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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第12話 リベンジを誓う

 ダッシュからの戦斧せんぷによる斬り上げ一閃いっせん


 電光石火でんこうせっかのモエの強襲きょうしゅうに周りの空気がこおり、時が息をひそめた。


 あまりの早業はやわざにヘレンは何が起こったか理解できない。


 そのせいで、斬られてから痛みを認識するまでに数秒を要した。


 ヘレンは「アウッ!」と、ライフルを放り出す。


 そして、両手で顔面を押えて悶絶もんぜつした。


 声にならない呻き声。時折「FUCK!」という単語が混じった。


 硬直こうちょくしていた委員長の利恵りえが悲鳴をあげる。

「きゃああああっ!」


 玄関口げんかんぐちに避難していたツインテール桐子きりこわれに返る。 

「な、何やってんだ! お前ら! ヘレン! 大丈夫か!」


 利恵は血まみれのヘレンを直視ちょくししてひるんだ。


 だが、ここでも委員長気質が利恵を駆り立てる。

 ずれた眼鏡に構わず、口元を押さえながら声を飲み込み、必死でヘレンに駆け寄る。


 ヘレンは「ううっ……ううう」と、地面をのたうち回った。


「桐子さんっ! 救急車……」

 と言いかけて利恵が呆然とする。

 ここでは救急車など存在しないことを思い出したのだ。


 逆に桐子はあわただしく動き出す。

「とにかく止血しけつしないと! ボクはタオルと氷を持ってくる!」


 顔面を切り裂かれたヘレンは、まるで何かをのろうようにうめき声を発し続けた。

 彼女の周りに飛び散った血痕けっこんが生々しい。


 一方、モエはヘレンに一瞥いちべつをくれると、急いでグラマー野乃花ののかの元に走った。


 ライフルで背中を撃たれた彼女が気にかかるのだろう。

「野乃花! 大丈夫なんか!?」


 モエに身体をすられて、野乃花が、むっくり起き上がる


「野乃ちゃん!」と、へそ出し乙葉おとはが自らの傷も顧みずに駆け寄る。


 乙葉も左の肩口かたぐちをヘレンに撃たれていた。

 こちらはかすめた程度で済んだが出血はしている。


 野乃花は立ち上がりながらスカートをパンパンと叩く。

「ああ、びっくりしたァ」


 野乃花の呑気のんきなコメントに詩織しおりが驚く。

「へ、へ、へ、平気なの!?」


 確かに野乃花はヘレンのライフル銃で後ろから撃たれたはずなのだ。


「ん? 別に痛くないケド?」と、野乃花は首を傾げる。


 モエが野乃花のリュックに開いた穴を発見する。

「それは……」


 乙葉も問題の箇所に注目する。

「その穴……弾はそこに当たったのね?」


 野乃花のリュックは荷物でパンパンだ。

 しかもフライパンの柄が上からはみ出している。


 モエが脱力したように苦笑にがわらいを浮かべる。

「パンパンに詰め込んだ調理道具ちょうりどうぐに当たったんか……」


 詩織が目を丸くする。

「そ、そんなことってある? フ、フライパンが弾を防ぐとか?」


 モエは半ば呆れたように「まるで漫画やな」と、苦笑い。


 へそ出し乙葉は野乃花の身を案じる。

「念のために傷が無いか背中見せて」と、リュックを下ろさせようとする。


 しかし、モエがそれを制する。

「待った! それは後にして取りあえず、ここを離れよ!」


「え、でも……」と、乙葉が困った顔をする。


 だが、モエは皆をかす。

「また撃たれたら敵わんで。今のうちに、ここを離れるんや!」


 先を急ぐモエに詩織が尋ねる。

「で、で、でも、ヘレンさんは、もう……」

 

