Prologue.幽霊の種
赤司れこ@obsevare0430
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クウェス・コンクラーウェっていうのは辻切のおしゃれな喫茶店。セットで頼むとデフォで1000円超えるんだけど、なぜだかいつも混み合ってるんだ。
円城環は考えあぐねていた。
その荒唐無稽な話は円城の収入の種になるかもしれず、同時に仕事で知り得た知識からは、危険そうだという思いを抱いていた。
「な、だから1度見に来てくれよ、本当に。こんな話、信じるのはお前くらいしかいないんだよ」
「あのね、俺だってわけのわからない話を頭から信じるわけじゃないんだよ」
「入院しててるのはすぐ近くの辻切総合病院なんだ」
環のいるここは辻切中央駅近くのクウェス・コンクラーウェという少し意識お高い系カフェの端っこの席だった。この8月の暑い日差しを遮るラティスの影になった席が環の定位置で、環はいわゆるノマド・ワーカという奴だ。季刊異界という、異界に足を突っ込んだようなその筋では有名なマイナーサブカル雑誌のライターをしていて、日中はたいていここで原稿を書いている。
そして環は目立つ。長い髪をくくって垂らし、サブカルとしか言いようがない少し妙な格好をしながら時折気持ち悪くくふくふと笑っているものだから、『クウェスの奇人』としてちょっとした名物となっている。
今日だって真夏というのに、そして環は四捨五入すれば30だというのに、黒と白のボーダーの長袖ドレスシャツに膝丈のモスグリーンのパンツを穿いて同色のブリーフケースを斜めがけにしている。
それで環の目の前でわずかに声を荒らげている社会人然とした男は佐渡研司という。環の小学校の同級生だ。けれどもそのころからボッチ街道を爆走していた環にとっては、そんな奴がいたかなという記憶はあれど、話した記憶はない。
「それでその『幽霊の種』というものはどういうものなんだ」
「信じてもらえないかも知れないが」
「信じてほしいのか信じてほしくないのかどっちなんだよ」
そうして研司が話し始めたのはこんな話だった。




