生徒会選挙(1)立候補編
入学式が始まって、どこでも同じような金太郎飴の作業が終わり、教室に着くと、配られたプリントの中に生徒会選挙と監査委員選挙についてのプリントがあることに気づいた。
生徒会(生徒会長1名、副会長2名 書記1名 会計1名 庶務1名)。
監査委員会 (5名)
立候補者には推薦人が2人必要………あと1人どうするんだろ。
告示は3日後。ずいぶん早い。
帰った後、律に聞いてみた。
「おい、もうひとりの推薦人はどうするんだ」
「ねぎちゃんが引き受けてくれるって」
ねぎちゃん………んんんと考えたところ、律の親友の浅葱という生徒に心当たりがある。まあこれで立候補の条件はクリアということになる。浅葱も美術科にいるらしい。
3日後、告示を見ると、立候補の受付日は告示日(今日)より二日間。投票は4月27日、発表は28日。立候補には推薦人が2人必要。選挙運動は投票日の4日前まで。4日後にたすき、のぼり旗の貸出の開始。選挙公報に乗せる原稿提出は4日後まで。
とい内容のものが掲示されてあった。
んんん選挙公報ねぇ。もともと庶務になりたくてなったわけじゃないから何書いていいんだかわかんないよねえ。ネタが無い。
この日、昼休みに学校の屋上で俺、律、浅葱の三人で作戦会議を開いた。
「わ~庶務に立候補してるやつで1年生の人、有名だよ」
と浅葱が言った。
「え?」
俺は意外に思って聞き返す。
「弓道で」
「知らんかった」
「2年生の人も2人出てるし、結構厳しそうだねえ♪」
楽しんでんじゃねえよ。と思ったけど、よくよく考えてみれば、別に当選を命じられたわけでもないので、負けてもいいといえばいい。
「大助くんには案はあるんだよね、当然」
「えっ俺?案がないから浅葱を呼んだんじゃんじゃないか」
「律の案は?」
「私にも思い浮かばないんだけど………」
寒い風が吹いた気がしたけど気のせいだよな?
虚空でなにもないところに吸い込まれそうに名ある。いっそ全てを投げ出して吸い込まれたほうがどんなにましか。いっそ生徒会選挙も投げ出してしまいたい。
「インパクト重視作戦かねぇ~」
「なんだそれは?」
「選挙公報に乗せる原稿、街頭演説と立候補者演説と候補者討論でインパクトを上積みするしかない」
「やっぱ順当なところでそうなりますか」
「だって相手が悪いよ。よく見たら、2年生の候補の1人って1年のときに庶務やってる経験者だし」
「う~ん。相手が、ね」
「とりあえず、放課後学校近くのファミレスに集合して選挙公報の現行案を練ろう」
「賛成」
そして、放課後、学校近くのファミレスに集まった。そこには、腐れ縁の冬月の姿もあった。
「よお、冬月。お前とはどこか出会うだろうと思ってたけど、思ったより早かったな」
「なにか面白そうなことしてるみたいだから混ぜてくれよ~」
別に面白くはないと思うぞ。と言うか苦しい戦いだ。
「じゃあ、私から発表します~♪」
「今回、生徒会庶務に立候補した実相寺律といいます。今まで先輩方が築き上げてきた素晴らしい伝統を受け継ぎ北高をもっとより良い学校にします」
「ないわ」
「ない」
「ない」
と三人が判断したので、浅葱は不機嫌そうになって
「どこが悪いのよ」
と言った。
冬月が指摘したのが、テンプレすぎるということだ。浅葱自身言っているインパクト重視の戦法になじまない。
「じゃあ他の人の案を聞こうじゃないか」
俺たち三人は沈黙した。
「話にならんな」
オレンジジュースを飲みながら浅葱は言う。
「まぁ今回、生徒会庶務に立候補した実相寺律といいます。」と云うところはいいわな。問題は後半だ。テンプレすぎる。
と冬月が言うと
「じゃあアンタならなんて書く」
と言い出し、
「私は小中生徒会に属したことはなく、一般の生徒として過ごしましたが、高校生になり、生徒会の活動に興味を持ち始めました。その中でも縁の下の力持ち的な庶務は非常に自分に似合ってると思いました。私に、生徒会活動を支えさせてください~とか」
「採用。やっぱ選挙公報じゃ、前職の2年と弓道で有名な1年にどうあがいても水をあけられる」
でも、肝心の律がもう少し文章にボリュームがほしいとか言い出した。
「ボリュームは上げるとうるさいけど」
それは違うボリュームでしょう。
「今回、生徒会庶務に立候補した実相寺律といいます。私は小中生徒会に属したことはなく、一般の生徒として過ごしましたが、高校生になり、生徒会の活動に興味を持ち始めました。その中でも縁の下の力持ち的な庶務は非常に自分に似合ってると思いました。私に、生徒会活動を支えさせてください、でしょ? 他の候補がどんだけ書くか知らんけどね、それなりに纏まってると思うんだけどねえ」
と浅葱が言うと、
「まぁ他の候補がどれぐらい書くかにもよるが、かえって短くまとまっている方がインパクトがあるかも知れないし、やっぱり選挙公報では大勢は決まらんでしょう」
つうことを冬月が言い、これで行こうという話になった。
次の日には、原稿を提出したららしい。
この件については、終始俺は傍観者、観測者に徹した。その人の未来はその人が作る。当たり前のことだ。当たり前のことを当たり前でないように思うと、間違いを起こす。
楽しいことは永遠に続かない。いつか終わって、めいめいがくだらない日常に戻っていく。楽しいこと自体が崩壊の因子を持っている。
結局、人間は虚空を生きている。こんな強烈な思想を持つ俺が一体何の手伝いができるのか疑問であり、愚問である。