 詩織は南風荘の玄関前の様子を眺めながら力なく首を振る。

 彼女は、ヘレンに反撃する力は残っていないと思っているのだろう。


 そこで、モエは冷静に答える

「いや。致命傷ちめいしょうではないはずや。当たりは浅かった……」


 そして手にしていた戦斧を見つめた。


 乙葉は冷たい目つきでヘレンの様子を遠目とおめに見守った。

 そして、忌々《いまいま》しそうに呟く。

「行こう。こっちも被害者なんだから」


 乙葉は、昨日も湿地帯で何者かに腕を狙撃されてしまった。

 それに続いて今日も……。


 乙葉は、自分もショットガンを撃ってしまったことを後悔しているような表情で首を振った。


 こうして、モエ、乙葉、野乃花、詩織の4人組は、後味あとあじが悪い去り方で南風荘を離れることになった。


    *   *   *


 南風荘のロビーで利恵と桐子は必死にヘレンの応急措置を行った。


 玄関口からここまで2人がかりでヘレンを引きずってきた。

 その跡が血痕となっていて痛々しい。


 ツインテール桐子が暴れるヘレンをソファに押さえつけ、委員長の利恵が濡れタオルを交換しながらヘレンの顔面を押さえる。


 だが、出血が止まらない。


 ヘレンの白い肌は血で真っ赤だ。金髪にもあちこちに血がこびりついている。


 祈るような表情で2人は必死に止血を試みた。


 静かなロビーに取り乱したヘレンの発する声だけが響く。


 眼鏡がずり落ちそうになりながら利恵がヘレンをなだめる。

「ヘレンさん! お願いだから落ち着いて!」


「暴れると余計に血が止まらないぜ」


 桐子の言葉でようやくヘレンが暴れるのを止めた。


 それを見て利恵と桐子が顔を見合わせる。


 どれぐらい止血をしていただろうか。

 傷口は赤黒い裂け目を露呈したままだが、そこから染み出る血の勢いは衰えたようにみえる。


 桐子が疲れた表情で言う。

「何とか出血がおさまってきたか。氷で冷やしたのが良かったのかもね」


 利恵は泣きそうな顔でヘレンを見つめる。

「でも、かなりの出血だよ? 出血多量が心配……」


 桐子はヘレンの手をでて言う。

「大丈夫。この子は強い。普通なら失血性しっけつせいショック死でもおかしくないところだよ」


 ヘレンのセーラー服はほとんどの部分が血に染まり、ゴワゴワしていた。


 ぽつりとヘレンが声を発した。

「……ソーリー」


 利恵が氷の入ったバケツから濡れタオルを出して交換してやる。


「……サンキュー、利恵……アンド桐子」


 か細い声でヘレンは感謝の気持ちを表す。

 それには涙声が混じっていた。


 利恵は、やるせない表情で首を振る。

 桐子も何も言えない。


「サンキュー、2人とも。もう大丈夫。自分で出来るから……」

 そう言ってヘレンは顔を覆うタオルを自らの手で押さえた。


 ヘレンをはさむような形で利恵と桐子は、ほっと一息をつく。


 そして互いに無言のまま、利恵が首を振り、桐子が頷く。

 言いたいことは分かるよといった風に。


「絶対……」と、ヘレンの口が小さく動いた。


 それを聞いて利恵が、まるで我が子をいつくしむような顔つきでヘレンの頭に手を伸ばして撫でてやる。


「絶対に……」

 尚もヘレンは呟く。

 どこか腹の底から本音を絞り出しているようにも聞こえた。


 桐子がヘレンの手を握る。

「無理すんなって……」


 桐子の言葉にヘレンが微かに首を振ろうとした。

 だが、痛みで「アウチ」という悲鳴を小さく漏らしてしまう。

 傷口が痛むのだろう。


「リベンジ……」

 その言葉を口にしたヘレンの顔はタオルで覆われていて表情は伺えない。


 しかし、その重みは利恵と桐子を無口にさせてしまうほど鬼気迫ききせまるものだった。


 ヘレンが何を考えているかは明白だ。


