生徒会選挙(2)街頭演説編
いつまでこいつらは、生徒会選挙という熱病にいうなされ続けるのか。
のぼり旗とたすきをもらい登校時間帯に演説をする。演説の拡声器は生徒会から貸し出したものを使うが、浅葱が2台持ってきた。
「スペシャル拡声器登場!」
もうスペシャルって言っただけでネタが割れる。
「あんまりでかすぎるとすぐに見つかるぞ」
と浅葱に言うと、
「1.5倍ぐらいだから大丈夫」
冬月と2人してう~んと唸る。
「戦闘開始」
浅葱が拡声器を持って、狂おしいほどうなり始めた。
「みなさん、朝早くから登校ご苦労さまです。ご苦労ついでに、私達の弁を聞いていきませんか。歩きながらも大変結構。政治家というのは私利私欲で政治を行いますが、私達が指示する実相寺律は、100%公利公欲で生徒会業務を行うことができます。なぜなら、彼女はこの土地の旧家で喰うに困ったことがないからです!」
浅葱の顔が紅潮している。
「生徒会選挙の応援演説で人柄が………とか、リーダーシップが………とか非常に責任感がある………とか、決まり文句のように言い出す勘違い野郎どもがいますけど、それがなんなんですか?だからなんなの?もうみんな聞き飽きてるわけ。そういう能力がお有りになること自体は否定しませんけど、それと生徒会活動の何が関係あるわけ?例えば、責任感があっても生徒会で手抜きしたら意味ないでしょう。人柄がよかったら書類のミス率が減るんですか?2年生の元書記とか、弓道で有名だからって、それはそれで大変素晴らしいと思いますけど、生徒会業務で一体そういう肩書・人気は何になるんですか?結局人気取り、有名取りなんですか?私は諸君らの多数派に呼びかけている。これはね、庶務以外の役職にも当てはまるわけ。生徒間の人気取りゲームな感じもあるわけ。でね、私はね、そういう外面で決めて群れる集団組織が大嫌いなわけ。ニート・引きこもりは外に出ちゃ駄目なんですか?終生そのままでいなきゃ駄目なんですか?目立たない人が、自身の人生において、これだと思い生徒会庶務になり、100%公利公欲のため能力を使えば、私はその人のことを非常に尊敬します。私の友人なら尚更です。ここでわたしが嬉し涙を流せば、律からは尊敬され、自分自身からも尊敬されます。ここで悔し涙を流せば、律からは慰められ、自分自身からはバカにされます。嬉しかったら嬉しくて涙を流さなければいけないし、悲しかったら悲しくて涙を流さなきゃならん。これに人間の価値があるわけ。どうか私に嬉し涙を流させてくれませんか!」
生徒会候補者演説というよりも、思想演説になっていて異様な雰囲気になっており、足を止めて聞く生徒もいた。
応援演説らしくない応援演説に、他の候補はポカ~ンとするものもちらほら。
そろそろ時間なので、引き上げなければな在らない。
「よくやった。引き上げるぞ」
と俺が声をかけても、へんな演説に当てられていたようだった。
その放課後、ファミレスに集まって戦略会議をした。
「なんか変な伝説になりかけてるぞ、浅葱の名演説」
と冬月が言った。
「へんな伝説でも、なんの伝説にならないよりマシだ」
と浅葱が勝ち誇っていたので、なんだかな~と思った。応援演説らしくない応援演説だし………。
「明日は大助、お前がやるんだ」
………え?俺が?
「ちょっとちょっと、それは勘弁してーな」
「勘弁できん。全員1回ずつは最低やる」
と浅葱が言うので、
「まぁそれなら公平だし文句もつけられんわな………」
と僕は言った。実際そうだし。
次の日の朝。
「戦闘初め」
と言って浅葱特製音量増加仕様拡声器を持たされた。こうなりゃ仕方がない。
「え~皆さんは、花びらがついた桜の木の下が、恐ろしいと思ったことがあることはありますでしょうか。ありました方は挙手の方をお願いします。はい、ありがとうございます。桜が満開から散っていくのは暗い事柄のの比喩に思えて仕方がないんですよね、命は枯れ果てる、楽しい時間はいつまでも続かない。若い人は死への執行猶予が長いにスギナイ。桜はきれいというのが世間の評判でしょう。私はそうは思わない。そこに真実があるとは思えなくて、無常観とか寂寥感を覚えて仕方がないんです。だからね、他の3人にこれ言うたら後で怒られてもおかしくないんですけど、当選しなくてもしょうがないと思ってるわけ。元々が無なら無のままで問題ないでしょう。知名度がやっぱり違うからね。まぁ、どんな理由で、他人が生徒会選挙の候補を選ぶのかなんて分かんないし、知る由もない。そもそも興味がナイ。ただ、高校生活は一生で一度しかありませんので、公利公欲に尽くす候補者に入れたほうが賢明だとご忠告をし、この場を降りさせていただきます」
結局、人間は虚空を生きていると主張してやまない俺が、率に遅れる最大のエールがこれだ。
その放課後、ファミレスに集まって戦略会議をした。
「お前の演説は独特で、なんとも批評しにくい」
と冬月が言った。
「ん~深みがある」
と律と浅葱が言った。
とりあえず怒られなかったのでOKということで。