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月宮国見聞録   作者: 判百 十一
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第五話 焼き鳥〔ねぎま〕(後)

油の光る、見るからにふっくらとした鶏と表面が軽く焦げた葱の塩のねぎまに思わず身を乗り出してしまう。

2本のうち1本の半分はぐぅ用に食べやすく小皿に乗られている。

アツアツのうちに早速1本。


ぷりっとした歯ごたえの、ジューシーなもも肉。

素材の良い鶏肉は塩のシンプルな味に引き立てられ、噛みしめるごとに旨味が染み出してくる。

そして、葱。

鶏の油を吸った、火が入り甘くなった白い葱。カリカリに焼かれた青い葉身は肉と一緒に口に入れる。

食事のうちの8割を鶏と卵が占める皎の前ではあまり大きな声では言えないが、ねぎまの主役は実は葱ではないかと思っている。


「お次はタレね。お待ち。」

「ありがとう!」


あっという間に食べきってしまった塩に続いてタレが2本。

てりてりツヤツヤとした飴色と食欲をそそる香ばしい香り。

これもまた、美味い。

ぐぅはタレのほうがお好みらしい。


「美味いー。」

「モット」


少しぬるまってきたビールはより苦みと酸味が立ち、甘辛ダレとの相性はもはや旨味の洪水だ。

鶏と葱のビールの組み合わせは最高。旨味と塩味と脂味、そして苦味に酸味。

ああ、もうずっと食べていたい。


「いい顔で食べるようになったよな、コウ。皎が最初に連れてきたときは幽霊みてぇな顔してたのになぁ。」


青い肌に太い3本の角をもつ大将が思い出すように言う。

この店に来始めた頃の俺はそれほどひどい顔をしていたのだろう。


「この国の飯が美味いおかげだね。」

「いや、そこは俺のおかげだろうがよ。」

「グゥモナ」


皎がにやにやしながらこちらを見る顔は、あの時のままだ。

長身の皎に合わせてぴったりと仕立てられた、髪の色によく似た白い柔らかな素材の着物に、同布の引きずり羽織と色鮮やかな腹切帯に蛇の目傘。

羽織の背には丸く牙を剥いた八岐大蛇の一つ紋。

あの日本と繋がってしまった水辺で、初めて会ったこの世界の住人の白蛇。

今の彼と同じ服装。その姿はしっかりと記憶に刻み込まれている。


「しかし南な、今回はどこにも行かず帰ってきちまったんだよなあ。来年にでも行くか。朱雀城下街はおもしろいぜえ。池を見下ろす赤い街にゃあ一面に提灯、濃ゆーい甘い果物の酒もなかなかだ。」

「いいねえ!本場の火祭りも見てみてえ!」

「次ナ、ウズラ」


幕末の日本での飲まれたビールが『殊の外悪敷物にて、何のあぢはひも無御座候』と記していたと何かで読んだことがある。

日本では最も多く飲まれていたビールだったが、こちらの世界日本酒にその座を譲っている。

味は良く似ているし、変わらず美味い。

それでも日本とは全く異なる酒の歴史を辿ったのだろう。

俺もこの世界で沢山のものを見て、想像していた未来とは全く異なる歴史を辿ることになる。


店に客が増えてくる。

外の雨は降り続いているが、まだ夜の帳が下りる気配はない。

この世界でできた一番の友人との宴まだ始まったばかりである。

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