 モエへの復讐……いや、その怒りの矛先は、モエだけでなく、その仲間にも向けられているように思えた。


    *   *   *


 山海荘さんかいそうの大浴場で玲実れみと双子の我儘わがまま3人組は海の水を洗い流していた。


 望海のぞみが大きな湯船ゆぶねかりながら笑う。

貸切かしきりみたいで快適ぃ~」


 玲実とこずえは並んで身体を洗っている。


 玲実が梢の裸を横目で見る。

 そして意外に成熟した梢の腰回りにドギマギする。


 しかも横から見た梢の胸は大きく膨らんでいる。

 玲実は洗いかけの自分の胸を見下ろして複雑な表情を浮かべる。


 玲実の視線に気付いて梢がきょとんとする。

「どうしたの?」


 玲実が顔を赤らめながら誤魔化ごまかす。

「そ、それで、大丈夫なの? 足は?」


 梢は胸元の泡を手のひらでかき混ぜながら答える。

「あ、それは大丈夫。かすっただけみたい」


 へそ出し乙葉が巨大オクトパスに捕らわれた梢を助けようと撃ったショットガンの流れ弾が数発、梢の足をかすめていたのだ。


「そ、そう。なら良かった」

 そう言って玲実は平静を装った。


 梢の乳房を見た後で自分のものと比べてしまうと恥ずかしくなってしまうからだ。


 湯船に浸かった望海が、つま先を湯から出しながら言う。

「そういやさ。さっきのバケモノ。写メ撮っておいたよ。動画も」


 梢が振り返って顔をしかめる。

「なんで? あんなキモイ物……思い出したくもない」


 海で梢を襲った巨大オクトパスは、この世の物とは思えないほどグロテスクな造りをしていた。


 梢はそれを思い出して身震いするが、望海は気にしていないようだ。


「だって有名になれるかもよ? 動画アップすれば話題になるでしょ!」


 望海はそう言うが梢は懐疑的かいぎてきだ。

「でも、フェイクとか言われない?」


「まあ、確かに作り物っぽかったけどね」と、望海は足を湯に『ちゃぽん』と沈める。


 双子の会話を聞いていた玲実がシャワーで泡を落としながら口を開く。

「ねえ。あんな生き物が居たってことは、あの子の描いた絵。ひょっとしたら、あれも本物ってことになるんじゃない?」


 玲実が言うあの子とは智世ともよのことだ。


 彼女が『瞬間記憶』で描いたというスケッチブックの絵を3人は思い出した。


 望海が湯から上半身を出して顔を強張こわばらせる。

「そういえばそうだよね。てか、ドラゴンだっけ? 超ヤバくない?」


 初めてあの絵を見た時に3人は、まるで信じていなかった。


 だが、あの巨大オクトパスの化け物に遭遇そうぐうした今となっては、あながち智世の見間違いとも言い切れない。


 梢が身体を洗う手を止めて不安げな表情をみせる。

「どうする? みんなに伝えた方が良くない?」


 しかし、玲実は即座に首を振る。

「やめとこ。放っておけば? アタシ等はあそこに近付かなきゃいいだけよ」


「そうそう。シカトで良いよ」と、望海も賛成する。


「でも……万が一、あれが本物のドラゴンだったら」と、梢は悲観的ひかんてきに考える。


 玲実はシャワーのお湯を止めながら意地悪そうな笑みを浮かべる。

「アレが居るのは港の向こう側だよね。あんなトコに行く方が悪いのよ」


 望海も他人事のように言う。

「そうそう。天罰てんばつが当たればいいんだよ」


 梢が「天罰?」と、姉の言葉に驚く。


 望海は悪びれる風でもなく続ける。

「そうだよ。勝手な行動してさ。探検だって? 好きで危ないトコ行くとかバカじゃないの?」


 梢は姉のコメントに違和感を持ったようだが、玲実も澄まし顔で賛同する。

「そうよ。自己責任でしょ」


 この現状に望海と玲実は楽観的に構えている。


 だが、心配性しんぱいしょうの梢とは温度差が広がりつつあった。


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