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父を殺された娘と友を殺した男

 お久し振りです、おじさん。十年ぶりですね。少し痩せましたか?


 何故ここにいるのかって?


 そんなのおじさんを迎えに来るために決まってるじゃないですか!

 大変だったんですよ?おじさんがいつ釈放されるのか頑なに伝えてくれないから、この半年の間ずっとこの刑務所に来てたんですから。


 ……俺と関わるのは止めろ?

おじさんはそんな酷いことを言うんですね……

 そもそも、おじさんが私にそんなことを言う権利はないんですよ



───私の父を殺したあなたには



 やっぱり、この言葉はおじさんにきくみたいですね。

 分かりますか?おじさんには私に逆らう権利なんて無いんです。


 さあ! 分かったならこの車に乗ってください!








(車の中)


 おじさん、びっくりしたんじゃないですか?

 あんなに小さかった私がこんなに大人になっていたなんて。

 私、高校生になってからいきなり背が伸びたんですよ! 自分でもびっくりしちゃいましたよ。まさかここまで大きくなるなんて!


 ……ちょっと、さっきから黙りじゃないですか。ちゃんと私と会話のキャッチボールしましょう?

 また、同じことを言わせたいんですか?


 ……分かってくれればいいんです。

 おじさんは刑務所にいる間、どんな感じでしたか?

やっぱりキツかったんじゃないですか。刑務所での生活は。


 ……へぇ!意外と平気だったんだ!良かった!

 私、刑務所の中で酷い目にあってたんじゃないかって心配だったんです!




 えっ?母は元気にしているのかって?


……どうでもいいじゃないですか。あんな女。


 いえ、なんでもないですよ! 母は元気です!






(マンションに着く)


 さあ、着きましたよ!ちょっと狭いですけど上がってください!

 どうです?部屋の中、綺麗にしてるでしょ?

おじさんがいつ帰ってきてもいいようにしっかり準備してたんですよ。

 おじさんはこれからこの部屋で私と生活するんです!


 おじさん、覚えてます?昔、私の部屋に入ったときに何て言ったか!

「なんだか、男子小学生の机の中みたいな部屋だなぁ」って!

 えっ?覚えてない?

 ひどい!私、めちゃくちゃ気にしてたのに!

 ちょっと!何で笑うんですか!

 もういいです!適当な場所に座っててください!

 おじさんの出所祝いの準備しますので!





 おじさん!刑務所からの釈放、おめでとー!

(クラッカーの音)

 さあ!遠慮しないで食べてください!

 今日はおじさんが主役なんですから!

 刑務所なんて味の濃いものなんて早々でなかったでしょうし。ケーキやフライドチキンなんて、もっての他だったでしょう?




 ……何で君の父親を殺した男にこんなに良くしてくれるのか?

 おじさん、まさか私が知らないとでも思っているんですか。何故あなたが私の父を殺したのか。


───あなたは私たち家族を救うためにその手を汚したのでしょう?

 きっと貴方は、母が父から暴力を振るわれているのも、

……私が父から性的暴力を受けているのも、知っていたのでしょう。

 だから貴方は父を殺した。


かつて愛した女性である……母を助けるために。

肉親てある父に陵辱される私を救うために。

外道に堕ちた親友にこれ以上罪を重ねさせないために。


私は知っていますよ。おじさんがただの人殺しじゃないってこと


……眠くなってきましたか?きっと久々にたくさん食べて、たくさん泣いたから疲れちゃったんですね。


……ええ、私はここにいますよ。

安心して眠ってください。

おやすみなさい……おじさん。


















ごめんなさい、実は私、おじさんに一つ嘘をついていたの。

それは、私とおじさんで一緒に生きていくって言ったこと。


本当は、私に生きていく気力なんてものはないの。

おじさんが帰ってきたその日、私は貴方と死のうとおもっていたの。それだけを私の希望にして今日まで生きてきたの。


父の姿をしたバケモノにこの身体を貪られたあの日、私は壊れてしまったの。


ごめんなさい、ごめんなさい。

貴方が自分の人生を賭して救ってくれたのに。

私の穢れを暴かれないために、貴方は、幸せな家庭を壊した殺人鬼になってくれたのに。



私は掌にのせられた、数え切れないほどの錠剤を口に含み、嚥下する。


「私、お父さんに出会えて良かった」

ああ、やっと言うことができた。私にとっての本当のお父さん。私にとって唯一、本当のもの。

私を叱ってくれた貴方。

私を褒めてくれた貴方。

私のために、母に恨まれた貴方。

私のために、私を遠ざけようとした貴方。


ずっと言えなかったの。


父を殺した貴方に、この言葉を口にすれば、

貴方は悲しい顔をするだろうから。

父と母を大切に思う貴方に、この言葉を口にすれば、

貴方が二度と会いに来てくれないと思ったから。



私は、横になり動かなくなった貴方の背中に顔を埋める。


「お父さん、大好き」


頬に暖かいものが流れていくのを感じながら、

私は瞼を閉じた。


































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