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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第11話 電光石火

 双子の妹、こずえを襲った海の化け物。


 砂浜に打ち上げられた巨大オクトパスは楕円形だえんけいの頭部分だけで2メートルはあった。


 黄色い目が8個ついていること、口だと思われる箇所かしょからきばのようなものが数本はみ出していることから、明らかに普通のタコではない。


 太い『しめ縄』のような触手も、それぞれ4メートル以上ある。


 それを眺めながら玲実れみ望海のぞみ、へそ出し乙葉おとはとグラマー野乃花ののかが、一様いちように顔を強張こわばらせている。


 梢は砂浜に座り込んで傷ついた太ももを押さえている。


 玲実がオクトパスの頭を蹴飛けとばしながら文句を言う。

「なにコレ!? 化け物でしょ!」


 グラマー野乃花が真面目な顔で言う。

「あ、これ知ってる! TVで見たことあるヨ。ダイオウイカだ」


 すぐさま乙葉が突っ込む。

「どう見てもタコでしょ……」


 望海が梢のケガを見て、へそ出し乙葉を非難ひなんする。

「無茶するよね。弾、当たってんじゃん!」


 玲実も乙葉に厳しい視線を向ける。

「そうよ! 撃つのは仕方が無いけど、ひどくない?」


 2人の言葉に乙葉が驚く。

 ショットガンをもって助けに入った自分が、まさか責められるとは考えていなかったのだろう。


 そんな乙葉の代わりに野乃花が怒りをあらわにする。

「なにソレ? 助けて貰っといて、それはないでしョ?」


 望海は腰に手を当てながら口をとがらせる。

「そうだけど! しっかり当たってんだよね。梢に」


 それを聞いて乙葉がため息をつく。そして苛立いらだったようにきびすを返す。

「行こう、野乃ののちゃん」


「だってこの子達……酷いヨ」


 乙葉が「あーあ。助けるんじゃなかった!」と、吐き捨てて歩き出す。


 野乃花が慌てて「待ってヨ」と、走って乙葉を追いかける。


 2人は玲実達を砂浜に残して足早に民宿街に向かった。


 乙葉と並んで歩きながら野乃花が感心する。

「それにしても良くやったネ、乙葉ちゃん。怖くなかった?」


 乙葉は冷めた顔つきで応える。

「怖かったよ。でも、昨日のヘビに比べればまだマシ」


「ああ、そっか。昨日の大蛇だいじゃはヤバかったもんネ!」


「それに、さっきのは自分が狙われてたわけじゃないし」


 野乃花は乙葉の横顔とショットガンを見比べながらアヒル口をみせる。

「ネ、やっぱコレってモンスターと戦わされるってことなのかナ……」


 野乃花が口にした『モンスター』という言葉を聞いて乙葉が足を止める。

「ゲームみたいに? じゃあ、この武器はモンスターと戦うために与えられてるってこと?」


 乙葉が妙な反応をしたので野乃花が「ん?」と、困ったような色っぽい顔を見せる。


 乙葉は見張り台の矢倉やぐらで発見した落書きを思い出す。

『殺ス!!』『あと3人』の文字……。


「もしかしたら……そうなのかもね」と、無表情で答える乙葉。


 乙葉の反応に野乃花が戸惑う。


 モンスターと戦うというのは冗談のつもりだったのだ。

