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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第1話 残された少女達

 ―― プロローグ


 溶岩に包まれた地下洞窟は、オレンジ色に染まっていた。


 猛烈な熱気の中、少女がひとり、蜃気楼しんきろうのように立っている。


「何で……どうして?」


 彼女の足元には、黒髪を広げた女の子がひれ伏している。


 かち割られた頭部から流れ出る鮮血は、蟻の群れのようにジワジワと岩板を浸食していく。


 足元のそれを見下ろしながら少女は自問する。

「……何でこんなことに?」


 瞳からこぼれた涙が頬を伝い、赤と混じり合った。

 頬だけではない。肩口、へそ周りにも大量の返り血が付着している。


 少女は奇妙な制服に身を包んでいた。学校制服には違いない。

 だが、膝、肘、肩には鎧のパーツのようなものが装着されている。


 そして、彼女の左手には血まみれのハルバード(槍の穂先に斧が取り付けられた中世の武器)が握られていた。


 彼女は思い出す。あの子の言った言葉を。

『逃げ道を選ぶのは悪い事じゃない。でも抗うことを止めてしまったら行きつく先はドン底しかない』


 ぎゅっと目を閉じて言葉の意味を噛みしめる。


 ふいに少女の右腕が熱をもった。


「熱っ!」


 二の腕の白い肌に紋章のようなあざが浮かび上がる。

 それは青白い炎のような輝きを発し、やがて彼女の全身を青白い光で包んだ。


 続いて鎧パーツの表面が、沸騰ふっとうしたようにボコボコと変形していく。

「イヤァァァァ!! こんなものっ!」


 そして、暗転……。


 走馬灯そうまとうのように少女は回想する。そして改めて思い知る。


(悪夢は……この島に来た時から始まってたんだ)


    *   *   *


 竹野詩織たけのしおりが目を覚ます。


「……え!?」

 詩織は、ぎょっとした。


 彼女の視界に飛び込んできたのは、死体が重なり合っているような光景。

 制服を着た女の子達が転がっている。


「ひっ!」と、詩織は起き上がって周囲を見る。

 そして自分が横になっていた場所に気付く。


「う、嘘!? なんでこんなトコに?」


 そこは道路の真ん中だった。

 

