生徒会選挙(3)街頭演説編
冬月と浅葱は、どうしここまで肩入れするんだろう。してもいいこともないし、金儲けにならないのに。
「楽しい」のであろうか?でも同じことをしている俺は楽しくないのですけどねえ。
今日は冬月の演説であったが、一悶着あった。浅葱が言及した庶務候補の2人の取り巻きが乗り込んできた。柔道部いにるみたいな強面。
「おい、貴様ら、なんて演説をしてくれたんだ」
「そうだぞ。卑怯な事しぐさって」
胸倉掴んでただ事じゃないなあ。ちょっと困ったなあ。俺は傍観者なんだ。殴ろうかな。一応その前に俺は言った。
「だから何だ。お前らも言論で報復してやればよいだろう。卑怯?こうやって、言論でなく脅してくることが候補者の顔に泥を塗っていることに気づかなきゃ。最も、そうなったら浅葱が許さず更に激しい罵倒をするに決まってる。そんなにお友達を生徒会に入らせたいのか。変わった人たちだ。小銭でも握らされたか。生徒会なんてどうせ教師の犬なんだろう。犬選びも手間がかかるんだな。せいぜい頑張ったらいいんじゃないか。誰も止めはしないよ」
「このヤロウ、やっちまおうぜ」
と相手が言って来たタイミングで
どっかいってた浅葱が、大急ぎで戻ってきて、拡声器で「暴力はやめなさい!暴力反対!やめろ!暴力を働く不良選挙団員を叩き出せ〜!皆さん、この顔です!コイツラは言論の自由を奪うやつらです」と改造した拡声器の最大音量で叫んだ。
「当然力では彼らにかないません!言論には言論で対抗しなさい。私たちは心から永遠に正しいと思っていることをしてると信じております!」
浅葱先生の浅葱節が吼える。
「覚えとけ」
捨て台詞を吐いて逃げていった。
まあ、こいつらも浅葱と当ったのが運の尽きだろう。
今日は冬月の演説の番である。
「えー、今から応援演説をさせていただきます。私が実相寺律候補と出会ったのはつい最近なのですが、彼女なら公利公欲が果たせる人物だと、私の目は確信しております。コレには根拠があります。私の家の生業は商売をしておりますが、その中には当然手形詐欺とかいろんな詐欺師がたまに来るわけ。そういう人を何回も何回も見るとね、不思議に嗅覚が鍛えられて、こいつは怪しい、濁っているというのが感覚的にね、わかる。実相寺律候補を見てもなにもないんです。彼女は、公利公欲の活動ができると信じるに値すると思ってます。政治家は私利私欲のためにしか動かないなら、せめてもの救いとして、生徒会では公利公欲のために動く人を入れみて、任してはどうでしょうかね?損はしないと思います。ご清聴ありがとう」
次は律の番だ。緊張して、手が震えているのがわかる。
「私は、中学校は生徒会に入っておりませんし、縁も何もなかったんです。別の世界の人間のように思っておりました。それなのに突然、生徒会庶務に立候補したのは、ふと生徒会の活動に興味を持ち始めましたからなんです。その中でも、特にリーダーシップも、人を纏める力もない私には、縁の下の力持ち的な庶務は非常に自分に似合ってると思いました。私の人生観上、人間、「ふと」思ったり考えたりしだしたことは、偶然じゃない、必然なんです。だから、興味を持ち始めたことは偶然ではなく、必然であると私は思います。きっと、今ここで生徒会の活動に興味を持ち始めたのは、「偶然」じゃなない「必然」だったんです。必然ならば、必然と受け止めて行動するのが最善です。もし私が生徒会庶務になったら、そこで行使する力は100%公利公欲です。それしかありません。私には誇るべき経歴も武功も何もありません。どこまで行っても普通の女子学生です。しかし、本当の普通の人だからこそ、気づくこともあるのではないでしょうか?色がついた紙ではなく、まっさらな神だからこそ気づくこともあるはずですlそれについて公利公欲を100%貫いていく決意が私にはあります。以上も持ちまして、実相寺律の演説を終わらせていただきます」
何人かが拍手をしていた。傍観者である俺を除いた、律、冬月、浅葱にはこれ以上無い救いになっただろう。
帰りのファミレスで実際問題になっていたのは、投票の前に行われる候補者議論会である。立候補者のほかに、補助人がひとり連れて行っってもいいのだ。だから、そもそも連れて行くのか、また連れて行くのならば誰かという点になる。
律は、連れて行きたくて、なんと俺を連れていきたいらしい。まいったな。傍観者が手を出しちゃいかんでしょ。
「浅葱を連れていきなさい、浅葱を」
「いや、ウチじゃ頭で負ける」
「………俺は嫌だ」
「本当は、もう名前書いたんだよね。大助の名前」
律がとんでもないことを言った。
俺は天を仰いだ