表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

Fuse6

 幻覚ならどんなによかっただろう。

 吐き出す息が白く凍りつき、冷気が肌を刺す玄関先で、今一番会いたくない人物と対峙する。


「何しにきたの」


「俺の話を聞かずに帰っただろ」


「あんただっていつも話聞かないじゃない」


「そういうとこだって」


「だから、何?」


「らしくないぞ、()()()


 そういうあつきも、らしくない。

 いや……違う。

 本当は、わかっている。

 少し粗野な言葉遣いの目立つ彼が、気取らない()()()()()()だということを。


「意地っ張りはやめろよ。おまえが『C』で、俺が『A』であることは変わらない。目を背けんな」


「私だって、腹立つことくらいあるわよ……」


『Type-C』の『マイクロチップ』を巡る話には、続きがある。

 穏やかな気質、一見して非生産的な人間をも、何故【激情汲み取り方式による人力発電】の対象者としたのか──


 ふたを開けてみれば単純なことだ。

 ()()()()()()()()()()()()

 ひとたび激高した『Type-C』は、『Type-A』の発電量を凌駕する可能性を秘めているのだ。

 けれど。だけれど。


「私はこんなこと望んでなかった! こんなっ……!」


 ──ピピ。

 聞き慣れない電子音。


《激情反応を感知。送電しますか?》


 脳内に直接響き渡るような音声ガイドが、耳障りでしょうがない。


 ──なんで?


 なんでそんなこと訊かれなくちゃいけないの?

 私のことなのに、これは私の……なのになんで、なんでなんでなんで。


「私の激情(こころ)を、他人にどうこうされたくないわよッ!!」


 これは叫びだ。みな一様に前にならう世界へ『No』を叫ぶ、少女の。


「バカ! あつきのバーカ! ガリ勉! パパママが医者だからって医者になりたい短絡野郎!」


「それはそれで真っ当な理由だろ、ほっとけ」


「医者になりたいなら人の気持ちくらい汲み取れるようになれやバカ! ブワァーカ!!」


「学年一の秀才の語彙力とはとても思えねぇな」


 売り言葉に買い言葉を返しながら、あつきはゆるむ口元を抑えられない。

 高揚していたのだ。今度は冷めることはない。ざわめく胸に熱が満たされる。


「そりゃ、テスト期間中だったけど……クリスマス……一緒にいてくれるって、言ったじゃん……」


 トドメだった。

 堪らず空を仰ぐ。手のひらで顔を覆うまでに、すべてを理解した。

 自分に向けられている激情のわけも、ひくひくと嗚咽を漏らしはじめたあかりが、どうしようもないことも。


「……かわいすぎか」


 そうだ。昔からそうなのだ。

 この幼馴染は同年代のこどもよりずば抜けて賢いくせに、意地っ張りで、寂しがりで、甘え下手なのだ。

 だからあつきもつい、あの手この手で意地悪をしてしまうのだ。


「最近素っ気なかったの、もしかしてそれが理由?」


 ぶす。あかりはしかめっ面で頬をふくらませるだけ。何だそれは。つついてくれと言っているようなものだろうに。


「補習になったら、冬休みにデートもできないだろ」


「……む」


「ちゃんと考えてたよ。遅刻したクリスマスの埋め合わせくらい」


「……んああ!」


 語彙力が崩壊したあかりは、もはや人語すら発せなくなってしまったらしい。怒りではない赤に染め上がった頬を、慌てて手のひらで覆い隠している。

 だからそれは、ふざけてんだろうか。かわいすぎるんだって。あかり、俺のあかり。あつきの脳内連呼は止まらない。


 いつもそうだ。あかりが可愛いのがいけない。会話をしていると何だか腹さえ立ってきて、それを逐一『送電』しないと、おさまりがつかないのだ。

 今だって理性を総動員している。ご近所迷惑だなんて紳士ぶるのは、今更すぎるけれど。


「こんなん愛しいしかないだろ、ふざけろよ……」


 一周して涙が滲みはじめたあつきは、とうとう耐えかねて、広げた腕いっぱいに幼馴染の恋人を囲い込んだのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