生徒会選挙(5)候補者議論会<2>
「今度のテーマは、自分が有意義に感じる時は?です、さあ皆さんどうぞ」
2年生の元庶務がマイクを持つ。
「自分が、正しいことをしているときです」
確かに真っ当な意見で一見正しいっぽいが、だから何なのかという話だ。その正しさは誰が決めるのだろうか。おまえの正義だろうが。
すかさず律がマイクを取る。
「その正しさは誰が決めるのですか、アナタですか?アメリカみたいな超大国の論理じゃないですか?あなたの都合による正義ですか?」
律に僕の魂が乗り移ったと感じた。
「そうです、私が、私の責任で執行する。それには普遍性がある。何が悪い」
と2年生の元庶務が言い出した。
「話にならない。そうやっていかにも………という理論を作り上げて弱者を切り捨てる正しさのことを、偽善というんです」
律は、つまらなそうに言った。
さっきのこともあり、体育館がざわついた。
「決して偽善じゃないですよ。じゃあ聞きますが、あなたの言う正しさとはなんですか?」
コケにされた2年生元庶務も必死である。
「人類が作った法律、法令、勅令に従わず、誰にも従わない正義の法です」
またざわつく。
「なんなんだそれは。ふざけてるのか」
元庶務の二年生は激怒している。
「普遍性を前提にするから正しさが正しさ足り得ない。それならば最初から普遍性を手放してしまえばいい」
律はだんだん哀れんでいるようだった。
場内はわかりにくい用語の連続に静かになる。
「不確定なファクターが散らばっている世界に、普遍性を持ち込むなんて夢はよした方がいい。地球以外に行くんですな、最も、どこに行っても一緒だと、私はせせら笑いますし、普遍的な正しさがあると思うのもあなたの自由ですけどね」
「なぜおまえの、誰にも従わないと正義のほうが両立し得るんだ」
「多様な正しさがあるから。最も、多様な正しさを認めるというのも、ものすごく大変なこと。だから私の言う正しさは、人類が作った法律、法令、勅令に従わず、誰にも従わない正義の法だと申し上げております」
律のファイナル・アンサーだった。2年制の元庶務は言い返す力も失っていた。
「おい、ちょっと待て」
生徒会長の鴻池が言った。
「テーマを真っ向から否定する杉崎に、2年生の元職を論破する実相寺。1年の神無月が全然喋れてないじゃないか。もはやこれは論戦ではなく戦争だ。神無月、何か発言しなさい」
神無月というのは、例の弓道がうまくて有名な人だ。
「そ、それは、その………」
「その、杉崎くんも実相寺さんも頭がものすごく良くて勇敢な姿勢に感服しました。しかし、それは生徒会という場所において、ふさわしい能力じゃないのではと思いました」
「一言でいうと協調性がないということ?」
「………はい」
消え入るような小さい声で言った。
「そうか………1つだけ言っておくと、俺はそんなに問題に思ってない。別に庶務の頭がイカれてても他のメンバーが適切にフォローすれば問題ないし、逆に他のメンバーの知恵が足りないときに、頭がイカれた庶務がフォローすれば良い。組織は助け合いがないと成り立たないよ。協調性がないやつを1人2人抱えて仕事が詰まるような生徒会は、早い話生徒会長の能力不足だ。むしろ異端児こそいて欲しいものだ。残念ながら、庶務候補者議論会の時間は過ぎているんだ。神無月、他には言っておきたいことはないか?」
「同じ1年生ながら、杉崎くんと実相寺さんにただ圧倒されるばかりでした。もう何もございません」
「これで庶務候補者議論会は終了だ」
もう用は済んで一般人になったので、座からおり、律は美術科の8組がたむろしてる所、俺は普通科の7組にたむろしてる戻ったが、律は8組美術科の誇りとか言われているくせに、俺は胡散臭い口先の魔術師みたいな目で見られた。この差はなんなんだろう。
他の役職の演説会なんて聴く気分にはどうしてもなれなくて、こっそりと体育館から抜け出すと、律がいた。
「なんか、訳解んないことになっちゃったね」
「正直。俺が導火線に火をつけたようなものだったな」
「いや、まあそこは」
「逆転ホームランはないかねえ」
「わたし、わかんない」
と言って、律はそっぽを向いた。
「お前だって、元職に食って掛かった癖によく言うよ」
「食って掛かってないもん。論破しただけだもん」
「同じようなことじゃねえか。でも楽しかったな、熱気があって」
「そうそう」
後は絶望的な結果を待つのみ!