Prologue.俺の後をつけるもの
赤司れこ@obsevare0430
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武君はわりかし真面目な人なんだけど、変なことによく巻き込まれてる。それって本当に変なんだよ。
わけのわからない話をしよう。
俺は金井武という。神津大学で民俗学の研究をしている。
俺は昔からわけのわからない事件に巻き込まれるタチなのだ。いわゆる『巻き込まれ体質』という奴らしい。その『わけのわからなさ』のレベルは通常の想定される『わけのわからない事象』とは次元を異にする。だからいつも、万一のためにお守りを携帯している。腐れ縁のぽんこつ陰陽師に描いてもらったやつだから、案外効果はあるものだ。
それはともかく今回の話もそうだった。
始まりは寒い冬の夜だった。大学からの帰り道だ。
マフラーで首筋を、手袋で手を覆えども、顔は無防備に晒さざるをえない。身を切るような冷たい風は容赦なく俺の耳元を通り過ぎ、背筋をぶるりと震わせる。
そんな冬が始まろうとする数日前から、俺の後ろをとぼとぼとついてくるモノがいた。といっても殺気などまるでなく、むしろ弛緩した空気すら感じるものだったから、危険だとか怖い存在ではないのだろう、とは感じていた。だからその妙な気配に意を決して振り向き、その姿を最初に正面から見た時の混乱は筆舌に尽くし難い。
そこには街灯に照らされた光の下にぼんやりとパンダが立っていたからだ。
最初はうおっと仰け反ったものの、例えばこれが日本人形とかビスクドールだとその後の対応は違っただろう。そんなものが夜道をつけて来ていたならば、腰でも抜かして神社にでも飛び込んでお祓いを頼むところだ。けれども俺の後をついてきたそれは、パンダのぬいぐるみだった。
何を言ってるかわからないだろ?
俺もわからなかった。
それは少し汚れた、というか二足歩行の足の裏はおそらく結構汚れている気はするが、ともあれ体長30センチほどのパンダのぬいぐるみだ。
何だこれ、意味がわからないと思いつつ、よもや飛びかかられたりはしないよな、飛びかかられたら上着が汚れそうだぞ、というやはり何だかよくわからない心配をしながら、やはりあんまり関わりたくなかったから、黙殺して踵を返し、家に急いだ。
けれどもその現象は一回こっきりではなく連日続いた。
毎晩同じ時間になると俺の後ろを1メートル半ほど離れてそのパンダがついて来る。気になるような、どうでもいいような、うっとおしいような気分に陥るものの、なんだか煮え切らない日々に次第にイライラが募っていく。
だからその日はつい、いつもの帰り道の角を曲がったところで待ち伏せして、パンダが角を曲がるところを捕まえた。