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近くて、遠い   作者: ミノミーの
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序章

 今でもたまに、あの日のことを思い出すことがある。



 少し寒さの残る春の初めごろの日、私は体育館裏に呼び出された。

 経験のない私は、変に緊張してしまう。

 指定された時間にその場所へ向かうと、クラスメイトの男子が待っていた。


 名前は――なんだったっけ。


 そんなことでさえも、緊張がかき消してしまう。

 彼と目を合わせていいのかもわからず、ただただ戸惑っていると、彼が口を開いた。


「ずっとあなたのことが気になっていました。もしよかったら、僕とお付き合いしてくれませんか?」


「――えっ?」


 思わず声が出てしまう。

 いやいや、こんな人気のないところに放課後異性を呼び出して何するかなんて、一つしかないだろ。

そう思うだろう。だが、この時の私って本当に疎くて、知らなかったんだ。

 聞いたことが全くなかったわけではないが......。

 ただ、もうすぐ中学も卒業ってときにこんな小学生みたいな告白の仕方をする奴なんて聞いたことないぞ。

 ――とまあ、今考えると色々思うこともあるわけだが、この時の私にとっては初めての経験だったわけで。

 私は外見はそれなりだと自負している(割とね)。でも、今までモテた経験はないし、彼氏なんて当時は当然作ったこともなくて。というのも、私はあまり(いや全く)目立つことを好むタイプの人間ではなくて、教室の隅っこでいつも本を読んでいるような、なんかこう、なんていうんだっけ。そう、俗に言う陰キャというタイプの女子だった。こんな私が告白されるなんて、どんな世界線だよ。

 告白してきた彼はヒマワリのような爽やかさを纏う整った顔立ちに、すらりとした長身。サッカー部に所属する、クラスの中心的存在だった。本当に私の正反対。陽キャだ。

 当然私と彼に接点なんてあるはずもなく、当時の私はパニックになってしまった。…無理もないよね。


 そして私はどう答えたのか。普通は断るとこだよね。彼のこと名前すらよくわかんないのに。


「はい、私でよければ......」


 緊張って怖いな。気づいたらオッケーしてしまってたみたい。

 でも、付き合ってから彼のことを知ることができたらいいかななんて思ってたし、なんだかんだ言って彼とこれからの日々を過ごしていくことが楽しみだったんだ。

 でも、それから一週間、彼と関わることはなかった。

 恥ずかしくて話しかけられなかったとか、彼が話しかけてくれても超えることができなかったとかじゃない。本当に、何の関わりもなかった。

 私から話しかけたこともあったが、なぜか無視された。結構勇気出したんだけど。

 そんなこんなで一週間が過ぎてしまった。

 どうしたら良いかと悩んでいたところに、一人の男子がやってきた。


「お前があいつの罰ゲームの相手?ハハッ!ウケるわー。あいつお前のことなんとも思ってないとも知らずにさ。フツーに考えてお前らが釣り合うわけねーじゃん」


「でも、彼から子育博してきたんだよ?」


「んなもん嘘コクに決まってんじゃん。罰ゲームだぜ?」


――言葉が出なかった。嘘コクなんて、わかるわけがないじゃないか。


「あいつ地味女に話しかけられて迷惑って言ってたぜ」


 ショック、と言えばいいのかな。よくわからなかった。どうして私が笑いの的にされなくちゃいけないの?何もしていないのに、どうしてそんな軽蔑するような目で見られなくちゃいけないの?なんで?なんでなんでなんでなんでなんで――!



 とにかくその時は、何もかもがわからなくなってしまっていた。ただ一つだけ、感じていてこと。今でも思い出すこの日の出来事。



私の中で、何かが音を立てて壊れた。それはあの日からずっと、壊れたままだ。




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