 どこかの田舎の素朴な道。

 そこに自分を含めて女の子達が折り重なるように倒れている。


「嘘!? みんな、死んで……」


 そこで「うう……ん」と、小さなうめき声。

 続いて「もう食べられないよ……」の寝言。


「生きてる!」と、詩織が目を輝かせる。

 よく見ると、死んでいるのではなく、皆、眠っているだけのようだ。


 詩織は「ちょ、ちょっと! 起きてよ!」と、すぐ隣で眠っている森乙葉もりおとは関田利恵せきたりえを揺り起こす。


 豪快に大の字になって、おへそを出していた乙葉が目を開ける。

「ん……なに?」


 続いて利恵がゆっくりと上体を起こす。

「あれ? 着いたの?」

 そう言って利恵は赤い額縁がくぶちの眼鏡を直しながら周囲に目をやった。


 つられて詩織も周りの様子を観察する。


 無人の港町。波止場はとば、待合場、そして大きな石碑せきひのある広場。


 小さな港は長閑のどかな日差しに包まれていた。

 風は無く、波は穏やかだ。


 定期船の待合場は田舎のバス停のように屋根があるだけで、ふたつ並んだベンチには2人の少女が寄り添いあって眠っていた。


 待合場の外では壁にもたれ掛る形で1人、石碑の周りにも2人、まるで町のいたる所で『うたた寝』をする猫たちのように少女達は眠っていた。


 少女達が着ている制服はバラバラで同じ学校に通う女子ではない。


 残る10人は、詩織達を含めて道路に寝転がっている。


 へそを出して寝ていた乙葉が目をこすりながら立ち上がる。

「あれ? スタッフさん達は?」


 眼鏡少女の利恵が首を傾げる。

「ミス・サーティーンの撮影旅行……だよね?」


 最初に目覚めた詩織がセミロングの黒髪を揺らせて困った顔をする。

「わ、分からないよ。わ、私も起きたばかりだから……」


 乙葉は顔をしかめながらセーラー服に付いた土を払う。その度にチラチラとおへそが見える。

「てか、何でこんな所で寝てたんだろ?」


 乙葉の疑問には答えずに利恵が提案する。

「とにかく皆を起こさないと」

 髪を束ねた眼鏡少女の利恵は、進んで学級委員長に立候補しそうな女の子だ。


 詩織、乙葉、利恵の3人は手分けして他の少女達を起こして回った。


    *   *   *


 港に隣接した広場の真ん中には15人分のキャリーバッグが山積みされていた。

 それを囲んだ少女達が立ち尽くしている。


 栗毛の巻き髪をいじりながら大江玲実おおえれみが激怒する。

「ちょっと! スタッフはどこ行ったのよ!」


 この中で最初に目覚めた大人しそうなセミロングの詩織が戸惑ったように答える。

「そ、それが……だ、誰も居ないの」


 委員長タイプの利恵が眼鏡の位置を直しながら頷く

「そうなの。私達だけみたい」


 お嬢様風の玲実は腕組みしながら怒りをあらわにする。

「マジで!? 何なのよ! 帰ったら事務所の社長に言いつけてやるから!」


 不思議なことに誰一人として、ここに来た経緯を覚えていない。


 共通しているのは、貸し切りの小型船で島に向かっていたところで記憶が途切れていることだった。


 15人の中に双子が一組。

 双子の加賀見望海かがみのぞみが不安そうに周囲を見る。

「てか、ここ、どこ?」


 隣にいた加賀見梢かがみこずえは、首をすくめて姉の顔を見る。

「グラビア撮影するところなんじゃないの?」


 しかし、無人の港に人の気配は無い。


 委員長タイプの利恵は眼鏡に手を添えながら提案する。

「とにかく、ここがどこなのか確かめないと」


 へそを出して寝ていた乙葉が半笑いを浮かべる。

「確かめるって……どうやって?」


 スマホをいじっていたツインテールの花村桐子はなむらきりこが首を振る。

「無理だ。電波が終わってる。スマホは使いもんになんねえ」


 確かにスマホの電波が来ていない。

 何人かの女の子がスマホを操作しながらパニックにおちいった。


「ホントだ。電波最悪……てか、完全に電波、死んでる?」

 そう言って泣きそうな顔をしているのは、ぽっちゃり系の渡部和佳子わたなべ わかこだった。


 悪いムードを変えるために眼鏡っ子委員長の利恵が提案する。

「ね、この辺に住んでる人が居ないかな? 固定電話があるかもしれない」


 それを聞いて中学生らしからぬグラマラスなボディの鈴木野乃花すずきののかが同意する。

「そ、そうだヨ! 家、捜そ!」


 古いデザインのセーラー服を着た大人っぽい一之瀬愛衣いちのせめいが、落ち着いた雰囲気で頷く。

「そうね。行ってみましょうか」


 愛衣にぴったりくっついていた二宮敏美にのみやとしみが元気よく手を挙げる。

「愛衣先輩が行くなら私も!」


 しかし、お嬢様な玲実は自慢の巻き髪を指に絡ませながら、やる気が無さそうに首を振る。

「私はパス。ここで助けを待つわ」


 双子の妹、梢も同調する。

「アタシも行かな~い」

「アタシもヤダ。めんどくさ~い」と、姉の望海も同じく拒否の姿勢だ。


 委員長タイプの利恵が何か言いたそうにするが、小さくため息をつく。

「仕方ないわね。有志ゆうしだけで行きましょう」


 結局、ツインテール桐子・へそ出し乙葉・姉御の愛衣と後輩の敏美・ぽっちゃり和佳子・グラマー野乃花が、委員長タイプの利恵に続いて歩き出すことになった。


 7人は港町があると思われる方向へ歩いていく。


 双子の姉、望海がその後姿を眺めながら鼻で笑う。

「バカみたい。遠足じゃないっての」


 同調するように双子の妹の梢と巻き髪の玲実が含み笑いを浮かべる。


 高飛車たかびしゃなお嬢様風の玲実とギャル風の双子姉妹は、いつもツルんでいるようだ。


 広場に残った少女は8人。


 玲実と双子の非協力的な態度の3人組。


 それに、海風にブロンドの髪をなびかせるハーフの藤川イリア、水色のセーラー服に金髪のダグラス・ヘレン、スケッチブックを抱えたベレー帽の石原智世いしはらともよ、ピンクのジャージ姿の山上モエ《やまがみもえ》、そして最初に目覚めた黒髪ロングの詩織だ。


 ひとりだけ制服姿ではないジャージ姿のモエが欠伸あくびする。

「あの子ら元気あるなあ。ウチは、まだ眠いわ」

 そう言って彼女は待合場のベンチに目をつけてスタスタと歩き出す。


 それを合図にイリアとヘレンが、それぞれ場所を変えようとする。

 共に無言で冷めた表情だ。


 皆を引き留める理由も無く、詩織はぼんやりと港に目をった。


 港には船が一隻も無い。

 船を繋ぐ為の係船柱ビットにはどれも紐が絡まったままだ。


 それを見て詩織が何かに気付く。

「あ、あれ?」


 詩織の様子に気付いてお嬢様の玲実が尋ねる。

「ん? どうかしたの?」


「や、な、何も……で、でも何か変」

 そう言った詩織の目が泳いだ。


 彼女の見ていた方向に玲実が目を向ける。だが特に変わった事はない。

「なにも無いけど?」と、玲実は首を傾げる。


 双子の望海と梢は、お喋りしながら髪を弄っている。


 その時、皆とは違う方向を向いていたベレー帽にスケッチブックを抱えた智世が小さく声を上げた。

 が、誰も彼女の反応に気付かない。


 智世の視線は7人が探索に向かった方向とは逆方向に向けられていた。

 港に隣接した石碑広場の先は森になっていて、それが海岸線に沿ってずっと先まで続いている。


 智世は驚きの表情で固まっていた。

 なぜなら、上空から黒い物体が飛来して森の中に下りていくのが見えたからだ。


 それは遠目に見ても妙な生き物だった。


 形こそ鳥のようだが異様に尻尾が長く、また脚が太かった。

 それは、まるで鷹が地表の獲物を狙うように急降下して森の中に消えていった。


 智世は動揺しながら玲実達に何かを伝えようとするが、うまく言葉が出てこない。

 引っ込み思案なのか玲実達の態度に恐れを抱いているのかは分からない。


 結局、彼女はぎゅっとスケッチブックを抱きしめて、伝えようとした言葉を飲みこんだ。


 知世が目撃した物。


 それは明らかにこの世のものではない。

 まるでドラゴンのような飛行物体だった。


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