらない。


 玲実が呆れる。

「ちょっと。なに遊んでるの? そんなに重いわけないじゃない」


「いや、ホントに超重いんだって!」


 望海が助けを求めるので玲実も手を貸す。

 が、2人がかりでもハルバードは容易に持ち上がらない。


 キャーキャー騒ぎながら2人が格闘していると「触らないで!」と、誰かの怒鳴り声がした。


 その拍子ひょうしに玲実と望海が同時に手を放したので、ハルバードが『ズン!』と、落下する。


 それを見てイリアが激怒する。

「何やってんのよ! バカ!」


 間抜けな格好でポカンとしていた玲実が、罵声ばせいを浴びせられたことで我に返る。

「は? 何なの! いきなりバカとか……」


 イリアは、ツカツカと歩み寄ってくるとドンと玲実を突き飛ばした。

 そしてハルバードを拾い上げるように軽々と持つ。


 玲実が「な、片手!? そんな重い物を!?」と、驚愕きょうがくする。


 望海も何か言おうとするが言葉が出てこない。

 そして『持ち主しか使えない』という武器の特性を思い出す。


 話には聞いていたが実際に目の当たりにして望海は理解した。


「てことは……それはアナタの武器なワケね」


 イリアはハルバードを何度か握り直して手の平で乾き具合を確かめた。

 そして玲実達に一瞥いちべつをくれるとハルバードを持って玄関に向かった。


 玲実が「感じ悪っ」と、吐き捨てる。それは多分、イリアにも聞こえている。


 だが、イリアは振り返ることなくスタスタと歩いて行く。


 その後姿うしろすがたを見つめながら望海は考え事をした。


 それはまるでミステリーの探偵役の思考タイムのような表情だった。


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