 だが、乙葉は神妙しんみょうな顔をしている。


 野乃花が無理に明るく言う。

「じ、じゃあ、武器を取りに行って正解だったネ」


「そうだね」と、乙葉が頷く。

 そして手にしていたショットガンの重みを確認する。


 昨日は動揺どうようして神社に置いてきてしまったが、別行動をとると決めたからには必要だと判断したのだ。


 野乃花は乙葉の手を引きながらニッコリ笑う。

「取りあえず戻ろ! モエちゃん達、待ってるヨ」


 野乃花の笑顔につられて乙葉も硬かった表情を崩す。

「うん。そうだね。私も早く着替えたいよ」


「そうなの? スカート濡れたままなんダ」


「ううん。実は、パンツが濡れてて気持ち悪いんだ」


 そう言って乙葉はセーラー服のスカートの端をつまんで持ち上げてみせた。


 その笑顔は照れ隠しのような、茶目ちゃめっ気のある乙葉らしいものだった。


    *   *   *


 その頃、南風荘1階の雑貨店でモエと詩織はリュックに食料を詰めていた。


 黙々と作業しながらモエは回想かいそうする。

 その光景は小学校に入学した頃の記憶だ。


 モエを取り囲む小学生達が「やーい貧乏びんぼう」と、モエをからかう。


「お前のランドセル、ボロボロやんけ。新しいのうてもらえんのか?」

「お古やん。汚ったなぁ」

「いややわ。あんな風にはなりたないなあ」


 ランドセルを背負ったモエを誰かが後ろから小突く。


 悔しくて涙が出そうになるのをこらえ、足元の地面を見つめながらモエは思う。


(何でウチは貧乏なん?) 


 場面が変わる。それは食卓しょくたくの光景だ。

 ちゃぶ台の上に唐揚げを盛った大皿がひとつ。

 そこに向かって周りから一斉に箸が伸びる。


 モエがもたついている間に7人の兄姉がドンドン唐揚げを食べてしまう。


 誰も末っ子のモエに気付いてくれない。

 まるで争奪戦そうだつせんだ。


 それを見ているしかない自分の無力さ。手元の箸先はしさきを見る。

 そして嘆く。


(兄弟が多すぎるから貧乏なんや……)


 さらに場面は変わる。

 

 台所でご飯の支度したくに忙しい母親。


 その顔を見上げながら尋ねる。

「なんで私の名前、カタカナなん?」


 母親は手を休めることなく適当に答える。

「ああ。漢字、分からへんかってん。調べるのも面倒くさかったしな」


「……え?」


 それ以上、何も言えない。


(ウチ……らん子やったん?)


 次から次へと嫌な記憶が呼び起こされる。


 そしていつもの場面。

 ある意味、モエにとっては最大の修羅場。


 それは母親と姉の会話を盗み聴きした時の記憶だ。


 ボロボロのふすまの向こうで母と長女の姉が深刻しんこくそうな話をしている。


「ウチらのお古ばっかりで可哀想かわいそうすぎるで、お母ちゃん」

「そやかて、お父ちゃんの給料上がらへんし、お母ちゃんのパート代も増えへん」


施設しせつ養子ようしにやったほうがマシかもしれへんで」

「せやな。他所よそにやったほうが、あの子の為なんかな」


(やっぱりウチ、要らん子なん? この家におったらいかんの?)


 そこまで思い出してモエは首を振る。

 そして自らをふるい立たせる。


(負けたらいかん! 自分の居場所は自分で作らなアカンのや!)


