CHAPTER.8
俺が生姜焼きを食っていると、プロ子は突然、思い出したように言った。
「惣一、だっけ? ……ちょっと、マズいかもね。」
マズい、ねぇ。少し俺は引っかかったが、口には出さないでおく。
「そやなぁ、絶対明日、学校で聞かれんで。」
「隠し通してよ、危険に巻き込みたくないでしょ?」
「それは厳しいかもなぁ、アイツ俺より頭良いし嘘ついてもバレる時とバレん時、半々って感じやからな。」
惣一は俺みたいに、相手を観察して嘘の動作を見つけるって言うよりも、徹底的に矛盾を探し出して嘘を見抜いてきよるからなぁ。
「それに、アイツはそういうタイプじゃないで。」
「そういうタイプって?」
「危険に巻き込まれた時に、人を恨んだりするようなタイプ。どっちかっていうと、俺とおんなじでゲーム感覚で参加しそうやけどなぁ。」
分かってない、といった風にプロ子は首を横に振った。
「それでも、気軽に話していいことじゃないの。」
おれは、ついさっき帰り道にプロ子が言っていたことを思い出して、ここまで惣一に教えることを反対する理由に気付いた。
「未来への影響か。」
「そ、バタフライエフェクト。聞いたことくらいあるでしょ。風が吹けば桶屋が儲かるとか。」
バタフライエフェクト、ほんの少しの行動が、想像も出来ないぐらい大きくなる、みたいな。特に、時間が干渉するとその度合いは大きくなるらしい。
「でも、そこまで気にする?たった一人やで?」
そう言うと、彼女はちょっと考えるように口をつぐんでから、またこう言った。
「……それでも、ダメなの。理由は教える訳にはいかないけど。」
「ふぅーん、ま、良いよ。そっちにも教えていいことと、教えたらあかんことがあるもんな。テキトーに誤魔化しとくわ。」
「うん、ありがとう。」
「あ、そういや俺が学校行ってる間、プロ子は何してんの?絶対暇やろ。」
「暇じゃないよ!未来に影響が出ないように、色んな痕跡を消し回ってるんだから。」
えっへん、と胸を張って彼女はそう言った。
「あ、じゃあさ。ちょっと調べて欲しいことあんねんけど。」
俺は、さっきナキガオに聞いた話を思い出した。
「学校で不審者が〜、言うてたからさ。さっきナキガオにちょっとカメラ使って調べてもらってん。」
「え、もしかして、ナキガオって街中のカメラ掌握してるの?」
驚いたように彼女は聞く。
「あ〜、そうみたいやで。んで、確かに不審者みたいなんが毎晩、夜に歩いてんねん。」
「それがどうしたの?もしかして、人外種族だった?」
「いや……それは分からんねんけど。すっごい変なこと言うねんけどさ、出てくる不審者、毎回毎回違う人やねん。」
そう言った俺に彼女は当然の疑問をぶつけた。
「それ、普通に帰宅中の人とかじゃなくて?」
「違う、明らかに様子が普通じゃないねん、全員。そんでな、同じ方向に向かってんねん。街の外れの方に。」
「……なるほど、それは普通じゃないね。分かった、大舟に乗ったつもりで待ってて。」
懸念を一つ解消出来た俺は、今日の疲れを癒してくれるお風呂に向かった。
「あぁ〜、しんどかった。」
お風呂から上がった俺は、ベッドに仰向けに寝っ転がった。部屋の電気はついてへんけど、月明かりで十二分に部屋は明るかった。
「そういやさ、次のターゲットは?」
俺は、勉強机の椅子に座って、くるくると回っているプロ子に聞いた。
「もう次?」
「もう次や、出来るだけ早く準備しておきたいしな。」
「ま、それもそっか。ところでさ、誉は転生系のラノベとか読む?」
突然、脈絡も無くそんなことを聞いてきた。
「いや、あんまり読まんけど。漫画とかアニメになってるやつは知ってんで?」
「なるほどね、次はね、そんな創作によく出てくるやつ。そう、それは魔法!」
徐々にテンションが上がってきたプロ子は、指を振りながらそう言った。
「あーね、もう今更驚かんよ。まぁ最初からあんま驚いてないかもやけど。」
実際、俺はそこまで驚きはしなかった。それどころか、魔法を実際に見てみたいくらいやった。
「うん、でしょうね。あと、次は団体丸ごとだよ。その団体の名は『全魔女 魔法啓蒙会』通称SES」
「なんか、ガチな名前やな。」
「彼女らは魔法こそが至上として、魔法が使えないのは可哀想だ!と言って大虐殺をしたり、魔法が使えない人間は劣等種として奴隷とすることを大真面目に目標としたり、未来で社会問題となったグループなの。」
俺は、未来でもそんな差別が起こることが阿呆らしすぎてびっくりした。人間は成長せぇへんのか。
「突撃は3日後を考えてるけど、大丈夫? 」
「いや、まぁ大丈夫やろ。明日にでもゆっくり考えるわ。」
「うん、おやすみ。」
「おやすみぃ。……あ、コンセントそこやで。」
「ありがと。」
暗い、暗い部屋で。モニターの光が彼の顔を照らす。彼は、ようやく通話が切れたことを確認して、映像の確認を始めた。それは、観察者から送られてきた戦闘を捉えたものだった。あまりにも一方的だった記録を見た彼もまた笑ってしまった。しかし、彼が望むものは映っていなかったのか、小さく舌打ちして動画を閉じた。