「モエちゃん!」 

 詩織の声でモエがわれかえる。


「あ……」

 いつの間にか手が止まっていた。


 モエが「ごめん」と、詩織の方を見ると、詩織は鍋やフライパン・調味料を4つのリュックに均等きんとうになるように詰めていた。


 詩織は満足そうにリュックを眺める。

「お、お、思ったより大荷物おおにもつになっちゃうね」


「まあ、4人で手分てわけすれば何とかなるやろ」


 そこに乙葉と野乃花が帰ってきた。

「ゴメン。遅くなっちゃったネ」と、野乃花があやまる。


 モエは乙葉が抱えるショットガンを見て頷く。

「うん。無事に持ってこれたみたいやな」


 モエの言葉に乙葉が神妙な顔つきで答える。

「ちょっとり道しちゃったけど。自信がついた」


「え? どういうことや?」


 グラマー野乃花が砂浜での出来事を説明する。


 それを聞いてモエが呆れる。

「あのさぼり組、ホンマ、どうしようもない奴っちゃなあ」


 詩織もいきどおる。

「し、失礼だよ! 助けてもらっておいて、そ、それは無いよ」


 へそ出し乙葉は苦笑くしょうする。

「もう、いいんだよ。試し撃ちできたって思うことにする」


「せやな。あんな我儘わがままな奴ら、なんも期待してへんし」


 出発の準備が整い、4人がそろったのでモエは出発することにする。

「よっしゃ。ほな、行こか!」


 食料と荷物が満載まんさいのリュックをそれぞれ背負い、モエ達は南風荘を出ることにした。


 南風荘の玄関を出た所では委員長の利恵tりえとツインテール桐子きりこが難しい顔をしながらモエ達を見送っていた。


 利恵はモエ達を見送るのは本望ではない。


 委員長的な立ち位置を意識して、何度かモエに思いとどまるよう説得を試みたのだが、モエ達の意志は固く、結局、見送るしかなかったのだ。


 モエは右手に戦斧せんぷを左手にリュックを持って先頭を歩き出した。


 利恵が半べそで訴える。

「ねえ! 絶対、無理しないでね。いつでも帰ってきていいんだからね!」


 港方面に歩いていくモエが振り返って応える。

「心配し過ぎや。しばらく別行動するだけやん」


 ボクっ子の桐子は何か言いたそうにツインテールの髪先をもてあそんだ。

 その表情は半ば諦めているといった風だ。


「そ、それじゃ、また」と、詩織が利恵達に告げてモエを追う。


 乙葉と野乃花が軽く手を挙げてそれに続く。


 4人が去っていくところを見守りながら利恵が大きくため息をつく。


 そこへ、モエ達と入れ替わるようにライフルを背負しょったヘレンが砂浜方面から帰ってきた。


 ヘレンがモエ達の後姿うしろすがたを見ながら利恵に尋ねる。

「あの子たち、何してるの?」


 ツインテール桐子が「安全なところに移動するんだってさ」と、利恵の代わりに答える。


「ホワット?」


 利恵が「止めたんだけどね……」と、うつむく。


 ヘレンはモエ達の大荷物に目をめる。

「食料……まさか昨日の話!」


 そう言ったヘレンの表情が見る間にけわしくなる。


 ヘレンはモエ達に向かって怒鳴る。

「ユー! ちょっと待ちなさいよ!」


 ヘレンの怒号どごうにモエ達が立ち止まって振り返る。


「ホワイ? なんで勝手に食料を持って行くの?」


 ヘレンの問いに対してモエが挑発するように顎を突き出す。

「ウチらの分や。あんたらとちごうて不便ふべんなとこに行かなならんからな」


「NO! そんなの許されない!」


「知らんがな」

 モエが前を向いて歩き出す。

 それに続いて乙葉達も再び歩き出す。


「止まりなさいよ!」と、ヘレンがライフル構える。


 利恵が「ちょ、ちょっとヘレンさん!」と、慌てる。


 桐子も「おいおい。流石さすがにそれはマズイって!」と、ヘレンを止めようとする。


 だが、ヘレンは「強盗は撃たれても文句言えないんだよ」と、撃つ気満々で狙いを定めている。


 モエは「フン」と、鼻で笑って振り返りもせずに歩き続ける。


 その時、『パンッ!』という音が響き、モエの後ろで乙葉の左肩口が弾かれる。


「いっ!?」と、乙葉が苦痛に顔を歪め、南風荘の方を振り返る。


 そして怒りの形相ぎょうそうでショットガンを構える。

 そして「あぁぁぁ!!」と、声をあげて発砲する。


『バンッ!』と、ショットガンが炸裂音を放ち、ヘレン達の近くにあった電柱に無数の穴が開く。


「キャッ!」と、頭を抱えてしゃがみ込む利恵。

「マジかよ!!」と、桐子は慌てて玄関に駆け込む。


 乙葉の反撃に呆然としていたヘレンはすぐさま射撃の体勢をとる。


「冗談じゃないわ!」

 すかさず発砲するヘレン。


『パンッ!』という音と同時に弾が野乃花の背中に命中する。


 野乃花は前につんのめって倒れる。


 それを見たモエの顔つきが変わる。

 それは怒りを通り越した殺意をはらんだ顔つきだ。


「やられる前に……」と、もう一度、ライフルを構えるヘレン。


 次の瞬間、ヘレンの目に戦斧を手に突進してくるモエの姿が映った。


 慌てて狙いを定めようとするヘレン。


 しかし、モエはジグザグに地面を蹴り、稲妻いなずまのように走る。


 そのスピードにヘレンが「え!?」と、硬直した。


 と、同時にモエの戦斧がヘレンの右あごから左こめかみに向かって斬り上げられる。


 そしてモエの豪快ごうかいな一振りが『ズバッ!』と、ヘレンの顔面を切り裂いた!


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